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DieSymphonieDerHexe2

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第2章 歌いましょう踊りましょう・・・人形のように

「もう時間みたいですね」
 東の塔で人形を作っていた茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は、壁にかけられている時計を見て縫い針をテーブルへ置く。
「念のため・・・この言葉を吹き込んでおきましょう」
 ハードカバーの大きな本を棚から取り出し、付箋をつけておいたページを捲る。
「Eine Puppe verliert vorl’’aufiges Leben. Wenn ich diese W’’orter drehe, halten Sie vorl’’aufiges Leben an」
 人形の口に人差し指を当て、小さな声音で言葉を紡ぐ。
「では、時間ですし。そろそろ出ましょうか」
 魔女たちのパレードに参加しようと人形たちを連れて塔の外へ出て、まだ閉ざされている中央扉の前で待機する。
「ここで学ばせてもらって分かったのは、魔科学はとても強力なものだっていうことですが。強すぎる力は滅びをもたらすと考える人もいるんでしょうね」
「そうね。批判したり考え方が合わないからと、相容れない人もいるかもしれない・・・」
 衿栖の言葉に茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)は眉を潜め、パートナーが作った人形を扱う魔女を見る。
「でも力とは扱う者の心次第なんですよ。扱う者が力に溺れ、狂気に落ちてしまうこともあるでしょう・・・」
 その得たものでこの地や他者、全てを支配出来るならと・・・欲望にかられて狂気に心を支配されてしまうのだろうと呟く。
「悪しきことに使えば当然、災厄を招きますが、しかしそれをよいことに使えば、善になりますし。つまり破壊と創造は表裏一体ということです」
「えぇ・・・本当はそうなんだけど、理解してもらえない場合があるからね」
「魔科学はとても凄い技術ですし。よいことに使えば今の科学を進化させて、この地をいい方向に発展させてくれるはずです。私は出来ることなら魔女の皆さんと共存したいですから」
 強い力は破壊をもたらすだけでなく、やっぱり使う者次第なのだと考えた衿栖は開発に携わった彼女たちの能力に、素直に尊敬し共に協力し合いたいと願う。
「―・・・しっ、衿栖・・・お喋りはこの辺にしておこう。そろそろ扉が開かれるわよ」
 10mはありそうな大きな扉がゆっくりと開かれ、朱里は城の外へ視線を移す。
 2人はカンテラを手に城の外へ出る魔女たちの後をついていく。
 その頃、地下水路ではルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちが侵入する機会を待とうと、じっと息を潜めて待機している。
「もう入っても大丈夫かしら?」
「クマラの合図を待とう。無理やり入り込んだら仲間を呼ばれるからな」
「そうね。十天君に逃げられでもしたら、無駄足になっちゃうもの」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の声に静かに頷き、閉ざされている入り口を見上げる。
「(パレードが始まったのかな)」
 中央門開閉管理にいるクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、数人の魔女たちが部屋を出るのを見て、ぱかっと携帯を開いて時間を見る。
「ねぇ、あなたも外の様子を見に行かない?」
「ううん、オイラは他のやつが入って来ないように見張りをしているよ」
「まぁそんなやついないと思うけど、念のため交代で誰か残るようにしておくわね」
