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都市伝説「闇から覗く目」

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都市伝説「闇から覗く目」

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プロローグ〜青楽亭にて
 
 光零にある学生が集まる食堂・青楽亭。お昼時にやってきた黒喜館の店主が貼った捜索を呼び掛ける紙。
 食事をしていた学生たちは、黒喜館の店主が店を出ていくと同時に動き出す。それぞれ知らない者同士でグループを作る者もいれば、友人同士で作戦を練るグループもいる。
 そんな騒ぎの中、ウィザードの如月陽平(きさらぎ・ようへい)が入ってくる。事情を知らない如月は、店内の喧騒に首を傾げて立ち尽くしたが、すぐに奥のカウンターへ進んでいく。
 青楽亭はセルフサービス式なので、カウンターから食事が出され自分で受け取り運ぶ。如月はカウンターから身を乗り出し、奥の厨房で鍋を掻き混ぜていた青楽亭の主人を呼んだ。
「すみません! ちょっと訊きたいんですけど……」
 青楽亭の主人は手を止める。青楽亭の主人は浅黒い肌の30歳位の男で、赤いバンダナを頭に被り黒いエプロンを着けている。カウンターの中から出てくることはなく、客と談笑することもない。
 無愛想で無口な主人は、如月にも無言で顔だけを向ける。如月は冷たい表情の主人に怯みながらも、少し上ずった声で話す。
「あ、あの……以前、この街で地下水路で行方不明になった少女が、どこにいるか知りませんか?」
 如月の言葉に店内が静まり返り、視線が一斉に如月に向けられる。
 あれ? みんな見てる。ま、まずい事きいちゃったかな?
 如月は自分を見ている学生たちを振り返り不安になるが、別々のテーブルから手が挙がる。地下水路で少女を直接救出したナイトの藍澤黎(あいざわ・れい)とローグのリイヌ・アステリア(りいぬ・あすてりあ)だった。
「彼女なら我らが救出したが……なぜ探している? 見たところ、前回の事件の関係者ではないようだが?」
 黎は少し厳しい声で問い掛ける。黎と一緒に救出したリイヌはのんびりした口調で言う。
「地下水路の事件を聞きたいなら、自分や他の関係者に聞いた方がいいよ。化け物のことなら直接対決した人たちもここには何人かいるしねぇ」
 リイヌの言葉に何人かの学生が頷く。しかし、如月は悲しげに首を横に振った。
「そうじゃないんだ。僕は事件や化け物に興味がないわけじゃないんだけど、それ以上に化け物に騙されて傷ついた少女のその後が気になって来たんだ。噂では光零の病院に運ばれたって聞いたから」
 如月は鞄から四角い箱を取り出し、蓋を開けて黎たちに見せる。中には大きなおはぎが四個入っていた。
「これ……お見舞いに持って行こうと思って。僕の実家で取れた米で作ったんだ」
「おいしそうなおはぎどすなぁ〜。上手に作りはったなぁ」
 近くのテーブルにいたセイバーの一乗谷燕(いちじょうだに・つばめ)は微笑む。如月は照れて俯く。
「あの少女なら、まだ街の医者の所で療養中だ。道はこの紙に描いてある」
 振り向くと、青楽亭の主人が一枚の紙を差し出していた。
「あ、ありがとうございます!」
 如月は何度も大きく頭を下げながら、慌ただしく青楽亭を出て行った。
 
 如月が去った後、議長の屋敷や別荘に行く学生たちも青楽亭の主人に地図を描いてもらい出て行く。
「ダンロードの居場所を知りたい。もしくは居そうな場所を教えてもらおうか?」
 ソルジャーの桐生円(きりゅう・まどか)の言葉に、青楽亭の主人は肩を竦める。
「さぁな。知り合いでもない奴の居場所なんか知るわけないだろう」
「あら、冷たいわねぇ。仕方ないわ……主人は役立たずのようだから、屋敷にでも行ってみましょうか」
「はい。マスター」
 青楽亭の主人の片眉が上がるが、吸血鬼のオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は気にすることもなく、桐生の手を引いて青楽亭から出て行った。

