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第3章 裏切りの華

「私も不老不死の研究に協力したいんだけど、東の塔に入れてくれないかしら?」
 多比良 幽那(たひら・ゆうな)は塔の中で研究するために、門の見張りの魔女と交渉しようと話しかける。
 彼女たちが不老不死の研究をやっていると聞きつけて仮初の町にやってきたのだ。
「もちろんただで入ろうなんていわないわ。見てて・・・」
 相手と視線を合わせたまま指をガリッと噛んで傷口を見せる。
「―・・・な、何をする気!?」
「マンドレイクのエキスを使った薬を塗ると・・・ほらっ。あっとゆう間に治っちゃうのよ」
 袖から取り出した小瓶の蓋を開け、もう片方の手の指つけて傷口に塗って見せる。
 撫でるようにつけたとたんすーっと塞がり癒えた。
「ねぇ・・・この知識を使って、不老不死の薬を作りたいの」
「完成品を他のやつに渡したりしないか、いまいち信用出来ないわね。見張りをつけさせてもらうわ」
「やっぱり自分たち以外の種族は簡単に信用出来ないってことね」
 幽那の研究に協力しに来たジョゼフ・バンクス(じょぜふ・ばんくす)は、その言葉を耳にしたとたん不愉快そうな顔をする。
「まぁまぁ、塔の中へ入れたんだからいいじゃないの」
 彼女の肩をぽんっと軽く叩いて罔象女 命(みづはのめの・みこと)が宥めてやる。
「場所を借りられればいいわけだからな」
 ジョゼフへ顔を向けた天照 大神(あまてらす・おおみかみ)は、どう見られようと気にしたら負けだというふうに言う。
「それでマンドレイクを飼育する場所が欲しいんだけど・・・」
「東の塔か城の外庭にしてちょうだい。それ以外の場所の要求はいくら見張りをつけてても、いつ裏切られるか分からないからね!こっちの目が行き届く範囲外は却下よ」
「どうしてもマンドレイクを引き抜けるくらいの広さの農場が必要なのよ。この研究をよく思ってない人が、いつ攻め込んでくるか分からないし。そんなにいっぱい栽培出来ないから、6つくらい育てられればいいわ」
「たぶんそれくらいなら大丈夫かもね。じゃあ孫天君さんに頼んであげるわ」
 幽那の話を聞き場所を適用出来るか聞こうと魔女は無線のスイッチを入れ、町と城の創造主と連絡を取り、外庭に農場を作ってもらえるように伝える。
「―・・・許可が出たわ。しばらく見張りの子と外庭で待ってなさい」
「ここで待機してればいいのね」
 待つこと数分、他の魔女が孫天君を連れて外庭へやってきた。
「へぇ〜この子たちが不老不死の薬の研究をしたいっていう4人組なんだねぇ?」
 農場を作って欲しいと呼ばれてきた孫天君は、幽那から順番に研究に参加する者たちの顔を見る。
「術を維持するのに結構、血が必要なんだけどさぁ・・・」
「くぁ・・・・・・っ!」
 傍にいる魔女を見て突然、手首の動脈に噛みつき血をずずっと啜る。
 飲まれた相手は叫びそうになるほどの激痛に絶え、大地の祝福を受けて傷を癒し止血する。
「(何だか術の維持のために飲むっていう雰囲気とは違うわね・・・)」
 吸血鬼が血を飲む感じとは異様な不気味な光景に、幽那たちは思わず顔を顰めてしまう。
 飲むというよりも、まるで喰らっているかのようだ。
「ふぅ、こんなもんかな?」
 ぺたんと地面に座り込む彼女を見下ろし片手で口を拭う。
「我想描繪了地、請出現ーっ!」
 農場を作ってやろうと孫天君はその場所をイメージし、何もない芝生の上に手を翳して叫ぶ。
 大きな四角形の赤いラインが引かれたかと思うと、そこに防音加工を施した大きな農場が現れた。
「それじゃあゆっくり研究しようかしら」
 幽那は嬉しそうに扉を開けて中の様子を見てみる。
「後、犬を10匹くらい欲しいわね。マンドレイクを引き抜く時に必要なのよ」
「いいけどさ〜。ここにあまり長居するわけじゃないんだよ」
「じっくり研究したいの。植物だし、そんなに早く育たないわ」
