空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
【ろくりんピック】最終競技! 【ろくりんピック】最終競技!

リアクション



 助っ人 


「なんとここで、関羽様が助っ人に現れたァァーッ!!」
「これには東軍の選手も驚きを隠せない様子です」
 実況席から声が届く。関羽は、クッションを軽々と片手で振り回し東軍を牽制していた。
「我が名は関羽! このウレタンクッションの錆となりたい者は前へ出でよ!!」
 もちろん、ただじっとしていても関羽の猛威はすぐ届いてしまうだろう。東軍の選手たちはやむを得ず拡散しながら関羽に迫った。が、生徒が数人集まったところで関羽に太刀打ち出来るはずもなく、今まで登場した選手で生き残っていた東軍選手はほとんどここで関羽によって脱落してしまった。
 さらに西軍を後押しするかのように、観客席からは風森 巽(かぜもり・たつみ)、そして彼に西軍の応援団員として連れてこられた皇 彼方(はなぶさ・かなた)辻永 翔(つじなが・しょう)たちが派手なパフォーマンスで声援を送っていた。
 派手なパフォーマンス、というか、一言で言うとチアガールに扮し、女装して声援を送っていた。ギリギリで気持ち悪くないところが逆に気持ち悪い。チアリーダーの衣装を着てポンポンを振っているその姿は、どこかしら涙を誘う。
「さあもっと声を出して! 弄られ属性のない貴公が山葉さんみたく復活できると思ってるのか! ここでキャラを定着させなくてどうする!?」
 巽は真剣な表情で、彼方に応援のイロハを教えていた。彼方からしたら、強引に女装させられた上、キャラの薄さまで注意されるという踏んだり蹴ったりな状態である。翔に至っては、なぜ自分が連れてこられたかすら分かっていなかった。
「ほら、そこの、えーと、辻永さん? 辻永さんもついでだからもっと足上げて!」
「俺、ついでなんだ……」
「てか、いくらキャラのためとはいえチアガールは……」
「皇さん、そんなことでいいのか! いや、いいはずがない!!」
 巽の勢いに圧倒され、渋々チアガール姿で応援を続ける彼方と翔。もはやこの場は巽の独壇場となっていた。そんな彼らを、巽のパートナーティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は少し離れた席で見守っていた。
「タツミたち、面白いことになってるなあ」
 他人事のように呟くティアだったが、彼女は彼女でこの女装集団に加担していたのだ。何を隠そう、彼らに「クリスマスコスメ詰め合わせ」で化粧を施したのは彼女なのだから。
「ちょっと無理がある人もいるけど……まあいいよね! これも思い出思い出! うん、大丈夫!」
 ティアはこれ以上は見ないことにして、浮島に視線を戻した。

 そこでは、関羽が相変わらず猛威を奮っている。ひとり、またひとりとリングアウトさせていく関羽だったが、勢いが余ったのかあらゆる女性の水着まで間違ってはいでしまったのだ。
「ちっ、痴漢! 変態!! 変態三国志!!」
「ちかんうよ、ちかんう!!」
 もちろん戦いの中で偶然起きてしまったアクシデントだったが、関羽はすっかりうろたえてしまった。
「す、済まぬ、わざとでは……ぬっ?」
 その時、関羽の鼻からぽたぽたと血が流れ出た。
「興奮してる! この関羽、興奮してるわ!!」
「あなたの青龍偃月刀は2本あったのね!」
 言われれば言われるほど動揺し、関羽はついに溢れる鼻血を抑えることが出来なくなった。屈強な武人とて、女性のポロリには幾分弱いということなのかもしれない。
 そのまま関羽は「しばし待たれよ……」と言い残しリングを去っていった。ただ不幸だったのは、関羽の大きな体が壁となりほとんどの観客がポロリを見ないままサービスタイムを終えてしまったことだろう。
「いい加減見せろー! もう我慢できねえぞ!!」
「ポーローリ! ポーローリ!」
