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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

リアクション


chapter.6 深夜枠なので過激な表現やわいせつ表現を含む描写があります。ご注意ください 


 先ほどまでとは打って変わって、静けさが辺りを包んでいる野営地。
 テントに戻り、寝始める生徒もちらほらと出だした頃、ヨサークはひとりで焚き火に当たりながら鉈の手入れをしていた。と、彼は後ろに人の気配を感じた。後ろを振り返ると、そこには樹月 刀真(きづき・とうま)が立っていた。
「どうした? 明日も早えんだから、そろそろ寝とけよ」
「……ヨサーク、貴方に話があります」
 刀真は真面目な表情でヨサークに言う。
「正直に言います。俺は今回、貴方の依頼とあちら側の依頼を同時に受けてしまいました。受けた以上は両方のところに行かなければいけない。だから、俺は今からあちらの方へ向かいます」
「それを、わざわざ言いに来たのか?」
「黙っていなくなるのは裏切っているようで嫌でしたので。ただ誤解しないでほしいのは、俺はどちらか片方に肩入れするつもりはない、ということです」
「……どういうことだ?」
「俺の目的は、環菜をさらったヤツを探し出し、打ち倒すことです。そいつもユーフォリアを狙っているらしいので、きっとこの先どこかで鉢合わせることになるでしょう。その時は俺が相手をします。誘拐犯がもし空賊狩りと同一人物なら、貴方とあちら側双方への助力となるはずです。そして俺は、ユーフォリアには関わりません。これなら、どちらかに肩入れすることなく依頼をこなせるのでは、と思ったんです」
 そこまで刀真の話を一気に聞くと、ヨサークは鉈を持っている手をぎゅっと握った。
「言いてえことは分かった……が、男ならまだしも、女のとこに行くのを俺が黙って見過ごせると思うか?」
「……でしょうね。このままでは貴方も納得出来ないと思います。なので、この腕を置いていきます」
 そう言うや否や、自身の持っていた剣を左腕目がけ振り下ろそうとする刀真。
「おいっ、おめえちょっと待て! それはやり過ぎ……」
 ヨサークが慌てて止めに入ろうとするが、これと決めたことは必ず通すという強情な面がある刀真はあくまで腕を切る姿勢を崩さない。
「止めないでくださいヨサーク、これはけじめです。俺は切るといったら切るんです」
「早まんじゃねえ! 野菜の根っこは切ってもまた生えてくっけど、腕は一度切ったら生えてこねえんだぞ!」
「それでも……俺は切る……! おおお……千切れろ、俺の左腕!!」
 剣を降ろそうとする刀真と、それを押さえるヨサークの押し合いへし合いが続く。そこに、今まで隠れて様子を窺っていた刀真のパートナー、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が飛び出してきた。
「月夜……?」
突然現れた相方に驚き、一瞬動きを止める刀真。月夜はそんな刀真の前に立ち、その顔を思いっきり殴りつけた。ぐしゃっ、と鈍い音がして、刀真の視界が揺れる。鼻から血がドバドバ出だした刀真に向かって、月夜は静かに、しかしはっきりとした口調で告げる。
「刀真は自分が大事に思っている人には何とかしようと全力で力を貸すけど、その時自分の事をあまり考えてない」
 確かに怒気を孕んでいるその声で、もしくはズキズキする顔の痛みで刀真は我に返った。
「月夜……」
 刀真は剣を納めると、改めてヨサークの方を向き、突っ走った行動を取ってしまったことを謝った。
「すいませんヨサーク、腕の話は無しです。その代わり……」