「ふぅ〜ん。あぁそうそう、術者のあたぁしぃが空間を維持出来なくなると、仮初の地は全て消えてなくなるからねぇ。万が一〜、なんてことないと思うけどさぁ〜」
 それだけ言うと孫天君は城の中へ戻っていった。
「上手く育つように土を耕さないとね」
 マンドレイクがよく育つ土作りをしようと、クワを手にジョゼフがザクッザクッと耕す。
「5鉢分の窪みに植えてっと・・・」
 あまり土を硬くしないように、植えた周りを軽く両手でぽんぽんと叩く。
「余分な草を取っておかないとね」
 ちゃんと栄養がいくように、ブチブチッと雑草も引っこ抜いておいた。
「私は自然の光を当てる役割だな。―・・・と、言いたいところだが。開閉式の天井で光の量を調節しようにも、今は夜中だからな・・・」
「でも光がないと育たないわよね・・・どうしよう」
 困ったように考え込む大神の傍で幽那は、真っ暗な夜空を見上げて呻く。
「蛍光灯は自然の日光と同じような効果があるから。それを活用しようか」
「う〜んそうね。ちょっとでも光を当てておいたほうがいいものね」
「すまないが蛍光灯と脚立を貸してくれないか?」
 病む終えなくレンタルしようと大神が魔女に交渉する。
「いいわよ。今、仲間に伝えるから持ってきてもらうわ。もしもし?なんか蛍光灯がいるんだって、持ってきてちょうだい」
 無線で東の塔にいる者に連絡してもらった。
「これに雷術で電力を入れてもらえばいいな」
 数分後、数本の蛍光灯を持ってきてもらい、工事現場で使っていそうな脚立に登った大神は天井に蛍光灯を設置する。
「この場所じゃプラグをつけたりすることが出来なさそうだ。明かりをつけてもらえないか」
「注文が多いやつらね・・・」
 天神の頼みに魔女はしぶしぶ蛍光灯に雷の気を送ってやる。
「ありがとう。電気が消えそうになったらまた頼む」
 天井から彼女へ視線を移し、明かりをつけてもらった礼を言う。
「次は栄養たっぷりの水をあげなきゃね〜♪」
 カップで液体の肥料を計り、水と混ぜて濃度を調節した命は如雨露でマンドレイクに与える。
「ぐんぐん大きく育ってねぇ。よし、これくらいかな」
「皆、ありがとうね。後は育つのを待つだけだわ」
 幽那はパートナーたちに礼を言い、マンドレイクが育つのを彼女たちとじっと待つ。



「ずいぶんと実験が進んでしまいましたね〜・・・」
 効果がいつ切れるか分からないといえど、不死となった者を見つめて緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は小さな声音で呟く。
「どうするんです〜ハルカちゃん」
 怪しまれないようにゴスロリの服と化しているリフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)がヒソヒソと話しかける。
「残念ながらリフィ、1作目は今のところ弱点らしき者は見当たらないのですよ〜」
「1作目はって・・・。あっ、続きの2作目は分かるのですか?」
「魂だけとなって生き続けるってやつの方です〜?ハルカはそっちの方、興味ないのです〜。不の感情を餌にして生きても、抱く者がいなくなれば生きられないのですよ〜」
 さらなる不死を目指す実験を見て、つまらなさそうにプイッと背を向ける。
 その感情が抱く者がいなくなれば、糧となるものがなくなる。
 完璧ではない不死だというふうに言い放つ。
「ハルカちゃんっ。そんなあからさまな態度とっては、魔女の気分を害してしまうのですよ」
「えっ、あ・・・次ぎのも面白そうですね〜」
 いっせいにパッと振り返る彼女たちに遙遠は慌てて作り笑いをする。
「もう〜。せっかく上手くいっているのに、ここでボロを出してどうするのです〜っ」
「はわわっ、ごめんなさいですリフィ」
「それと、新たな実験も侮れないのですよ。一切、全ての生き物が不の感情を抱かないなんて、かなり無理があるのですよ」