「えっ、1人でも大丈夫だよ!」
「万が一の時のためよ、それじゃあちょっと外に行ってくるわ」
 クマラと何人か魔女をそこへ残し、パレードの様子を見ようと外へ出てしまった。
「(一応、見張りは減ったみたいだね)」
 もう入って来ていいよ、というふうに床の扉をタンタンッと踏み鳴らす。
「合図が来たな、よし入ろうぜ」
 エースは鉄の取っ手を掴み、扉を押し上げる。
「待て、まだ誰かいるぞ」
 階段に伏せていた白銀 昶(しろがね・あきら)が立ち上がり、扉の隙間から鼻をすんすんとひくつかせる。
 先に室内へ飛び込みスイッチを蹴って部屋の明かりを消し、黒毛の狼姿の彼は暗がりに紛れて、ぺたぺたと足音を立てて近づく。
「突然灯りが!?もしかして侵入者かしら・・・」
 カンテラに火を灯し、向こうも彼の存在の気づいたのかピタリを足を止めた。
「(こっちから行ってやるか)」
 仕掛けてくるのを待っている魔女の前へとことこと歩く。
「獣が1匹・・・どこから入ってきたのかしら。動物は見つけたら実験用に東の塔へ送るようにしているんだけど」
 たった1匹でいる狼を怪しみ、昶の方へカンテラの灯りを向ける。
「実験か。何でもかんでも生き物を検体にしていいなんて、誰に教わったんだかな」
「んなっ、動物が喋ったわ!」
「へぇ〜そんなに珍しいのか?」
 人の姿になり刀の柄を思い切り腹部に殴りつける。
「けほ、けほっ。お前・・・その姿、獣人か・・・っ」
 腹を押さえ壁にもたれかかり昶を睨む。
「やっぱりすぐ分かっちまったみたいだな」
 これくらいじゃ驚かないかと肩をすくめ、ずるずると床へべたんと伏せる魔女を見下ろす。
「く・・・っ、せっかく力や不死が手に入るというのに。邪魔されてたまるか!中央門開閉管理の部屋に侵入者が現れた、早く応援をよこしてっ」
 袖から取り出した魔女が無線機で仲間に連絡を取る。
「げっ、こいつ仲間を呼んだぞ」
「他にもいるに違いないわ。早く中央の扉を閉めなきゃっ」
 部屋にいる別の魔女が開閉レバーに手をかける。
「(そんなことさせないよっ)」
 扉を閉じようとする彼女を止めようと、清泉 北都(いずみ・ほくと)がサイコキネシスで動きを封じようとする。
「―・・・フンッ、これくらいで私の動きを封じれるとでも?」
 忍び寄る相手の気配をディテクトエビルで察知した魔女が獲物を狩るような目で振り返る。
「冷たい吹雪に凍えてしまえっ」
 ハーフムーンロッドを向け水晶から吹雪を発し、凍てつく冷気で凍結させようと北都を狙う。
「やっぱり急に暗くなった部屋じゃ、僕の姿が見えないみたいだね」
 ダークビジョンでロッドが向ける先を見て、北都はとっさに床へ転がり伏せてブリザードをかわす。
「くっ、避けられたか」
 手ごたえがまったくないことに、魔女が悔しげに得物をぎりぎりと握り締める。
「こんなところでしくじったら、実験の恩恵にあやかれなくなっちゃうっ。冗談じゃないわ!」
 静まり返った部屋の中でかすかに聞こえる足音を聞きロッドを向ける。
「音が2つ・・・暗闇に隠れたって、術で探知出来るんだからねっ。(んもうっ、早く来てよ皆〜)」
 強がりな言葉を吐きながらも真っ暗な空間で目の利く2人を相手にするのは不利だ。
 床に倒れている仲間の魔女が呼んだ者たちを待つ。
「(こっちが見えないんじゃ、鬼眼は効きめないか)」
 魔女が手にしているロッドを睨み、昶はじっと息を潜めてどうやって叩き落そうか考える。
「(静かな部屋の中じゃ、どんなに足音に気をつけても分かっちゃうよね。昶も簡単に動けそうにないみたいだし・・・)」
 念力で昶の袖を引っ張り、後ろへ探すように伝える。
「んっ、何か仕掛ける気か」
 相手の気を引こうと昶が壁際を背にわざとらしく靴音を立てる。
「後ろにいるのねっ、そんな大きな足音を立てたら分かるに決まってるじゃない。おバカさん♪―・・・なんて、あんたたちの魂胆はまる分かりなのよっ」
 また動きを封じようと狙う北都の気配を察知し、彼の方へぐるりと振り返る。
「残念、不正解だぜ」
