空京

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【ろくりんピック】最終競技!

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障害物借り物競争3〜山葉涼司Dead or ALIVE〜


「何で俺、こんな格好でこんな所にいるんだ?」
 泣きながら納豆を洗い流すと、スタッフが代えの服を持ってきてくれた。そこまでは良いのだが――その服が没個性なものであり、しかも観客の中に紛れるように涼司は座らされたのだ。いつも通りなのはメガネくらいのものである。
 さて、これが何を意味するのか――

《障害物借り物競争も第3レースを迎えました。ここでどちらのチームが1位を獲るのかが勝敗の行方を左右しますね》
『第3レースの選手達が入場してきたよー! じゃあ、1コースから紹介していくね!』

 1コース (西)橘 恭司(たちばな・きょうじ)淡島 優(あわしま・ゆう)
 2コース (西)神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)橘 瑠架(たちばな・るか)
 3コース (東)万有 コナン(ばんゆう・こなん)
 4コース (西)茜ケ久保 彰(あかねがくぼ・しょう)八月一日 桜(ほずみ・さくら)
 5コース (東)土方 伊織(ひじかた・いおり)
 6コース (西)エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)ラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)
 7コース (東)沢渡 真言(さわたり・まこと)
 8コース (東)七尾 蒼也(ななお・そうや)

 東側応援席の最前列に、公孫 勝(こうそん・しょう)サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が立っている。それぞれ、コナンと伊織のパートナーだ。サーは、伊織をデジカメで撮影している。彼女の勇姿を一瞬も逃さずに記録するつもりだ。ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)も、機晶メモリーを手に持って声援を送った。
「お嬢様、がんばってくださいませ」
 サーがスタンバイばっちりという感じで言う。ペルディータもメモリー片手に続いた。
「がんばれがんばれ蒼也♪ ファイトファイトイーシャン! 蒼也がゴールするところはしっかりメモリーに記録しておくから!」
(え、記録!? そんな事しないでいいから、ちゃんと警備しろよ……!)
 蒼也達の目的は、競技に出つつ会場警備をすることである。一介の学生の身では専門の警護役はできそうにないが、参加者の視点で怪しい奴を見つけることはできるかもしれない。特技の情報通信で、不審者についての情報も調べてあった。しかし、鏖殺寺院が怪しい動きをしているらしい、という事しか分かっていない。これは、金 鋭峰(じん・るいふぉん)が警告を出したこともあり、生徒達にとって新たな情報とはいえなかった。
 いや、ただの警告が少し現実味を帯びたともいえるのだろうか。
 ペルディータの持つ機晶メモリーは、観客席の映像を撮る為のものである。彼女には禁猟区をかけてあるから、何かあれば直ぐにわかるだろう。
(まあ、競技を楽しみながら警備が出来れば一番良いよな)
 ペルディータも、何事もないほうがいいわよね、と思いながら特技の捜索で警戒する。
「蒼也、順位はともかくがんばって〜」
 何となく失礼な気がする応援がなされる中、スターターがピストルを撃った。
『さあ、第3レース、スタートです! 今度はどんなカオスが繰り広げられるのかなー!?』
 一斉に選手達が走り出す。蒼也は「7」のカードを拾って中を確認する。借り物は『タオル』。
(タオルか、これなら……)
 観客席をざっと見回して、蒼也は行動を開始した。

(はわわ、この競技は借りてくるもので、ゴールできるかが分かれちゃう気がするのです……)
「か、借り物はなんでしょう〜」
 伊織は拾った「7」の中身を確認した。どきどきして見てみると――

『自分と同年代のイケメン』

「ふぇっ!? イケメンっ!?」
 ――とんでもないものを引いてしまったようだ。

「しっかし、人が多いな……これなら楽に借りれそうだな」
 優のそんな言葉を聞きながら、「11」のカードを選んだ恭司は、ふと、第1レースの借り物「11」番が『物』ではなく『者』であったことを思い出した。あの時は『10才以下の幼女』だったわけだが――
 まあ、お題がどちらであれ拝借できたならさっさとゴールを目指すことにして、改めて封を開ける。
(……借り物が変な物じゃない事を祈ろう)
 そして、現れたお題は――