「というと・・・?」
 リフィの突っ込みに不思議そうに首を傾げる。
「だってそんな感情がないのなら、戦争とか起こらないのですよ。今も昔も、あちこちで争いごとがあるじゃないですか〜。世界全体のどこかで不の感情が抱く者がいれば、それを糧にして生きられるようにするのではないですか?」
「むぅ〜・・・それもそうですね〜。でも、ちょっとでも弱点がありそうなものよりも、ハルカはまるで盲点のなさそうな方を調べるのですよ〜」
 ラットで実験しようと羅針盤の上に乗せて実験する。
「どれくらい耐えられるか試してみたいのです〜」
「じゃあ生き物の成長を早める魔道具を使ってみましょうか、ハルカちゃん」
「えぇ〜っ、そんなのがあるのですか。すごいです〜っ」
「この器の中に実験動物を置いてみて。1回目の試作品の時より薬品の濃度を薄めて、魔力の方を多めにしてみたやつよ。2匹とも試してみましょうか」
「は〜い♪―・・・何するのです〜!?」
 小さな生き物の首根っこを摘み、器へぽとんと置こうとしたその時、イナ・インバース(いな・いんばーす)に手首を捕まれる。
「その子をどうするつもりですか」
「実験用なのですから、実験に使うのですよ〜」
「まさかまた・・・」
「分かってないようですね〜。ここにいる以上、それ以外の目的でいるわけないのです〜」
 止めようとするイナにムッとした顔を向けて手を振りほどく。
「ハルカちゃん蓋をして、このパネルで経過時間を設定するのよ」
「対象物をセットして数字のボタンを押すのですね〜?」
 パタンッと蓋をした後、魔女の指示通りポチポチと数字を入力する。
「出来たみたいね、青いボタンを押せば小さなその分だけ年を取らせることが出来るわ。この魔道具はまだこういう生き物のサイズしか試せないんだけどね」
「へぇ〜そうなのですか〜♪」
「いくら生命の進化のためだからといって、そのために他の生き物の命を粗末にしないでください!」
「もう、邪魔しないで欲しいのです〜っ。さっさとスタートボタンを押しちゃうのですよ〜」
 イナが止めるのも聞かずスイッチオンッと軽く押す。
「あぁっ!」
 突き飛ばされたイナはドタンと床へ倒れてしまう。
「―・・・まだ生きているのに。まだ数ヶ月しか生きてないのに・・・その時間を勝手に進ませて試すなんていけないことなんですよ」
「(そんなことばかり言っていると、塔から出されるだけじゃ済まなくなるのが分からないみたいですね〜・・・)」
 涙を浮かべる彼女をハルカが冷たい眼差しで見下ろす。
「もう開けても大丈夫よ」
「じゃあ生きられるか、潰して試してみるのですよ」
 魔女の方を見て軽く頷きトンカチでラットを殴り潰そうとする。
「ハルカちゃん〜っ、血がお洋服についたりするのは嫌なのです〜!」
「あっ・・・そうですね。じゃあスケルトンにやらせるのです〜」
 傍に控えているアンデットに命令し、トンカチを持たせて実験動物を潰させる。
「潰すって・・・殺す気ですか!?そんなの私が許しませんっ」
「あんた、この状況でたった1人きりで何が出来るというの!」
 キッと眉を吊り上げた魔女がイナを睨み怒鳴り散らす。
「面白いから実験の様子を見せてやりましょうよ」
「ほら、しっかり見なさいよ」
「いっ・・・、嫌っ。やめて、離して!!」
 生き物が無残に潰れるところを見せてやろうと魔女たちに両腕を捕まれてしまう。
 ベチィイッ。
「再生していく・・・何とか助かったみたいですね・・・」
「何ほっとしてるのよ。死ぬまで試すんだからね。ハルカちゃん、もう少し時間を進ませてやってちょうだい」
 生命を玩具のように扱うことを許さないイナとは対照的に、魔女はまたハルカに指示を出す。
「は〜い♪数時間進ませたのですよ〜」
「じゃあまた潰してみてよ」
「分かりました〜。スケルトン、お願いするのです〜」
 トマトが潰れるようにラットだったものの塊がベチャアッと床へ飛び散る。
 その恐ろしい光景にイナは思わず目を閉じてしまう。
