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リアクション
8
「あ、もうすぐ着くの? 内装はまだだけど、一応内見はできるようになってるよ。ところで昨日、島の南で温泉掘り当ててたよね。あれ、こっちにもパイプライン引いていいかなあ。OK?」
大総統の館建設に関しては、やはりアサノファクトリーの活躍なくしては語れない。
朝野 未沙(あさの・みさ)は携帯電話を切ると、資材調達で協力していた、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)に声をかける。
「ねえ、ミルディさん、温泉用のパイプ、追加できないかな」
「うん! いいけど、何に使うの?」
「ネネさんが、地下の浴場、温泉にしてほしいって」
昨日、アサノファクトリーがネネの一軒家を建設中、ダイソウが(実際にはエヴァルトが)温泉を掘り当てたと聞いて、自分もぜひ天然温泉に入りたいと、未沙に頼み込んでいた。
「訓練所にわざわざ赴くのはおっくうですわ。せめて館の地下に引いていただけないかしら?」
ということで、急きょ南の天然温泉からパイプラインを引こうということになり、アサノファクトリーはさらに大忙しとなる。
ミルディアはイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)に確認する。
「いしゅたんいしゅたん、配管って足りる?」
「うん、大丈夫だけど……これ、予定外の追加資材だから、拡張工事ってことでお金取ることもできるんじゃん?」
と、イシュタンは現実的な視点でぽつりとつぶやく。
しかしミルディアは、
「だめだめ。いしゅたんが館の建設したいって言ったんじゃん! やるからには徹底的にやるよ!」
と、本来ダークサイズへの協力には消極的だったのだが、やるからには血沸き肉躍るのであった。
「あ、ところで今電話してたのって、ダイソウトウ?」
「うん、そうだよ」
「ええー! 番号教えてよ!」
と、何故かダイソウの携帯番号を知っている未沙は、あっさりとミルディアに彼の番号を教える。
『げすと』のカードを胸に下げて、クロセルはまんまと館建設の作業に潜り込むことに成功している。
(な、なんとも羨ましい……ダークサイズめっ、ずいぶんと拠点が充実してるじゃないですかっ)
サングラスで隠されたクロセルの瞳は、羨望でキラキラ光っている。
しかし、彼もお茶の間のヒーロー。これ以上ダークサイズの増長を許すわけにはいかない。
(俺は俺のやりかたで、ダークサイズを止めて見せますよ!)
クロセルは作業を手伝うふりをして、大総統の館弱体化のため、方々に嘘のアドバイスを吹聴して回ろうとする。
彼は、起訴の補強作業で、重機を操作している朝野 未羅(あさの・みら)に、つつつ、と寄る。
「あっ、そこの人ぉ、危ないってばあ!」
未羅は注意するが、クロセルは半分わざと重機の前に立ち、あたかも作業を見学しているように手をあごに当てて、
「ふ〜む、大黒柱の材質はコンクリートですか?」
「え? うん、アサノファクトリー特製の強化コンクリートに耐震鉄筋を埋め込んでるんだよ」
「ほほほ〜う、しかしこのような立派な館の建設には、大量にコンクリートが必要でしょう。水を加えてかさを増せば、効率も良くなりますし、費用も大きく抑えられますよ」
と、クロセルの目が光る。
未羅はきょとんとして、
「そんなことできないよー。建物の質を悪くしたら、お姉ちゃんに怒られるもんっ」
と、クロセルの嘘アドバイスを全く取り合わない。
「ま、まあそうですよねー。失礼しました〜。うーむ、どうやら彼女はプロのようですね……」
と、彼は続いて電気工事を行う朝野 未那(あさの・みな)の元へ。
「いや〜、危険な作業ご苦労様です」
「? はぁい、お疲れ様ですぅ〜」
突然話しかけられて、未那はクロセルを現場監督か何かと勘違いしたのか、丁寧にお辞儀して見せる。
「ここの電圧は上げすぎると危険ですよね。こちらの劣化銅線を使うと、高電圧時の熱を散らしてくれますよ」
と、クロセルはまたよく分からないアドバイス。
未那は眉間にしわを寄せて、
「え〜、そうなんですかぁ? 聞いたことないけどなぁ……」
「(ぎく……)ま、まあ使ってみれば分かりますよ」
