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リアクション
『おぉっと! 借り物をGETして選手が戻ってきましたぁー! 1番手は、8コースの夏野 夢見選手だー! 借り物は、黒くてふさふさしたカツラです!』
歌菜の実況に、司も感想と解説を加える。
《本来ならもっと苦労しそうな借り物ですが、幸運にも好意ある方がいらしてスムーズに借りられましたねえ》
《なかなかいい光り具合だったわね。司もいつかは……》
《なりませんよ! 私は○ゲませんよ! もう、やめてくださいよ……!》
シオンと司の会話に、歌菜も便乗する。アイドルたるもの、ハ○とは言わないが。
『まあ、そればっかりはどうにもならないからねー!』
(俺ははげないからな……)
飛空挺を運転しながら、羽純は内心でつっこみというか誓いみたいなものをする。そして地上では、夢見が『ローションつるつる床』を前に困ったような顔をしていた。プラカードが立っていて『必ず歩く(足を使う)こと』と書いてあったからだ。
「歩くって……どうしよう。匍匐前進とか考えてたのに……で、でも、やるしかないよね!」
夢見はそろそろと足を踏み出す。滑らないように、慎重に……
「きゃっ!」
早速滑った。だが、ヴァルキリーであるフォルテがその腕を掴む。彼は宙に浮いていた。
「フォルテ……!」
「サポートが歩かないといけないとは書いてありません。私が補助しましょう」
そうして、2人はそろそろと、しかし確実に進んでいった。夢見はバーストダッシュを持っていたが、障害物には己の体1つで挑みたかった。自分の力じゃ超えられない、と本気で思った時以外、スキルは使いたくない。
『次にやってきたのは春夏秋冬真菜華選手! 小さな女の子を連れています! このローション床を無事に超えられるのでしょうか! おっとこけたぁ! しかし楽しそうです! こけつつも2人共実に楽しそうです! あっ、膝立ちで滑るように進み始めました! パートナーは……やはりやる気が無さそうです!』
《借り物探しの時も下で待ってましたしねえ。うんざりしたような顔をしていますが……サポートする気、ゼロですね》
「滅茶苦茶なのはいつものことですが……あの子、絶対借り物じゃないですよね……」
エミールはローション床の脇を普通に歩いていた。暑苦しいスポーツとかに無縁のインドア派である彼は、のろのろたらたらとしていた。観客席からヤジが聞こえてくるような気がするが、大して気にしない。
《それにしても、女の子ですか……。第1レースの借り物で女の子というのは1人のはずですがねえ。イレブン選手が、まだそちらで苦戦しているようですし、彼女は……? んん? 借り物条件にはぴったりなんですが……》
《別にいいじゃないの♪ あの2人、なかなか良いものを見せてくれてるわよー。いい! いいわ! ローションはこうでないと、ね〜》
司を押しのけて、前に出て解説するシオン。
《ちょっとシオンくん、もう少し普通に……》
確かに、少女&幼女がローションの上を滑っていくというのは、いろいろとあぶないものがあるが。
《ぇ、普通に? ……ふふっ、冗談でしょ?》
彼女は真顔で答えると、前に向き直ってしれっとした様子で言った。
《そんなの司に任せるわ》
その頃、観客席では――
「あいつは……! やっぱり任せるんじゃなかった……! どうせ失格なんだし、連れ戻してくる!」
ベンチから立ち上がりかけるラスを、ファーシーが押し留める。
「ちょっと! 他の人の邪魔になっちゃうわよ! それに、2人は楽しんでるんだから別にいいじゃない。嫌がってるなら話は別だけど……」
「ドッジボールのブルマの時といい……お前には羞恥心ってもんが無いのか?」
「あるわよ! 失礼ね!」
そんなやりとりをしているうちに、真菜華達はローション床のゴールに近付いていた。クリアまであと少しだ。
「むー、これは……」
美央はローション床を見て迷わず手を上げた。罠はトラッパーを逆利用しようと考えていたが、これだけストレートであればただ進むだけ。レースの始めに勝利するというのは、結構重要なポイントだ。
「山葉さんをお願いします!」
『イーシャン、ここで助っ人を呼びました! 山葉選手を何に使う気なのでしょうか!』
「使うって……メガネ……ナチュラルに道具扱いか……」
羽純は今度は声に出してつっこんだ。
「よし、俺の出番だな! 何でも言ってくれ! 今度こそ役に立つ!」
これまで散々助っ人に呼ばれ、全くと言っていいほど役に立たなかった涼司は、最終競技こそはと意気込んでいた。
「では、そこに寝そべってください。うつぶせになって。私がその上に座って、キック力で一気に前進します。出来れば他のイーシャンの選手も運んでください。この方法なら、スピードで負けません!」
「乗り物!?」
「1人ならそんなに重くないです。コントラクターなら楽勝です!」
「くそぅ! 分かったよ!」
涼司がローション床に寝そべり、その上に美央が馬乗りになる。
「そぉい!」
美央は、気合と共に床を蹴った。ばしゅしゅしゅしゅっ! と一気に進む。
『速い! 速いです! ナイス山葉ボート!』
山葉ボートから降りて、美央は一気にゴールに向かった。
『赤羽選手、ゴール! 1位です!』
夢見もつるつる床をクリアする。他のチームメンバーを誘導する為にフォルテが戻り、涼司も戻……
「ストップ! そこで待機しててくれ!」
やけになってそのまま滑って戻っていた涼司を、バーストダッシュを使って戻ってきた涼介が止めた。
「!?」
ローション床の中途半端な所で止まる涼司。涼介はクレアを連れて床に一歩踏み出し、バーストダッシュ!