「(お願いですっ、再生してください・・・)」
 恐る恐る目を開けると足元に小さな手がペチャッと落ちている。
「再生・・・しない・・・・・・っ!?」
 もう1匹はまだ元気に動いているが、2作目の試作品は無残な姿となって息絶えてしまった。
「なんて酷いことを・・・さっきまで元気に動いていたのに・・・。止められなくてごめんなさい・・・ごめんなさいっ」
 ただの死骸に成り果てたラットを見下ろしてぼたぼたと涙を流す。
 魔女たちの手から逃れられたら助けられたのにと自分を責め立てる。
「動物ではまだ正確なデータが取れないのです。ハルカを使って試してください〜」
 泣き崩れる彼女を他所に、不老不死の実験に穴がないか調べようとハルカは自分自身を検体として差し出す。
「時間経過を見て再生するか試してみましょうね。もし傷ついちゃっても、ちょこっとだけだから大丈夫よ♪」
「ちょっと怖いけど頑張るのです〜」
「じゃあその上へ横になってちょうだい」
「分かりました〜♪」
「少しだけ苦しいけど我慢してね。新しいやつを作ったからそれを作ってみるわね」
 羅針盤の上に乗ったハルカの身体を、魔女たちが暴れてチューブが外れないように鎖で固定する。
 彼女たちは検体を囲んで羅針盤に文字が書かれている部分へ両手を乗せ、呪文を唱えながら回す。
 “Ein Schmerz und schmerzt,Der Tod gibt nicht es,wieder und wieder Auferstehung Leben. Alt nicht,ewigkeit Versprechen gemacht lebe Person.”
「―・・・・・・っ!」
 神経を針で刺すような痛みに耐えてギリリッと歯を噛み締める。
「あれ・・・さっき痛かったところがまったく痛くないのです・・・」
「フッフフ、実験成功のようね」
 その様子を見て魔女は満足そうに笑い、鍵をはずし鎖を解いてやる。
「(さて、ここにはもう用はないのです。他の方の動向を見て、破壊する機会を待つのですよ〜)」
 開発室にいる生徒たちへ視線を移すと、まだ機材を壊さずに研究を手伝っているふりをしている。
 もう少し待っていようかと、魔女たちの手伝いをしながら待機する。



「ここでじっとしてても、何も出来ないわよね〜。ねぇ、鴉・・・?」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は寝室のソファーに座り、じっと蒼灯 鴉(そうひ・からす)を見つめる。
「いい案でも浮かんだのか・・・?」
 何か頼みたそうな顔をする彼女の視線に気づき、ちらりと横目で見る。
「えぇそうよぉ〜。ちょっと鴉に頼みがあるんだけどいいかしら」
「アスカの頼みなら構わないが」
「不老不死の実験の検体になって欲しいのよぉ〜。きっとハツネちゃんが来ているでしょうから。そのための手段を作っておかないとね」
「ほぅ・・・なるほどな」
 企むようにニヤつくアスカのプランに乗ろうと静かに頷く。
「それじゃあ3階へ戻るわよぉ〜」
 不死の身体を得ようとドアノブに手をかけてそっと開ける。
「あの〜、もう気分よくなったから戻りたいんだけどいいかしら?」
 開発室へ戻ろうと部屋の外にいる見張りに声をかける。
「来た早々休むなんてね」
「(んなぁっ。ずいぶんと高飛車ね〜っ)」
 毒ずく魔女に心の中で腹を立てながらも、彼女の後についていき生徒たちがいるところへ戻る。
 そこでは新たな不死の実験が始まっていた。
 “Unerfreuliche Gef’’uhle mache es nahrung,lebe Person. Auch wenn es gel’’oscht wird Es gibt Gef’’uhle der Angst und das Unbehagen der Kreatur grenze,lebe fort.”