「そ、そうですかぁ?」
未那はいぶかしげにクロセルの安物銅線を受け取る。
「あーっ、ちょっとちょっと!」
と、そこへミルディアが駆け寄り、その銅線を取り上げる。
「何よ、この銅線! こんなのあっという間にショートしちゃうよ! だめだめ、あたしの送電線使って!」
電気関連にはいっぱしの知識があるミルディア。質の悪い配電工事は、彼女のプライドが許さない。
未那も安心して、
「そうですよねぇ、私もおかしいなぁって……」
「誰? こんなケーブル渡したの?」
「この監督みたいな人……あれ?」
見ると、クロセルはそそくさと姿を消している。
(か、彼女も玄人ですか……参りましたね……どうやって館の弱体化を図りましょうか……)
クロセルは、屋敷の中を建設素人を探して、あてどもなくいつまでも、うろうろする羽目になる。
一方で、屋敷の内部でテキパキと資材や機材を片付けに走り回る、エミリー。茜はそれを追いかけながら、
「ちょ、ちょっとエミリー! ホントにお片づけなんかしてどうすんのよっ。ダークサイズの役に立っちゃだめじゃない」
と、エミリーを制止しようとする。
しかしそこに、
「あ、誰だあ! ここの垂木持っていったやつ!」
「あれ〜、簡易発電機どこいった?」
「ここの足場片付けたの誰よ!? 使うって言ったじゃない!」
と、方々で不満の声。エミリーの片づけが、館建設の足止めになっている。
(役に立ってる……)
意外な効果に驚く茜。エミリーはキョトンとした顔で、
「お掃除、やめた方がいいでありますか?」
「……続けてよし」
「らじゃーであります!」
★☆★☆★
「これが……私の館……」
ダイソウが夢にまで見た、ダークサイズ大総統の館。軍帽の下の彼の眼は、感無量といった感じだ。
「おや、ソウトウ。ようやく到着ですか。島の視察はどうでしたか?」
神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が、ダイソウの前にひょっこり顔を出す。
「うむ。非常に充実したものになった。館の方はどうだ?」
「ご覧のとおり順調ですよ。この館ばかりは何日かかるかと思いましたが、かなりの人数を割くことができましたから。そうそう、私の知り合いがダークサイズに入るとのことですので、ぜひ紹介させてください」
と、翡翠は不動 煙(ふどう・けむい)と古代禁断 復活の書(こだいきんだん・ふっかつのしょ)を、ダイソウに引き合わせる。
若干緊張した面持ちで、煙はダイソウの前に立つ。
「ど、どうも」
「む、お前は……見たことあるようなないような……」
記憶があいまいなダイソウに、
「不動煙です」
と、煙は名乗る。ダイソウは人に名乗られるとつられる傾向にあり、
「うむ、私はダークサイズの大総統、ダイソ……」
「ダイソウトウ、俺たち龍雷連隊からのささやかなお土産をどうぞ」
と、復活の書がダイソウに菓子折を差し出す。
「ほう、外見に似合わず律義な」
「龍雷連隊は、この大総統の館建設に全精力を注ぎました。もはや俺たちの子と言っても差し支えない。もちろんアサノファクトリーはじめ、ダークサイズの諸先輩方にも手を借りたわけですが」
と、復活の書の中では、アサノファクトリーもダークサイズ幹部に換算されている。
煙は続いて、
「煙たち、館を作るの本当に頑張ったんです。よかったら、煙たちで館の中を案内したいなって……」
「ほう、では頼もう」
「にゃっはー☆」
煙は喜びを隠さない。
翡翠も煙に笑顔を向ける。
「よかったですね。ソウトウ、中に入る前に、館の外観はどうですか?」
と、翡翠はダイソウに促す。
実は大総統の館は、見た目が六階建ての無骨なコンクリートビルディングの外観になっている。
デザインに強いこだわりはもっていないダイソウだが、これには
「うむ……少し殺風景な気がしないでもないな……」
と、少し不満のようだ。
しかし煙は胸を張り、
「大丈夫です! 実はちょっと仕掛けをしてまして……」
「ほう、どのようなものだ?」
「それはまだ内緒です」
と、煙はダイソウをじらす。
煙と復活の書の案内で、ついに大総統の館に足を踏み入れる、ダイソウ一行。
扉は大きく、長身のエメリヤンも余裕でくぐれる。
美羽はほーっと感心した顔、祥子はカメラで写真を取り、朱美もビデオカメラの撮影を怠らない。