 ほっとしかけた月夜、そしてヨサークの前で、今度は自らの指を折り始めた刀真。呆気に取られているふたりをよそに、彼はその右手で左手の5本指全てから手首、肘、肩の順で次々と骨を折っていった。一本折る度に、バキッ、ボキッと小気味良い音が響き、「ふぉおおぉお……」と声が漏れる。指の先から肩までの骨を折り終えると、刀真は左腕をぷらんぷらんさせ、言葉の続きを言った。
「この痛みを、月夜の無礼に対する謝罪と先程の話の償いとして認めてもらえませんか?」
 月夜がいつ無礼を働いたのかまったくもって分からないが、刀真は満足気に右腕をヨサークに差し出した。
「あ、ああ……それよりおめえ、血吹いた方いいぞ」
 月夜に殴られた鼻から、血が流れ続けたせいで、刀真の口元はべっとりと血がつき真っ赤になっていた。腕で拭おうとした刀真だったが、左腕が使い物にならなくなっているため一旦右手を引っ込め、右腕で血を拭った。月夜はそんな刀真を見て、急いで天子の救急箱を用意し、ヒールをかけながら左腕の治療にあたる。
「骨折までは治せないけど、せめて痛みを少し和らげるくらいは……! なんでこんな、体を痛めるようなことを……!」
 鼻ぶん殴ったおめえがよく言うよ。ヨサークはそんなことを心で思いながら、一旦船に戻ると、ゴボウを手にして刀真の元へ戻ってきた。
「これを添え木代わりにしろ。治療が終わったら、勝手にどこでも行きゃあいい」
「……助かります、ヨサーク」
 刀真と月夜はゴボウで応急処置をしてから、島の逆側へと向かって歩き始めた。
「自分だけが勝手に納得して、勝手に傷付かないで。そのままいなくなったりしたら、私……」
 刀真の隣を歩きながら、月夜が涙声で呟く。刀真はそんな彼女の髪をくしゃっと撫で、そっと言葉をかけた。
「分かりました。全部は約束出来ませんけれど、どこで何をしてもちゃんと君の下へ帰ってきますよ」
 そんな刀真の言葉を聞き、彼の腕を支える月夜の手は温もりを少し増したのだった。

 刀真たちと入れ替わるようにヨサークのところにやって来たのは、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)とパートナーのエレーナ・レイクレディ(えれーな・れいくれでぃ)だった。共に女性であるはずのふたりだが、ヒロイックアサルト「幻惑の霧」によってアシャンテはヨサークに幻覚を見せていたことにより彼の目には男性二人組に映っていたのだ。
「なんか用か? おめえらも早く寝とかねえと、明日しんどいぞ」
 そのため、優しい態度で接するヨサーク。アシャンテは作戦の第一段階が成功したことを確信し、次の段階に移ることにした。
「ヨサーク……なぜ女性を嫌い続けるのか、理由が知りたい」
 アシャンテの作戦。それは、男性の幻覚を見せ対話を試み、女性嫌いの理由を問いただして偏見を改めさせることだった。
「まあ、女の汚い面を知っちまった、ってとこだな」
「汚い面……しかし、女性全てがそういう面ばかり持っているわけでは……」
 努めて冷静に説得を続けようとするアシャンテだったが、彼女の想像以上にヨサークの思考は偏っていた。
「いいや、女なんてろくでもねえヤツばっかりだ。俺が聞いた情報にこんなのがある。10年くらい前のデータだが、女がクリスマスに期待する恋人からのプレゼント金額は平均3万くらいなのに対して、男に送るプレゼントの金額は平均1万7千くらいだそうだ。なんだこれ。ええ? なんで倍近く金額が違うんだよ。男の方が稼いでるから、なんて時代じゃねえはずだろ? 女は化粧や洋服でお金がかかる? 男だって整髪剤や保湿剤くらい買うし、服だって買うだろうが! それに普段から飯の時は大抵男が多く払ってんだから、それでチャラだろうが! 男女平等を言うんなら、金額面でも平等にしろってんだ。映画もレディースデーばっか設けやがって。男は映画見ちゃいけねえっつうのか? あぁ?」
 徐々に興奮し、まくしたてるヨサーク。そんな彼を見て、アシャンテは思った。
 あ、この人駄目だ、無理。説得とか無理。
 そう判断すると、アシャンテはスキルを解除し、本来の姿をヨサークに見せた。
