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Blutvergeltung…悲しみを与える報復

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Blutvergeltung…悲しみを与える報復

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第1章 止っていた時計の針が時を刻み始める・・・

 仲間を何人も失っただけでなく、研究を何度も・・・何度も邪魔をされた怒りに、十天君は報復を与えようと企む。
 その恨みや怒り・・・憎しみの矛先は、1年前に封神台へ送られた妖精アウラネルクにまで・・・。
 どうすれば歯向かおうとする牙を圧し折り、悲しみに沈ませることが出来るのか?
 金光聖母は冷酷な笑みを浮かべ・・・。
 “手始めに守り役のない妖精から血祭りにしてさしあげましょう”
 と言い放った。
 しかしその者だけでは飽き足らず、研究所の中のゴーストを全て、洞窟の屋敷を襲撃するように命令したのだ。
 “死とは生きる者に平等にやってくるもの・・・。それが遅いか・・・、早いかの違いです・・・。その身を引き裂いて・・・焼けつくような痛みに苦しめて・・・生まれ変わりたくなくなるよう苦痛を与えてさしあげましょうか。”
 絶望の谷底へ突き落とした後、研究データを元に不老不死の身体を得ようと、貪欲な者たちは封神台へ向かった。
 十天君がこのまま何も仕返しをしないはずがないと思ったアルファ・ヤーウェは・・・。
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)と共有していた頃の記憶から、今・・・最も狙われやすいのは誰か気づいたのだ。
「急いで封神台へ向かわなくては・・・。たとえわたくし独りだけでも」
「さて、これでひとまずアルファの方はなんとかなったな。ん・・・?アルファはいつも遠出ばかりしているな、次ぎはそこへ行くのか」
 たった独りで行こうととする彼女の片腕を紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が掴む。
「離してください唯斗さん。これ以上、危険な目に遭わせるわけにはいきませんわ」
「だったら私たちが勝手についていくだけです!」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)はアルファの手をそっと握り、にっこりと可愛らしく微笑みかける。
「ふむ…ならこうすればよいな」
 ハンカチを取り出すとエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は、2人の少女の手と手を結ぶ。
「解けぬ限り、もう勝手にはゆけぬぞ?」
「エクスさん・・・何を!?」
「以前にしたことを悔いて、これ以上のことをわらわたちに望みづらいのもわかる。しかし・・・おぬしが望むなら、ここにいる皆は力となりどこへなりともゆくぞ」
「そうですよ、アルファさん。その覚悟があって来たんですから。それに・・・せっかく分けてもらった命なんですし、もっと大切にしてくださいね?」
 俯く魔女の髪をプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が優しく撫でてやる。
「アルファ、願いをかなえるために俺たちに頼っていいんだ!」
「ごめんなさい・・・ありがとうございます・・・・・・」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)たちの言葉に魔女は、袖で顔を隠しポタポタと涙を流す。
「前に言ったろ?俺はアルファもオメガもどっちも助けるってさ。 まぁ、ここまでうまく行くとは思わなかったけどな。んじゃ、ちょっと注意点を言うから聞いてくれ」
 唯斗は若干小型化した太極器を大事そうにカバンにしまうと、彼女のために生成した魂について説明を始める。
「現在アルファは太極から生成した魂を得ている。だが、まだ完全に馴染んだ訳じゃない。 当然もともとあった人格と互いに補完しながら変容し、“アルファの魂”になっていくわけだ。性格がそのままだったり記憶が無くならないのはそのおかげだな」
「ルカたちの人格は影響しないのね?」
「あぁ、その辺りは大丈夫だ。ただまぁ、それが直ぐに完了するもんでも無いのが難点でな。そんなわけで、俺が定期的に診察するからよろしく頼む」
「はい、分かりましたわ」
「それにしても・・・提供した魂の人格は混ざらなのか?なら一安心だな。ルカのギャグセンスとか、ルカの滑りやすいお笑いだとか・・・。そのようなことを、アルファ殿が言う危機はないんだな」
「淵〜っ。今、何かいったわね?」
 ほっと安堵して言う夏侯 淵(かこう・えん)を、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が軽く睨む。
「さぁ・・・何のことだろうな」
「いいじゃないの、楽しければそれで!―・・・あっ、ラスコットさん。ありがとう、貴方とはまた逢えそうな気がするわ」
「ん、そうだな・・・またいつかな」
「じゃあ・・・またね」
「あ、そうだ。性悪な魔の者は、何を考えて仕掛けてくるか分からないからな。その魔女が大切なら深追いはするなよ」
「忠告ありがとう。危険な目に遭わせたりしないから大丈夫よ。もちろん・・・ルカたちもね」
 目の前で自分たちが深く傷つけばきっとアルファが悲んでしまう。
 それも気をつけなきゃね、と言うと彼に手を振り、仲間たちの元へ走っていく。



