校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
鏖殺寺院との決着 囲まれていたミストラルが、逆に周囲を小馬鹿にした調子で言った。 「まったく……小ざかしいマネをしなければ、もっと長生きできたと言うのに」 「なっ……」 メニエスが突然、エンドレスナイトメアを放った。暗黒と共に、頭痛や吐き気など不快な感覚が襲う。 「エリザベート校長の護衛だなと、よくも嘘がつけたものだな」 遥が痛みに耐えて、メニエスに射撃する。ジャジラットのパワードアーマーに弾かれた。 「あら、校長に用があるのは本当よ。ちょっと一緒に来てもらいたいだけなのに」 「要するに、誘拐って事か!」 要がパワードスーツ同士で、ジャジラットに組みかかる。 「この装甲、簡単には抜けないよ?」 「ぬうッ」 ジャジラットは歯噛みする。パワードスーツの操作では要の方が勝った。その上。 「そぉい!」 要のパートナー霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が奈落の鉄鎖やサイコキネシスで、ジャジラットの動きを押さえこもうとしてくる。 しかし闇から飛び出してきたミストラルが、悠美香を忍びの短刀で斬り伏せた。 小振りで、隠し持つ事を目的とした刀だが、ミストラルの手にかかれば一撃必殺の魔剣と化す。 「悠美香ッ?!」 動揺した要に、ジャジラットが反撃をしかける。 悠美香はとっさに体をよじって急所を外したようだが、戦闘不能だ。 数で圧倒的に少なくとも、メニエスとミストラルはそれを物ともしない経験を積んでいる。 (彼女たちを、ここに入れる訳にはいかない!) VIPルームの扉を守っていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、壁のスイッチを操作する。 非常用の隔壁が天井から下りてきて、VIPルームの出入口を固く封鎖していく。 隔壁はドアだけではない。競技場側にも日差し避けのような白いカーテンが降り、その内側に隔壁が降りていた。 こうなれば核シェルターとしても通用する強度だ。 一方でグラウンドや客席からは、午後の西日避けのカーテンのようにしか見えない。 VIPルーム内にいるアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)に、室外にいるシルヴィオが携帯電話をかけて、部屋の外で起きている事を伝える。 アイリスがVIP達に、それを伝えた。 「……鏖殺寺院のメニエス・レイン嬢が、本人の弁では、エリザベート校長を狙って潜入してきたそうです」 アイシスの言葉に、百合園女学院の桜井静香(さくらい・しずか)校長が驚きに目を見開く。 彼を護衛する生徒会執行部『白百合団』班長ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)を護衛する早川 呼雪(はやかわ・こゆき)と瞬間、視線を交わす。互いの瞳に、困惑があった。 先ごろ、静香はメニエスに誘拐され、ロザリンドも呼雪もその解決に尽力してきた。 静香が思わず、つぶやく。 「なんで……」 それを耳にしたロザリンドは、校長に向き直った。困惑の色は消え、そこには覚悟があった。心を痛めながらも、校長に言う。 「桜井校長、今はあなたが動くべき時ではありません。ここでVIPルームの扉を開けば、また室外にいるスタッフに襲撃者への連絡を頼む事は、混乱をもたらし、他のVIPの方々や多くの人々を危機に晒す事を意味します。 それに報告では、メニエスさんに指揮権があるかも分かりません。 まして今回の標的は、イルミンスールのエリザベート校長とされているようです。メニエスさんの母校ですから色々な背景があるのかもしれませんが、いま私達はそれを把握しておりません。 もしここで無用な手を打てば、我が校と魔法学校の関係を……東シャンバラの安定をも突き崩しかねません」 そう説得するロザリンドは、静香の考えている事が分かっていた。 どうにか話し合いで、誰も傷つくことなく収めたい。 だが、今はそんな事が許される状況ではない。 ロザリンドは静香の思いを分かってなお、それを止めた。辛くとも、敢えて毅然と。そうでなければ、後々静香がもっと傷つく事になるだろう。 静香はうつむき、拳を握る。 「分かってる……。でも、どうすれば……」 一方、メニエスに指名されたエリザベートは、対照的にエキサイトしていた。 「この私にぃ! 挑戦しよーなんて、い〜い度胸ですぅ! ぐっちゃんぐっちゃんのめっきょんめっきょんにブチのめしてやるですぅぅ!!」 神代 明日香(かみしろ・あすか)が彼女を止めようとする。 「エリザベートちゃん、行っちゃダメですぅ! 何が出てくるか、まだ分からないですぅ」 「飛び出したら、相手の思うつぼです」 ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)も明日香と反対側から、エリザベートにぎゅうっと抱きついて止めようとする。 