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リアクション
障害物借り物競争2〜メガネおあずけと胸パット疑惑〜
『はいっ! 第1レースの借り物も片付けられ、第2レースの開始だよーーーー! じゃあ、選手を紹介するねー!』
1コース (東)ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)、フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)
2コース (西)七枷 陣(ななかせ・じん)
3コース (東)日下部 社(くさかべ・やしろ)、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)
4コース (東)ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)
5コース (東)グラン・グリモア・アンブロジウス(ぐらんぐりもあ・あんぶろじうす)
6コース (西)イワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)
7コース (西)風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)
8コース (西)風祭 隼人(かざまつり・はやと)、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)
コースから離れた所で、沢渡 真言(さわたり・まこと)がグランに声を掛ける。
「グラン、自分のペースで頑張ってくださいね! 私はここにいますから!」
魔道書であまり外に出たことの無いグランは、こういった競技の参加も初めての体験だろう。きっと、走るのも初めてだ。
(……ああ、はらはらします、とても!)
グランは真言に頷いて、コースの先を見る。そこに置いてあるカード……何が入っているのかな。足が遅いから1位にはなれないと思う。でも、初めての運動会みたいなものだから、彼女はこの競技を楽しみにしていた。
(主と一緒に参加できるだけで、嬉しいです)
もう1度、真言を見る。真言は次のレースに出場予定だ。
(さて、この大人数から借り物をどうやって見つけるかがミソやろうな……)
陣は観客席を見上げ、効率良く借り物を探す方法に思案を巡らしていた。そこに、西の応援席では、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が呼びかけてくる。
「陣くーん! 西のみんなもがんばってねー!」
彼女の隣には、着替えだの何だのをしている間に席を取られたファーシー達も座っていた。ピノは結局、西のユニフォームレプリカを着ている。またブルマだ。まあそれは兎も角。
「あ、ファーシーいる! ヤッホーヤッホー! みーてーるー?」
フリードリヒがファーシーにぶんぶんと手を振っている。いつもよりもテンションが高いような。いやいつもと同じか。
「見たくなくても見えるけど……。ティエルさん、応援してるわよ!」
後半だけ大きな声でファーシーは言う。チームの違いとかは全く気にしていないらしい。彼女に対し、ティエリーティアも手を振った。でも少しだけ不安そうだ。観客席を見て、フリードリヒを見上げた。
「こんなに一杯人いますもんね、楽勝ですよねっ?」
「おう、俺様がいれば1位なんて簡単だぜ!」
どこからそんな自信が……、とファーシーが呆れて見ていると、後ろから誰かが来る気配がした。ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)だ。
「あれ、ルミーナ、どうしたの?」
「隼人さんが出ると聞いて、こちらで拝見しようと思ったんです」
「え、ルミーナ、それって……」
「ち、違いますよ! そういうのでは……いえ、そういうのはまだ……あの……」
「ルミーナさん!」
隼人がそれに気付いてびっくりする。どこかで観戦しているだろうから、活躍して惚れ直させてやるぜ! とかは思っていたが、まさかこんな近くに来るとは。
「では、出走の用意をしてください。ようい……」
スターターが腕を挙げ――
ぱぁん!
第2レースが始まった。
「こ、これは……来たで!」
社は「8」のカードの中身を見て、思わずそう言っていた。
「え、何々ー☆ ちーちゃんにも見せてー♪」
千尋がつま先立ちになってカードを見たがった。せっかくのろくりんピックだし競技に参加させてやりたいと思っていたところ、借り物競争があると知って一緒に参加したのだ。これなら危なくなさそうだし。
そして、肝心のカードには――
『メガネ』
「あっ、これ……!」
その口を慌てて社は塞ぐ。小声で千尋に言った。
「待て待て。これ、俺が書いたのと違うで。別の奴が書いたんや。多分、他にもメガネが……」
ちなみに、「8」を選んだのは横に倒すと眼鏡っぽいからという理由だったりする。
「さて、この大人数から借り物をどうやって見つけるかがミソやろうな……」
観客席を見渡しながら、陣は「5」のカードを破った。中から出てきたのは――
『メガネ』
「来た……んかな? これ。でもメガネって……」
陣は障害物の先に目を遣った。カードを拾った現地点から10メートル程離れた所にプールらしきものが設置されている。そして、その先には――
メガネ本人が立っていた。
《この第2レース、無事助っ人の役目を果たした山葉選手が障害物となっているんですよねえ。その名も、障害物名「山葉」だとか》
『誰がリクエストしたんでしょうか! それも気になる所です!』
《それはひ、み、つ、ね♪》
「ふぇ……恥ずかしい物を借りさせられませんように……」
「2」のカードを拾ったティエリーティアは恐る恐るひっくりかえす。そして出てきたのを見て、2人は目を点にした。メガネではない。メガネではないが――
『変な帽子(金 鋭峰(じん・るいふぉん)が被ってるみたいなもの)』
「……まじで?」