「……あ?」
 突然男性が女性に変わったので、驚き口を開けるヨサーク。そんな彼を見て、アシャンテは苛立った声で喋った。
「とても酷い考えの持ち主だということはよく分かりました。これでもうこちら側には用はありません。ですね、エレーナ」
 アシャンテがパートナーの名を呼ぶと、それまで女性だとバレないよう沈黙を貫いていたエレーナが口を開いた。
「ええ、これで不思議に思っていたこともすっきりしましたし、満足ですわ。ただセコいだけの方だったのですね?」
 ふたりの毒舌に腹を立て、耕そうとするヨサークだったがまたもや彼女らのヒロイックアサルトによる霧で視界を微妙に遮られてしまった。気がつけばふたりの姿は、もう見えなくなっていた。



 鉈の手入れを終え、自分のテントに戻ろうとするヨサークの耳に、じゃら、じゃらと音が聞こえてきた。音のする方を振り向くと、そこには男装した麗人、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)がいた。ベファーナの手には鎖が握られており、その鎖は契約者である雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の首に繋がれている。
「……なんだおめえら」
 ヨサークは一瞬判断に迷ったが、ベファーナの性別を宝塚的なものだと捉えることにした。つまり、こいつは女。そしてその女に鎖で引っ張られてるヤツも女。イコール俺の敵。そう決めたヨサークに、ベファーナは仰々しくお辞儀をし、口を開いた。
「ごきげんよう、ヨサーク様。私は女の醜さを世に伝える旅の伝道師。今宵はぜひ、貴方様の弟子になりたいと思いやって参りました」
「女のおめえが女の醜さを世に伝えるってか? 胸糞悪い冗談だな。まあ、女らしいっちゃらしいけどよお」
「女だからこそ分かる、女の醜さもあります。私はヨサーク様とお話することで、自分を高めたいのですよ」
「よく分かんねえが、おめえみてえな胡散臭えヤツは好きじゃねえ。何より女は好きじゃねえ。消えろ。それかヒッチハイク中に行き先書いた紙のスペル間違えて、通行人からクスクス笑われてろ」
 邪険にされるベファーナだが、ここで大人しく引き下がるため、わざわざこんな芝居を打ったのではなかった。
「まあまあ、少しくらいお話を聞いてくれてもいいじゃありませんか。女の酷さを存分に語って差し上げますよ? ほら、ここにいるこの奴隷なんて、泡関係かと思うくらい立派な淫乱っぷりでしょう?」
 ベファーナが鎖を引っ張ると、リナリエッタはそれに引き摺られる形で前へと出てきた。
「ほら、ご挨拶しなさい、この淫乱女! ピンクなのは髪色だけじゃないでしょうっ!?」
「あぁっ、私はクジラのような女ですっ……たとえ喉は渇けども、あちらが乾くことはございませんっ! こんな淫乱な女でごめんなさいぃいいぃ」
「違うでしょう? ご挨拶はどうするんでしたっけ?」
 リナリエッタは土下座に近い姿勢で這いつくばるように低姿勢になり、ベファーナにお尻を向けた。
「奴隷の分際で申し訳ございませんっ……なんなりと、なんなりと罰をっ、このお尻に罰を〜」
 黙ってその様子を見ていたヨサークに、ベファーナは語りかける。
「……とまあ、このように、女とは非常に醜い生き物です。純情ぶっていても、一皮剥いてあげれば皆ただのメスなのです」
「そんなことは知ってる。女が偉そうに俺に語るんじゃねえ。いい加減にしねえと耕すぞ」
「……そうですか、分かり合うことは出来ませんか。さては、この奴隷の淫乱度合いが足りなかったせいですね?」
 そう言うと、ベファーナはお尻を向けていたリナリエッタに向かい蹴りを入れた。
「あぁっ、ごめんなさいぃ、ごめんなさいぃいい」
 女がやられている、というよりも女が好き勝手に暴れている、ということが許せなかったヨサークは、ベファーナを止めに入った。
