蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

Trick and Treat!

リアクション公開中!

Trick and Treat!
Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat! Trick and Treat!

リアクション



24.はろうぃん・いん・ざ・あとりえ。そのじゅうご*すすめ! まどかんぱにー!


 ハロウィンの日。
 悪魔ばーじょんのペンギン着ぐるみに身を包んだ桐生 円(きりゅう・まどか)を筆頭として、百合園女学院の面々も仮装行列に参加していた。
「歩ちゃんは天使か」
 円は振り返り、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の恰好を見る。
 スキル【変身】を駆使して、天使の仮装をした歩。こそこそ、その後ろに移動して、
「ビカッ」
 光術を発動させて演出してみた。
「え? え?」 
 自分の事なので何が起こったかよくわかっていない歩がきょとんとしている。可愛い。
 その声に、他の面々の視線が集まり、
「まあ、歩さん、後光が差してらっしゃいますわ」
 橘 舞(たちばな・まい)がころころと笑った。
 そんな舞の恰好は、プリーストである。先程、「悪魔や天使が居るから、ベストマッチですよね」とぽえぽえ微笑んでいた。
「その衣装は仮装とは言わんじゃろ……」
 そんな舞に、天女の衣装を身に纏った金 仙姫(きむ・そに)がツッコミを入れる。
 では普段ツッコミ役のブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が何をしていたかと言うと、
「ちょっと! なんで逃げるのよ、別に変な食べ物じゃないわよ!?」
 仮面の騎士『でっかめん』に扮した彼女は、『カエルパイ』を仮装行列に参加する面々へと配って、そして拒絶されているところだった。
「美味しいのに……」
 ぶつぶつ言いながら戻ってくる。
「名前が名前だからねえ。食欲がわかないのかもしれないよ」
 至極まっとうなことを円が言う。
「世のなかには鰻の名を冠したパイがあって、それが人気って言うならカエルが人気になってもおかしくないでしょ?」
「そりゃそうかもしれないけど」
 先に着いてしまったイメージの違いだろうか?
 伸び悩んでいる売り上げに、ブリジットが唸る。すかさず仙姫が、「まあカボチャ頭が考えたところでいい案は出るまいよ」とけらけら笑った。
「なんですってぇ?」
「なんじゃ?」
「こらこら、二人とも。お祭りの日くらい仲良くしましょう?」
 口喧嘩が始まりそうになったのを見て、肌色分少なめのオーソドックスな魔女衣装に身を包んだ宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が仲裁に入る。
 仲良く、という言葉に、ブリジットと仙姫は「こいつと?」と言った表情で互いを見た。
 それに対して祥子は苦笑し、
「……せめて喧嘩しない程度にね?」
 妥協案の提案。
 それくらいなら、とふたりはまったく同じタイミングで顔を背ける。
「……本当は、仲が良いんですよ?」
「うん、似た者同士っぽいものね」
 フォローする舞に祥子は頷いた。
「それにしても、遅いねー」
 時計を見ながら、歩が呟く。
 待ち合わせをしていたこの面々の中、足りない人が若干名。
 神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)だ。
「そうねえ……」
 祥子が心配そうに、首を傾げる。 
 その時だった。
「みなさんごきげんよう。遅くなってしまって申し訳御座いませんわ」
 澄んだ声が、響く。
 振り返ると、そこにエレンが居た。
「エレンさん!」
 歩が笑顔を向け、
「遅かったわね、支度に手間取った?」
 ブリジットが揶揄するように笑い、
「……?」
 祥子は疑問符を浮かべ、
「……エレンくん」
 円は神妙な顔でエレンを見た。
「……ちょっと、胸が成長してないかい?」
 むんずっ、と。
 エレンの胸を、円が掴んだ。否、揉んだ。
「うん。……うん、これは……成長しているよ! おかしいな、つい数日前にはこんなじゃなかったよ! どういうことだい! ドーピングでもしたいのかい!? くっ、おなかは普段通りの適度さだと!? 本当に胸だけが大きくなったのかい!?」
「円、落ち着きなさい」
 そんな円を祥子が止めると。
「……あらあら〜」
 エレンが、エレンらしからぬ間延びした声で、笑った。
「案外、早くバレてしまいましたわ〜。もう少し、楽しめると思ったのですけれど〜。
 もっと、『ペンギン円さん、いつもながら可愛いですわ』とか、『祥子お姉様、今日も素敵ですわ』とか、言いたかったんですけど〜。
 あ、改めまして。わたくし〜、エレアと申しますわ〜」
 そう。
 エレンだと思っていた人物は、エレンではなく。
 エレンそっくりの顔をしたエレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)だったのだ。
 ちなみに円が指摘した通り、エレンとの違いは胸の大きさである。人物が違うのだから、サイズが違ってもおかしくないのは当然。もっとも、そこ以外に違いはなかったのだが。
「これでも〜、呪いの〜、ドレスと〜、呼ばれてましたのよ〜」
 のほほん、と喋る調子からは想像がつかない背景事情を暴露するエレア。
「エレンさまともども〜、よろしく〜、お願いします〜♪」
 挨拶を終えたところで。
「祥子お姉様〜!!」
 オーソドックスな魔女姿の祥子とは対照的な、セクシーな魔女衣装を着たエレンが飛び出してきた。すかさず祥子のところへ向かい、ぎゅぅっと抱き締める。
「寂しかったですわ……! 早く百合園に赴任してきてくださいな」
 そして懇願するように、そう言って。
「ごめんごめん。それより驚いたわよ、エレンが二人も? って」
 その祥子の言葉に、待っていた面々は頷く。
 すでにエレアは青銀色のロングウィッグをつけて、エレンと見分けがつくような格好に早変わりしていた。が、その顔を見ているとまるで双子のようである。
「遅くなってしまって申し訳御座いませんわ。
 ちょっとしたイタズラを、とエレアと考えましたの」
「まあ、なかなかのサプライズだったよ」
 本当に(しかしエレンの意図とは違った意味で)驚いていた円が、やれやれと首を振り。
 そんな円を、「可愛いですわ。……うん、どこを見ても、可愛いですわ」エレンは撫でまわす。
「ちょっと。胸を撫でて可愛いって言うのはやめてくれないかな」
「だって可愛いんですもの」
「どういう意味さー。あとで覚えてろよー」
「ふふふ、楽しみですわー」
 にこにこにこにこ、楽しそうに笑いながら、撫で回し終了。
 再びやれやれと円が首を振り、
「それじゃあ向かおうか」
 仮装行列の行われている広場をざっと見て回った。
 いくつかお菓子も手に入れたところで。
「さあ二次会だ!」
 別の道へと、円は入って行く。
 何人かは、その道がどこへ続く道かはわかっていたから何も言わないで居たが。
「え? あの、どこへ?」
「二次会? どこへ行くの?」
 エレンと祥子は、疑問符を浮かべる。
「ふふふ。人形師の家だよ」
 そんなふたりに、いたずらっぽく円は笑った。