 次第にポロリコールが起き始め、スタジアムの熱気はどす黒く染まっていった。
 その欲望を叶えんと、西軍の前で構えを取ったのは国頭 武尊(くにがみ・たける)だった。サングラスをかけ、マントをはおったやや変態チックなスタイルの彼の前には西軍の葛葉 明(くずのは・めい)だった。そこに、武尊と同じ東軍のミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)ルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)らも駆け付けた。数で押し切ろうという作戦だろうか。1対3となった明は、圧倒的に不利かと思われた。
 しかし、ここで武尊が誰も予想出来なかった行動に出る。
 武尊が勢いよくマントを脱ぎ、その下の姿を露にしたのだ。マントの下の武尊は、胸パットをきちんと装備した上でなぜかビキニを着ていた。
「……!?」
 これには明だけでなく、同じ東軍のミレイユ、ルイーゼも目を丸くした。
「え、ちょっと、これ……」
「なんで男のあなたが……」
「みんなポロリを期待してんだ。だったらそれに応えるしかないだろ。ただ相手のポロリを狙う以上、オレ自身もポロリのリスクを背負わないとフェアじゃないからな」
 そういうことらしい。
「解説の志保さん、彼は一体どういう頭をしているのでしょうか」
「ちょっと分かりませんね。ただ言えることは、彼はきっとフェアの意味を履き違えているのだと思います」
「履き違えているのは言葉の意味だけですか?」
「まあ服装もですね」
 実況席も呆れ気味で現場の状況を伝えている。まさにスタジアムの観客全体の、空いた口が塞がらなかった瞬間である。
「さあ、ポロリタイムの始まりだ」
 武尊がクッションを抱え、浮島中央に歩み寄る。
「さ、さっきからポロリポロリ言ってるけどポロリってなんなの……?」
 隣にいる武尊を見て、不思議そうに呟くミレイユ。それに答えたのはパートナーのルイーゼだった。
「ふっ……ミレイユってば、ポロリすら知らないとか、どれだけうぶなんだっつーの」
「え、えっ?」
「あのなー、ポロリってのは……」
 ルイーゼがポロリとは何かを、ミレイユに懇切丁寧に説明するとミレイユはすぐさま顔を赤らめた。
「ええっ!? ポロリってそういうことなのぉ!? そ、そんなのだめだよ! 女の子は簡単に見せちゃめっ、なんだよ〜?」
 ミレイユは慌ててタオルで胸元を覆い始めた。水着の上からそうすることによって、胸がはだけるのを防ごうとしたのだろう。それをルイーゼが慌てて止めた。
「ちょっ、ミレイユ、せっかくこういう競技なのに、隠したら意味ないっしょー!」
「だ、だってぇ……」
 ミレイユがちらり、と対戦相手である明の方を見る。その視線に気がついた明は、じっとミレイユを見つめ返す。その視線は、明らかにミレイユの胸へと注がれていた。
「な、なんか狙ってそうだよぉ、あの人……!」
 ミレイユに勘付かれた明は、バレては仕方ない、といった様子で彼女へ宣戦布告した。
「あたしは今、この試合を見ているすべてのおっぱいファンの夢を背負っている! さあ、ポロリまでのカウントダウンだ!」
 びし、とミレイユを指差し高らかに告げた明に、観客も大歓声を送る。
「いいぞ姉ちゃん! 期待してるからな!」
「ポ・ロ・リ! ポ・ロ・リ!」
 ここに、複雑な関係が生まれてしまっていた。東軍の武尊はポロリを狙っていて、西軍の明も明でポロリを狙っている。そして東軍のミレイユはポロリを恐れている。この戦いは一体どうなってしまうのだろうか。
「ん……待てよ、ポロリポロリ言うが、無理な場合もあるだろこれ」
 その時、武尊が明の格好を見てある疑問を抱いた。彼女の着ているのは普通のユニフォーム。水着ですらないのだから、ポロリなど望むべくもない。それに比べ、隣にいるミレイユの服装はビキニとはいかないまでもポロリを秘めた水着である。
「……」
