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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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第7章(3)
 
 
「もうすぐ……もうすぐよ! お願いゴースト、あと少し……耐えて頂戴!」
「分かっている。あと少しなのだ……ここで捕まる訳には……!」
 草原を走る一台のバイク。ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)を叱咤激励しながら、永倉 八重(ながくら・やえ)はシンクへと続く道を逃げ続けていた。
 クレアニスで勇者の為に鍛えられた神剣を受け取った八重。だがそこからの道は決して平坦な物では無かった。
 幾度にも渡る魔物との戦い。神剣の輝きを怖れるのか、その数は増えるばかり。そうした襲撃を退け続けた八重は今、クレアニスへと辿り着いた頃とは比べ物にならない実力者へと成長していた。
 ――しかし、そんな彼女でも必死に退路を行くしか無いほどの敵が現れた。
 走る。走る。今はただ、希望を届ける為に。そう、それが八重に課された宿命――
 
 魔法少女ヤエ 外伝第2話 『神剣の守護者』
 
 
「クハハハハ……見事、見事だ勇者ども……! その力、確かに魔王様に牙を剥くほどのものだ……だが、覚えておくがいい。この俺が倒れても、第二第三の悪の天才科学者が、貴様らの前に立ちふさがるであろう!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)が炎に包まれながら笑い叫ぶ。勇者達の尽力によって村のアンデッドが駆逐された事により追い詰められた彼は最終手段となる自爆装置を起動させていた。
「我らの遺す最高傑作が塔にて貴様らを待ち受けている。この結果が束の間の勝利であった事、その時にでも思い知るのだな! クハハハハハ……ハハハハハハッ!!」
 閃光とともに爆発が起きる。光が収まった時、彼のいた場所にはクレーター状の穴だけが残っていた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が辺りを見回す。幸い爆発の衝撃を直接受けた者はいないようだ。近くで戦っていた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)達も剣を納めてこちらへとやって来る。
「最後は予想外だったけど、どうやら全部片付いたみたいだな。あの男だけはいつもの通りに逃げて行っちゃったけど」
 言うまでも無いが、天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)の事だ。彼はアンデッドが全て倒された瞬間、自爆を選んだハデスとは対照的にお決まりの台詞を残しながら逃走していった。
 こうして戦いが終わりを迎えた頃、ゴーストに乗った八重が走ってきた。その手に握られている剣を見て、本来の持ち主である相田 なぶら(あいだ・なぶら)が喜びを見せる。
「おぉ! 遠くからでも感じられる神々しい力! まるで神の生命が宿ったような……さすがは鍛冶の神が鍛えた剣だ!」
 当然の事だが、なぶらはその神の生命が使われた事など知る由も無い。
 そんななぶら達の前に八重達が走り込む。その口から発せられた最初の言葉は、無事を喜ぶ言葉でも再会を祝う言葉でも無かった。
「皆気を付けて! 敵が来るわ!!」
 
 
 魔王、その名を持つ人物は一人では無い。一年ほど前に織田 信長(おだ・のぶなが)がそうだったように、今は別の者が君臨しているように、三年前にもまた別の魔王が魔物達を支配していた。
 対する勇者とて一人では無い。三年前の戦いで仲間とともに魔王を打ち倒した者も、当時の者達から勇者と呼ばれていたのだ。
 イストリアの戦士、クレアニスの神官、そしてシンクの大魔法使いセドリック。そしてシンクから生まれし勇者、その名は――
 
「うそ……朝斗? 朝斗なの……?」
 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が信じられないといった表情でやって来た者達を見る。現れた三人の男女。その中心にいる男こそはかつて魔王を打ち倒した勇者、榊 朝斗(さかき・あさと)だった。
「また勇者を名乗る輩が出てきたか……勇者など、どこにも存在しないと言うのに」
 シンクに住むフレデリカやルイーザ、篁 透矢(たかむら・とうや)は彼がこの村で暮らしていた朝斗だと分かったが、その外見や雰囲気からはかつての面影は見られなくなっていた。
 そう、たとえるなら『魔』に支配されたと言うべきか。
「朝斗はあの時、ここに帰って来なかった。だから魔王と刺し違えたと思っていたが……」
 透矢達が送り出した勇者達のうち、故郷に帰る事が出来たのはイストリアの戦士だけだった。その男は凱旋した際、他の仲間は塔での戦いで皆力尽きたと報告していたのだ。
 だが何故朝斗はこうして生きているのか。何故三年の間、自身が生きている事を知らせてこなかったのか。そして――何故隣にいる二人に、かつての同胞である八重を襲わせたのか――
 