「おい、調子に乗んな。俺がおめえのケツに一発お見舞いしてやろうか? あぁ?」
 ベファーナに近寄るヨサーク。ベファーナは、その瞬間を狙っていた。ベファーナは素早くヨサークの背後に回り込むと、何かを彼のお尻に当てた。
「……あ!?」
 慌てて後ろを向き直るヨサーク。
「……もう少しだったのに」
 ベファーナは口調を元に戻し、惜しい、といった仕草を見せた。リナリエッタはそんなベファーナを見て、鎖を外しながらくすくすと笑っていた。このふたりの目的、それは女嫌いをアピールすることで彼に取り入り、油断させたところでヨサークの貞操を奪おうという最低なものだった。このためにわざわざ奴隷と主人という役になりきり、小芝居までしていたのだ。ベファーナは諦めず、ヨサークのお尻を追いかけ回す。
「さっき、ケツに一発どうとか言ってたよね? それ、とても素敵だよ。ぜひ一緒に、新しい門を開けよう…・・・!」
ヨサークは本能的に危ないと感じたのか、走って距離を置こうとする。リナリエッタはそんなベファーナとヨサークの追いかけっこを、にやにやと眺めていた。
「あ、一句浮かんじゃった」
 リナリエッタは懐から小さい紙を取り出し、ペンでさらさらと句を記しだした。
「益荒男を 追えども摘めぬ 菊の花」
 ちなみに季語と禁句が同じという、秀逸な一句である。

 どうにかベファーナを撒いたヨサークは、あることを思い出し、そのまま女性陣のテントがある方へと近付いた。彼には、やらなければいけないことがあった。それは、夕方見せられたあの写真の処分。ヨサークは意を決して、忍び込みを決意する。が、それを予期していたかのように、円は静かに暗がりに佇んでいた。
「何をしに来たのか、想像はつくよ」
「……なら話は早え。起きてなければ耕しまではしねえつもりだったが……しょうがねえな、こうなったら」
 鉈を構え、臨戦態勢に入るヨサーク。と、その時彼の背後から、突然円のもうひとりのパートナー、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が現れた。
「写真取ろうとしてる! よく分かんないけど、それ駄目なんだって!」
 ミネルバは不意打ちに近い形で殴りかかる。かろうじてかわしたヨサークは、一旦距離を開けた。
「殺気看破ってこういう時使うんだね! 便利! 便利!」
 円が起きてヨサークを待ち伏せ出来たのは、その言葉通りミネルバが殺気看破のスキルを使ったからだった。さらにミネルバは、うきうきと話し出す。
「んーとね、あとね! オリヴィアが、夜の営みはふーふになってからだって! おひきとりくださーい!」
 夜の営みと言っても色々あるが、おそらくミネルバはあまり深いことまで考えて口にしてはいないだろう。逆にオリヴィアの指すそれは、彼女の性格的にとんでもなくマニアックな気がしないでもない。世の中にはひたすらくすぐられている女性を映しているビデオから、果ては女性の脱ぎたてのストッキングだけを延々と映しているビデオまであるのだ。夜の世界は深いものである。
「うっせえ! 俺はただその写真をビリビリに破きてえだけだ!」
 息巻くヨサークに、円が笑いながら告げる。
「残念だけど、写真は既にコピーを取ってあるんだよね。しかもそのデータは百合園に保管させてもらってるよ」
 円のその一言で、ヨサークはここで争っても無意味なのだと気付かされた。
「……ちっ、好き勝手出来んのも、今のうちだけだぞおめえら」
 そんなセリフを残し、ヨサークは円たちの下を去った。



 現在時刻、1時24分。
 ほとんどの生徒が眠りについた頃、ヨサークに酒をたらふく飲まされダウンしていた薫が、何かに反応を示し突然立ち上がった。
「今……部長の声が聞こえた気がしたでござる!」
 彼は耳を澄ました。微かに聞こえてくるのは、確かに彼が所属しているのぞき部部長の声だった。
 ……きか?
……んな……おっぱ……きか?
……みんな……、っぱい……好きか?
