空京

校長室

【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

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【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)
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リアクション


神殿内への突撃入
●突入の時

 怒号と共に押し寄せるマルドゥーク率いる西カナン軍兵、そして迎え撃つネルガル率いる神官軍兵が漆黒の神殿内へと続く正門前で衝突した。
「行けぇ!! 爆砕突破だ!!」
 西カナン軍兵の先頭に立ってブラウディー・ラナルコ(ぶらうでぃー・らなるこ)が突撃していった。
(敵数は…… 50弱といったところか) 
 敵は列を成したまま動かない、そうして弓撃によって攻撃を仕掛けてくる。
 文字通り防壁として立ち塞がるつもりのようだが、そうはさせぬ。
「ぉぉおおおおおおお!!!!」
 我が盾は『空京経済白書』、『ライトニングウェポン』にて帯電させた最強の白書である。神官兵が放つ矢など柔串の如くに弾いてくれるのだ。
「我に続けぇ!!」
 兵士たちはそれぞれに盾を所持している。弓撃が正面からのみ、この状況であれば十分に防ぎ進むことが出来るであろう、臆する心さえ殺すことが出来るのならば。
「化け物だ〜!!!!」
 先頭を駆けるブラウディーよりも僅かに先、その『化け物』は出現と消失を繰り返しながらに敵陣へと迫っていた。
 身長180cm弱のぽっちゃり長身、ゆる族の彼女は顔面黒塗り、それでいて瞳の周りだけは大きく丸ぁるく皿のように純白、おまけに真っ赤な口紅と青いラメを塗りたくっているから、もう、それはもう。しかもそれが消えたり現れたりしながら迫ってくるもんだから……。
 いつの間にか、というか自然に神官兵たちの弓撃は『化け物』こと熊猫 福(くまねこ・はっぴー)へと集中してゆくのであった。
「ちょっとトト、化け物はないんじゃない?」
「いいから、なりきれよ。せっかく上手くいってるんだからさ」
「まったくもう、アタイは本来隠密だってのに」
 ………………ノリノリに見えるのは気のせいではないだろう。大岡 永谷(おおおか・とと)は一応心の中でだけツッコんでから「化け物だ〜!!!!」と叫びながらに駆けまわった。
 の事を『化け物』だと思ってくれれば儲け物、目的は敵を混乱させて指揮系統を機能させる事にある。そのせいではすでに弓撃の的になりつつあるのだが……。
(ん、まぁ、なら大丈夫だろ)
 永谷が信頼ある放置を決め込んだ頃、彼らの狙いの通りに兵たちは盾で身を守りながらに前進を続けていた。
「気休めにしかならないかも知れないけど……」
 後方でルイ 14世(るい・じゅうよんせい)は兵たちに『庇護者』を唱えていた。今前線で矢雨の中をゆく兵の中にも彼女に防御力を上げてもらった者は決して少なくない。
「はてさて、僕もそろそろ参戦しちゃおうかな」
 今度はどこか楽しげにルイ14世は戦場を見つめた。皆の援護に徹していたが、やはり彼女も戦場では血が騒ぐようだ。
 戦場は激しさを増していた。
 進撃を続けたマルドゥークの軍勢は弓撃隊を押し込み、見事城内へと乗り込んだ。
 このまま一気に攻め入れると誰もが思ったが神官軍の別隊が既にエントランス中央を塞ぎ構えていた。
「あらまぁ」
「セレスティアっ!!!」
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)はパートナーをグイと引き寄せた。
 連続の射撃が可能なセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の『諸葛弩』を嫌ったのだろうか、神官兵は二人がかりで『我は誘う炎雷の都』を放ってきたのだった。
 迫りくる2つの塊を、一つは避け、もう一つは『爆炎波』で迎撃した。というのにセレスティアは変わらぬ笑みを浮かべていた。
「ねぇ、ちょっ、何がおかしいわけ?」
「いえ。援護していたはずですのに気付けば表立って狙われる事になっているなんて、戦とは不思議なものですね」
 何なの……その落ち着きは……。仏?
「何て言ってる場合じゃない! とにかく! もっと集中すること! 良い?!!」
