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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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第8章(3)
 
 
 座礁している船の甲板。そこでレン・オズワルド(れん・おずわるど)三道 六黒(みどう・むくろ)が対峙していた。
 二人はこれまでに七度相対し、その度に剣を交えてきた宿敵であり強敵だった。
 八度目の邂逅となる戦いは無言のまま幕を開けた。まずは六黒が自身の速さを強化した高速の抜刀術で斬りかかり、レンはそれを舞うようにかわす。
 対するレンが銃で反撃をするが、六黒は速さを活かして軌道を外す。幾度となく戦いを繰り広げてきた者同士の読みあいが戦いを長期化させようとしていた。
 
 同じ頃、アークライト号の甲板では葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)は案内人としての仮面を脱ぎ捨て、七枷 陣(ななかせ・じん)リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)の二人へと襲い掛かっていた。
「…………」
 本来の無口な状態へと戻った狂骨が虚空からギロチンを呼ぶ。それをリーズが剣で弾き飛ばし、隙を突いて陣がファイアストームで反撃する。
「だーっ! せっかくここまでで課題をやり終えたっちゅーのに、邪魔すんなボケ! こっちは補講や追加の課題をどれだけ少なく出来るかの瀬戸際なんや!」
「陣くん、もうアウトは確定なんだから諦めようよ〜」
「まだや! 諦めたらそこで試合終了って偉い先生も言っとる!」
「それはそうなんだけど……」
 一刻も早く戦いを終えようと、陣が狂骨へと肉薄する。すると狂骨はそれを待っていたとばかりに抱き付き、拘束した。
「あー! 陣くんに抱き付くな! このー!」
 リーズが剣の腹で殴り、陣から引き剥がそうとする。だが、痛みを感じない狂骨はそれを無視すると、動きを封じた陣に向けてペドリファイを使った。
「眠れ」
「なっ! こいつは石――」
 真っ向から喰らってしまい、石化する陣。狂骨はそれを確認すると素早く離れて六黒の下に戻って行った。
「じ、陣くん!? 陣くーん!!」
 リーズが陣を揺さぶる。結局近くで戦っていた蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が駆けつけて清浄化を使うまで、陣は石化した状態のままだった。
 
 彼らが戦っている間も、レンと六黒は互角の戦いを繰り広げていた。共に相手の攻撃を熟知していて、決定打どころか有功打すら入らない。
 そこに狂骨が戻って来た。六黒は距離の開いた瞬間を利用して素早く魔鎧として纏う。
「唄え狂骨、奴らへ葬送の歌を。この物語の最後に相応しき最後の歌を」
 六黒の闘気に闇の気が加わる。新たなる攻防の力を得た六黒はこれまで以上に鋭く、深く踏み込んできた。
(さすがに強いか。だが、俺とてその力に抗う術を考えて来なかった訳では無い。鎧が奴の身を護るというのなら、それを貫くのみ――!)
 勢いのある六黒の攻撃をかわし続け、相手の攻撃リズムを読む。そして徐々に回避の幅を狭め、もう少しで避けきれないというギリギリまで回避の隙を減らした所でレンが動き出した。
「喰らえ……この連撃を!」
 魔銃から撃たれた四発の銃弾が六黒に襲い掛かる。その銃弾は魔鎧の一点に注ぎ込まれ、強固な壁に穴を空けた。
(行ける、もう一撃!)
 自己修復により傷が塞がれてしまう前に更に止めの一撃を放つ。それは魔鎧の防御力を貫き、六黒自身にダメージを与える初めての有功打だった。
「ぐっ! さすがよ。わしが宿敵と認めるだけの事はある。その力、わしの次なる力と対するに相応しき物よ」
 膝をつきかけた六黒が立ち上がり、奈落人、虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)の力を解放する。波旬はゆらりと剣を持ち上げると、神速でレンへと斬りかかった。
「速いっ……! やはりまだ倒れぬか」
 斬撃を間一髪でかわし、距離を取る。今の攻撃を回避出来たのはあの攻撃でも六黒は再び立ち上がってくると読んでいたからだ。
 それは何度と無く相対し、それでも決着がつかなかったこれまでの経験から予測したものだった。
(己が命すら戦いの道具にするその執念、その精神力。敵ながら見事と言うしかあるまい)
 再び波旬が剣を構える。そしてその先にいるレンも銃を向け、恐らく最後になるであろう攻撃を繰り出す。
「これで決める……!」
 レンが魔弾の射手で四肢を狙う。先の攻撃と合わせれば相手の機動力を落とす事が出来るだろう。そして今度こそ止めとなる一撃を放つ為、銃を構え直した。
「その隙、貰ったぞ」
「――!」
 だが、波旬の力を得た六黒の身体は変わらぬ速さを持っていた。二人分の力でレンの銃撃を耐えていた波旬が肉薄し、後の先の攻撃をする。レンの追撃と波旬の攻撃は同時となり、互いに傷を負わせた。
「ク……!」
「やりおる。だが、最早引き鉄を引く力もあるまい。大人しく永遠の眠りを享受せよ」
「そうは行かん。俺は負ける事は出来ない」
「その意志、力を求めるが故か?」
「違う。俺の背中には、俺を信じる者がいるからだ」

「皆さん、準備は宜しいですか?」
「はい、問題ありません」
「ボク達も大丈夫だよ!」
「やろう! ノアさん!」
 アークライト号の艦首にノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)神崎 輝(かんざき・ひかる)シエル・セアーズ(しえる・せあーず)の四人が立っていた。そしてノアが中心となり、戦いに赴く我等が船乗りを鼓舞する歌を歌う。
 
 進め
 その厳しさを知りながら
 なお本当の自由を求める者よ
 おまえが辿り着くべきその彼方まで
 七つの海を渡り
 至高の宝を手に入れて
 歌い上げるは
 戦士の歌
 
「む……!」
 波旬が驚きの声を上げる。最早立っているのが精一杯と思われたレンの腕が上がりだしたからだ。
「聞こえるか。若き者達の希望の歌。道を切り開くこの力が……! この力がある限り、俺は戦う……その先にある勝利を信じて!」
 銃口から一発の弾丸が放たれる。戦いに決着をつける『止めの一撃』。それは波旬を貫き、勝負を決める一撃となった。
「やはり、貴様らは面白い……貴様らの作り出す道、精々全うするがよい」
 先ほどのレンのように立つのが精一杯となった波旬が剣を振り上げる。そして残った全ての力を込めて振り下ろし、足場となっている座礁船を破壊した。逃げる力を持っていないレンと波旬は崩壊に巻き込まれ、船の残骸と共に海に落ちる。
「レンさん!」
 ノアが歌を止め、アークライト号の縁まで駆け出す。するとそこから僅かに離れた海面から三人の人間が頭を出した。真ん中にいるレンは両脇の海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)によって支えられている。
「いやはや、危ない所でしたねぇ」
「本当よ。でもお兄さんの泳ぎって凄いわ。ビニールプールの河童と言われたあゆみもびっくりよ」
「幸い泳ぎには自信があるものですから。さて、この方は俺がアークライト号まで連れて行きましょう」
「了解、あゆみは海竜と戦っている人の援護に行って来るわ」
「向こうは大きな相手です。お気を付けて」
「ノンノン、そう言う時はクリア・エーテルって言うのよ」
「クリア・エーテルですか。それにはどんな意味が?」
「ご無事で、とか幸運を、って意味よ♪」
「なるほど……では、クリア・エーテル」
「クリア・エーテル! 行って来ま〜す☆」