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 店のバックヤードに篭り、店員達の統括、所謂マネージメント業務をしていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)の耳にも、店内の一段と騒がしくなった様子が聞こえていた。
 目の前のパソコンのモニター上に映る、店の売上げや新メニューの企画書等とにらめっこをしていたルカルカが顔をあげる。
「何か……騒ぎかしら?」
 椅子を軋ませ、店と繋がった扉を振り返るルカルカ。肘が当たり、机上の書類が落ちる。
「おっと……」
と、書類をキャッチする。
 そこに、扉を開けて、なななが駆け込んでくる。
「大変大変!! 阿鼻叫喚の世界一歩手前な雰囲気だよ!」
 なななを見て、悪い意味で目を細めるルカルカ。
「……そう言えば、ドリンクバーを壊したそうね?」
「そんな事は些細な事だよ! とにかく大変なの! どうする? やっぱり、ななながパンチラしなきゃ駄目かな?」
「パンチラはさておき……何が大変なの? こっちは846プロのイベント収支をまとめるので忙しいんだけど?」
「みんなミルクミルクミルク! と大合唱しながら、得意な武器や魔法を見せびらかせようとしているみたいなの!」
「……そう」
と、ルカルカが先ほど拾った書類に目をやる。
 そこには、『蒼木屋の新戦力! 各濃度と新鮮さを強烈キープした最強のミルク専用ドリンクバー誕生!!』と書かれた営業の宣伝がカラフルなイラストと共に示されている。
 ルカルカが書類の下部にある『要・不要』の欄に、『不要』とマークした書類である。
「もう……何もかもが上手くはいかないものね」
 ルカルカが溜息し、なななが首を傾げる。
「何のこと?」
846プロのステージ前に、この店の女将を決めるイベントをやるはずだったのよ……。それで、演奏の前に新しい女将をステージにあげて客に紹介するつもりだった……けど、その肝心の女将勝負の審査員が大遅刻中……はぁ、頭痛くなるわ」

「それなら、なななが女将になってあげてもいいわよッ!!」
「ええ、ありがたくお断りするわ」


と、椅子を回転させたルカルカが、机の引き出しを開けて数枚の書類を取り出す。
 全て写真がついた経歴書。つまり、履歴書である。
「ルカルカが「ちょー大変、ルカが二人欲しいっ」って言った時、「はいはーい、アコもやるぅ♪」って言ったアコが、こんな時に居ないのは、予定外だったわ」
 扉がコンコンとノックされる。
「どうぞ?」
 ルカルカが言うと、ゲイルと共に店員のアリサ・ダリン(ありさ・だりん)が入室してくる。
「あら? アリサとゲイル、どうかしたの?」
「私はそろそろ仕事の終わる時間なので、その挨拶に来ただけなのだが……」
 ゲイルの前にアリサがズィっと出る。
「そなた、ルカルカと言ったか?」
「そうよ、アリサ、どうしたの、随分怖い顔をして?」
「あの店内でやたらと騒ぐ無法者達……翔を呼んでイコンで一掃したいのだ。許可を!」
「却下ね」
 アリサが小さな体をワナワナと振るわせる。
「あいつら、私に対して「ミルク飲まないとデカクならねぇぜ! あ、胸もか」とか散々言いたい放題言ったんだ!」
「……それは酷いわね、でも今は店員だから我慢して、ね? あまり酷かったら、警備員呼んで摘み出してあげるから」
「先ほども、店内警備員の洋に頼んだ。表に出て遠慮無く発泡してくれと……」
「……で? どうなったの?」
「それが……「すいませんが、順番待ちです。あと、6人と決闘するまで待って下さい」と言われた」
 ルカルカは店から与えている洋の金バッジの在庫を、頭の片隅で勘定しながら、アリサに言う。
「店員ていうのはね、多少嫌なお客であっても、キチンと笑顔で対応しなきゃいけないのよ? アリサも、ここでそんな小物相手に人生賭けるわけにはいかないでしょ?」
 これまでも店員の総括、というか、愚痴や悩みをよく相談されたいたルカルカが、アリサを優しく諭す。
「でも、お店がカオスなのは違いないよ!! どうするの!?」
 ななながルカルカに言う。
「明子が騒ぎを起こすのは了承済みよ。そして、ちゃんとその解決方法も手を打ってあるわ。心配しないで?」
と、なななとアリサに微笑むルカルカ。
「ルカルカ殿。明子殿が騒ぎを起こすのは了承済みとは、一体……?」
「明子はミルク係をやるって言ってたから、お願いしたのよ」
 ゲイルに静かに頷いたルカルカが、また頭を抱える。
「でもって……あとは董卓ね。早く連れてきてよ、アコ……」