 武尊は少し考えた後、明ではなく隣のミレイユの方に向きを変えた。東西よりもポロリの有無を優先させることにしたのだ。
「待たせたな、今度こそポロリタイムだ」
「えっ、えええっ!?」
 味方であるはずの隣人にいきなりポロリ宣言をされ、ミレイユは困った顔で前を見た。当然そこには、明がいやらしい顔でスタンバイしている。
「そろそろ、ポロリタイムよ」
「な、なんなのぉ、この人たちっ……!」
 ミレイユはいつの間にか、四面楚歌となっていた。肝心のルイーゼも、「タオルはないっしょ〜」とからかっている。
 じりじりと距離を詰める武尊と明。ミレイユはあっという間にタオルを剥ぎ取られた。
「こ、このままじゃ見えちゃうよぉ……!」
 相変わらず近くでケタケタ笑っているルイーゼ。しかしここで、ふたりは彼女の服装に気づいてしまった。
 ――この子、ビキニじゃないか、と。
「え……え? あたし? いやいやないから、そういうのないから!」
「パンツ・オア・ダーイ!」
「次のポロリが、あたしを待ってるのよ」
 武尊と明が一生懸命ポロリさせようと手を伸ばすが、本能で危険を感じとったルイーゼはミレイユを連れてリングから抜けようと、彼女にどこからか持ち出したブラジャーを差し出した。
「このブラに捕まりなよぅ」
 予想外のお宝の登場に武尊と明はより勢いを増して突進するが、どうにか命からがらミレイユとルイーゼは逃げ切った。
「ああっ、もう少しでポロリが達成できたのに!!」
 がくんと崩れ落ち、悔しがる明。それを観客席から見ていたパートナーニース・ミョルニル(にーす・みょるにる)は、短く呟いた。
「……何やってんだ、まったく」
 まあ西軍である明の標的としては、ミレイユを狙うこと自体は間違いではなかったのだが。どちらかと言えば武尊が何やってんだ、という話である。とは言え、明のポロリへの執着心にニースが呆れたのもまた事実であった。
「なんて恥ずかしいやつだ」
 ニースの溜め息は、それからしばらく続いたという。



「ちっ……なんだよ、結局ポロリしてねえじゃねえか。まあ、今の見えそうで見えなかった感じも悪くねーけどよ」
 浮島から逃走したミレイユとルイーゼにカメラを向けていたのは、武尊のパートナー猫井 又吉(ねこい・またきち)だった。
 彼はポロリの決定的瞬間をシャッターで捉えるべく、ずっとこの浮島周辺をカメラマンとして動き続けていたのだ。万が一不審者がカメラを壊しに来てもいいように、4台ものデジタルビデオカメラを持ち込む気合の入れようである。というかまあ、又吉のその姿が既に充分不審者であったが。
「ん……?」
 と、又吉は浮島を挟んで反対側に、自分と同じようにカメラを構えている者の姿を見つけた。又吉は何の気なしに近づく。するとそこにいたのは、デジカメを手にしている佐倉 留美(さくら・るみ)だった。
「なんだよ、俺の他にも撮影係がいたのかよ」
「ま……まあそんなところですわね」
 少し動揺が見えた気もしたが、又吉は別段突っ込むことはしなかった。仮に目の前のこの女性がいかがわしい目的でここにいたとして、自分にそれをどうこう言う資格がなかったからだ。
 そして皮肉にも、彼女、留美の目的はまさにそのいかがわしいことだった。
「あ、危ないところでしたわ……」
 背中を又吉に向け、留美は小声で呟いた。彼女もまた、ポロリを狙うひとりの写真家だったのだ。又吉と違う点があるとすれば、彼は動画にこだわり、彼女は静止画にこだわりを持っているということだろうか。
 もちろん、どちらが良い悪いではなく、それぞれに素晴らしいものに違いはない。動画でポロリを見ることにより得られるライブ感、伝わる女性の羞恥心もあれば、静止画でポロリを見ることにより得られる記憶の中のエロス、掻き立てられる想像力がある。
「時に留美よ、なぜシャッターを押さんのじゃ?」
 突如背後からかかった声に、留美は慌てて振り返る。そこにいたのは、彼女のパートナーであるラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)だった。
