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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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第8章(2)
 
 
「覚悟がどうとか、小ざかしいんだよ! 要は殺し合いを楽しめりゃそれでいいだろうが!」
 戦いが始まり、アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)を魔鎧として装着した白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が飛空艇でアークライト号に近づく。そして着艦の隙を無くすように松岡 徹雄(まつおか・てつお)が煙幕を展開した。
(そろそろこの戦法を見飽きた人がいるかもしれないけど、まぁ何事にもお約束って物があるからねぇ)
 徹雄は今、ガスマスクを着けて無言を貫く『裏』の姿となっている。こうなると彼は行動に一切の躊躇いがなくなり、寡黙に仕事をこなす沈黙の『掃除屋』となるのだ。
 煙幕を利用して飛空艇から飛び出した竜造が近くにいる者目掛けて疾風突きを放つ。その殺気を看破した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がガントレットで攻撃を受け流した。
「おっと。アンタ、そんなに殺気を振り撒いてどうする気だい? 随分物騒じゃないか」
「中々やるじゃねぇか。ま、精々楽しませて貰うぜ!」
 軽身功を使い、素早く離脱する。どうやら竜造は身軽さを活かした一撃離脱の戦法で来るようだ。
「へぇ……忍者相手に速さで勝負とは面白い。その勝負、乗ろうじゃないか……エクス、睡蓮」
「分かっておる。船の者はわらわ達が見ておくゆえ、心配するでない」
「唯斗兄さん、気を付けて下さいね!」
「あぁ、そっちも任せた。行くぞ、プラチナム」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)に見送られ、唯斗が走る。そしてプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を魔鎧として装着すると、竜造を追うべく船から飛び出した。
「どうやら相手は船の残骸を足場として利用しているみたいですね。マスター、外れを引いて海に落ちないようにして下さいよ」
「外れって言うのが意味が分からんが……そんなヘマをするつもりは無いさ」
 
「くそっ、どっから来る……?」
 煙幕の残る中、篁 大樹は奇襲を警戒していた。そして相手がいるであろう方向に剣を振るう。
「そこかっ!」
(おっと、良い勘してるねぇ。いつも通り攻撃するつもりだったら危なかったかな。でも、残念ながら今回はこんな手なんだよね)
 隠形の術で気配を隠していた徹雄がイカ墨を取り出し、大樹目掛けて投げつける。それは丁度顔に命中し、相手の視界を奪う事に成功した。
「くっ! 何だこれ……!」
(まだまだ行くよ)
 更に氷術で足下を凍らせ、動きを封じる。そして大樹へと素早く駆け寄ると、通り抜け様に足を斬りつけた。
「ぐぁっ! くそっ、このままやらせは――」
 氷を壊し、自由を確保する。が、それと同時に今度は身体が内部から痺れる感覚が起き、大剣を取り落としてしまった。
(即効性だけあってよく効くねぇ、この毒は。それじゃ、その隙を頂くとしますか)
 完全に無防備になっている大樹に強烈な一撃を叩き込むべく近づく。その攻撃が繰り出される直前に二人の間にエクスが入り込み、銅鏡で刀を防いで見せた。
「好きにはさせぬ。睡蓮!」
「はい! エクス姉さん!」
 更に睡蓮が矢を放ち、徹雄を牽制する。二人の連携を前に、徹雄は無理をせずに離脱する事を選んだ。
(ま、どちらにしろここまでで一旦退く予定だったからねぇ。ある程度は引き付けられたし、後は竜造達にお任せしますか)
 徹雄が素早く竜造が置いていった小型飛空艇へと戻り、船から飛び去る。睡蓮とエクスはそれを無理に追う事はせず、大樹へと駆け寄った。
「大樹さん、大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」
「これは……毒か。誰か解毒出来る者を呼ばねば」
 その時、セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)がこちらへとやって来た。
「皆大丈夫!?」
「む、確かセレンスと申したか。おぬし、解毒の魔法は習得しておるか?」
「え? キュアポイゾンなら使えるけど、誰か毒でも受けたの?」
「大樹さんが毒を受けちゃってるんです。すみませんが魔法をお願いします!」
「分かったわ、任せて!」
 セレンスのキュアポイゾンにより、大樹の毒が除去される。幸い傷の方もヒールで簡単に治る程度のものだった。
「悪ぃ、助かったぜ。くそっ、まさかあんな手で来るとはな」
「おぬしは搦め手に弱いからの。わらわ達と共に船の護りに回れ。そうすれば互いに支援も出来よう」
「分かったぜ、エクス。これ以上、あいつらの好きにはさせないぜ!」
 
