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リアクション
第8章 紛いでない感情
「なんだこの迷路・・・!?」
統括の間に行こうとするものの、紫音たちはいくつもの道に分かれた迷路の中を彷徨っている。
「薄暗くって寂しい感じがしはりますぇ」
風花は心が冷たく寂しくなるようなところだというふうに感じ、逸れて独りぼっちにならないように彼の傍へ寄る。
「まるで・・・心の中を映し出しているようじゃのぅ」
「そうか。アルファの感情がこの空間に影響しているんだろうな。何かを拒んでいるような雰囲気だ・・・」
アルスがぽつりと言った言葉に紫音は、独りきりの魔女の心情を現しているのだと思う。
「あの、アルファってダレです?」
この先にいるのはドッペルゲンガーのオメガのはずなのに、聞きなれない名前にヴァーナーが首を傾げる。
「俺が勝手にそう呼んでるだけだ。気にしないでくれ」
「そうなんですか・・・。むむ、どっちいってもたどりつけないです。魔女さんたちに先を越されちゃうですよ」
「困ったな。それだけは避けたいんだが」
先に統括の間にたどりつかれると、この中で彷徨っている唯斗たちが取り戻す間もなく、遠くへ連れて行かれてしまうのだ。
「マスター、困ったという言葉はこちらが使うものです。いつものことですが言葉が足りません。エクス様を宥めるのも大変なのですよ?」
魔鎧として装着しているプラチナムが彼に苦情を言う。
「気づいたらすでに行動してしまっているパターンだな」
「本気でよしてください、それ・・・」
「あ・・・・・・、お前ら!さっきドッペルゲンガーを連れ去ろうと階段を上っていったやつらね!?」
追ってきた魔女に見つかってしまい、焔のフラワシを放た通路を燃やされてしまう。
「他の仲間がオメガのところへ向かってるから。あんたたちはここで、せいぜい彷徨うがいいわ♪」
「ここで時間を取られている場合じゃないんだがっ」
一方通行の通路を通れなくされ、別の道へ行かざるを得ない。
気持ちばかり焦ってしまい、さらに迷ってしまう。
統括の間ではオメガを連れ去ろうと魔女たちが先にたどりついてしまっている。
「さぁドッペルゲンガー。私たちと一緒にここから出て、別の場所へ避難しましょう」
「非難って、どうしてですの?」
「侵入者たちがあちこち破壊し始めたから。また別の場所で魔科学の開発をするのよ」
傍に泡がいるにも構わず、ドッペルゲンガーのオメガの手を掴む。
「その手を離しなさいよ」
連れて行こうとする魔女の手首を泡がガシッと握る。
「何、私たちに逆らうわけ?魔法学校の生徒でも容赦しないわよ」
「いいから・・・離しなさいよ」
「あんたこそ私の手首を掴まないでくれない?」
「聞こえないの?離せと・・・言っているのよっ」
怒気を含んだ口調で言い、徐々に強くギリギリと握り締める。
「オメガ、あなたを助けたい仲間が今ここに来ているはずよ?私以外にも・・・いっぱいいるのよ。だからそっちに行っちゃいけないわ」
「泡さん・・・」
「お願い。皆もここへ呼んであげて」
「―・・・それは出来ませんわ」
「そんなに警戒しないで。オメガを傷つけようと来ているんじゃないのよ。きっと私が知ってる人たちだから大丈夫よ。ねぇ、私を信じて?」
「―・・・泡さんがそう言うなら・・・」
統括の間を探す紫音たちを拒むのを辞めたとたん、生徒たちが扉を開けて部屋の中へやってきた。
「あれだけ探してなかったのに、なんだか突然だどりついたな。あれは・・・アルファか?」
「魔女に手を掴まれてますぇ」
「まずいぞ紫音、あのままでは連れて行かれてしまうのじゃ」
「おい、アルファから離れろっ」
ドッペルゲンガーを連れ去ろうとする魔女の腕を掴んだ紫音が彼女から引き離そうとする。
「湧いて出て来たように何よ突然!」
「魔法学校の生徒なら、ボクたちと一緒にお外へ出るですっ」
「ちょっと何よそれ、どういうこと!?私は不老不死と力が欲しいのっ。そのためにはこの子の力がいるの」
説得しようとするヴァーナーの言葉を拒否し、無理やりドッペルゲンガーを連れて行こうとする。
「きゃぁあ、やめて。痛いですわっ」
「オメガが痛がってるじゃない。あなたいい加減、離してくれない!?」
「うっさいわね、あんたが離せっ」
泡に負ける者かと魔女が悲鳴を上げる彼女の手を引っ張る。
「いっ、いや。ぃやぁああ、わたくしに触れないでっ」
ドッペルゲンガーが発する波動で皆、床へ吹き飛ばされてしまう。
「落ち着いてオメガ、もう大丈夫よ」
「来ないでっ。来ないで来ないでっ」
耳を塞ぎ叫ぶ彼女の髪がざわっと揺れ、ぼんやりと妖しい青い輝きを放つ。
サンダーブラストの雷を雷術で操作し、自分以外の者を消し去ろうとする。
「やめるんだ、アルファ!」
唯斗の声すらも耳に届かず、近づこうとする者をまた波動で吹き飛ばす。