『メガネのイケメン』

「…………」
「どした? 引いたカードにはなんて書いてんだ?」
 つい黙ってしまった恭司の後ろから、優が話し掛けてくる。紙を見て、続いて絶句。
「……イケメン……?」
「……そういえば山葉の姿が見当たらないな」
 恭司が遠目になって周囲を見回す。
 それとほぼ同時。エルフリーデは――
「これは、メガネをかけた山葉という人物或いはそのメガネを速やかに運べばいいということですね」
「6」番の紙『山葉(メガネ)』を見つめて彼女はそう判断を下した。ラグナルが言う。
「メガネの山葉か。さっきから何度か出てきてるやつだな」
「……とりあえず山葉は必須ということですか」
 ぴょこん! と狐の耳と尻尾を出す。超感覚だ。山葉が見当たらない、という恭司の言葉が聞こえてくる。確かに、競技場には居ないようだ。
「観客席に行ってみましょう」
 身長2メートルを超える巨漢と三つ編みの少女は、観客席から『山葉』という単語を聞き取ろうとスタンドに寄っていった。
 その頃。
『山葉涼司Dead or ALIVE』
 の紙を引いたコナンは応援席の勝にそれを見せていた。
「山葉に特に怨みはないが……変死体とか焼死体にして片付けてしまっても問題ないんだろ? んん?」
「ん〜……そうねぇ、溺死体とかにしちゃってもいいんじゃないかしら〜?」
「だよな。んじゃ行ってくる」
 コナンは言うや否や、美緒達の立つ応援席から出て階段を駆け上がる。そして、人の密集した場所にいる東側の観客達を掴んでは投げ、千切っては投げとし始めた。投げられた観客、周囲の観客が悲鳴を上げる。
「行ってらっしゃーい。コナンちゃんファイトー!」
 勝は何事も無いようにコナンを見送ったが、それに驚き、騒然としたのが運営スタッフである。
「な、なんだあれ……!」
「『山葉涼司Dead or ALIVE』って……! まさか罪の無い観客を巻き込むとは……!」
 ……涼司にも罪は無い。
「と、とにかく早く止めろ! 捕まえ次第、拘束だ! 大人数で行けば何とかなる……多分!」
『た、大変です! 万有選手が観客に暴行を始めました! いくら借り物を探す為とはいえ、これを看過するわけにはいきません! ところで、万有選手が拾った借り物は何だったのでしょう……?』
《えー、たった今、解説ブースに情報が入ってきました。万有選手が拾ったのは『山葉涼司Dead or ALIVE』です! スタッフも冗談半分に採用したようです。尚、山葉くんは観客席に変装の上、紛れているようですね。えー……また、『山葉涼司Dead or ALIVE』はもう1枚あるそうです。それは……》

 そのもう1枚を引いた彰は、涼司を探して観客席に突入していた。こちらは至極真面目だ。浮き足立人々の中を掻き分けるように進む。とにかく探す。探す。彼の後に続く桜に言う。
「銀色の頭とメガネが目印です! 大丈夫、どんな格好してても必ず見つけられます!」
「また、すごいことになったねえ……」

「で? どうすんだ?」
 観客席で繰り広げられる混乱というかパニックというか(同じか)山葉争奪戦をしばし眺め、恭司は冷静に1つの結論を出した。
「メガネのイケメンを探そう……別の」
「……まあ、それが無難だな。山葉の坊がイケメンかっつー問題もあるし」
 優はそう言うと、比較的騒ぎになっていない観客席を指差して気軽な調子で言った。
「ちょっとあっちのほうに行って探してくるな」
 歩きながら、ざっと観客の並びを見渡す。
「さーて、どの辺りに居るかな……ん?」
 優はある1点で目を止めた。それは、観客席ではなく――
 その時、恭司が追いついてきて呼び止める。
「優、第1レースで眼鏡掛けた奴いただろう。あいつを連れて行こう」
「……俺も同じこと考えてた」
 優の視線の先には、選手達が集まるテントの一角にいるヤジロ アイリ(やじろ・あいり)だった。