 どういうわけか怒られてしまいました、なんて表情が返ってきたが、理沙は無視して顔を上げた。
 神官服は同じなくせに今度の隊は武器を所持していない。攻撃は『我は誘う炎雷の都』が主のようで、『我は射す光の閃刃』を繰り出す者も居る。弓を持たぬ兵は、やはりハイエロファントという事か。しかもこちらの敵数は少なく見積もっても100に達するだろう。
「ほんとにもう! 厄介なんだからっ!!」
「五十嵐」
 冷静な目をした閃崎 静麻(せんざき・しずま)理沙に「確認がある」と訊ねた。
「本当に兵たちは了承したんだろうな」
「なんだよ信じろよ、覚悟は出来てるって言ってたっつの」
「そうか。なら今から始めよう」
「今?!! このタイミングでか?!!」
 ハイエロファントを主とした神官兵との衝突は始まったばかりである。互いに探り合っているような状況だと言うのに。
「だからだよ。事を起こすには好都合だ」
 静麻の合図で自軍の兵たちが徐々に壁際へと移動してゆく。それに合わせてレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が背中の翼を大きく広げた。
「天井が高くて助かります」
 『強化光翼』のパワーに『バーストダッシュ』の加速を加えたレイナは、光線の如くに空を舞っていった。そうして頭上からの強襲を仕掛ける事で確実に幾人かの注意を天井へと向ける事に成功した。
「さぁ! 私が相手です!」
 兵を移動させるとなればどうしても目立ってしまうが、
「ふっ」
 頭上を高速で駆けたり、天井を足場に急な方向転換を見せたりする事で兵の移動に対する敵兵の動きを制限する事ができた。
「ここからは俺らの見せ場だぜっ!!」
 移動した兵が壁となって、エントランスの壁との間に通路を作りだしていた。その通路をマルドゥークや兵たちが通り神殿内を駆け進むというのが策の一つ。その仕上げをするのが緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)だった。
「すっ! すすっ!! すすっ!! すっ!」
 二丁の『黒薔薇の銃』を発砲する度にケイは短い息を吐いていた。自然と腹筋が強ばっている、それだけの気合いを込めて銃を握り撃っているという事だ。
 通路を作ったと言っても敵兵の全てを避わした訳ではない、むしろすぐに気付かれて固められつつあった。そこを発破するのが彼らの役目。
「ここはやはり派手にゆかねば」
 カナタは兵塊の先頭へ『ファイアストーム』を唱え放った。
「ふふふ、休む間など無いぞ」
 続いては『サンダーブラスト』を上空へ、さらに続けて『ブリザード』を同じに彼らの頭上に向けて放った。
 2人にとってこの戦いは『不殺の戦い』、誰に何を言われようとも甘いと思われ言われようとも出来る限りに犠牲者を出したくない出すべきではない、そう考えていた。
 だからこその『黒薔薇の銃』、だからこその視覚牽制。
「すっ! すすっ!!」
 例え手のひらを向けられようとも魔法が発動するより前にケイは狙撃してそれを阻んだ。
「今のうちに! みんなはマルドゥークと一緒に先を急いでくれ!!」
「閃崎! いいぞ!!」
 ケイの背後で理沙が叫んだ。今こそ策の二つ目を実行する刻だと。
 突然、壁と天井の一部が爆発した。
 エントランスの8割を残してブッタ斬るように、次々に起こった爆発が天井や壁を落としゆき、そうして遂には神官兵たちすらも追う事が叶わない瓦礫の壁が作られていた。
「これでもう追うことは出来ない」
「上手くいきましたね」
 静麻の元にレイナが降り寄った。持ち前の博識で見極めたエントランスの構造、そして『破壊工作』による爆破、レイナも天井を落とすのに一役買っていた。
「さぁてどうする? こっちの主戦力はすでに城の中よ」
 理沙が瓦礫の壁を背に笑み言った。
 狙いの通り、主戦力はほぼ無傷で進ませた。あとは足止めた神官兵を片づけるだけでよい。
 ブラウディー永谷ケイとパートナーたちとマルドゥークの軍兵たち。対する敵数は………… 100人強。
「行くであります!!」
「ぉぉおおおおおおお!!!!」
 ここでもブラウディーが先頭を切った。
 無謀な戦いとお思いか? いいや彼らにも80名程の西カナン軍がついている、瓦礫の壁を守るべく残った勇士たちである。
 両軍は再びに怒号と共に衝突した。