 速く、もっと疾く。
 唯斗と竜造の戦いは船の残骸を跳び、僅かな陸地を走り、至る所で高速の戦いが繰り広げられていた。
「おらっ、喰らいやがれ!」
 竜造の攻撃を唯斗が素早い動きで回避する。
「こっちの反撃……受けてみな」
 対する唯斗の攻撃は女王の加護でかわし、避けきれない攻撃であっても龍鱗化とリジェネレーションで相殺する。
 互いに決め手を欠いた攻防。それを崩す為に動き出したのは唯斗達だった。
「マスター、このままでは千日手です。むしろ向こうに自己治癒能力がある以上、長引くと不利なのはこちらですね」
「そうだな。それじゃ仕掛けてみるか……さぁ、俺について来られるか?」
 流星のアンクレットの力を使い、更に素早さを上昇させる。そして限界まで上げた速さで竜造の視界から消えると、死角からブラインドナイブスを繰り出した。
「へっ、甘いんだよ! 喰らいな!」
 殺気看破により唯斗の動きに反応した竜造が振り向く。上空から狙おうとした唯斗の身体は空中で身動きが取れず、良い的だ。雲の切れ目から僅かに差し込む太陽が逆光になって表情は見づらいが、きっと驚愕している事だろう。そこに目掛け、竜造は跳び上がるとスタンクラッシュを思い切り放った。
「このまま海に落ちやが――」
「――らないんだな、これが」
 更に上から声が聞こえる。よく見ると下に見える唯斗の服には船板が一枚差し込まれているだけだ。
 竜造の表情が驚愕に変わる。相手はこちらが気付く事を見越して空蝉の術を使い、更に逆光で気付かれ難い位置に跳び上がっていたのだ。
「アンタ相手に手加減は難しいからな。全力で決めさせて貰う! プラチナム、お前の力を借りるそ!」
「えぇ、いつでもどうぞ」
 隙の出来た竜造に向けてランスバレストを放つ。鋭い切れ味を持つティアマトの鱗での一撃は強力な物だ。
「ぐっ!」
「まだだ。アンタの方こそ海に落ちて貰う」
 そのまま上から押し付け、重力に任せて降下する。そして海面に激突する直前、竜造の身体が光って消えていった。どうやらこの一撃で決着がついたと判断され、現実世界に弾き出されたようだ。
「マスター、このままだと私達が海に落ちますが」
「いや、分かっては、いるん、だがっ」
 空中で必死に身体を捻り、何とか海に浮かんでいる板の上に着地する。だが、勢いを殺しきる事は出来ずに板ごと海に突っ込んでしまった。
「最後の最後で決まりませんでしたね、マスター。まぁ空蝉に使った服を着れば問題無いでしょうが」
「……フォローになってないフォローを有り難う」
 残骸にしがみ付く唯斗にクールに言うプラチナム。相変わらずな魔鎧であった。
 
 
「おいおい、随分強いな。あちらさんは」
 戦いを遠くから眺めている天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)がつぶやく。こちらとて一人ひとりの力はかなりあるのだが、向こうはそれに加えて連携をとっているので厄介といえた。
「にしても、この海にいるっていう海竜がどこにも見当たらないのは何でかね。あれか、俺が最後の番人っぽい立ち位置になったから変わっちまったのかね」
 物語の筋書きそのままに進んでいる訳では無いという事はアユナから聞いていた。その為に改変が起きたのでは、と考えるのは当然の事だった。
「取り合えず呼んでみるか。来たれ海竜……なんてな」
 何気なく口にしたその言葉に反応し、海面が盛り上がる。そしてそこから強大な海竜が姿を現すと――大笑いを始めた。
 
「は〜っはっは! 俺様参上!」
 
「…………」
「お? ちょいとそこのあんた。何故に微妙な反応? せっかく頼りになる海竜様が出てきたっていうのに」
「随分陽気な海竜だな……」
 どうやらこれまでの何人か同様、海竜としてこの世界に巻き込まれた者がいたようだ。その人物、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は人間ですら無いこの状況を結構楽しんでいるように見える。
「な〜に、話はちゃんと水中で盗聴済みよ。俺様があいつらを倒して、綺麗なお宝を根こそぎ頂きだ!」
 意気揚々とアークライト号に向けて泳ぎだすゲドー海竜。ヒロユキはただ無言でそれを見送り、最後にぼそっとつぶやいた。
「こりゃ負けたかなぁ……」