 道すがら。
 祥子とエレンは、最後尾を歩く。
 人形師の家までがわからない、ということもあったが、それよりも。
「ほらね、露出度が低いと、こういうことができるの」
「そこまで考えが回りませんでしたわ……」
 ふたりは身体を寄せ合って、腕を組み指を絡めて歩いていた。
 いちゃつきたい。
 ずっと、ちゃんと逢えなかった、好き合う者同士。
 せっかく、逢うことができたんだから。
 それはもう、ずっと一緒にくっついていたい。
 が、人目もあるので。
 どうしよう、とエレンが悩んでいるところ、祥子がその長いマントで、くっつく自身らを隠したのだった。
 そして涼しい顔をして、
「うん、エレンの胸のサイズは前に会った時と同じね」
「あん。どういう意味ですの?」
「いや、エレアの胸が大きかったから。もしやエレンも? とかね。まあどうでもいいわ」
 だってそれよりも。
 色々ありすぎて、本当にこうしてふたりで居られることが久々だから。
「イロイロ貰わないとね?」
 百合園に赴任する話だって、私はそれでもいいけれど。
「エレンが留年して居残っててくれないとなー」
「え? え?」
「赴任」
「待ちますわ。留年でも、なんでもして」
 即答に、私愛されてるわねーと当り前の事を確認して。
「はい、あーん」
 持参していた、トリート用のお菓子――金平糖を、桜色の唇に、口移しで押し込んだ。
「こういうイタズラもたまにはいいんじゃないかってね」