 青銅の羅針盤へ横になっている魔女を囲み、それの上に手を置き回しながら仲間たちが小さな声音で呟く。
 魂と身体が引き剥がされそうなほど金切り声で悲鳴を上げ、だんだんと大人しくなったと思うと、拘束を解かれた者は何事もなかったのように平然とした顔で立ち上がった。
「うわぁ〜痛そうっ」
「さて・・・じゃあ検体の女、そこへ横になって」
 明らかにヤバそうな光景に引き気味のアスカに、研究者の魔女が指示する。
「待て、理由は男と女は体の仕組みが違うし、魔女という種族は男も少数いるはずだ」
 アスカを検体にしようとする魔女の前へ行き鴉が志願する。
「女だけのデータじゃ男の魔女に対して失礼じゃないか?平等に男のデータも必要だと思うぞ。それに・・・不死の力をこの身に感じたい・・・駄目か?」
「だってここに来た魔女は当初、女ばかりだったもの。それに志願するのも女ばかりだし?」
「―・・・それもそうか」
 志願者たちを見てなるほどと逆に納得してしまう。
「まぁ、検体になってくれるならこっちは女でも男でも構わないんだけどね。じゃあその上に寝てちょうだい」
「ここにか・・・」
 羅針盤の上へ横になり鎖で手足を拘束される。
「ぅぐ・・・っ!」
 ハルカが受けた1作目の試作のデータを元に、薬品と魔力を混ぜた液体をチューブを通して身体へ流し込まれる。
 彼を囲んだ魔女たちが呪文を唱えながら金属盤をくるくると回すと、だんだんと痛みがなくなってくる。
「気分はどうかしら?」
「どこも変わったところはないようだな。ただ・・・実験の痛みがまったくなくなったみたいだが」
「フフッ、おめでとう。これであなたも不死者の仲間入りよ」
「そうか・・・」
 ぽつりと言いルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)の方へ視線を移す。
「やっと終わったみたいなのです。では壊していいのですね?」
 向こう側がそろそろ動くのかと思い、機材をひと睨みしたハルカはレプリカディッグルビーの銃口をそれに向ける。
「きゃあっ、魔道具に何するつもり!?」
「何するも何も、壊すのですよ〜」
 氷雪の悪魔のように冷たい笑みを浮かべてキリリッとトリガー引き、罪と死の闇黒の気を込めて放つ。
「私たちを裏切る気!?」
「はい?裏切るも何も、ハルカはあなたたちの仲間になったつもりはないのです〜」
「ずいぶんと強かな小娘ね。牢屋にぶちこんで仕置きしてやるんだからっ」
 人差し指で憎い相手を指差した魔女は無線機で仲間を呼ぶ。
「ちょっと可愛いからって調子に乗って。ムカツクわっ」
 駆けつけた仲間たちがハルカに向かって嵐のフラワシを放ち片手と首を千切る。
「不老不死になったのですよ?いくら傷つけても無駄なのです〜っ」
 離れた手をくっつけて再生させる。
「えっとこの辺りだったですか」
 床に転がりおちた首を拾い、断面にフィットさせるとべしょっとくっつく。
「ふぅ。では廃棄処分の開始です」
「よしなさい。人類が何年かけてもたどつけなかった実験が完成しそうなのよ!?」
「へぇ〜それは残念なのです〜」
 止める魔女の手を振り払い、トンカチを拾い上げ機材を殴りつけてぶっ壊す。
「(ちょっと予定と違うけど騒ぎが起きたことには変わりないね)」
 ハルカが開発室で暴れ始めたのを見て、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はそっと棚の方へ身を寄せ、人体に害のなさそうな薬品を探す。
「ニトロ・・・コバルト・・・後はよく分からないね。カルシウムの粉・・・これにしようっと」
「レキ、始めるアルヨ〜」
「んっ・・・おっけー!」
 チムチムを待っていたレキがヒソヒソ声で彼女に返事を返し、瓶の蓋を開けて粉を撒き散らす。
「誰よ、カルシウムなんて撒いたやつは!」
