空京

校長室

【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

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【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)
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リアクション

●いざ、貴婦人の間へ(2)

「ふっ!!」
 一本道を曲がった先にも神官兵は居たのだが、
「ふっ!!!」
 水神 誠(みなかみ・まこと)の『セフィロトボウ』が次々に向いてそして例外なく左脇腹を貫いていった。姉に重傷を負わせた神官兵なんかに容赦も躊躇いも必要ない、怒りのままに憎しみをぶつけるように狙い撃ち抜いていった。
 のおかげで一行は着実に貴婦人の間へと近づけていた。しかし、同時に誰もが同じ違和感を覚えていた。
 気のせいではない、貴婦人の間に近づくにつれて敵兵の数が減ってゆく。そうして遂に貴婦人の間に辿り着いた時、そこには天司 御空(あまつかさ・みそら)がただ一人で立っているだけだった。
「人質は既に移動させた………… 何てことは無いよな?」
 椎名が問いた。が、答えは分かっている、『NO』だ。
 マルドゥークや神官や位を持つ騎士に至るまで。実際にその瞳で見たわけではないが相当な数の人間が人質として石化させられていたはずだ。この短時間で像の全てを移動させるなんて事ができるはずがない。
「裏切ったと思ったら戻ってきた。今のキミはどちら側の人間なのです?」
「人質は返してもらう、と言えば分かるよな」
「なるほど、あくまで暴徒に成り下がるという訳ですか」
 御空は二丁の『灼光のカーマイン(曙光銃エルドリッジ)』を携えて、
「仕方がありません。此処は紳士淑女の社交場貴婦人の間です。招かれざる客人にはお帰り願いましょう」
「おかしいですね、招待状は不要とお聞きしたのですが、ねっ!」
 跳び出した水神 樹(みなかみ・いつき)と刃を交えた。
(撃ってこない……?)
 互いの間合いに入るほどに接近しても一度の発砲もない。それならばとは『グリントフンガムンガ』で左肩を突いた。
 御空は体を開いてこれを避ける、が、刹那に避けただけでは腕は上げられない、狙えて足を撃ち抜く程度だろう。
 想定内だ。はそれすらもさせなかった。
 『光条兵器』の片手剣を握る左拳で、銃を握る手を殴り払った―――
(手応えが無い……?)
 確かに手を殴り、銃を弾いて飛ばした。しかしその手は戦いに身を置いているとは思えないほどに力が込められていなかった。落ちないように包んでいただけ、そう言っても言い過ぎではないだろう。
 もう一方の手も容易に殴り払えた。武器を持たぬ御空に刃を突きつけると彼はゆっくりと両手を上げた。
「降参です。どうぞ、中へ」
「………… 何を企んでいるのです?」
「何も。王に興味を持てなくなったのでね。今の願いは人質が無事に解放される事だけです」
 の目配せを受けてヤジロ アイリ(やじろ・あいり)セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)が扉へ向けて駆けだした。その様を見ても御空の顔色は変わらない、どうやら本当にこれ以上抵抗する気はないようだ。
「初めから抵抗する気は無かった、しかしどこで監視されているか分からない、だからせめて体裁だけは整えた、という事ですか?」
「組み伏せるのは無理でも、配置を変える事は出来る。それが俺の精一杯だ」
「それでも…… 罪が消える事はない」
「覚悟は出来てるよ」
 御空の告白が行われる中、ヤジロセスの2人は扉の両脇に背を寄せていた。
「さぁて、敵さんはどう来るかねぇ」
 ヤジロは『ブラックコート』で気配を断ち、
「どうでしょう。室内には大量の石像があるようですし、出来るだけ派手な戦いは避けるとは考えられますが」
 セスも同じに『ブラックコート』で気配を断った。これで互いに言葉のみの会話キャッチボール。
「それすらも逆手に取ってくる可能性はあります」
「つーか文字通り人質取られたらどーすんだ、石像なんて簡単に壊れるんだろ?」
「ですからこうして気配を断っているのではありませんか」
「なるほどな、こいつぁ失敬」 
 無人の罠があろうともセスの『トラップ解除』で対処できるだろう。友人を助け出すためにここまで来た、それは今まさに成し遂げられようとしているのだ。
 そっと扉を開けて中を伺う。
 罠の類、なし。
 人の気配、なし。
「だれか居ませんか?」の問いには答え無いや。