『山葉ボート、踏み台になりました! 本郷選手、つるつる床をクリア! その間に夏野選手、ゴール! おっ、また選手が戻ってきました! ヤジロ選手です! サポートのネイジャス選手が山葉ボートに乗せました! 何か周りが見えていないようですが、大丈夫でしょうか……! そして未だ帰還していないのは2名! 西チームのオットー選手とイレブン選手! おっと! オットー選手も戻ってきましたぁ! フォルテ選手が補佐をしつつ、障害を進みます! ヤジロ選手、ネイジャス選手に連れられてゴールを切った! 3位! あ、春夏秋冬選手もゴール……いえ、本郷選手がバーストダッシュで春夏秋冬選手を抜いたぁーーー! 本郷選手、4位か……あっ!』
「チェンジリング!」
ヘンリッタの声が響く。と同時、つるつる床を越えたオットーと涼介の位置が入れ替わった。
『必殺サポートです! 順位変動! オットー選手、4位、本郷選手、5位です! 残り1人!』
《イレブン選手が戻ってきたわぁ〜。7才くらい……かしら? かわいい幼女ね〜♪ でも、ここから逆転できるかしらー……って、あら? うそっ!》
「こ、こわいよお! ぬるぬるになりたくないようーーーー!」
「大丈夫だ! 私が絶対に守り抜く! ぬぉおおおおおおおーーーーー! どうしてこんなに幼女が少ないんだーーーーーーー!」
イレブンはヒロイックアサルトを使って脚力を強化、一気にジャンプした。着地し、すべる直前で超感覚を使ってバランスを取ってまたジャンプ。財産管理で安全そうな(これまでに選手にまとわりついた所為でローションが少なくなった)所を選んで進んでいく。
『すごい! すごいです! ローションつるつる床をものともしません! 幼女は無傷です! そしてゴール! 今、全選手がゴールしましたあーーーー!』
《幼女が少ないのは、コントラクター部門が危ないからじゃないかしら? 観客も危険視して連れてこないのよ。残念よねえ。もっと幼女がいてもいいのに》
《それ、今言うことですか、今、言うことですか? あ、こちらに第1レースの最終結果が届きました。
1位、東チームの赤羽 美央選手
2位、西チームの夏野 夢見選手
3位、東チームのヤジロ アイリ選手
4位、東チームの本郷 涼介選手
5位、西チームのイレブン・オーヴィル選手
です。失格になったのは途中で帰った西チーム、ダイソウ トウ選手と東チーム、春夏秋冬真菜華選手、西チーム、オットー・ツェーンリック選手ですね。オットー選手は東チームが呼んだ助っ人の真城直さんに足止めを受け、更に直さんの仮面を渡されたということで……作戦に負けたという所のようですね。真城さんに、最後まで礼儀正しく交渉する姿は素晴らしかったということです。更に必殺技ですが……これは、運が無かったとしか言えませんねえ》
《また、随分綺麗に東西交互になったわねー。あら? ヤジロ選手がスタッフに何か飲まされてるわねえ。あ、情報が来たわ。あれはホレグスリの解毒剤だそうよ〜。なんだ、つまんないわねえ。誰かに惚れれば面白かったのに〜》
《シオンさん……》
司が疲れたようにがっくりとした。
「まぁ、こうなるのは目に見えていましたけどね」
失格と聞き、エミールはゴール近辺でくっつきあってかわいいかわいい言い合っている真菜華達を呆れたように見遣った。そして選手達に言う。
「とりあえず皆様お疲れ様でした。ピノさん? もご協力有難う御座いました」
エミールがぺこりと頭を下げる。ピノはローションでぬるぬるだ。着てきていた私服も身体に張り付いてしまっている。申し訳ないことこの上ない。
「? 別にいいよー?」
「みんな、お疲れさま!」
「ぴ、ピノ! 大丈夫か?」
ファーシーの声が聞こえる。続いて、ラスが慌てて降りてきた。一刻も早くピノを着替えさせたく迎えにきたわけだが、鏖殺寺院云々言われている会場でファーシーを1人にする訳にもいかず、ファーシーをおぶっての登場である。重い。
「うん! 楽しかったよ!」
「楽しかったって……」
「おにいちゃん! ありがとう!」
その近くで、7才(位)の幼女がイレブンにお礼を言っている。無ローションだ。イレブンは幼女を母親の元へ返す為に観客席へと向かっていた。
「……素直に渡してればよかったな……。ま、まあ終わったことだし、着替えに行くぞ! 真菜華、お前は着替え持ってるのか?」
「え? うん、着てきたのがあるよー? ピノちゃん、一緒に着替えよー!
ということで、ローションまみれになった女子2人は仲良く着替えに行ったのだった。
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