「(牢屋にいる子を助ける前に、動物たちを助けてあげないとねっ)」
 怒り狂う魔女が相手を探している隙に、その張本人の彼女は懐からラスターハンドガンを取り出して弾幕援護を張る。
 実験動物が入れられているケースに、チムチムが手をかけたその時、物音に気づいた魔女にロッドを向けられる。
「そこまでよ。見つからずに奪えると思ったわけ?」
「あはは・・・分かっちゃったみたいアル」
 相手から視線を外さず、持っていかれないようにケースの取っ手をぎゅっと握る。
「でも・・・奪うんじゃないよ。ここから助けてあげたいだけなんだよ」
 彼女の言葉につなげるように言い、魔女に捕まっているイナの方をレキがちらりと見る。
「泣いている暇があったら、1匹でも多く助けたいじゃない?」
「―・・・そうです。助けなきゃ・・・私が助けてあげなきゃいけないんです!!」
 イナは耳を刺すような大声で叫び、両手をめちゃくちゃに振り暴れて彼女たちの手から逃れる。
「あんたらおかしいんじゃないのっ。実験動物のおかげで今の医療とかが発展しているのよ!?」
 不愉快だとがなり散らした魔女が彼女に向かって氷術の矢を放つ。
「こんな痛み・・・。死んでしまった小さな生き物からしたらたいした傷じゃありません」
 手足に傷を受けながらもケースに飛びつき、イナはそれを抱えて開発室から出ようとドアへ走る。
「破壊は他の生徒に任せて、ボクたちもラットを助けようよ」
「了解アル!」
 魔女たちが逃げるイナに気を取られている隙に、レキとチムチムが小動物たちが閉じ込められているケースや檻を抱えて塔の外へ出ようとする。
「あの裏切り者が大事な検体動物を盗もうとしているわ!」
 取られてたまるかと警備室に無線で連絡する。
「東の塔で騒ぎが起きたみたいね・・・」
 連絡をもらった斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)たちがモニターを覗き込む。
「―・・・あいつら、廃工場にいたやつらじゃないのか。また邪魔しにきたのかよ」
 画面に映るレキたちの姿を大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)は憎々しげに睨みつける。
「その人たちがいるってことは、まだいるかもしれませんね。不老不死になれば何も失わず、傷つかないのに・・・」
 4人の中で唯一、魔科学に興味津々の天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が傍らでぽつりと言う。
「開発室にも・・・いるようだな・・・」
 東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)は顔にメガネをかけて変装している女を見つけ、その正体がアスカだと気づく。
「間違いないぜ、あいつらだ」
 特徴を簡単に書いた要注意人物リストを鍬次郎が秦天君に見せる。
「あんなに痛めつけてやったのにまだ懲りてないのかい」
 それを見せられた彼女は不愉快そうに顔を顰めた。
「むっ。実験動物を盗むだけじゃなくって、機材を壊そうとしてるんだねぇっ。ぶちのめして仕置きしてきちゃってよ」
「あちきがいって片付けてやるかねぇ」
「仕方ねぇ、行ってやるか。ここに誰か残しておかないとな。魔女たちがいるといっても、孫天君を残しておくのはな・・・」
「あわわっ。あままじゃ魔道具も壊されちゃいますよ!早く助けに行かなきゃっ」
「おい葛葉!ったく・・・護衛が優先だって分かってんのか?」
 不老不死の研究が台無しにされてしまうと思い、階段を駆け下りていく葛葉の後を追って鍬次郎はハツネたちと共に東の塔へ向かう。
「(来たみたいだわ〜)」
 イナンナの加護がアスカの身に迫る危険に反応しルーツへ視線を移す。