 自分を囮と見せかけた昶は、背後から彼女が手にする得物を蹴り飛ばしデスクの下へ転がす。
「ふざけるんじゃないわよ。欲しいものをやっと手に入れられるというのにっ」
 カララァアンと手から滑り落ち、欲に憑かれた魔女がロッドを拾おうと走る。
「ちょっと眠っていてもらおうかな」
 動きを封じようと北都が相手をサイコキネシスで床へ叩き伏せる。
「ロッドがなくたって、術は使えるのよ!」
 少しでもダメージを負わせてやろうと、北都に手の平を向ける。
「―・・・・・・うっ!僕だって・・・ここで倒れる分けにはいかないんだよ」
 相手の手首をぎりりっと掴み、催眠術をかけて眠らせる。
「あんたらの好きにさせるないわ・・・。遅いわね、応援はまだかしら。・・・あっ!それ返しなさいよっ」
 もう1度無線で仲間を呼ぼうとしたとたん、昶に無線を奪われてしまう。
「これ以上騒がれると面倒だなぁ」
「うん、ちょっとの間だけ眠っていてもらおう。ごめんね・・・」
「何をすぐ気・・・?私に近づくんじゃないわよ!!―・・・ぁっ、うぐ・・・・・・」
 ぎゃぁぎゃぁと騒ぎ立てる口を塞がれ、催眠術で北都に眠らされてしまった。
「これよろしくな」
「はーい、分かったよ♪―・・・もしもしー?今のは誤報だから気にしないで。ちょっといたずらして暇つぶししようと思っただけなんだ」
 昶に投げ渡された無線をキャッチし、クマラが魔女たちに応援はいらないと伝える。
「これで皆、城へ入ってこれるよね」
 北都は閉じかかっている扉を開けようとレバーを握りぐっと上げる。
「僕たちはここに残っているから後はよろしくね」
「えぇ、任せたわ。交代の見張りが戻ってくるかもしれないから早くこの部屋から出なきゃね」
 2人をそこに残してルカルカはエースたちと城の中にいる十天君を探そうと出て行く。
「ねぇ、ちょっと待って」
「なんでしょうか?」
 北都に呼び止められプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が振り返る。
「西の塔に行くんだよね。僕の仲間がそこを壊す予定なんだけど。そこから東の塔に移ると途中で捕まっちゃうかもしれないから、ついでに壊してきてくれないかな?」
「あ、はい。分かりました」
 彼の頼みごとを聞くと彼女は先に部屋を出た生徒たちの後を追って出て行く。
「眠らせた魔女この辺りに隠しておけばいいかな」
 見張りを交代しようと他の者が来ても怪しまれないように、北都は昶と彼女を運んでデスクの下へ隠す。
「電気もつけとかなきゃいけないね」
 スイッチをパチッと押して部屋の明かりをつけた瞬間、魔女がドアを開けてひょっこりと顔を覗かせる。
「そろそろ時間だから、町に行ってきてもいいわよ?」
「えっと・・・僕たちはそういうの苦手だからここにいるよ」
「でもずっと見張りを続けてると疲れちゃって、侵入者の対処に遅れるかもしれないから交代してるんだけど」
「大丈夫だよ。この子もいるからね」
 顔を見せないように振り返らず、狼の姿になっている昶の傍に座る。
「ペットが見張りをやるの?まぁ・・・あまり無理しないでね。疲れたら呼んでちょうだい」
「―・・・うん、分かったよ」
 部屋を出て行く魔女に小さく頷き、ふりふりと軽く手を振る。
「ふぅ、行ったみたい・・・」
 ぱたんとドアを閉められ、そこから離れていく足音を聞きほっと息をつく。
「(おいおい。オレ、ペット扱いかよっ)」
 この状況だから仕方ないかと思いつつ昶は顔を顰めて床に伏せる。



 オレンジやシルバーの街灯の灯りを受け、試作品が出来た喜びを表すように魔女たちは楽しそうに町中で舞い歌い踊る。
 Es gibt keinen Tod.
 Das Gl’’uck, das weder den Schmerz noch die Schmerzen hat.
 Es ist nur wir, es zu bekommen.
 Es ist dumm, Unsterblichkeit zu bestreiten.