「好きでござる!!!」
 薫は、どこかからテレパシー、いや、エロパシーを送っているであろう部長に元気良く返事をした。
「深夜、近くに女性陣のテント、部長からの声……これはもう、のぞけという天からの命令でござる!」
 酒も入っていてやや強気になっていた彼は、いつもよりちょっぴり積極的だった。
 早速女性陣のテントエリアへと向かおうとする薫。と、同様に部長のエロパシーを受け取っていたのぞき部エース、影野 陽太(かげの・ようた)の姿を見つけた。
「陽太殿! 丁度いいところにいたでござる! 実は拙者、先ほど聞こえるはずのない声を聞いたでござる!」
「えっ……本当ですか!? 俺にも聞こえましたよ!」
「おお、本当でござるか! なら話は早いでござるな。拙者たちが、意志に応えるでござるよ!」
「けど確か、他にも部員がいたような……」
「ひとつひとつテントを探し回っていたら、夜が明けてしまうでござる。ここは、拙者たちだけでなんとか成功させるでござるよ」
「そ、そんな無茶な……」
「無茶は承知でござる。しかし、この好機を逃すわけにもいかないでござるよ」
「や、やるしかないんですねっ……!」
 そんなわけで、プチのぞき作戦がここに開始された。なお、念のためのぞき部に深い縁があるらしいリエナ・バータという人物に確認し許可を取ったので、彼らがここで堂々とのぞき部を名乗ることに何も問題はないとのことらしい。

 その頃、女性陣が寝ている数あるテントの中のひとつでは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)がパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)と何やら話をしていた。
「ねえ、美海ねーさま……私、あんまりヨサークのこと信用出来ないかも……」
「急にどうしたんですの? 沙幸さん。さっきは三三七拍子をしている皆さんを見て、笑っていたように見えましたわよ?」
「アレは……ヨサークがっていうより、皆が楽しそうだったからだもん」
「沙幸さんは、どうしてそう思ったんですの?」
「だって、こないだだって協力する素振りを見せておきながら、カンナ様を横取りしようとしてたし……」
「結果だけ見れば、無事丸く収まっていますわ」
「うー、そうだけど……」
「まあ根元まで悪人ではなさそうですし、そこまで考え込まなくても良いと思いますわよ? ただ、沙幸さんに手をあげようとすれば、話は別ですけれど」
 悪戯な笑みを浮かべながら言う美海に、沙幸は元気良く頷いた。
「うんっ! そうだよね! それに依頼は依頼だし、ちゃんと最後まで頑張ろうっと!」
 とその時、美海がかけていたディテクトエビルが反応を示した。
「沙幸さん、やっぱり来ましたわ」
 美海、そして沙幸は野営と聞いた時から、何か起こるとしたら夜なのでは、と踏んでいたのだ。
「空賊狩り、かな……?」
 小声で囁く沙幸。その警戒対象は主に空賊狩り、そして夜這いをかけようとする者だった。美海が慎重に邪念の方向に近付こうと、テントの入口をそっと捲る。同時に美海の目に飛び込んできたのは、ほふく前進をしてテントに近付こうとしていた薫と陽太だった。
「……空賊狩りじゃなく、夜這いの方でしたわね」
 美海は冷たい視線を彼らに向けると、サンダーブラストを放った。
「わあっ!!?」
 かろうじてそれを避ける陽太。一方薫はアルコールが残っていたせいで瞬時に避けきれる俊敏さが失われており、もろに雷の制裁を食らった。
「ああっ、そんな……! くっ、敵は討って見せます!」
 陽太は薫がビリビリ痺れている隙に、テントへの侵入を試みる。が。
「きゃーーーっっ!! 痴漢よーーーーーーー!!!」
 沙幸の鼓膜を破るような大声で、陽太の動きは止まった。そしてその声を聞きつけた生徒が、続々と集まってくる。駆け寄ってきた生徒たちの中には運悪く、のぞき部の敵対組織、キリン隊の副隊長橘 恭司(たちばな・きょうじ)もいたのだった。
「のぞき部……相変わらずだな。キリン隊としての粛清はおそらくこれが最後だ……手加減はしないぞ」
 そして陽太は恭司によって倒された後、沙幸にもお仕置きされた。
 こうしてプチのぞき作戦は、失敗に終わったのである。