それでもジタバタと出ていこうとするエリザベートに、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が一喝する」 「明日香達の言う通りじゃ、エリザベート! さがっておれ!」 「うみゅぅ〜」 「と言う訳で、ここは私が出る!」 イルミンの護衛生徒達はずっこける。 志方 綾乃(しかた・あやの)がアーデルハイトの前に立ちふさがる。 「超ババ様、今までに何回、メニエスに殺されたと思ってるんです?! もう忘れてしまったのですか?」 「ええい、年寄り扱いするでないし、古い事を蒸し返すでない!」 「古い? 超ババ様ほどの年齢ならば、数分前の事に等しいではないですか」 「そこまで近うないわっ」 興奮するアーデルハイトに、こたつも止めに入る。コタツ型機晶姫高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)だ。 「アーデルハイト様は重装甲アーマーで護られた私の中にいてください」 こたつは高く跳ね上がると、その中にアーデルハイトを入れてしまう。 こたつの中は遠赤外線(?)で、あっつあつ。アーデルハイトの全身から、ぶわっと汗が噴き出した。 「暑いわ!!!」 アーデルハイトが華麗にちゃぶ台返し、ならぬ、こたつ返しを決めた。 「あうぅ。……ひっくり返すなんて、ひどいです」 「夏なんじゃから、せめてクーラーボックスにでもならんか!」 恨めしげなこたつに、アーデルハイトが無茶なツッコミを入れる。 「何をおっしゃいます。こたつは万能家具なのですよ?」 謎のこたつ論争が始まった。 「大ババ様は忙しそうですからぁ、やっぱり私が行ってきまぁす」 「だからぁ、狙われてる本人が行ったらダメですぅ!」 ふたたび出ていこうとするエリザベートを、また明日香が止めにかかる。 「団長、ご指示を」 イルミン首脳二人に任せていても話が進まぬ、とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が金鋭峰(じん・るいふぉん)団長に促す。 団長もそのつもりだったのだろう。すでにVIPルーム外の戦力資料に、ざっと目を通している。 「エリザベート校長、テレポートとはご自身以外の他者も安全に移送できるのですか?」 「もっちろんですぅ。えっへん」 団長の言葉に、エリザベートは胸をはる。 「ならば敵後方に、ここにいるベテラン数名を移送していただけないか? 現戦力では鎮圧及び敵確保を行なうのに、少なくない損害をこうむる可能性が高く、また敵の別部隊があった場合に」 「行ってこいですぅ〜」 団長の説明が終わる前に、エリザベートが魔法一発。 VIPルーム内の何人もの姿が消えた。これには金鋭峰も唖然とし、アーデルハイトがすかさず説教を始めるが、手遅れだ。 「テレポートには、一回につき莫大な費用がかかるのだぞ! もっと考えて使わんか!」「……そういう問題でもないと思います、超ババ様」 綾乃がため息をついて、額を押さえる。 同じ頃、メニエス出現の知らせは、スタジアム各部署の警備スタッフへと伝えられていく。 「あいつが来たか……!」 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)がギリリと歯ぎしりする。彼もまたメニエスには煮え湯を飲まされている。 フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が彼に指示をあおぐ。 「龍雷連隊各員に、捕捉に向かわせましょうか?」 「……いや、襲撃にしても相手の人員が少なすぎる。囮の可能性もある。パニックだけは避けないといかん。スタジアム警備に厳重を規するよう伝えよう」 岩造は無線で、矢継ぎ早に指示を出していく。 VIPルームに繋がる通路。何人もの人影が突然、沸いて出る。 「なんでルカルカがー?! 団長、守らなきゃなのに〜」 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が抗議しつつも、短刀で斬りかかったミストラルに対して応援旗モード状態の槍で裁く。 それまでミストラルと戦っていたコハクが、ミストラルにランスバレストを打ち込んだ。 「応援、ありがとうございます」 コハクに言われ、ルカルカは小さく息を吐いた。 周囲を見るに、エリザベートはまったくの適当ではなく、強そうな者を外にテレポートしたようだ。 「こうなったら即、鎮圧する!」 一方、ジャジラットのパワードスーツには、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)が生身で組みつく。 「ったく、せっかちな嬢ちゃんだ。ラルクと我で、担当が逆になっちまったぜ」 パワードスーツは唸りをあげて彼を振りほどこうとするが、『闘神の書』は逆にパワードスーツを破壊しにかかる。 「んなモンつけてねぇで、筋肉で語り合おうや。そぉらよっと!」 鋼鉄の鎧が、ギシギシと異音をあげる。 そこにもう一体のパワードスーツ。月谷 要(つきたに・かなめ)だ。 