「アルファお前もオメガも俺たちが助け護ってやる!だからこっちに来い!!」
強烈な烈風を受けながらも紫音はアルファへ必死に呼びかけ、爪で床を掴むように彼女の傍へ行こうとする。
「十天君に協力して闇に堕ちても悲しく苦しいだけだ。一緒に来て一緒に笑おう」
「どうして皆、わたくしが本物になるのを止めようとするんですの?どうしてわたくしが主人格ではいけないんですの?本物の魂がなければ留まれないのに。そんなの分かり合えない、分かり合えないんですのよっ」
「ひとりぼっちじゃないです。ボクたちがいるです」
ヴァーナーは飛ばされないよう壁に手をつき、ドッペルゲンガーに近寄ろうとする。
「どうせ面倒になったらほったらかしにするに気まってますわ。その場限りの言葉なんていりませんっ」
「うそなんかつかないですよ、ボクとおともだちになってくださいです」
建前でなく本音だと分かってもらえるように、ぎゅっと彼女に抱きつく。
「単なる建前だけでここまでくる人なんていないのよ。皆の気持ち、分かってあげて。オメガと一緒にいたいから、ここにいるの」
床から立ち上がり飛ばされるものかと、ぐんぐんと前へ進み泡がオメガの手を握る。
そのとたん波動の風がふっと消え去った。
「もし意地悪しようとしたりするやつがいたら、俺がぶっ飛ばしてやるからな」
紫音はアルファの傍に座り、無遠慮に話しかける。
「ケンカはいけませんぇ」
「あはは、例えばだって」
「そんなこと言ってもアルファさんには本当に聞こえますぇ?」
彼の冗談に風花がため息をつく。
「ここに留まれる方法を考えたんだ。アルファ、俺を信じて付き合ってくれ。危なくなったら必ず体を張って助けるから」
頃合を見計らって会話に入り、西の塔で作った魔道具を唯斗が見せる。
「陰陽道は森羅万象に通じる、五行を持って陰陽を分け太極に至る。わざわざ五行炉を陰と陽に分けたのもそのためだ。陰陽揃って初めて一つの物になるんだ、名付けて太極器ってとこか」
生徒たちに見えるように床へ置き、まずは特性を説明する。
「これは通常の循環サイクルにプラスマイナスの要素を取り入れてる。本来太極から分化する陰陽の両儀を先に用意し、2つを合わせる事で太極を生むのが目的の装置だ。太極ってのは全ての源、そう命とかも含む全ての根源だ。形の定まる前の可能性の塊だ。これをアルファが取り込めばオメガの魂が無くても大丈夫なはずだ。なんたってオメガの魂と同じカタチになる可能性すらある代物だからな。その為に完全にアルファ用の調節をしたから他の奴には使えない。そういう風に作ったからな」
操作するところを人差し指で示し、手順を説明してやる。
「その望みに賭けてみるのじゃ!成功すれば暗い森へ戻らずとも済むのじゃぞ」
アルスがアルファを勇気づけるように声をかける。
「―・・・分かりましたわ」
「さぁ、起動するぞ・・・」
「魔科学ってこんなものまで作れるのか」
紫音はそれをじっと見つめて思わず息を飲む。
太極器は陰陽の色の光を発して起動を始め、オメガと同じような姿の存在がその上に現れる。
その身体は半透明に透き通り、命の元として形成を始める。
しかしそれは突然、シュンッと消えてしまった。
もう1度起動して試してみるが、やはり形成前に消えてしまう。
「どうしだ!?後もう少しのところで消えてしまうなんて・・・」
失敗してしまったかと悔しそうに唯斗は拳で床を殴りつける。
「もう他に方法はないのか?」
どうしてもこの地へ彼女を留めておきたい紫音がアルファに聞く。
「十天君の中で生命に関する力を持っている人がいますわ。後は魔科学の技術と悪魔の知恵が必要ですわね。その太極器を改良することが出来れば、ここに留まれるかもしれませんわ」
「悪魔か。闇世界に行ったとき、魔法学校の生徒のパートナーに1人だけいるのをみたな」
「基本的な魔科学の技術は覚えたが。それを応用にするには、ここへ来た魔女の力も必要だな」
「魔女・・・どすか」
風花が波動で飛ばされて気絶している者をちらりと見る。
「危うくオメガの心が暴走しかけたんだもの。ちょっとくらい手伝ってもらわないとね」
じりっと泡が魔女へ迫り、顔を叩いて起こす。
「完成させたい魔道具があるのよ。同じ学校の生徒じゃないの、協力してくれない?」
「フンッ。誰があんたたちの頼みを聞いてやるもんですかっ」
「優しく言っているうちに返事して欲しいんだけど。答えはイエスかイエスよ」
「(どっちもイエスどすぇ。拒否権ナシどすか!?)」
「(この娘、あなどれぬ・・・恐ろしいのじゃっ)」
強引な説得を見て風花とアルスがびくびくと怯える。
「うぅっ、なんで私が巻き込まれなきゃいけないのよ〜っ」
ぷるぷると震えながら魔女は涙声で呟いた。
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