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リアクション
愛機クェイルで森へとやって来たのは、みすみ達と同じ食料調達員として働くロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)と、そのパートナーのレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)であった。
『獣を追う狩り』ということで、イコンから降りた二人はそれぞれの役割分担を決めて各々行動していた。
馬上ならぬ小型飛空艇上から、素早さを生かして逃げるパラミタウサギを弓矢を構えて追うのはロアである。
次々と目前に迫る木々の間を高速スピードを維持したまま、超低空飛行で駆け抜けていく。
ヒュンッ!!と、セフィロトボウから放たれた矢がパラミタウサギが0.01秒程前に居た地面に刺さる。
「流石に速いな……追い込む作戦に切り替えるか……いや、アレは大物用に取っておきたい!」
と、矢を継ぎ足しながらブツブツと口にするロア。その口元には狩りを満喫する男の笑みが浮かんでいた。それと同じくして、妖艶で美形のパートナーの不満そうな顔も浮かぶ。
思い起こせば、食料調達のため森へと向かうイコンの中から、ロアとレヴィシュタールの温度差はあった。勿論、その温度差はお互いがお互いをよく知り、理解している事からくるものである。
「俺は金さえ貰えれば店員でもよかったんだけどなー」
レヴィシュタールがコクピットに足を投げ出しているロアを見る。
「あんな下賤な酒場などお断りだ」
「言うと思った……と言うか下賤でない酒場ってあるのか?」
「こんな場所で冒険者を客層に見込んだ酒場など知れている。入りたくもない」
「俺もアドベンチャラーなんだが……」
と、ロアの反論を聞くより早く、
「お前は別だ」
「贔屓だ」
「喧しい。さっさと行くぞ」
「まあいいや。店員や警備員より俺向きの仕事がある事だし……食材調達員!俺の弓とサバイバル能力の出番だ!」
「野蛮さを誇るな」
レヴィシュタールが突っ込むも、ロアは既に「弓よし、矢よし、ダウジング道具よし、ザイルよし。小型飛空艇の燃料もしっかりいれた! 待ってろよ! 俺のエモノ!!」と、自分の世界に早くも突入しかけていたのであった。
ここは森の中を流れる川の水辺である。
ほぼ源流にあたる透明度の高い川には、川魚が豊富におり、それを狙う獣。そして、水を飲みに来る獣がいた。食料調達員に配布された簡素な地図はおろか、上空からでも正確な場所は分かり得なかった場所である。
ここを突き止めたのは、ロアのダウジング能力の賜物であろう。
そして、この水辺近くの場所には岩で出来た天然の窪みが、まるで洞窟の様に口を開けており、その中で、レヴィシュタールは川の流れる音や時折聞こえる鳥のさえずりを静かに耳を傾けていた。
「……悪くない環境だ」
そう言えば、かつて暮らしていた遺跡では地鳴りと蝙蝠の鳴き声くらいしか聞かなかったな、とレヴィシュタールは目を閉じる。
既にロアから出されたオーダー通り、大きなエモノ用の落とし穴と足ひっかけのザイルを併用した罠は作成済みである。
「あとは、この平穏を破る者がいつ来るかだな……」
そこに二組の足音が聞こえる。
「あー! 川だよ!! あそこで洗えるよ!!」
「えー……誰か来ないかな……って、いきなり脱ぐのっ!?」
「平気平気!! こんなところ、誰も来ないって!!」
きゃぴきゃぴと騒ぐ声に、レヴィシュタールが欠伸を一つする。
「……獣ではないな」
「ヨシッ! 当たったぜ!!」
小型飛空艇から降りて、矢の刺さったパラミタウサギを拾いあげるロア。
「よし、これで五匹目! まだ弓矢で粘れそうだな……ん?」
ロアの耳に、ドドドド、と森を駆ける足音が聞こえる。
「近いな……何か二足歩行の様な気もするが……追ってみるか!」
と、ロアが小型飛空艇に飛び乗る。