First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
2
カリペロニア島は、中心の草原を囲むように森が広がっている。
かといって、島自体が東京ドーム10個分ということで、そこまで広大というわけではない。
そんな森の中に、一頭のレッサーワイバーンが降り立つ。
「さあ、ヒラニプラまでは、もうそれほど遠くない。一休みしたなら、一気に行くぞ」
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、ワイバーンの鼻筋を撫で、適当な倒木に腰を下ろす。
「このようなゆったりした一人旅もいいものだ」
この島が無人島だと思い込んでいるウィングは、のんびりお茶でも入れようかと、薪を集めて小さな火をおこす。
ウィングは一息ついて木々の隙間から見える青空を見上げ、目を閉じる。
森がウィングに語りかけるようにざわざわと鳴る。
突如、ウィングは目を開き、鋭い警戒の目を右にやる。
彼のお供のドラゴンも、その方向を見る。
(何か……いる!)
ウィングは武器を手元に寄せ、目を凝らす。
殺気は感じない。
(野生のモンスターか?)
ばきばきばきばきっ!
何の前触れもなく、森の木がウィングに向かって倒れこむ。
ウィングは難なくそれをかわし、前転を決めて武器を構える。
「くっ、モンスターか!?」
ウィングが思わずあげた声が聞きとれたらしい。倒れた木の向こうから人の声が聞こえる。
「おいおい何だ! 人がいやがったぜ。あぶねえあぶねえ。大丈夫か兄ちゃん?」
ウィングに声をかけた男の胸には、
『ハーレック興業☆こぶん』
と丸文字が書かれたカードが下がっている。
(な、人? 無人島ではなかったのか)
ウィングは動揺するものの、表情には一切出さない。
カードをかけた子分の男は、後ろを振り返って大声を張り上げる。
「おおい、ブレイロック兄貴ィ! ストップだ! 人がいやがった!」
「ああ!? お前、ちゃんと安全確認しなかったのか!」
いかにも迫力のある声と共に、伐採用の大鎌を持って現れるネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)。
ネヴィルは子分を叱咤しながら、巨大な肉体からこれまた巨大なげんこつを子分にくらわす。
バギッ!
「ぎゃあ!」
「ぎゃあじゃねえ! しっかり目を配れ! 小さなミスが大きな事故につながるんだからな!」
「す、すいやせん!」
(な、なんだあのドラゴニュートは? 人間を支配しているのか?)
『ハーレック興業☆現場監督 ねう゛ぃる・ぶれいろっく』
のカードを下げたネヴィルを見ても、ウィングは状況がつかめない。
「で?」
ネヴィルはウィングに目を移す。
「何だあんたは? ここは私有地だぜ」
「私有地? こんな辺境の島が?」
ウィングが驚いた顔をネヴィルに向けたところで、
「ブレイロック! なぜ作業を止めているのです?」
今度は女性の声が森の向こうから聞こえる。
ハイレグのタキシードにシルクハット、マントを羽織って杖を片手に、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がやってくる。
この手つかずの森の中を歩くには、まったく似つかわしくない格好だ。
「早急にこの森は全て伐採してしまわなければなりません。建築資材も足りませんし、我がハーレック興行の備蓄資材も確保しなければ」
年の割に余りにも堂々とした出で立ちのガートルード。倒れた大木の上に立ち、ネヴィル達を見下ろす。
ガートルードはウィングに目をやり、
「その人は誰です?」
(そうか、意図せずとはいえ、不法侵入をしてしまったのだな……)
ウィングは言い訳を考えながら、
「いや、私は……」
「新しいバイトだ。現地採用ってやつだな」
と、ウィングの言葉を遮って、とっさに気を回したのか、ネヴィルが口をはさむ。
「新人なもんでよ」
「そうですか……カードを身につけていないようですが」
ガートルードは、
『ハーレック興業☆代表 がーとるーど・はーれっく』
と自分のカードを見せ、ウィングを冷めた目で見ている。
「大丈夫だ。後で受付に貰いに行く」
ネヴィルの言葉を聞いて、ガートルードはふと思い出した顔をする。
「そういえば、ダイソウは戻ってきましたか? 資材の分配について話をしたいのですが」
「おいおい、ハーレックくん、まだ話してねえのか? 見切り発車で先に作業を始めちまったが、そろそろ話さないとまずいだろう」
「仕方ないでしょう。受付に行くと言ったきり、戻ってこないのですから」
「ハーレック殿、この木材は運んでいいでありますか?」
と、さらにそこに、相沢 洋(あいざわ・ひろし)と乃木坂 みと(のぎさか・みと)がやってきて、先ほどネヴィルが倒した大木を指す。
「ええ、お願いします。ついでですから、その人も連れて行ってください。一緒に運搬作業を」
ガートルードはウィングに目をやって、洋の作業に参加するように言った。
洋はきちっとウィングを向き、
「これはどうも。私、相沢洋という者であります。こちらは乃木坂みと」
「ウィング・ヴォルフリートだ」