「地図を描くのは構わないが、こんなに大勢は狭い黒喜館に入れないぞ」
 黒喜館へ行く人数の多さに、青楽亭の主人は呆れながら地図を描く。ソルジャーの牛皮消アルコリア(いけま・あるこりあ)はニヤッと笑い言う。
「別に全員が一緒にぞろぞろ行くわけではありませんから。ご心配なく」 
 アルコリアの相棒で機晶姫のシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は、ニヤニヤしているアルコリアを横目で見て、非常に不安を感じていた。
「その通りよ。あたしたちは買い物が目的だし。ねぇ?」
 ウィザードのメニエス・レイン(めにえす・れいん)は、吸血鬼のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)に同意を求め、ミストラルも頷く。
「メニエス様の言うとおりです。わたくしはお菓子の材料が欲しいんですけど」
 ナイトのロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、主人が複雑な地図をすらすら描いているのを見ながら訊く。
「ところで、これから行く黒喜館ですけど、店主の方はどういった方ですか? ネルソンさんのお知り合いか親戚の方ですか?」
 主人はチラリとロザリンドの顔を一瞥する。
「さぁな。俺よりも前から光零で雑貨屋をしているが……家族の話は聞いたことがない。」
 主人は言葉を切り、眉を顰めて黒喜館に行く面々を見回す。
「……まさかと思うが、黒喜館の店主が怪しいと思っているのか?」
 お互いの顔を見合わせるだけで誰も答えないが、無言の肯定となる。主人は溜息を吐き、地図の続きを描き始める。
「はぁ、あの人はわざと怪しい言動をするからな。人をからかうのが好きなだけだ」
「ええっ? わざとなんですか? ……いま言われても困っちゃいます。もう行ってしまった方がいるんですけど……」
 ナイトのヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の言葉通り、すでに一枚目の地図を持って黒喜館に向かった者たちがいた。
 プリーストの和原樹(なぎはら・いつき)と相棒で吸血鬼のフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)、ウィザードのブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)と相棒で機晶姫のロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)。ブレイズが物騒な作戦を立てているのを偶然に聞いてしまったドラゴニュートのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、相棒でローグの黒崎天音(くろさき・あまね)を連れ立って出て行ってしまっていた。

「よっしゃ! この地図は俺が預かるぜ!」
 セイバーのベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)が、青楽亭の主人の手から奪うように黒喜館への地図を握る。しかし、すぐに傍にいた剣の花嫁のマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が取り上げた。
「ベアは駄目よ」
「何でだよ! 行く途中で危険があった時の為に、セイバーの俺が道案内も兼ねて先頭を歩いた方がいいだろ!」
 ベアはマナに喰ってかかるが、後ろにいたナイトの譲葉大和(ゆずりは・やまと)が言う。
「先頭だからですよ。地図を持っていると片手も塞がっているし、咄嗟に反応もできないでしょう」
「うんうん。マナちゃんも大和ちゃんと同じだと思うよ」
 剣の花嫁のラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)の言葉に、マナも無言で頷く。
「そっか……皆を守る方ことが一番大切だからな! じゃあ、誰が持つんだ?」
 ベアは一緒に行く他のメンバーを見回す。ナイトの菅野葉月(すがの・はづき)は相棒の魔女のミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)に視線を送り、大きく首を横に振る。方向音痴のミーナを見張るので精一杯である。セイバーの葉月ショウ(はづき・しょう)とバトラーの椎名真(しいな・まこと)は、
「通常の武器と光条兵器で二刀流をするから」
 という理由で断った。
「ベアおにいちゃん、貸して下さい」
 ヴァーナーはプリーストの高潮津波(たかしお・つなみ)と機晶姫のナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)に地図を渡す。高潮は首を傾げつつ受け取った。
「私が預かってもいいのですか?」
 ヴァーナーはニッコリ笑って答えた。
「はい。津波おねえちゃんたちが他の人と合流する時、地図が必要かもしれないです」
 高潮はナトレアと顔を見合せ、苦笑いをする。実は高潮達は秘かに【天誅マスク】という仲間を作っていた。高潮達が得た情報を元に、藍澤黎、ソルジャーの昴コウジ(すばる・こうじ)と機晶姫のライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん)が動くことになっていた。
 ベアは準備が整ったのを確認し、威勢良く叫んだ。
「地図を持つのも決まったことだし、迷子にならないように手を繋いで出発だ!」
「……ベア、最初の話を聞いてたかしら……」 
 マナが疲れた声で呟いた。
 
