校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
六つの輪 鏖殺寺院のメニエス・レイン(めにえす・れいん)による襲撃は、空京スタジアムの観客に異変を感じ取られることなく、鎮圧された。 VIPルームに降ろされていた隔壁も、元の位置に戻される。 金鋭峰(じん・るいふぉん)団長は、教導団及び警備スタッフの指揮の為に、護衛官と共に出て行った。 メニエスに標的とされたエリザベートと、その保護者アーデルハイトはいまだ興奮している。 さらに桜井静香(さくらい・しずか)校長も、かつての誘拐犯人とニアミスした事で、彼にも周囲の百合園生にも同様があった。 薔薇の学舎校長ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)が、それらを見かねて休憩を勧める。 「イルミンスールと百合園の方々は、いったん別室の休憩室に移動して休まれた方が良いのでは?」 両校はそれを受け入れ、同じ東陣営の薔薇学が移動や警備を手伝う為に同行した。 彼らが出ていく事で西シャンバラ代王セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が不安に陥りそうな為、彼女も一緒に連れていく。 また天御柱のコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)校長は、メニエスに協力していた者の中に同校のサイオニックや強化人間がいると聞いて「脳をサーチする」と捜査協力の為に出ていってしまう。 「ずいぶんと静かになったでありんす」 VIPルームに残る葦原明倫館のハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)総奉行が、苦笑してガランと広くなった室内を見回す。 「そうですね。皆様、にぎやかな方たちですから」 東シャンバラ代王高根沢理子(たかねざわ・りこ)が返すが、正体は影武者酒杜 陽一(さかもり・よういち)だ。 空京大学学長アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)が軽く肩をすくめた。 「警備の学生も、護送や捜査、救護活動を終えれば戻ってくるだろう。 ん……失礼。大学に電話をして、犯人護送用の列車を手配するとしよう」 アクリトは携帯電話で、大学のスタッフと話し始めた。 パラ実の石原 肥満(いしはら・こえみつ)校長は深刻そうな面持ちで、黒服とボソボソ話しているばかり。 蒼空学園校長御神楽環菜(みかぐら・かんな)は、持ち込んだノートパソコンと携帯電話で仕事を続けている。 「何、あれー?」 黒田智彦(くろだ・ともひこ)がVIPルームの中ほど、天井近くを指差す。 空中に6つの輪が現れていた。 それは、ろくりんピックのシンボルである六輪に見えた。 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が皆に注意をうながす。 「油断してはいけませんわ。この大会のマークであろうと、いきなり空中に……?!」 言葉が終わる前に、6つの輪が人々に襲いかかった。それぞれの輪は空中を高速で飛びながら、あらゆる物を切り刻んでいく。それは六輪のチャクラムだ。 操る者の姿がないまま、チャクラムはそれぞれ自在に空中を飛び回る。 「理子、さがっていろ!」 クイーン・ヴァンガード特別隊員葛葉 翔(くずのは・しょう)が叫び、リコの身を仲間に任せてアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)と共にディフェンスシフトをしく。 「えっ?!」 チャクラムが、止めに入ったアリアのライチャスシールド、ライチャスプレートを何の抵抗もなく切り裂き、彼女自身も切り裂いた。 「アリア?!」 「くっ……」 アリアは仕方なく、リカバリで自身を癒す。 「危ねぇッ!」 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、その場に立ち尽くしていたパルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)に飛びつき、机の陰に引き入れる。飛んできたチャクラムが、机をまっぷたつにする。ラルクは飛び込んだ勢いでパルメーラを抱えたまま床を転がり、難を逃れる。 アクリトがら彼に駆け寄る。 「パルメーラ、大丈夫かね?」 「……うん」 契約者ではない石原校長や黒服、その他の地球から訪れていたVIPは、智彦が会談用個室にどんどん投げこんでいく。 エリシアが煙幕ファンデーションを散布した。だがチャクラムは何の影響もなく、煙幕を飛びぬけ、先程まで環菜がいじっていたパソコンを両断した。 環菜と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、チャクラムに銃撃を叩き込む。ビームは霧散し、銃弾は破壊されて壁にめりこむが、チャクラムの動きは鈍らない。 樹月 刀真(きづき・とうま)が神子の波動をチャクラムに放つが、これも効かない。 エリシアが環菜にベルフラマントをかけ、室外に連れ出そうと出口に……行ったが扉は固く閉じられていた。開いた筈の電子鍵も魔法の鍵も、すべてかかっている。 「どうして……?!」 エリシアがうめく。 「別に。計算通りの襲撃よ」 環菜が言う。 チャクラムが強い思念を発した。 (その力は反則すぎるんだよ! だから、この辺でナラカへ行こうね!) 次の瞬間、チャクラムは環菜の首をかき斬っていた。 環菜の体が空気がきしみ出るような不快な音をあげ、チャクラムの勢いで壁に叩きつけられると、バウンドして床に落ちる。 「環菜!」 刀真が叫んで、彼女の体に飛びつく。 翔はグレートソードを構えたまま、VIPルーム内に視線をめぐらす。 「……消えた?」 六輪のチャクラムは、始めからそんな物は存在しなかったように消えていた。ただ破壊された家具と壁、そして異常に濃い血の匂い。 「環菜ッ! 環菜ッ?!」 別人のように取り乱して刀真が、彼女の名を呼ぶ。 環菜は首の半分以上、脊髄、頚動脈、気道等が切断されていた。傷口から泉のように血が噴き出す。 前原 拓海(まえばら・たくみ)は、リコがそれを見る前に彼女の目をふさぐ。 「西王陛下、見てはいけませんッ」 治癒術の使い手が環菜に走りよるが、もはや手の施しようがない。だが刀真は怒鳴る。 「早く環菜を治せ! 早く!」 その時、その場にいた者の脳裏に声が響いた。 (狼狽してるヒマは無いのよ) 「環菜?!」 それは確かに彼女の声だった。 (ろくりんピックが完全に終了するまで、私の死を公表してはならないわ。 それから、次の蒼空学園校長には山葉 涼司(やまは・りょうじ)を指名します) 「…………」 沈黙が訪れる。 「……環菜?」 刀真が彼女に呼びかける。だが、もう返事は無い。 そこにあるのは、彼女の骸だけだった。 最期の最期まで事務的な指示を残して、御神楽環菜は絶命した。 「ろくりんピック終了まで、御神楽校長の死は秘密とする」 校長たちは、わずかな話し合いでそう決めた。 もちろん静香やエリザベートのような心の内を表に出してしまう校長には話さず、そのパートナーが代わりに話をまとめる。 環菜の死は、大会終了後には明らかにしなければならない。 最新の知らせでは、環菜のパートナールミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が、環菜の死の影響で意識不明の重体に陥ったそうだ。彼女が倒れた事は一部の蒼空学園生の間では、もうニュースとして広がり始めている。 だが、このタイミングで環菜の死亡を発表する事は、東西のシャンバラを転覆しかねず、それはできなかった。