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第三章 援護


 祭会場中心部付近の、周囲を見渡しやすい所にテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が櫓を建てていた。
 先程、敵からの砲撃で被害が出た。死者は出ていない。
 祭の管理棟へ話をしていたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が慌てて戻ってきた。
「テノーリオ、櫓はまだか!?」
「先程敵から砲撃がありました。急いで下さい!」
 自分達がもっと早く監視をしていれば被害を抑えられたかもしれない、と思っていたトマスは余計に焦っていた。
「ちょうど今、完成したぜ!」
「私はこのままここで警備を続けるわ」
 櫓を建てていたテノーリオの警備をしていたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が言った。祭を監視するトマス達を守る為だ。
「よろしく頼むぜ! 俺達は涼司と連絡を取りながら監視するぜ」
 そう言ってトマスは櫓に登り、子敬がその後に続く。
「遅れを取り戻せればいいのですが……」
 テノーリオはその場に座り込み一息ついた。

 カル・カルカー(かる・かるかー)は涼司に連絡していた。
 敵を牽制するため、目立つように会場を巡回警備していたが、被害を抑えることができなかった。
「……ということなんだ、涼司さん」
「ああ、こちらでも確認した。敵を確保した、という報告はあるが、目撃情報は入っていない」
「分かった。警備を続けるぜ――」
 通信を切ろうとしたとき、トマスから割り込みで通信が入った。
「さっき、監視を開始しました! 敵は、連続放火と砲撃の場所から離れた所で次の犯行に出るでしょう」
「分かった、サンキュー! カル、その場所の周辺を頼む」
 涼司が言った。
 通信を終えて、警備する場所に移動しながら夏侯 惇(かこう・とん)がカルに言う。ジョン・オーク(じょん・おーく)ドリル・ホール(どりる・ほーる)は別行動をとっていた。
「山葉とファーニナルからもらった情報を基に巡回経路を設定し、ジョン達にも送った。まもなく監視区域に向かってくるであろう」
「他と連携してうまく捕まえられればいいんだけどな」
「狩りと一緒だな。問題は、相手が野の獣とは違って、人を害する気満々なところか」
 そう言って、夏侯惇は私服で会場を回っている仲間に暗号文を送った。
 唯斗の一件で周りは拍手喝采に包まれたが、少し離れた場所では何かあったと思われていた。煙幕が上がったのだから当然だ。
 ジョン達は人々の不安を取り除くために動いていた。
「大丈夫です、これもお祭り。でも近づきすぎると危険ですから、ちょっと下がって!」
 ドリルがそれに続く。
「はーい、みなさん、こっち、こっち! じゃあ、ここで一発運だめし! 左足の靴を脱いで――あっちの人に投げつけて、ぶっつけられた人は、この1年の幸運が約束されッてよー!」
 周りの人は不思議そうな顔でドリルを見ていたが、何人か靴を脱ぎ始めたのでジョンが慌てて止めに入る。
「はいはいストップ! ドリル、調子に乗りすぎですよ」
「いや〜、祭だからやり過ぎくらいが丁度いいかなーと思ってよ」
 満面の笑みで言うドリルをジョンが窘める。
「確かに大切な事ですが、あまり時間を掛けてる暇もありません。カル達から連絡がありました。私達も行きましょう」
「へーい」
 砲撃を受けた場所では高神 拓未(たかがみ・たくみ)が騒ぎの鎮圧に動いていた。
 周りの人達も、事故ではなく何者かによる攻撃だと気付いたらしく、辺りは大混乱だった。
「みなさん、落ち着いて俺たちの避難誘導に従ってください!」
 流石に、テントがひとつ粉々に吹き飛ぶ程の爆発は演出ではない、と気付いた人達の混乱はなかなか鎮まらない。
 初めは祭の演出に見せかけようとしていたが効果が無かったので、警備隊や祭のスタッフと協力して避難誘導していた。
 拓未は、避難する人達から少しずつ目撃情報を集め、涼司達から回ってきた情報と照らし合わせてテロリストの人物像を頭に思い浮かべていた。
 丁度、ひとりのテロリストが様子を探りに来ており、拓未と目があった。テロリストは慌てて逃げていった。
「A地点にテロリストらしき人物を発見、早急に鎮圧に向かってください」
 拓未は急いで涼司に連絡し、援護を要請した。
 その時、急に人々の混乱が収まった。早川 呼雪(はやかわ・こゆき)のハーモニカの音色が聞こえる。
「来て正解だったぜ」
 呼雪は歌い手として祭に参加していたが、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の仕入れた情報を受け、拓未の援護に駆けつけた。
「おっと、あれは捕り物劇みたいだね」
 ヘルが、逃げていくテロリストを指して、落ち着いた人達に言った。
 呼雪は【幸せの歌】や【子守唄】を吹き続けた。。
「あれ、あっちでも何かやってるねぇ。いくらおめでたいからってやりすぎかもー」
「高神、みんなを安全な所へ」
 呼雪が言った。
「わかった、助かったぜ!」
 ヘルが先頭に立って誘導する。
「しゅっぱつ進行ー!」
 刹那が放火して回った区域でも混乱が広がっていた。
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、丁度その付近でパフォーマンスをしており、混乱を鎮めるためライブを続けていた。
「魔法少女アイドル・マジカル☆カナです! みんな、一緒に歌い踊りましょう☆」
 彷徨っている人達が自然と足を止め、ライブに目を奪われた。
 歌菜の【空飛ぶ魔法↑↑】で上空に飛んだ羽純は【殺気看破】で警戒しつつ、その場を盛り上げる。
「周りが燃えちまってるけど、怖がることはない。俺達も燃え上がろう!」
 少し離れた場所でヒーローショーを予定していたドクター・ハデス(どくたー・はです)が、火事を演出の一環と勘違いして盛り上がっていた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! さあ、われらオリュンポス劇団によるヒーローショーを見ていくがいい!」
 慌てていた人達が呆気にとられている。
「さあ行け! 我が下僕よ!」
 ドクターの合図と共に、脇から怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)が出てきた。
「フハハハ! 我が名は、秘密結社オリュンポスの怪人、デスストーカー! 祭りをメチャクチャにするヒーローどもよ! 君たちの悪事は、この僕が許さない!」
 雰囲気に飲まれて子ども達が集まってきた。
 別に用意していたヒーローも登場し、【トランスシンパシー】と【シュトゥルム・ウント・ドラング】の効果も合わさり、ヒーローショーは大盛り上がりだ。
 最後に、デスストーカーがヒーローを倒し、拍手に包まれた。
「悪のヒーローの脅威は去った……!」

 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はパートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)と共に、休暇で祭に来ていた。
 しかし、涼司の連絡を受け、要人の警護にあたることになった。
「私は教導団の者です。あなたはテロリストに狙われています。私の指示に従って安全な場所へ移動してください」
 そう耳打ちそう耳打ちをするとゆかりは、わざと気分を悪くしたように振舞い、要人に付き添われるような形で、警備の厳重な会場中心部へと誘導した。
 すかさず、マリエッタが近付き、介抱するふりをしながら殺気看破と野生の勘で周囲を警戒した。
 この方法で、既に数名の要人を保護していた。
「カーリー、高神拓未という人から連絡があったわ。新しい目撃情報よ。既に涼司にも連絡したみたい」
「わかりました。次は砲撃のあった区域に向かいましょう。避難している人の中にも来賓の方がいるかもしれません」
 既に陽は西に傾き、空は橙色に染まっていた。