 Wenn Sie sterben, wird nichts gemacht.
 Leute ohne die Macht, Was wird ohne Macht gemacht?
 Die Leute, die keinen Nutzen der Magie wissen, Dumme Eine.
 Stehe in der rassischen Spitze, singe nach Belieben und Tanz, Hexe Welt.
 全てを自分たちが手に入れるのだというふうに歌い、またある者はフルートやホルンを吹き、梟を模った乗り物に乗せたティンパニーを叩いて憂いを演奏する。
「この歌を聴いていると・・・本当に、狂気に飲まれてしまいそな感覚ですね・・・」
 魅惑的な言葉で衿栖の心を揺さぶる声音にぐらりと気持ちが揺らぐ。
「しっかりしてよ。いくら彼女たちが尊敬に値する技術を持っているからといって、他の種族と友好的に接しようと考えている魔女はいないのよ」
「す、すみませんっ」
 朱里の声に我に返った衿栖は欲する気持ちを消そうと首をぶんぶんと振る。
「何だかフードショップ通りの方へ向かってしますね。このまま進むと仮初の町から出てしまうような・・・」
 魔女たちが外へ出ようとしているのかと、彼女らが進む先を睨むように見る。
「ねぇ、このまま外に出て服従しないやつらを屈服させてやらない?」
「いいわねぇ。他の者たちに私たちの力を知らしめてさしあげましょう♪」
 その衿栖の不安は的中してしまい魔科学の試作品を手に、外にいる者たちを力で服従させようと企んでいるようだ。
「今争ってしまったら、他の種族を全て敵に回してしまいます!私たちがここで止めなくては・・・っ」
 衿栖は彼女たちが使役する人形に声が届くようにそっと近づく。
「でもその前に、疑わしき者を排除しないとね」
 カフェの外で働いている真の傍に行き足を止める。
「あんた牢屋にいる娘の仲間なんでしょう?私たちを止めようとするあの裏切り者を、後で処罰しようと思ってるんだけど。手伝ってくれないかしら」
「それはいくらお嬢様たちの願いでも、俺の仲間に危害を与えるなんて出来ません。(捕まっちゃった相手の知り合いだっていう時点で、見逃してくれるわけないか)」
「じゃあこっちで今すぐ始末するわね」
 言い逃れる言葉を考える暇を与えず、地下牢の見張りに連絡を取ろうとする。
「や・・・、やめてください、お嬢様っ」
 その言葉が脅しでないと気づいた真は、魔女から無線を取り上げようと手を伸ばす。
「あら、私の邪魔をする気?この裏切り者をぎたぎたにして、牢へ放り込んでやりましょうっ。Gehorchen Sie meiner Reihenfolge bitte, t’’oten Sie diese Person」
 人形に命令する言葉を紡ぎ、真に襲いかからせる。
「いけないっ、早く人形を止めなきゃ・・・。Wenn ich diese W’’orter drehe, halten Sie vorl’’aufiges Leben an!」
「なっ、何!?人形たちがっ」
 緊急停止させる衿栖の言葉に仮初の生命を失い、ただの人形と化したものは、バタタッと道路の上へ崩れ倒れた。
「起き上がれ、人形。私の言葉に従い、この者を守れ」
 再び仮初の生命を吹き込み、起き上がらせた人形を操り魔女たちから真を守ろうとする。
「おのれぇ・・・お前も裏切る気か!?」
「いえ・・・私は皆さんと共存したいと思ってますよ。ですけど他の人たちを傷つけさせるわけにはいかないんです!」
「落雷の餌食にしてやるわ」
 怒り狂った魔女が衿栖の頭部を狙い、サンダーブラストの雷を降り注がせる。
「まったくいつも無茶するんだからっ」
 パートナーを守ろうと朱里は雷の雨の中へ飛び込み、彼女の身体を抱えて道路へ転がる。
「私よりもあの方を守ってあげてください!」
 魔女たちに囲まれている真を見て、衿栖は自分の身よりも彼を心配し、朱里に向かって叫ぶように大声で言う。
「そうは言っても術者が人形の使役に集中しないと、また彼女たちが操ってしまうかもしれないのよ」