「まだ内装の塗装には至っていませんが、大枠はこんな感じです」
館の一階は、外観とは打って変わって広い空間の中に森の木をニスでツヤを出し、柱のコンクリートをセンス良く覆っている。
吹き抜けかと思わせるほどの高い天井。そこには大きくダークサイズのロゴが。フロアの一番奥が二階へと続く階段となっている。
アサノファクトリーはこまごまと動きまわり、一階の守護者を受け持つ椎名とソーマが開店準備におおわらわ。
山南 桂(やまなみ・けい)は手配した大工を指揮して、二階から上や、地下に人員を手配している。
桂は、やってきたダイソウ達に気付き、
「ソウトウ、これが俺と煙がまとめた、大総統の館の構造図です」
と、自分でまとめた書類を渡す。
『大総統の館冒険マップ』
と書かれた地図には、
「ようこそ、大総統の館へ! 君はダークサイズを倒すべく、ついにラスボスの塔へやってきた! ダイソウトウと対決するには、君は5人のガーディアンを倒すか、打ち負かしてスタンプをもらわなければならない!」
とあり、
「一階ガーディアン・謎の闇の悪の秘密の『椿屋珈琲店』」
「二階ガーディアン・謎の闇の悪の秘密の未定」
「三階ガーディアン・謎の闇の悪の秘密の未定」
「四階ガーディアン・謎の闇の悪の秘密の未定」
「五階ガーディアン・謎の闇の悪の秘密の未定」
「最上階・ダイソウトウの間」
といった具合に、説明図が描かれている。
ダイソウは早速こう指摘する。
「ほとんど未定ではないか」
「当り前です。それはさすがにソウトウが直々に任命していただかないと」
桂は冷静に答える。
「そうか。あとこのスタンプとはなんだ。まるでスタンプラリーではないか」
「その辺は遊び心です」
と、これは煙のアイデアらしい。
「近いうちにガーディアンたちを決めなければならんな」
と、ダイソウは悩むが、そこに復活の書が、
「大丈夫です。二階以上のガーディアンは、マントを被せてはてなマークをつけておけば、かなり引っ張れますから」
と、バトルマンガから引っ張ってきたアイデアを出す。
ダイソウも、
「そうか。その手があったか」
と、至極納得する。
煙は続いて館を案内しようと、
「二階から五階は未定なので何もありません。見れるのは最上階と地下ですが、どちらから先に見ますか?」
と、提案する。
ダイソウはこれ以上楽しみを先延ばしできず、
「最上階だ!」
と即答する。
そういうわけで、最上階に向かって階段を上るわけだが、
「エレベーターはないのか」
とダイソウが途中で弱音を吐く。
それを翡翠が遠慮なく叱る。
「あるわけないでしょう。敵に使われたら台無しです」
「それもそうか……」
ようやく一同、館の最上階に到着する。
「あ、閣下。やっと着いたんですね」
と、何故か最上階で段ボール箱を運んでいる、ハッチャンとクマチャン。
「いつの間にか居ないと思ったら、こんな所にいたのか」
「いやー、また通りかかったら手伝いに駆り出されまして」
「ナンバー2とナンバー3なのに、いいように使われておるな……」
ダイソウが二人を若干憐れんでいると、
「さあ二人とも、その段ボールはあちらに……あら、大総統」
と、ダークサイズの秘書チームクロス・クロノス(くろす・くろのす)が姿を見せる。
クロスは秘書室を大総統の館の脇に作ろうと、ログハウスキットまで用意してきた。
設置の手伝いにと、ハッチャンクマチャンを呼びつけたのだが、
「秘書なのだからダイソウトウのそばにいないとだめだろう」
という二人の提案を受け、クロスの秘書室は階段を上がって、ダイソウトウの間の手前に空間を確保した。
これまたアサノファクトリーが急きょ部屋を追加してくれたわけだが、ダイソウトウの間ほどではないが、ちょっとした戦闘ができそうなほど広い。
追加工事だから金を取れ、とのイシュタンの提案もあったらしいが……
「ガーディアンを抜けた後は、ラスボスに至る前にワンクッションあるのが定石ですからね。隠れ四天王とか、そういうのを後付けで追加できます」
とクロスは秘書室に付加価値をつける。
「まるでガーディアンが倒される前提のように聞こえるが……」
「まあそこは、ねえ。私たちも悪役ですから……」
と、悪役の宿命を、ダイソウとクロスは目で会話する。
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