「スクラップにしてやらぁ!」 要は『闘神の書』と協力して、ジャジラットのパワードスーツをなぎ倒す。 そしてメニエスには、神代 明日香(かみしろ・あすか)とノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が対峙していた。 「エリザベートちゃんをいじめる人は許しませんー!」 「ちょっと帝国まで来てもらうだけよ」 「帝国ぅ? 勝手な事は言わせないないですぅ」 明日香の魔法とメニエスの魔法がぶつかりあう。だが『運命の書』の援護がある分、明日香達の魔法が上回る。天のいかづちがメニエスを貫いた。 スタジアム外周部に、メニエス達にIDカードを渡した鏖殺寺院の部隊が集まっていた。五十人に満たない人数に、偽装というよりは武装を整える資金もなく、傍目にはヒマ人の群れのように見える。 「うーむ。騒ぎが起きんのう」 老人がつぶやく。相方、ではなく参謀の若者は、トイレに行ったきり帰ってきていない。 この時、VIPルームの外では、まさにメニエスと警備者の戦いが行なわれていたのだが、彼らはまったく異変に気付いていなかった。 「まさかメニエスども……競技の観戦に夢中なのか?!」 老人がのんきな心配に身をゆだねていると、そこに多数の舎弟を引き連れたパラ実総長夢野 久(ゆめの・ひさし)がやってくる。 久は特に舎弟を集めたわけではなかったが。 「あのドージェ様からパラ実総長の座を継いだお方だ。お眼鏡にかなえば、うまい目が見れるかもしれねぇ」 と勝手に集まってきたのだ。 パラ実軍団が迫ってきた事で、老人は青ざめる。 「な、なんの用ですかな。カツアゲはやめてくだされ」 「くだらねぇ芝居してんじゃねえ。鏖殺寺院のクソッタレどもが!」 「なぜ、それを?!」 実は、先ほどトイレに行った若者が「やっぱり怖くなった」と、周辺を巡回中だった久にタレこんだのだ。 「別にVIPどもに義理がある訳じゃあねえが、折角盛り上がってる祭に水は差させる訳には行かねえ。 てめぇらの企みはキッチリ潰さねえとな!」 久は幻槍モノケロスをかかげ、テロリスト達につっこんだ。 戦闘が始まった、とたんに終わった。 鏖殺寺院の面々は、大量の舎弟に襲われて、一瞬でのされていた。 久のパートナー佐野 豊実(さの・とよみ)は呆れている。 「寺院が動くなら、来るのは相当な手練だろう……と思っていたが、なんとまた歯ごたえの無い。捨石の類か?」 舎弟に取り押さえられた老人が、カチンと来て怒鳴る。 「無礼なり! ワシらがメニエスどもを操っておったのだぞ!」 「ほー、そりゃ興味ぶけぇな。ちょっと話ぃ、聞かせな」 久が怖い顔で老人に迫る。 「メニエス……!」 VIPルーム前の廊下に、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が空飛ぶ箒で飛び込んでくる。 だが、その時には、すでに鏖殺寺院の襲撃者は鎮圧され、連行されていく所だった。 その様子を見つめながら、ケイは我知らず、箒を強く強く握りしめていた。 また、すでに憲兵隊に見張られていた如月 和馬(きさらぎ・かずま)も、もはや泳がせる必要なしとして拘束された。 さらに内通者を探していた憲兵は、天御柱学院生徒であるのに教導団軍服を着ていたグンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)、プルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)の二名を逮捕、拘束。 後にコリマ校長に強制的に脳内を探られて、メニエス一味の一員であると確認された。 メニエスら鏖殺寺院の襲撃により、警備スタッフには数十人の怪我人が出た。 自前で治せる契約者もいるが、一般シャンバラ人の警備員ではそうもいかない。 特に重傷な怪我人を、救護班の一員を務める本郷 翔(ほんごう・かける)がサイコキネシスも併用して、素早く運んでいく。運ぶ先は、治療術を修めた守護天使ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)の元だ。 「こちらの方の手当てもお願いいたします。酷い火傷をされています」 「任せな。……おら、もう大丈夫だぞ」 ソールはてきぱきと、ナーシングやグレーターヒールを施していく。 いつもと違って、真面目に治療に専念している。 もっとも早期に適切な治療を施すかどうかで、その後の経過も変わるのだから、治療を手早く進めることは非常に有効だ。 翔は少々彼を見直すが、表には出さずに、周囲で順番を待つ怪我人たちのもとへ向かう。手当ては重傷のものから順に行なわれていた。 「お待ちいただく間、お水や栄養のある物はいかがですか?」 翔は執事の技を駆使して、飲物やお菓子を怪我人に振舞った。 水を飲んだり、甘い物を口にすることで、緊張に引きつっていた者の表情も幾分か、ほぐれたようだ。 ソールがヘロヘロになるまで頑張った事もあって、警備側では、死者や後に深刻な影響を及ぼす負傷となった者はいなかった。