「―・・・っ、そうですね・・・分かりました。私は彼を守りますから、援護をお願いします!」
「任せてっ」
「ふぅん、私たちにたてつこうと言うの?使役する術者がいなければ人形はただのデクよ。退かなければ、あんたも黒焦げにしてやるわよ」
 衿栖を守ろうとする朱里から片付けようと炎の嵐に包み込む。
「うぁっ、熱・・・っ」
 人形使いの彼女の身体を庇い直撃をくらった朱里が小さく呻く。
「―・・・私だって魔法耐性が少しくらいはあるんだから。そう簡単に倒れたりなんかしないわっ」
 息を切らせて痛みに耐えながら、通すものかと両腕を広げる。
「(あんなのまともにくらったら普通のやつは一発でノックアウトね・・・)」
 地面へ視線を移すと術に巻き込まれて火の粉を被った仮初でない草花が、ぱちぱちと音を立てて燃えている。
「ごめん・・・まさか警戒されてると思わなかったからさ。せめて別のカフェで働くべきだったかな」
「過ぎたことを後悔しても仕方ありません」
 衿栖は真の方へ振り向き、後悔よりも今どうするべきか考えましょうというふうに言う。
「そこを退け!退かないなら捕らえて仕置きしてやるっ。そこのやつを痛めつければ退くきになるか!?」
「Eine Puppe, sch’’utzen Sie diese Person bitte!」
 苛立つ魔女の標的にされた彼を冷徹な吹雪から守ろうと人形を盾にする。
「皆さんが十天君を倒して城から戻るまで、なんとかここで止めましょう。彼女たちを町の外に出すわけにはいきませんっ」
「えぇ。他の種族との関係に一度亀裂が入ってしまったら、容易く修復するなんて出来ないからね」
 狂気の憑かれた魔女たちを一歩も外へ出してはいけないと言う衿栖に頷く。
「どれだけ持つか分かりませんが・・・ここで止めなければ、本当に他の種族たちとの仲が壊れてしまいます。城にいる2人がいなくなって諦めてくれればいいんですけど・・・」
 1人たりとも外へ出さないよう出口を人形たちと共に封鎖する。



「始まったアルネ〜。作戦開始アルッ」
 チムチム・リー(ちむちむ・りー)は光学迷彩で風景と同化し東の塔へ進む。
 その頃、2つの塔の間にある城へ潜入しようと待機している生徒たちも、十天君を倒そうと入り込む機会を窺っている。
「城からかなりの人数の魔女たちが出てきてるみたい。潜入するなら今しかないわね。変装してないからあの中へ紛れよう!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は鎌鼬からもらったライトグリーンの髪飾りが落ちないようにつけ直し、魔女たちの群れに近づき、列に紛れようと提案する。
 この時しか入るチャンスはないとベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も彼女の声に小さく頷く。
「集団でいっきに入ると気づかれるから、3・4人くらいに別れて入るわよ」
 見つかって捕まらないように、美羽は変装していない陣たちへ顔を向けて言う。
「そうやね。いきなり城の外で騒ぎを起こすと、相手に逃げられるかもしれないしな」
 侵入早々に自分たちの存在をわざわざ十天君に知らせてしまうことになり、“どうぞお逃げくださ〜い”と言っているようなものだと頷く。
「(灯りといっても街灯やカンテラくらいやな)」
 数人にかたまって入ろうとパレードの列に紛れ、魔女たちの影に重なるように隠れる。
「1階には誰もいないみたい・・・。ここからは別行動ね」
 まだ中に魔女がいないか、美羽は扉に手をかけてそっと覗き込む。
「ふぅ〜。ここまで安心・・・って言いたいとこやけど。皆外に出てすっからかんてわけじゃないからな」
「城のカフェにいる弥十郎さんたちが人数を減らしてくれるまでちょこっと待機かな?」
 ダンスフロアの階から流れる賑やな音楽を聴き、この中でまた追いかけ回されたら厄介だとリーズが階段を見上げる。
「夢見る夢子みたいに、こんな仮初の町や城を術で作った孫天君って、かなり奇抜な技を使ってきそうな感じがするんやけど。相手の癖とか知らないッスか?」