 そしてまた、真言も「3」の内容と現在の騒ぎを見比べていた。借り物は――

『めがね』

 ……一体何人の選手がメガネ関連の事を書いたのだろう。みんなメガネ好きだなあ。
「彼にこだわらなくてもいいというのは先のレースで判明しています。観客からメガネを借りましょう」
 そうして、真言はスタンドにダッシュした。選手テントの前を通過する時に、グランが視線を送ってくる。
「がんばって」
 確かに聞こえたその声に温もりを感じつつ、真言は仕切りを挟んだ状態で観客に向かって大声を出した。
「めがねを持ってる方、いませんかー。大切に扱います! すぐに返しますので……! めがねを貸してください!」
 観客達は不安そうに顔を見合わせる。第2レースでは、メガネを探すのにも苦労していたようっだった。ましてや、選手の1人が暴れている現状で視力を失うのは避けたいのだろう。
 確か、第2レースでは……
「伊達眼鏡とかサングラスでも構いません! ……構いませんよね?」
 何となく振り返って、どこかで撮影しているであろうカメラに問いかける。すると、解説が入った。
《めがねの形状をしていればどんなものでもOKです》
「ということだそうなので、貸してくださいー! めがね!」
 その時、ぽーいっ、と上から何かが落ちてきた。オーソドックスな眼鏡だ。
「それ貸してあげるわ、伊達眼鏡よ!」
 真言は急いで彼女の所へ行って、お礼を言った。
「……あ……ありがとうございます!」
「すっぴんじゃ恥ずかしいから、早く返してね!」

「さて……とりあえず……ゴールを目指しましょう」
 紫翠はそう呟くと、手に入れた借り物を持って障害物に目を遣った。拾った「5」の紙に書いてあったのは、『ピアス』。紫翠はこの混乱にも動じず、スタンドの観客からそれを手に入れた。ピアスはつけている人が多い。それでいて、尚且つ貸してくれそうな人に目星をつけて走ったのだ。結果、黒髪の品の良さそうな女性が協力してくれた。
「……そうね。とりあえず、ビリは、避けたいわ」
 瑠架が言う。第3レースの障害物は、見たところとりもちと巨大扇風機のようだ。障害に向かっているのは、真言と恭二達。メガネの混乱はまだ収まっていない。
「なあ、社長……大丈夫か?」
「無理に引き剥がそうとすると、もっとくっついてくるからな。等活地獄を使ってうまく進んでいかないととりもちは抜けられない」
「しっかし、すげぇ粘着力だな。それ」
 そう言う優は、レビテートを使って宙に浮いていた。交渉して来てもらったアイリを抱えている。流石に2人を支えるのは難しい。とりもちは、砂場のように広げて設置されていた。チューブ状のものを使ったのだろう。幸いというか何と言うか、規模はそう大きくなかった。ローションや納豆プールよりは小さい。しかし動けない。
 それでも、スキルを使って少しずつ恭二は進んでいた。
「うわぁ……俺の時じゃなくて良かったな、これ。さっきの納豆もくさくて凄そうだったけど……」
 ぶっちゃけ、2レース目はよく見えていない。
「ローションも大変じゃなかったか?」
「ローションはまだ進めるからな。それより、目が見えないことの方が大変だったぜ。ネイジャスに手伝ってもらったからゴールできたけど」
 ユニフォームを新しいのに着替え、メガネもイワンに返してもらい、アイリは元気だった。離れた所では、真言がヒロイックアサルトと実力行使を使ってとりもちと闘っていた。借りためがねを落下させないようにひざ立ちで、進みは速くない。だが、こちらも博識を利用して確実に攻略していく。そこに、紫翠達が追いついてきた。紫翠は真っ直ぐに走ってきて――
「あ、社長」
 恭二を踏み台にして、一気にとりもちを飛び越えた。
「…………」
 ぴきっ、と恭二に何かのスイッチが入った。今まで以上の力を使ってとりもちに取り組む。
 べたべた。べたべた。ぐぎぎぎぎぎぎっ!
「おおっ! はやいはやい!」
 そして瑠架も。
 紫翠とは違って真正面からとりもちに飛び込んだ。だが、足を滑らせて派手にこける。
「きゃっ!」
「「「「…………」」」」
 とりもち上にいた4人が思わず注目する。あっという間に、瑠架はとりもちに取り込まれていた。西シャンバラユニフォームがくっついて、乱れている。下着が見えそうで、見えない。
「あ……、やっかいね、これ」
「「「…………」」」
 真言以外の3人は、思わず瑠架に見入ってしまった。その間に真言と瑠架は地道に進んでいく。べたべた。べたべた。