校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
応援 「つめたいビールにー、カチワリー、いかがですかー?」 2020ろくりんスタジアムで売り子アルバイト中の高峯 秋(たかみね・しゅう)は、大声で呼びかけながら階段を上り下りする。 (お、重い……) 秋の額をダラダラと汗が流れ落ちていく。 売り物は多くが飲料で、背中には重いビール樽も背負っている。その総重量は10キロを軽く超える。 また、このスタジアムは見ての通りの開放式で、外気そのままの気温だ。 シャンバラはこれまでにないような猛暑に襲われている。 これは東西シャンバラが建った際、俗に「アトラスがパラミタ大陸を取り落としかけた」と言われる変動でトワイライトベルトが移動した為、異常気象が起っていると考えられていた。 (エルは大丈夫かな?) 秋は、共にバイトするエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)の姿を探した。 エルノは少し離れた場所で、多少引きつった笑顔で客にジュースを手渡していた。 エルノはれっきとした男性だが、見た目は髪が長く、お嬢様風のように見える。 女性客は売り子が男だろうと女だろうと気にしないが、男性客はどうせなら可愛い女の子から買おうとする者が多い。 事実、「アキ君のお手伝い」のエルノの方が、秋よりも売上が多い。ただ、男性の相手が苦手なエルノには試練の時だ。 エルノは当初、この仕事がボランティアではないかと考えていた。 だが、こうした販売に関わる仕事は飲料メーカーや販売店が力を入れており、大会期間中は大量の期間従業員が募集され、空京に出稼ぎに来ているシャンバラ人や地球人の雇用の場となっていた。 そして給料は基本給+歩合である。基本給だけでは、とてもやっていけない額で、ちゃんと稼ごうと思ったら、より多くを売るしかない。 (貧乏暇なしってやつだしね! ……ハァ) 秋がため息をついて、販売を再開しようとしたところ、思わぬ方向からツッコミが入った。 「そこ! ため息をついてはいけないと言っているでしょう?!」 「……え? 俺?」 秋はぽかんとして、自分を指差した。 ツッコんだのは、東シャンバラチーム応援団長クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)。選手のテンション降下につながるから、ため息はつくな、と先ほどから口すっぱく言ってきている。 「俺、売り子だよ?」 「ろくりんピックの売り子なら、元気にやってください! 見ていなさい。販売とは、こうやるのです! 『ビールに! カチワリ! いかぁっっすかー!!!』」 クロセルが声も高らかに売り子の手本(?)を示すなり、東シャンバラ応援団から一斉に、 「じゃあ、ビールくれ」 「カチワリ、ふたつ!」 「お茶はないの?」 「ガム買ってきて」 と注文が殺到する。クロセルはこけた。 さすが応援団長。皆に愛されている。 「〜〜〜〜〜っ。ほらっ、注文が入りましたよ。あなたの仕事でしょう? 対処なさい」 「え? ど、どうもありがとう!} クロセルにせかされ、秋が急いで応援団員達に注文を取りに向かう。 クロセルのパートナーマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が小さい体で、応援団の前を走りまわる。両手にポンポンをつけたチアリーダー姿だ。 「さあ! イーシャン応援団の底力を見せつけてやるのだ!」 「おう! 俺様も全力で応援するぜ!」 東シャンバラチーム応援団員雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、両手に持ったメガホンを叩きあわせる。 「ゴーゴーイーシャン! ファイトだぜー!!」 「ゴーゴーイーシャン! ファイトだぞー!!」 ベアの隣のマナも、ぴょんぴょん飛びはねる。 応援団員シロクマとチアのちび竜が並んで応援していると、観客から「かわいい〜」の声があがる。 「よーし、こっちも頑張らなきゃ!」 イーシャン応援団チアリーダーの一人リン・リーファ(りん・りーふぁ)が、応援を始めようとする。だが関谷 未憂(せきや・みゆう)は座ったまま、両手のポンポンで、ミニスカートから露出した足を隠している。 「あ、あの……やっぱり私もやるの?」 もともと見学だけのつもりだったが、リンが「楽しそう! 目立つの大好き! まーぜーてー♪」とチアリーダーに参加。その際、なぜか未憂も一緒にやる事になってしまったのだ。 「もー、おーじょーぎわがわるーい。かわいいから全然、平気だよ!」 リンは未憂の手を引っぱって、立たせる。 「でも、スカート、こんなに短いし……」 まだ未憂がもじもじしていると、同じくチアリーダーのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が励ましに来る。 「私も、こういう衣装は着慣れていないので恥ずかしいの、よく分かります。