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リアクション
第2章 戦場の戦士たち 7
敵軍の中心部に向けて、半円状の軌道を描く遠距離支援砲撃――迫撃榴弾砲が咆哮した。しかし、いまだ技術不足なのだろうか? 砲弾は大きく軌道を離れて、敵軍の端で巨大な爆音と爆撃を起こす。
「帆船とはいえ、ひるむな! しょせんは付け焼刃! 敵の技術力は低いぞ!」
「うおおおおおっ!」
敵軍を大きく外れてどんどん撃ちこまれてゆく砲弾。それに比例するかのよう、砂上帆船の登場に初めはひるんでいた敵兵たちも、徐々に帆船へと突撃を開始した。
帆船が来る前に中央で起こった広大な爆発は大きな打撃であったが、こちらにはモンスター軍もいる。砂上帆船など恐れるに足らんといわんばかりに、敵軍が攻め込んできた。
だが――その認識が甘かった。
「ぐおおおぉぉっ!」「はぐああぁぁ!」
横合いから連続してなだれ込んだ銃弾の嵐に、敵兵たちは一気に陣形を崩した。砂上帆船2番艦――“ヴィクトリー号”が横合いから突撃してきたからであった。
「ぬっふっふー……フラン提督の名の下に、ネルソン・タッチ作戦始動! さあさ、ここまで来たらもう遠慮なくぶちかましちゃおー!」
“ヴィクトリー号”を指揮する黒乃 音子(くろの・ねこ)が天真爛漫ながらも恐ろしいことを口にする。彼女の指揮に従って、帆船に積まれた重機関銃と対空機関砲が火を噴いた。
一気に“ル・ミラージュ号”に襲い掛かろうとしていた敵兵たちは、予期せぬ出来事に陣形を見事なまでに崩している。いわば、囲いに入った袋のネズミ状態であった。
「どんどんいけー!」
能天気に掛け声を発していながらも、音子の指示は的確に兵士たちを動かしている。隙のないそれに、敵軍はどんどん潰されていっていた。
加えて――帆船に乗り込んでいた音子のパートナー、フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)の目が視界に固まった影を見つける。
「よし、向こうも来たでござるな。音子、我もでる」
「おっけー、んじゃ、進路作ってー!」
フランソワは大型騎狼に乗って、左右にパラミタ猪を従えて帆船から飛び出した。ビリビリと空気が震えるような咆哮をあげる大型騎狼は、アウラ――“そよ風”と名づけられたその名には似つかぬほどの速さで風を切った。
「な、なんだ、あれはっ……!?」
敵兵たちが一同に驚きの声をあげた。
だが、それはフランソワに向けられたものではなかった。
「うおおおおおぉぉぉ! とつげきいいいぃっ!」「おおおおおおぉっ!」
砂丘から姿を現したそれは、群れを成して突撃してくる南カナン兵の軍勢だった。先頭に立つロイ・ギュダンに率いられ、帆船に動きを止められた敵軍へと突っ込んでくる。
ネルソン・タッチ作戦――二基の砂上帆船が誘導した敵追撃兵を更にかく乱する、歩兵の伏兵部隊。いま、それは完成されるときだった。
金属音のぶつかり合う音と兵士たちの声が拡大した。砂地の一戦場に、絡み合ったような兵士たちの戦いが始まったのだ。
「フランソワ! 中央を巻いてくれ! こっちでこれをぶちこむ!」
「了解でござる!」
ロイは狙撃銃――バレットXM109ペイロード大口径対物ライフルを砂丘を挟むようにして構えた。前方を駆け抜けるフランソワが敵軍の間を暴れまわって敵兵をかく乱させる。
「がぁっ!」
引き金を引かれたXM109から、咆哮が轟く。
南カナン軍の軍勢に、砦軍は次々と味方を失っていった。それでも、なんとか持ちこたえて戦い続けられるのは、モンスターという巨大な武器を持っているからだ。
傷ついた南カナンの兵士たちを、アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)が誘導している。いかにもお嬢様然とした彼女が戦場にいるだけでもいささか不釣合いというところだが……どうやら兵士たちにとっては彼女のような者のほうが希望らしい。
「傷ついた者は拠点に急いで連れて行くのですわ! べ、別に心配してるわけではございませんのよっ!」
無駄にツンデレだ。
いずれにせよ、負傷兵はアデライードたち救護班が優先して運び出してくれるため、ロイたちは戦いに集中できた。
南カナン兵をなぎ払おうとするゴーレムに向けて、ロイの銃弾が撃ちこまれる。
「……さ、まだまだ、始まりはこれからだぜ?」
指揮官は焦っていた。
味方軍がまさかこの砂の大地において帆船とはいえ、船を持っているとは予想もしていなかった。しかも、一気にこちらのモンスター部隊さえ蹴散らすような攻め込まれようである。
このままでは、こちらがやられるのも時間の問題かもしれない。
「くそ……このままでは……!」
勢いで砕いてしまわんとばかりに、指揮官は歯をかみ合わせる。歯軋りのきしんだ音が、彼の悔しさを表しているかのようだ。
「い、いかがいたしましょうか?」
部下の兵士も、声に不安と焦りを募らせていた。
かくなる上は……
「待機している味方兵を……全て呼び出せ!」
「し、しかしそれでは、砦の守りが……!」
「かまわん! 今は敵部隊の進撃を止めるほうが先決だ!」
そうでなくては、示しがつかない。しかも、もし砦内部にまで攻め入られたとなれば、自分の処分がどうなるか。……想像がつかぬほど、彼の思考能力は乏しくなかった。
部下は踏ん切りがつかぬようにしばらく足踏みしていたが、やがて兵士を集うために砦へ向かった。
燃え広がる巨大なその戦火は――最終局面へと向かおうとしていた。
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