「貴様は、パワードスーツはお持ちか?」
「いや。しかしもし力仕事が必要なら、私のスキルで補填できるはずだ」
「なるほど、結構。我々の仕事は、とにかく片っ端から木材を確保することだ。我々ダークサイズの要塞、カリペロニア! 私としては当然、銃座付きの監視等が欲しいところだが……」
「よ、要塞?」
知らず知らずに間にお手伝いに回されているウィングは、これには驚く。
(何かとんでもない所に紛れ込んだらしいな……さしあたり、話を合わせておかねば。ダークサイズとかいう組織の人間ではないとばれれば、何をされるかわからん……)
洋の軍人的な堅苦しい風貌や、ガートルードやネヴィル、また要塞などのキーワードから、ウィングはダークサイズが何か巨大な秘密軍事組織のように思えてしまっている。
「何でいきなり道に迷ってんのよ!」
そこに、数人の気配と足音、そして美羽がどなる声が聞こえてくる。
ウィングたちのいるところを偶然通りかかってくる、ダイソウトウたち。
「ここ、ダークサイズの拠点でしょ? 要はあんたの庭じゃない。なんでこんな小さな森一つ抜けられないのよ」
祥子がダイソウを叱る。
「結和よ、なぜ来しなに目印をつけておかなかったのだ」
「あ、すみません……ってなんで私が怒られるんですかー!」
ダイソウの理不尽な怒りに切れる結和。
「東はどっちだ……」
「っていうか、よく受付にたどり着けたわね」
「明日はどっちだ……」
「知らないわよ。道に迷ってまでふざけてんじゃないわよ」
そんな言い合いに、ガートルード達が気づく。
「おお、あれはダイソウトウではありませんか」
「だ、だいそうとう……?」
ダイソウの無駄に偉そうな名前に、ウィングは重ねて驚く。
ガートルードはダイソウたちに歩み寄る。
「こんな所で何をしているのです?」
「見ろ、私は彼らを探していたのだ」
ダイソウはエメリヤンの上から祥子たちに、ミエミエの言い訳をする。
「嘘つけ!」
「さっきまで目が泳ぎまくってたじゃないの!」
と、ツッコむ周囲をよそに、ガートルードがダイソウに進み出る。
「ちょうど良いところに通りかかってくれました。ダイソウ、要塞建設資材の確保のため、私たちは木々を伐採しています」
「うむ、かまわん」
「私たちも一応興業として運営していますので、伐採した木材を分けていただきたいのです。フィフティフィフティで」
「む、そんなに持っていくのか?」
「要塞の資材は十分確保できますよ。森の木を全部切り倒してしまえば」
「なに、全部だと?」
ガートルード達ハーレック興業は、資材確保の手間賃として、木材の分け前を要求する。
しかしダイソウは、
「全ての木を伐採するのは困るぞ」
「知ったことではありません。ザンスカールの森以外は滅ぶべきなのです」
「森林浴ができなくなってしまうではないか」
「森林浴がしたいときはザンスカールへ来てください」
と、ダイソウとガートルードが口論していると、
「やっと見つけましたわぁ! ダイソウトウ閣下、こんなところにいらしたのですねぇ」
ゆったりした声をあげて、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)がやってくる。
「さあ、みなさんお待ちかねですわ。ダイソウトウ閣下の許可が欲しいとウズウズしてますのよぉ」
伽羅はダイソウの手を引っ張り、島の中心部へ連れて行こうとする。
ガートルードはそれを見送りながら、
「では、とりあえず森は全て伐採しておきます」
と、作業に移ろうとする。伽羅がそれを制止して、
「あら、待ってください。木を全て切り倒すのは許可できませんわぁ」
「ほう、何の権利があってそんなことを?」
「私は、謎の闇の悪の秘密の経理コンサルタント『カリペロニア開発株式会社』の皇甫伽羅ですわぁ。申し訳ないのですけどぉ、カリペロニアの開拓はわが社の仕切りの行いますのぉ」
「そんなことは聞いてませんよ?」
ガートルードは伽羅に食い下がる。
伽羅は白羽鉄扇を片手に、
「当然ですわぁ。さっき決まりましたものぉ。この島はダークサイズの所有ですが、権利書を持っているのはダークサイズ女子部長・姉{SNL9998899#キャノン・ネネ}さん〜。島の開発の決定権はダイソウトウ閣下ではなく、ネネさんから委託を受けた私にありますものぉ。外敵の侵入を防ぐためにも、森はいくらか残しておかなくてはぁ」
「侵入者への警戒……ですか」
ガートルードもいっぱしの悪者。敵への警戒を説かれると、強くは言えなくなってしまう。
「しかたありませんね……しかし伐採した木々は我がハーレック興業にも分けていただきますよ」
と、妥協しながらも、せめて自分への利益を確保する。
「さあさあダイソウトウ閣下ぁ、何を油売ってるんですかぁ。みなさんあなたに話を通したいからと、アイデアを抱えてお待ちかねですぅ」
「決定権は私にはないのではなかったのか?」
「もちろん最終的には。まあ結局は、みなさんあなたとお話がしたいのですわぁ」
伽羅はダイソウを引っ張って、森の出口へと歩いていく。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last