だけど皆で一緒に応援するから大丈夫ですよ」 ソアはにっこり笑い、応援に集まった生徒達を見て続ける。 「私たちの応援が、選手の皆さんの力になるって信じて、一緒に頑張りましょう? 「……やってみます」 未憂はようやく踏み切った。人前で大声を出し、ミニスカで踊るのは恥ずかしかったが、もともと選手を応援をしたい気持ちはあるのだ。 リンはノリノリで応援を始める。 「じゃあ、がんばって応援しよー! フレー♪フレー♪イーシャン♪」 「フレーフレー、イーシャン! ふぁいとっ、おー!!」 ソアも恥ずかしさを隠して、ポンポンを振って応援を始める。 未憂も控え目に皆のマネを始めた。 「ふれーふれーいーしゃんー」 リンが未憂に言う。 「みゆう、もっとちゃんとしないとー。腕のばしてー。皆とそろわないと、かっこよくないよー。逆にめだっちゃうよー」 「あうぅ」 横のソアが、応援の合間にそっと声をかける。 「未憂さん、その調子。 フレーフレー、イーシャン! ふぁいとっ、おー!!」 やはり女生徒たちのチアリーダーは、応援の華だ。 「けっ、可愛いだけが応援じゃないぜ!」 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は学ランに学帽、晒にズボンという番長スタイルで決めている。D級四天王の地位を生かして舎弟を呼び集め、応援団を結成していた。 「聞けぇ、東シャンバラの選手共! お前たちを応援する、シャンバラ中を揺らすほどの応援を!」 「ヒャッハーヒャッハー! キバれや、イーシャン!!」 野太いかけ声にあわせて、東シャンバラチーム応援団員ビスク ドール(びすく・どーる)が、シャンバラ旗を掲げて左右に大きく振っている。 こちらも番長スタイルだが、会場がペット持込禁止と知るや、乗ってきた大型騎狼をちゃんと帰すなど「良い子」だ。 「うわ……東側の応援、すごいですねー」 西シャンバラチームの応援席では、小林 恵那(こばやし・えな)が東側の大応援団に圧倒された様子だ。。 隣の席に座ったロックウェル・アーサー(ろっくうぇる・あーさー)が、ひょいと肩をすくめる。 「こりゃ、全体応援じゃあ勝敗ついたようなモンだな」 「あら、だからこそ応援するんじゃありませんか」 そう言いながら恵那は、ロックウェルの手にタオルを渡す。ろくりんピック公式タオルだ。 「? 汗でも拭けって?」 「これを振って応援して下さいね。」 恵那はにっこり、ほほ笑んで言った。 「タオル振るって……ライブじゃねーんだから……」 しかし恵那はメガホンを口にあてて、選手達を応援し始める。 「頑張って下さい!! フレーフレー!」 恵那は「運動が苦手な自分でも、応援ならば出来る!」とばかりに、懸命に応援する。 もともと歌が大好きで日頃から歌いこんでいるミンストレルだ。恵那の声は大きく、よく通った。 「ったく、聞いちゃいないや」 ロックウェルはあきらめたように立ち上がる。そしてタオルを振り回し、恵那に合わせて応援を始めた。 「西、頑張れー!」 「フレーフレー! 西チーム!」 東西の応援合戦の一方で、陣営問わずに応援する観客もいる。 ブウゥゥゥゥゥゥ! 蜂の羽音が唸りをあげるような笛の音を響かせて、ブブゼラが吹き鳴らされる。 椎名 真(しいな・まこと)の呼びかけで結成された【国境なきブブゼラ応援団】だ。 応援と見せかけているが、実際は競技が問題なく行なわれるよう監視をしている。ブブゼラの音色には、それぞれサインも決まっていた。 ブウゥゥゥゥゥゥー!(異常は無いかい?) 真がブブゼラを吹くと、少々離れた場所から佐々良 縁(ささら・よすが)が吹き返す。 ブオオォォォォ!(こちら、異常なしー) 異常がなければ、そのままブブゼラでの選手応援になる。 国境なきブブゼラ応援団はブブゼラの他にも、ポンポンを持っての応援など様々だ。 双葉 京子(ふたば・きょうこ)は神楽鈴を用いての演舞を披露している。これだけで、どこかの民族舞踊のようにも見える。 トントンとリズムを刻みながら踊っていた京子だが、リズムの乱れを感じて、その音の方角を見る。 ブオオォォブオオォォブオオォォ!(異常が△◆※◎□……) 縁は、疾走する選手に向けて、一心不乱にブブゼラを吹き鳴らしている。 ポンポンを持って友人と共にチアをしていた佐々良 皐月(ささら・さつき)が、階段を駆け降りてくる。 「ちょっと、よすが? お仕事も忘れないでよー?!」 ブオオォォブオオォォー! 縁は全力でブブゼラを吹き鳴らす。自身の笛の音で、皐月の声が聞こえていない。 「よーすーがー! おーしーごーとーはー?!」 皐月が渾身の大声を出して、ようやく縁は気がついた。 「……え、んあ…うんうん。わかってるってぇ〜」 ブブゼラを吹きすぎて、ちょっぴり脳に酸素がいっていない。 ブウゥゥゥゥゥゥー!(異常は無いかい?) 真が心配そうに、ブブゼラで尋ねてくる。 ブオオォォォォ!(こちら、異常なしー) 縁は、てへへ、と笑ってごまかすが、ブブゼラの熱烈な応援で、周囲の観客のボルテージはあがっている。 「フレーフレー、西ー!」 「がんばれ、東ー!」