 頷いた彼はサイコキネシスで魔女の注意を引きつける。
「な、何っ。急に袖を引っ張られ・・・・・・くぅっ!」
「(魔法させ発動しにくくしてしまえば、眠らせるのは簡単だな)」
「いくら集中してたって、そんなもの気配で分かるわよ」
 ディテクトエビルで気づいた彼女は両手で鼻と口を押えてしびれ粉を避ける。
「(しびれ粉は避けられてしまったか。なら、しばらく眠っていてもらおうか)」
 隠遁の術で姿を隠した彼は背後から迫り、ヒプノシスで抵抗しようとする女を眠らせる。
「せっかくいい感じに実験が進んでるっていうのに、ここで邪魔されてたまるものですかっ。皆、侵入者が現れたわ、早く東の塔へ来て!」
 他の魔女がすぐさま無線機を使って助けを求める。
 塔から出ようと扉の隙間から外の様子を覗くと、出るに出られない状況にレキは愕然とする。
「うわ〜、外にもいっぱいいるよ。どうやって塔から出たらいいのかな」
 開発室にいる魔女が呼んでしまったその仲間たちが、彼女たちを捕らえようと外庭で見回りをしている。
「え・・・うぁあっ!?」
 レキの背後を狙う鍬次郎の刃にアスカがセフィロトボウの矢を放ち防ぐ。
「よぉ、悪人ども。やっぱりお前らだったか」
「私たちが悪人ですって!?」
 彼の言葉にアスカは思わずムッとした顔をする。
「あぁ、どう考えてもそうだろ。1人を数人で叩くことが正義とでも言いたいのか?」
「1対1でバトルなんて今時流行らないわぁ〜。だって悪いことしたら、お仕置きをしてあげる人が必要じゃないの?」
「それにしてはずいぶんと残酷な仕置きだな」
 廃工場で殺された十天君の姿を思い浮かべ、鍬次郎は不快そうな顔をし吐き捨てるように言う。
「逃げようとしたやつのことを言っているのかしら?私はその女と戦ってないけど、それで倒せるならそうしたかもしれないわ〜」
「どっちにしろ最悪だな。殺らせねぇぜ?“偽善者”面の学生ども」
「世の中勝ち負けが正義とは言わないわ。ただ・・・油断して負けるのはただの敗北者よ」
 ニッと笑い鍬次郎に災厄をプレゼントしてやろうと、彼の背後に悪魔を召喚する。
 あの工場から戻ってからアスカと決まりごとを作り、召喚されたら必ず“等活地獄”で叩きのめす。
 それも必ずある人の背後に呼ぶと言われていた。
「忘れたかしら?大石鍬次郎ちゃん♪あの時は足をどうも・・・」
 オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は憎々しげに彼を睨み、拳を握り背を殴りつける。
 ドガッガガガッ。
「ぐぁあっ!?」
 ズザザァアアアッ。
 振り返り様に致命傷は免れたものの、肩を殴り飛ばされてしまい床に膝をついてしまう。
「不意打ちは何も貴方達だけの十八番じゃないのよ?殺気看破とかで気配に気づかなきゃ、いきなり仕掛けられるとさすがに対応が遅れるみたいね」
 魔女の暴走を止めるだけでなく、オルベールたちの目的には彼らへのリベンジも含まれていたようだ。
「なんだか厄介なことになったみたいだね?ボクたちはまだ他に用があるからじゃあね♪」
 レキは鍬次郎たちにフリフリと片手を振り、地下牢に閉じ込められている者と助けようと、塔を出て弾幕援護を張り城の中へ入ろうと走る。
「行かせないよ、小娘!」
「おっと、それはこっちのセリフだよ♪」
 秦天君を見つけた透乃が両腕を広げて行く手を阻む。
「ちょうどいいわ〜。そいつの相手をお願いね。私たちはハツネちゃんたちを引き離すわねぇ」
「うん、私と芽美ちゃんは秦天君と戦えればそれでいいよ」
「邪魔がいないことにはこしたことはないわ」
 芽美たちにとっては殺し合いを楽しめればいい。
 邪魔者を引き離してくれるアスカに顔を向けて頷く。
「次から次へと増えやがって。また痛い目に遭わなきゃ分からねぇようだな」
 鍬次郎は最悪な状況に苛立ち、ギリッと歯を噛み締める。