「えっ、で、でも……『みたいな』って書いてありますよ。『みたいな』って!」
「『みたいな』……って、アレ以外にあるのかよ」
「ふぇぇーん、大地さーん!!!!」
「あっ、ちょっ……!?」
ティエリーティアは、一目散に東側応援席に走っていった。
「ものすごく見たことある文章が……。これ、どんな超確率だ?」
隼人は「4」のカードを見て、思わずそう言っていた。アイナが横から覗き込んでくる。
「もしかして隼人が書いたのが入ってたの? 何書いたのよ」
『環菜校長に『デコメール』を送った記録がある携帯電話』
「……馬鹿?」
「あ、優斗! お前は何だったんだ? 借り物」
冷ややかに言うアイナを誤魔化すように、隼人は優斗に声を掛ける。名字からも判るように、2人は双子の兄弟である。そっくりだ。優斗は少し困っているようだった。「6」番のカードには『剣の花嫁の携帯電話の番号』と書いてある。
「これまた、めんどくさいというか何というか……平たく言うと、剣の花嫁をナンパしろってことかな」
「これ、テレサの番号とかだと……」
「駄目だろうな。『借りる』わけだし、元々持ってるやつじゃな」
隼人はすっかり他人事である。これが当たらなくて良かった……! 競技の為とはいえ堂々とナンパに走ったらアイナにまた追いかけられるかもしれない。
「どうしました? 優斗殿、隼人殿。何が当たったんですか」
そこに、トラック外にいた諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が近寄ってきた。2人のサポートをしようとそれぞれのカードを見て、孔明はまず優斗に言う。
「優斗殿。剣の花嫁のご友人で、まだ携帯電話の番号を知らない方はいないのですか? 例えば、そう……テティス殿がチアガールをやっておられますが」
「テティスさんですか。でも、今日は……」
西側応援席をちらりと見る。そこにはテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)の他にミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)がいる。皆、チアガールの格好をしてボンボンを振ったりしていたが、それだけではなく護衛もわんさかいるのだ。そんな状況で携帯番号なんぞ訊いたら、護衛のみなさんに変な誤解をされてしまうかもしれない。
「剣の花嫁……そうだ!」
何か閃いたのか、優斗は西側応援席に向かっていった。
「……さて、とりあえずこちらは探してみましょう」
孔明は『デコメール』云々の携帯を持っている人を探すべく、使い魔のカラスとネズミ、ネコ、フクロウに括りつけた携帯に連絡する。使い魔達には、それぞれ小人を同行させていた。ちなみに、この小人とは『小人の小鞄』から出した親指大の小人であって、決して幼女ではない。
隼人も、事前に根回しをしていた協力者に急いで連絡を取ってみた。
持ってないだろうな、と思いながら。
「…………」
「…………」
メガネ組は、どう動けばいいのか分からずに困っていた。借り物は『メガネ』にも関わらず、メガネは障害物の向こうにいる。しかし障害物にはメガネを手に入れてからでないと進めない。
その時、「9」の内容を確認したイワンが豪快に笑い始めた。イワンは50歳を過ぎたおっさんで、細かいことなど気にしなさそうな風貌をしている。細かい作業は好きなのだが。
「がっはっは! こりゃ、いいもんが来たな。おーい! メガネを持ってるやついないかメガネ! ちょっくら貸してくれや!」
まだまだ若いもんには負けんぞ、やるからには必ず勝つ! と気合を入れていたイワンは、観客席に走っていって手当たり次第という感じで大声をかけていく。
「な、何やと!? メガネ!?」
『メガネ』3人目である。
「迷わず観客席に……! そうか! メガネなんてあいつに拘らんでも普通にあるんや!」
社と陣が口々に言うと、タイミングよくシオンがそこで解説を入れた。
《障害物は借り物をGETしてから超えてねぇ。その後に障害物「山葉」をどうするかは自由よ♪》
決定的である。
「えーっ? じゃあ、メガネおあずけー?」
千尋の言葉と同時、2人は行動を開始した。社は千尋の手を取り東側応援席へ。陣はリーズの所に走る。
「陣くんっ! 借り物は?」
「メガネや!」
「メガネ……」
リーズはメガ……涼司を見てから観客席を振り仰いだ。コンタクト派が多いのか、意外と眼鏡をかけた客が見当たらない。
「んにぃ……こんなに大勢の中から見つけるの大変だねぇ……わかった! ボクも一緒に探すよ!」
元気良く言うと、リーズはヴァルキリーの羽を生かして上空からメガネ人を探していった。
そして。
「9」のカードを開けたブルタは、カードを見てにやあっと笑った。そこに書いてあったのは、
『エリザベート&カンナがつけているであろう胸パット』
いろいろとツッコみ所がありそうだが、ブルタはツッコまなかった。これは、自分が書いたものだからである。2人分の胸パットなら借り物が2つだろうとか、そんなのは些細な事だった。ブルタにはエリザベートに言いたいことがある! 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)まで持ち出してきたのは――
「エリザベートちゃん、今行くよ〜」
ブルタは早速、VIPルームに向かった。
「ピノさん! ピノさんは確か、剣の花嫁でしたよね?」
優斗はファーシー達に挨拶すると、ピノに借り物の紙を見せてそう訊いた。
「そうだよ?」
「携帯の番号を教えてください。えっと……まさかダメとか言いませんよね?」
後半は保護者に対しての問いかけだ。
「……別にいいんじゃねーの」
「良かった……。では、改めて、携帯の番号を教えてください」
「う、うん……」
真剣な顔で言われ、ピノは少しびっくりしながらも携帯を出した。赤外線で番号を送る。
「障害物競走、がんばってね?」
「……ありがとうございます」
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