 不穏な空気の下で対峙する両者の所に、元魔王軍のイェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)がやって来た。彼女は朝斗に視線を向け、静かに口を開く。
「貴様から感じる『闇』の気……かつては無かった物だ。榊 朝斗……かつての勇者が魔王の手下になり下がったか」
「お前こそ、薄汚れた人間に染まったか……燃え滓が」
 燃え滓。朝斗は今のイェガーをそう評した。それ自体は最早イェガー自身も認めている事だから問題では無い。だが敵として対峙したとはいえ、勇者として塔へと乗り込んできた時の朝斗は他人を見下す事の無い、それこそ『勇者』と評するべき存在だった。
(この変わりよう……何かがあったとするなら、私が敗れた後の魔王との戦いか、それ以降か……)
 冷静に朝斗の変貌を分析するイェガー。動きの無い両者に飽きたのか、朝斗と一緒にやって来たアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が急かした。
「ねぇ朝斗。どうでもいいから早く始めようよ。こんな奴らさ、いつもみたいにグサっとやっちゃえばいいんだからさ」
 アイビスは製作者に酷い扱いを受けた事により破壊衝動が強くなってしまった機晶姫だった。朝斗の言う事には従うものの、戦いを遊び感覚で捉える好戦的な性格は、しばしば刃を交える相手を恐怖に陥れている。
「ふふ……これだから機械は無粋なのよ。ここは朝斗にとって因縁の地。なら下賎な人間達にもそれなりの相手となってもらわなければ、ね」
 今度は反対側に立つルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が妖艶な笑みを浮かべる。彼女は今は無き村で神に仕えていた神官だったが、ある時に魔女の疑いをかけられて以来、迫害され続けて遂には闇にへと身を堕とすという不遇な過去を持っていた。魔王軍に入ってからは復讐として村を滅ぼすなど、それこそ『魔女』というべき行いを続けている。
「ふんっ、オバさんはそうやってトロトロやってればいいじゃん。その間にあたしは朝斗と楽しく遊んでるからさ」
「良く言うわね、小娘が。朝斗を満足させてあげる事も出来ない癖に」
 朝斗を挟んで火花を散らす二人。真ん中にいる朝斗はルシェン達の腰に手を回すと、不敵な笑みを浮かべた。
「喧嘩はよせ。やるのはあいつらを滅ぼす事だけだ。戯言などもう……必要無い」
 朝斗の声を合図に三人が動き出す。かつての仲間が今、牙を剥いて襲い掛かってきた。
 
 
「アハハハッ、さぁ踊ってよ!」
 アイビスが両手の銃から弾丸をばら撒く。さらに回避を行う勇者達目掛けて、ルシェンが氷の翼で突撃を行った。
「滅びなさい……下賎な人間ども!」
 口ではいがみ合いながらも戦闘となると息のあった連携を見せる二人。何とか回避をした八重はクレアニスで打ち直してもらった脇差を取り出して構える。
「気をつけて下さい! どちらかに気を取られると、そこを突かれます!」
「ふふっ、気を惹く手段は一つじゃないのよ、お嬢ちゃん」
 ルシェンがルージュと魅惑のマニキュアを塗り、妖艶な色気をさらに上昇させる。そして男を油断させる為、ドレスから足を覗かせ――
 
「お姉さん! 是非そのおみ足でお兄さんを踏んでぶるはぁっ!?」
 
「……いきなり出てきて何言ってるのだ」
 ――今何かいた。クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)っぽいのが。
 