「せやなぁ〜・・・眼の動きに惑わされんように気ーつけることどすなぁ」
「眼・・・?」
「ありえない奇抜な動きをしよるっていうことやねぇ」
「う〜ん・・・」
 コンジューラのイメージをそのまま言葉にしたような話を聞き、陣は眉を顰めてその意味を考え込む。
「芽美ちゃんと私は秦天君を狙うけど。そっちはどうするかな?」
「オレたちは孫天君やね」
「ベアと私は秦天君を倒したいわ。あいつはきっちり叩きのめしてやらないと気が済まないんだから!」
 十天君のゴーストに殺された医者をバカ呼ばわりした女に対し、美羽とベアトリーチェは今すぐにでも葬ってやりたいと激しい怒りをぶつける。
「礼青は私たちと一緒に来て欲しいんだけどいいかしら」
「うちどすか?」
 聞き返す彼に美羽がうんと頷く。
「あぁ〜そっちに行っちゃうんッスか。あまり偏らない方がいいから、その方かいっか」
 陣は残念そうな顔をしながらも、封神させることが目的だからと納得した。
「俺たちはアルファを探しに行かないとな。あいつらに協力してここに留まれたとしても、その後のことがな・・・」
 闇の道を歩ませるのを止めようと、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は2階へ通じる階段を見つめて呟く。
「アルファって?」
「えっと・・・ドッペルゲンガーのオメガさんのことどす〜」
 誰のことを言っているのかと不思議そうな顔をする陣に、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は紫音を横目で見て、彼がつけた愛称だというふうに言う。
「いつまでもそんな呼ばれ方では不憫だと思った紫音が名づけたんじゃ」
 彼女の言葉につけすようにアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が説明する。
「よく思ってない者もいるかもしれぬが、我らが思っての行動じゃ。オメガに害をなすような真似はせぬ」
 魔鎧となり紫音を護るアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は、まだ不信感を抱く者たちに言う。
「仮に説得出来たように見えても、オレらはあいつを信用出来んな。裏切られて痛いしっぺ返しをくらうのはオレたちじゃなくって、オメガさんやからな」
「また狙われちゃうかもしれないしっ」
「もちろん説得が上手くいったとしても、しばらくはオメガに近づけるつもりはないさ」
 釘を刺すように言う2人に対して、アルファが何を言おうと信用しないという態度に、紫音はそれが当然だろうと頷く。
「それじゃあまた後でね」
 無事に再会出来るように美羽が願いを込めて言い、生徒たちはそれぞれの目的を果たそうと別れた。



「これは“魔女”の問題ですわ。だから、陽太は放っぽって、わたくし単独で好きなように行動させていただきますわ」
 十天君たちが魔女を唆して何かを企んでいると知り、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はパートナーを置き去りにし、仮初の町へ1人でやってきた。
 その影野 陽太(かげの・ようた)は最愛の傍の人にいようとここへは来ていないようだ。
「あの者がよさそうですわね」
 まずは城へ入ろうと扉の傍にいる魔女に近づく。
「侵入者への対応の件で、孫天君と相談したいことがありますわ」
「それって牢屋にいる裏切り者の小娘のことかしら。そいつの仲間がカフェにいるみたいだけど、そっちは他のやつが対処しているところよ」
「なるほど・・・。でも、それだけでは不十分ですわね。わたくしにいい考えがありますわ、中へ入れてくれません?」
 他の十天君から警戒対象として伝わってしまっているだろうと思い、顔がはっきりと見えないように帽子を深く被り、城へ入れてもらおうと交渉する。
「あなたは魔女だから特別に入れてあげるわ」
「(フフフッ、やっぱり同じ種族という点を利用するのが一番ですわね)」
 クスッと笑う声が漏れないように口を片手で押させ、見張りの1人に案内され城内へ入る。