 黒喜館に行くグループが出て行くのを確認し、セイバーの村雨焔(むらさめ・ほむら)は立ち上がり、ふと自分以外にも青楽亭に残っているのに気づく。隅のテーブルに頬杖をついたローグの高崎悠司(たかさき・ゆうじ)と相棒で剣の花嫁のレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)がいた。焔は悠司に声を掛ける。
「お前は参加しないのか?」
「めんどくせー……ほっとけよ」
 焔は肩を竦めて出て行く。レティシアはそわそわと落ち着きなくカウンターと悠司を交互に見ている。
「ねえ、悠司。ボクたちだけになっちゃったよ」
「んじゃあ、そろそろ行くか」
 悠司は音を立てない様にゆっくり立ち上がった。
 カウンター奥の厨房では、青楽亭の主人が背を向けて携帯で何か話し込んでいたが、
「よお」
 いつの間にか厨房の中に入り込んでいた悠司の声に、主人は素早く携帯を切り振りかえった。
 悠司は後ろのカウンターに腰掛けながら、不敵な笑みを浮かべて言う。
「あんたも黒喜館の店主とグルなんだろ?」
パチンっ!
 主人の携帯を畳む音が静かなフロアに響く。ピリリッとした張り詰めた空気に、悠司の横でレティシアがホーリーメイスを構えている。
「そうでなきゃ、あんなビラを貼らすわけねぇし、黒喜館の店主の議会決定を否定する発言を聞いたら少しは驚くだろ。しかも、ご丁寧に地図まで何枚も描いてよぉ。今までまともにあんたの声さえ聞いたことなかったぜ。それが今日はすっげぇ喋るよな」
 主人は無表情で何も言わない。ただじっと悠司を見つめている。悠司はリターニングダガーの柄に手を掛け、話を続ける。
「そんなに睨むなよ。ここでどーこーするつもりはねぇよ。ただ黙って踊らされているだけじゃあ、むかつくだろ?」
「フッ、別に隠してたわけではない。誰も俺については訊かなかったからな」
 主人は小さく笑う。
「不良探偵の推理通りグルだ。そして、俺と黒喜館は議会の決定に納得していない。今の議長はワンマンで、他の議員の意見など聞きやしない」
「他の議員って……あんた、もしかして議員?」
 悠司は驚き、思わず主人を指差し叫ぶ。隣のレティシアは驚いて、ホーリーメイスを落としそうになっている。
「ああ。黒喜館の店主も議員だ。そして、議長と対立関係にある。この事件で議長を潰そうと思ったんだが、俺たちには常に監視が付いていて、自由に調査ができない」
「監視って、おい!」
 バタバタと入口から複数の足音が聞こえてくる。
「悠司! 武装した奴らがいっぱい来ちゃったよ!」
「チッ、マジかよ……人数多すぎだぜ」
 レティシアの声に焦る悠司だが、
ガシャン!
 青楽亭の主人は厨房の床にある地下通路への扉を開ける。
「さっき話していた医者の所へ行く。俺たちの仲間だ。一緒に来るか?」
 レティシアは喜んで悠司の腕を引っ張るが、悠司は不審そうに主人を見る。
「……俺はあんたを信用してないぜ」
「俺が怖いなら無理して来なくてもいいぞ」
「ざけんなよ! 誰が怖いって? 上等だぜ!」
 悠司は主人を押し退ける様に地下への階段を降りて行く。レティシアも慌てて悠司に続き、最後に主人が内側から扉をロックした。