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リアクション
「大地さぁあん! 助けてぇえ!! ……って、だだだ、大丈夫ですか!? なんでそんなぼろぼろになってるんですかーーーー!」
「この前、お前がヘタクソな治療したからじゃねーの?」
フリードリヒが冗談混じりに言うと、ティエリーティアは本気にして慌てに慌てた。借り物のことなんか頭からすっとんでいる。それだけ、大地はぼろぼろになっていた。死にかけのようにすら見える。
「そそそ、そうなんですか!? ご、ごめんなさいーーーーー!」
「違うわよ。これはさっき……」
「さっき?」
千雨の言葉に、ティエリーティアはきょとんとした。大地が事情を説明する。
「いえ、スキルを使って事前に借り物に出るものを調べ、調達に行ったんですが……これが本当に大物で」
「そんなあ、無茶しないでくださいよー!」
ヒールをかけながら、ティエリーティアが言う。
「なんか、チートの匂いがすんなあ、それ」
「だから、直接借り物を提供できる回数も限られてくるのですが……でも、それ以外でも千雨さんにしっかりサポートしてもらいますよ。ティエルさん、借り物は何ですか?」
「借り物……? あ、わすれてました!」
持っていた紙を出す。それを見て、大地は苦笑した。
「ティエルさんに当たりましたか。俺が用意していたのはこれですよ」
千雨が紙袋に入れていたそれを取り出す。渡されたのは、正に鋭峰がいつも被っている帽子だった。
「こ、これ……!」
「まさか、直接挑みにでも行ったのか?」
驚く2人に、大地は微笑む。詳しいことは言わなかった。
「障害物も、無事クリアしてくださいね。応援しています」
「は、はい! がんばります!」
ティエリーティア達は帽子を受け取って階段を降りていく。その後姿を見守っていると、2人は突然足を止めた。
「すみませーん! あの、救護出来る方いらっしゃいませんかー!」
「怪我人がいるんだ! 治せるやつがいたら治してくんねーか!」
声を揃えて方々に呼びかける。そこに、待機していた救護係がやってきた。
「どうしました? 誰か、急を要する人が?」
ティエリーティアが大地を振り返って助けてくれるように頼むと、救護係も大地の姿を認めてびっくりした顔をした。すぐに階段を上り始める。
「よし、んじゃさっさと行って1位をかっさらってくるか!」
「フリッツ、今日はやけにやる気ですね。どうしたんですかー?」
「ん? べっつにー。いつも通りだぜ?」
と言いつつ、彼は本気で勝利を狙う気であった。最初は興味ゼロだったものの、「人と争う」競技がサビかけていた闘争本能に着火したのだ。
ということで、2人は急いで障害物――謎のプールに向かった。
「一応聞いてまわってみたけど、そんな人いなかったわ」
「小人にも聞き込みをしてもらい、私も観客の方々にいろいろ尋ねてみたのですが該当の携帯電話は見つかりませんでした」
アイナと、使い魔4体を引き連れた孔明が報告する。
「まあ、そりゃそうだよな。まっとうなデコメールなんてルミーナさんでも送るかどうか、だもんなあ……よし、アイナ携帯貸せ」
「……何するつもり?」
訝しげにしつつも、アイナは携帯電話を隼人に渡す。
「環菜校長のメルアドはっと……。要するに、環菜校長へ『デコ!』って呼び捨てにしたメールを送ればいいんだよな?」
「え? 隼人、何やって……!」
携帯を取り返す。送信しましたの画面から履歴を見て現れたのは、本文『デコ!』という3文字だけの環菜宛てのメール。
「…………」
「これでクリアだな、よし、戻るぜ!」
再びアイナの手から携帯を抜き取り、隼人は言う。
「ちょっと……せめて、普通のデコメール送りなさいよ!」
「シャレだって☆」
階段を降りていく隼人を、アイナは慌てて追いかける。
「……もう! 私がここまで協力してあげたんだから…………絶対に1位になりなさいよ!」
東西のVIPルームに行ってそれぞれ出てきてもらうように頼むと、エリザベートと環菜はあっさりとブルタの前に現れた。護衛も一緒だ。借り物の為の呼び出しには応じるよう、運営から言われているらしい。
「今度は東ですかぁ〜。何が欲しいんですかぁ〜?」
「2人も呼ぶ必要があるのかしら。帽子の無い金団長というのはなかなかに見物だったけどね……さあ、何を借りたいの?」
ブルタはエリザベートのチアガール姿にじっくりこってりとした視線を送った。特に、胸――
「なんですかぁ〜」
エリザベートはこそこそと環菜の後ろに隠れた。環菜の服をつまんで顔を半分くらい出してブルタを見ている。
「借り物としてこんなのが出ました。エリザベートちゃん、カンナ校長。胸パットを渡してください」
「…………」
「…………」
紙を見てエリザベートはぽかんとし、環菜は顔を引きつらせた。この場でブルタの脂肪をぼよぼよぼこぼこめためたにして死亡させてやろうかと思ったが借り物ということで何とか堪え、環菜は言う。
「私は胸パットなんてものは着けてないの。持っていないものは貸せないわ」
「私だって着けてません〜」
「そんなことはありません!」
ブルタは力強く断言する。
「エリザベートウオッチャーのボクの目に狂いは無いです! エリザベートちゃんの胸は、最近わずかに大きくなっています。カンナ校長に対抗して胸パットを着けたんでしょう」
「そんなの、気のせいですぅ!」
エリザベートはますます環菜の後ろに隠れた。水色の髪がふよふよと漂う。顔が赤い。
「……へえ、そうなの」
「違いますぅ! 違うったら違うんですぅ。環菜こそ、本当は着けてるんじゃないですかぁ?」