「まさか、そのデジカメを使っておかしなことをするつもりでは……」
 的を射たラムールの発言。しかし留美は、相手がラムールだと分かると動じる素振りを見せずあっさり答えた。
「あら、ラムールさん……何騒いでますの? わたくしは単純に競技の写真を撮影しているだけですわよ?」
「競技の写真を、のう……」
 何か言いたげなラムールだったが、あえてそれ以上深入りはしなかった。そのまま東軍の応援に精を出すラムールを横目に、留美は今か今かとシャッターチャンスを待っている。そしてそれは又吉も同じだった。ふたりがレンズを浮島に再び向ける。
 その時だった。ふたりのレンズに同時に、3人目のカメラマンが映った。それは、浮島周辺で水中カメラマンとして水に潜っていたシュブシュブ・ニグニグ(しゅぶしゅぶ・にぐにぐ)だった。どうやら誰かの命令でポロリを撮影するよう命じられこの仕事についていたらしいが、
プールがすっかり氷水となっていたせいでシュブシュブはガクガク震えていた。これが、シュブシュブガクガクと呼ばれる現象である。主な用法としては、突然の寒さに見舞われた時などに、「今朝マジでシュブガクってたんだけどー」などと略して使われるケースが多いようである。
「と、凍死するであるよ……」
 カメラを持ったまま顔を真っ青にしているシュブシュブ。又吉と留美は慌ててそのゆる族を水から引き上げ、救助した。
「た、助かったである……なんとなく命令されるまま撮るのが癪だったから、男の水着とかろくりんくんの鼻毛を撮ろうとした報いであるかな……」
 そのままシュブシュブはがくり、と気を失った。
「どうする、これ撮っとくか……?」
「……一応外見はメスっぽいから、撮っておきますわ」
 本当は可愛い女の子を撮って、写真を引き伸ばして部屋にポスターとして飾りたかったけれど、これはさすがに飾りませんわね。そんなことを思いながら、留美はシャッターを一度だけ押したのだった。

「えー、実況席、実況席、聞こえますでしょうか? こちら現場のロザリィヌですわっ!」
 倒れているシュブシュブの近くでマイクを持ち、実況席に向かって話しかけているのはロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)。シュブシュブの契約者であり、水中カメラマンをやるよう命じた張本人であった。
「あ、今現場のロザリィヌさんから中継が入りましたね。では彼女のリポートを聞いてみましょうか」
 どうやら彼女は、パートナーに撮影を任せ自分は現場実況を買って出たらしい。ロザリィヌは一気にまくしたてるように実況する。
「わたくし、この浮島の近くからこれまでの戦いを見てきましたけれど、どの戦いも素晴らしい肌と肌のぶつかり合いでしたわ! 二の腕や太もも、胸にウレタンクッションが食い込む時の弾力、まさに健康的な肉付きと言えますわ!! また女の子たちが着ている水着もスクール水着やビキニ、各学校の専用水着などバラエティに富んでいて見応えがありましたわ!」
「そ、そうですか、男性の選手はどうだったでしょう」
「え?」
「いや、ですから男性の……」
「ちょっと何言ってるか分かりませんわ」
「……」
 返す言葉をなくし、沈黙を生んでしまう実況席。ロザリィヌが現場実況を買って出たのは、こういうことのようだった。シュブシュブに撮影を命じたのも、おそらくは留美と近い目的のためだったのだろう。
「それよりも、先ほどの女の子は惜しかったですわね! もう少しでポロリが……」
「えー、以上、現場実況のロザリィヌさんでした。ありがとうございました」
 強制的に中継が切られた。
 この時点で、東軍西軍の勝ち星は既に分からなくなっていた。残っている選手の数から、東軍が多く勝ち星をあげているのではないかと推測される。
 というよりも、もう大分前から東西の勝ち負けよりいつ誰がポロリするかにしか皆の注目は集まっていなかった。