 ずっと探して―――居た!! 
「ギルベルト!!」
 セスの友人、ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)の石像がそこにはあった。
「おいおいマジで石になってやがる」
 皮膚は硬化したまま、瞬きもない。そのままパーティでも開けそうなほどに美しく開放的な室内には彼の他にもたくさんの石像が安置されていた。
「離れていて下さい」
 ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)ギルベルトに手を添えた。唱えたのは『我は解く永き苦役』、女神イナンナの力を借りて石化してしまった生物を生身に戻す魔法だが、どういうわけかギルベルトの体に変化はなかった。
「おい、どういう事だ」
「分かりません、ただ、解除できる石像と解除できない石像がある事だけは間違いありません」
「んだと?」
 ナギの他にも『我は解く永き苦役』を使える者や『石化解除薬』等をもっている者が石化の解除にあたっていた。
 室内に乱雑に置かれた石像のうち、ナギの言った通り、どの手を尽くしても解除できない石化像は全体の半数近くにまで及んでいた。
「ちょっと何してんの! 早くしなさいよね!!」
 扉付近でミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が叫んだ。彼女はこの一行の殿を務めていたが、軍兵を含めて皆が室内に入ってからは扉前の防衛役として体を張っていた。
 御空が兵の配置を変えたと言っても通路を曲がった先にはジバルラや生徒たちと交戦中の神官兵が今も居る。そしてその中に、こちらの動きを警戒していた者が居たのだろう、少数ではあれ神官兵がこちらにも迫り来ているのだった。
「問題ありませんわ」
 和泉 真奈(いずみ・まな)が『火術』や『雷術』『氷術』など多彩な魔法で神官兵の魔法攻撃を次々に迎してみせた。
「攻撃は線でも扉は点です」
「そうだ! 攻撃は線で…………って、えぇっ?!! どうしたの真奈っ!!」
「左方のから、しかも狭角からの線しかありませんし。これなら十分に対処できます」
「きょ、狭角……???? あぁもう! とにかくっ!!」
 ミルディアは『ヴァーチャースピア』をダンッと構えて、
「ここはあたしたちが守りぬくから! 石化の方はさっさと何とかしなさいよね!!」
 と室内の面々に檄を飛ばした。
 なぜ解除できる石像とできない石像が存在するのか。その答えを探るべく、『繰り返す』ことや『別の方法を探る』などして解除を目指したが、どうにもその法則が見つからない。
「おいおい冗談じゃ無いよ」
 室内にあって床上にあらず。ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は天井上から室内の様子を見つめていたが、その様に幻滅していた。
「ったく、乗り込んで来んなら解除してみせろってんだよ全く」
 ネルガルに仕官し、アバドンにも近づいた。しかしいざ戦いが始まればアバドンは何も言わずに姿を消してしまった。
 ネルガルに至ってはエンキドゥもない、イナンナの石版もない、おまけに最深部の間で戦えば逃げ場すらないだろう。
「…………………… 逃げよ」
 パートナーであるシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)も石像のまま。室内の他の像を見てもネルガルが直接石化した像の石化は解除できていない
 パートナーが仕官するために人質になった者や各国の有力者や名のある将の人質たち、マルドゥークの妻と子供も石像のまま。つまりネルガルの野郎がイナンナの力を使って石化した石像は解除できないって事になる。
 幾ら頭を捻ってもテメェ等じゃ解除できねぇってこった。
(シメオンの奴は……)
 石像のままなら安心安全、万が一解除されたなら『召喚』で呼び出しゃそれで済むか。
「終わりだ終わり、また明日〜」
 あらかじめ開けておいた脱出穴へとゲドーは姿を消していった。室内には、
「必ず勝機は訪れます! だから頑張って!」
 という真奈の励声が響いていた。彼女は今も体を張って扉前を守っている。貴婦人の間を拠点とするべく、また石化した人質がみな無事に解除されることを願って。
 そんな彼女の想いに応えるべく、戦える者は防衛に加わり、解除の術を持つ者は知恵を絞って解除にあたった。
 勝機。
 敵の殲滅、ネルガルの討伐、そして人質の解放。その内の一つが成せないかもしれない。誰もがその恐怖を押し殺して戦っていた。
 己に出来ることを、今に勝機が見えてくる事を信じて、信じて戦っていた。