「…………。私はそんなものに用は無いのよ! ふ、ふふ……エリザベート、あなたはまだ子供なんだから胸とか気にしなくていいのよ」
その台詞に、エリザベートはかちん、ときた。環菜から離れて怒る。
「子供じゃありませぇん! とにかく、胸パットなんて着けてないですぅ、VIPルームに帰りますぅ!」
しかし、ブルタはエリザベートの正面を陣取ってそれを遮ると、ビン底メガネの奥の目を真剣なものにして言った。
「ボクの情報によると、一ヶ月前よりおよそ2センチも膨らみが増しているはずです。貧乳の何が悪いのですか? 昔のエリザベートちゃんに戻って下さい」
「うーー〜〜〜…………」
エリザベートが胸パットを着けるなど、ロリコンで貧乳マニアのブルタにしてみたら許せない暴挙である。この競技を利用して胸パットを没収し、以前の貧乳エリザベートに戻って欲しかった。
だが。
「しつこいですぅ! ついでに顔もしつこいですぅ!」
遠慮無し、いつもより数倍威力がありそうなサンダーブラストだ。ブルタはぷすぷすと体から煙を出してばたーんと倒れた。
環菜とエリザベートはVIPルームに戻っていく。
東チーム、ブルタ・バルチャ、この時点でリタイアである。
「……少し席を外しただけでメールが溜まってるわね。えーと……」
椅子に落ち着いた環菜は携帯をチェックして固まった。仕事関係のメールに紛れて、こんなメールがあったからである。
『デコ!』
「…………」
クールな表情の中でこめかみをひくつかせ、環菜は無言で立ち上がった。
「すまんけど、そのメガネ貸してくれんか?」
大声で、陣は観客にメガネを持ってないか聞きまくりつつ、メガネをかけている人に交渉していた。リーズも羽とバーストダッシュを使って、多くの人を効率よくまわっている。
「これを外すと、何も見えなくなっちゃうから……」
「うー、そっか。話聞いてくれてサンキューな!」
客から離れ、また声を出して貸してくれる人を求める。
「おーい、メガネ持ってるやつがいたら貸してくれ!」
割と騒がしい。
(みんな、メガネ使用中やから、以外と難しいなあ……こんな大勢から探すんは一苦労やけど、急いで見つけて一着を目指さんとな……)
「貸してくれるんだねっ、ありがとー!」
弾んだ声が聞こえてきて見上げると、リーズがメガネを持って急いで降りてくる。
「メガネ、借りられたよ!」
「ナイスやリーズ! すぐに戻るで!」
「うん!」
何人かの選手がもう謎のプールに挑戦している。その正体を知って愕然とした表情をしつつ、陣はメガネを落とさないように持つとバーストダッシュでトラックに戻った。
「陣く〜ん! 一等賞目指して頑張ってねぇー!!」
「おう!」
そしてこちらも。
「誰かー! メガネ持ってる人いませんかー!?」
応援席の間を、千尋が大きな声でメガネ人を探していた。社は別の所で聞き込みをしている。
「メガネー! 山葉メガネじゃないメガネですー!」
「伊達眼鏡だけど、それでもいいですか?」
そんな彼女に、茶髪の男性が声を掛けてくる。差し出したそれを受け取ると、千尋は丁寧な仕草でお礼を言った。
「はい! ありがとうございます!」
跳ねるように社の所に走り寄って、メガネを見せる。
「貸してもらえたよ♪」
「よっしゃ! メガネゲットしたで! 何や腑に落ちんけど……ちー、早速障害物行くぞ!」
「うん☆」
社は観客からメガネを借りると、急いで謎プールの前に戻った。
そのちょっと前。
「あ、あの……メガホン貸していただけますか?」
借り物競争というものがまだよくわからないグラン・グリモア・アンブロジウスは、声を出して借り物を探していた陣と社達を遠目で見て、戸惑いながらも応援席に近付いた。
(えっと、こうして声を掛ければいいんですよね……)
あんまり大きな声は出せないけれど、頑張って話しかける。幸いなことに、借り物である『メガホン』はほとんどの観客が持っていた。しかし、まだ声が足りないのか、声援が大きい会場では、まだそれは聞き取られていないようだった。
もう少しだけ頑張って、声を出す。
「あの、メガホンを……」
「あれ、メガホンがほしいの? いいよ、これ持っていって!」
その時、近くにいた女性がグランに話しかけてきた。目の前に出されたメガホンに、彼女は1度瞬きをする。
「ありがとうございます」
「うん、頑張って!」
女性の笑顔に見送られて、グランも謎プールに向かった。
「ホレグスリが借り物アイテムとして書かれるとは……! 俺の日頃の努力のおかげだな。しかし、この眼鏡はどうしたものか」
ホレグスリと交換に眼鏡を手に入れたむきプリ君は、それをどうしようか、と珍しく少し困っていた。特に視力は悪くないし、実際掛けてみたら目がちかちかして我慢できなかった。
ぶっちゃけ、彼には要らない代物である。
「レンズを抜くか、売るかするか。……だがメガネをかけた俺も結構イケメンだったな。今度から伊達眼鏡でも掛けてみるか」
注:思い込みです。
「おう! そこの筋肉! そのメガネ貸してくれや!」
筋肉と呼ばれて振り向くと、イワンが気さくな笑顔で駆け寄ってくるところだった。手には『メガネ』と書かれたカードを持っている。
「よし、持っていけ。ところで、さっきの奴は交換物を持ってきたわけだが……何かあるか? ん?」
むきプリ君は何か渡すのが当然というように手のひらを差し出す。それを冗談と思ったのか、イワンは派を見せて笑った。
「オレが勝利するところを見せてやるから、まあ待ってろ!」
そうして、イワンは降りていった。
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