 
「温い。温いなお前の炎は。あの時も炎とは比べ物にならんぞ」
 イェガーの放つ炎を朝斗がトンファーで薙ぎ払う。三年前に魔力のほとんどを封じられたイェガーの、これでも精一杯の攻撃だ。
(やはり灰に等しい身では焦がす事すら出来んか……だが、図らずも手に入れたこの平穏な生活、ただ乱されるのを見ているだけでは私の気が済まん。残滓といえど……精々抗わせてもらう)
「信長、援護するぞ!」
「うむ!」
 苦戦するイェガーに忍と信長が手助けに入る。元魔王軍と元勇者。奇しくも三年前とは逆の立場での戦いだった。
「火力に不満があるようじゃな……ならば、これを喰らうがよい!」
 今度は信長のヘルファイアが襲い掛かる。さすがにこれを薙ぎ払うのは厳しいとばかりに回避行動を行った。
「勇者と呼ばれたお前がどうして魔王に手を貸す? お前のその闇……魔族だってそこまで深い闇にはならないはずだ」
 互いの武器をぶつけ合いながらも忍が尋ねる。その質問に対して朝斗は笑みを、深い闇を秘めた笑みを浮かべた。
「簡単な事だ。俺にとっての最後の敵……それは魔王では無いからだ」
「どういう事だ……? 確かにお前達勇者は俺とイェガーが敗れながらも一人ずつ倒した。けどお前ともう一人はそのまま魔王を倒したんだろ?」
「あぁ。確かに俺と『アイツ』が魔王を倒した」
「じゃあ何故――」
「待て忍。あの時傷を負って伏せていたお前は知らぬと思うが……あの時人間の街では『一人だけ帰ってきた』と言っておったぞ」
 忍達が敗れた時、生き残っていたのはイストリアの戦士と朝斗の二人だけだった。つまり――
「そうだ。俺はアイツに裏切られたのさ。勇者としての名声が得たい。そんな下らん理由でな……!」
 当時の事が甦ったのだろう。朝斗の闇が増し、髪の色に銀が混じりだす。怒りに身を任せるような朝斗の攻撃は狼のような獰猛さとなって忍に襲い掛かった。
「くっ……! それでお前は闇に身を堕としたのか? 他にもお前を信じていた奴はいるだろうに!」
「あぁいたさ! ルシェンが、アイビスがな! だから俺も『こちら側』に来た!」
「それで救われたのか、お前は!? 他の全てを捨てて!」
「護る価値の無い奴らなど抱える必要などあるか!」
 光の剣――光条兵器を持った忍と闇の朝斗が幾度も激突する。朝斗の髪は全てが銀に染まり、瞳も金へと変化していた。それは既に彼の心の奥底までも闇に囚われ、最早かつての姿を取り戻すのは不可能である事を示していた。
「忍、もう良かろう。私達ではこ奴を救い出す事は出来ぬ。たった一つの方法でしかな……」
「分かってる。分かってるけど……」
 攻撃を防ぎながらも躊躇う忍。その迷いをイェガーが払う。
「この男は自ら闇に堕ちる道を選んだ。人は時にそれを不幸と呼ぶだろう。だが、たとえ倒れようとも、燃え尽きようとも、何かを犠牲にしようとも……己が道を行くのであれば、あえて進まなければならない時もある」
「イェガー……分かった。こいつの闇……俺が切り裂く!」
 一度大きく離れ、速度を上げて突撃する。そして朝斗と交錯する間合いに入る直前、忍は光条兵器を投げつけた。
「その程度!」
 行動を読んだ朝斗が回避する。その速さは風を思わせるほどだ。
「炎を――」
「――受けよ!」
 その動きを制する形で大小二つの炎が飛び交う。足止めを受けた朝斗の懐に忍が飛び込み。光条兵器の代わりに鎌を――魔王軍を抜けて以来封印していた鎌を――振りかぶった。
「……済まない」
 かつて『死の恐怖』の二つ名で怖れられた黒騎士の鎌が朝斗を、闇を刈り取る。自身の全てを切り裂かれた朝斗は元の黒髪に戻り、地面に倒れこんだ。
「ぐ……こんな所で……俺は…………僕……は……」
 朝斗が最期に思った物。それは人間への絶望だったのか。それとも――
 
「あ、朝斗!? ちょっと、朝斗!!」
「そんな私の朝斗が……? 人間ども……許す訳には行きません!」
 大切な存在が殺され、怒りに震えるアイビスとルシェン。そんな二人を狙う陰があった。
「なるほど、あの人達が邪魔をしてたんですね」
「そうみたいだね! さて、そろそろおじさんのしびれ粉が効いてくるはずだよ!」
 ゾートランドの海上で勇者達と出会ったネズミ声の男、松岡 徹雄(まつおか・てつお)が隣にいるアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)に答える。彼らは独自に魔王のいる塔へと向かっていたのだが、塔に張られている結界に阻まれた為に解決手段を探してシンクへと辿り着いていた。
「トモちゃんを捜す旅をしてるのにいつも邪魔ばかりして……許せません。大いに反省して下さいね」
 徹雄に続き、アユナがアシッドミストを唱える。アイビス達が気付いた時、既に周囲は粉と霧によって囲まれていた。
「なっ……これ、いつの間に!」
「さてと、大人しく眠ってもらおうかねぇ」
 動きを束縛された所に徹雄がさざれ石の短刀を投げる。避ける事も出来ず、まともに喰らってしまったルシェンは恨みに震える表情のまま、一つの石像へと姿を変えていった。
「朝斗……朝……斗……!」
「ルシェンまで……! もう許さないんだから!」
 犬猿の仲とは言え、仲間がやられた事でさらに警戒を強くするアイビス。だが――
「許さないか。別に許してもらう必要もねぇよなぁ!!」
「え? そんな――きゃぁぁぁぁ!?」
 満を持して現れた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)がアイビスの身体を一刀両断にする。ルシェンと違って朝斗と同じ運命を辿った事。それは幸と呼べるのか不幸と呼べるのか。それが分かるのは、恐らく本人だけであろう――