 仲間を傷つけるだけに飽き足らず、アウラネルクを始末しようとする金光聖母たちよりも先に、封神台にたどりつこうと七枷 陣(ななかせ・じん)は空飛ぶ箒スパロウに乗りフルスピードでかっとばす。
 トラウマの雨に襲われようとも、ただの幻影だとシカトする。
「アウラさんを殺すだと?・・・ざけるな、ざけんじゃねーよ!」
「ぶちのめしてやりたいのもわかるけど。まずはアウラさんの救出が優先だからね?」
 熱くなりすぎて敵の中につっこんでいかないか、心配になったリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は箒を彼の傍に寄せる。
「んなこと分かってるっつーの!けどな、邪魔するやつは・・・」
 “容赦なく消し炭にしてやる・・・”と、吐き捨てるように言い放つ。
「うん・・・その時は止めないよ」
 生きてるけど逢えないんじゃなく、死んで2度と逢えなくなるのだけはイヤだ。
 たとえ捨て身で灼熱に焼かれようとも、どんな手を使ってでも助け出すと覚悟を決めている。
「―・・・陣、治療してくれありがとうね」
「傷ついた仲間を放っておく薄情なマネしたくなかっだけや」
 礼を言うカティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)に陣は振り返らずに、気にすんなっというふうに言う。
「(そうはいっても。早く助けに行きたかったはずよね・・・)」
 外道な男の炎に焼かれ、陣の魔法のおかげで救われたが、そのために十天君を追うのが遅れてしまった。
 十天君に殺意を向けられた妖精の元へ、一刻も早く行きたいはずなのに・・・と、申し訳なさそうに心の中で呟いた。
「それにしてもあの男・・・。見つけたらただじゃ済まさないわよ」
 己の欲望のために何の躊躇もなく、この身を焼かれた怒りにカティヤは悔しげに言い、ワイルドペガサスの手綱をギリッ・・・と握り締める。
「(ふぅ・・・、やっと離れてくれたのはいいけど。今度は不の感情の中へ特攻するのかなー・・・)」
 憑かれた状態から解放というより、釈放されたような感じの椎名 真(しいな・まこと)は、殺意にまみれた戦場へ赴く。
「真・・・なぁに今更なこと言ってんだ。まともに信念をぶつけ合う戦場でもないんだからな。向こうはこっちが、どうやったら傷つくか嫌な手を使ってきていんだ」
 卑劣な手段で戦意を削ごうとしている連中に、そんな感情しかないんじゃないか?と、カティヤの後ろで原田 左之助(はらだ・さのすけ) はため息をつく。
「そうだね・・・。(それに放っておくと危なそうだし・・・)」
 血で血を洗うことになろうとも、ここまで必死に追ったあげく、大切な友の命を消されてしまったら・・・。
 2度と立ち上がないほど陣の精神は、粉々に砕け散ってしまうんじゃないか。
「(本当にそろそろこの戦いに、けりをつけなきゃなぁ。病みきってただ殺し合うのは見たくないからさ)」
 壊れてしまったら・・・今まで何のために戦ってきたのか、それすらも忘れてしまうかもしれない。
 互いに憎しみ合いながら争う生き物に、成り果ててしまうんじゃないだろうか。
「(俺に出来ることはそっちの道じゃなく、無事に妖精と逢える道を作ってあげることくらいだけどね)」
 妖精を助けたい彼らのためでもあるけど、何度も悲しみも生まないように、皆の心を救う力になろうと戦場へ飛び込もうとする。
「やっと幻影が消えたね、陣くん。あの森の香りがしなくなったみだいし。もう研究所からかなり離れたっぽいね」
 陣の頭の上にしつこく浮いていた雨雲が消えた瞬間をリーズが目撃した。
「アウラさんのこと、エルさんにも伝えたいんやけど。なかなかつながらん・・・」
 森の守護者の代理をしている彼と、もう1人のパートナーにティ=フォンで陣が連絡しようとしているが電波が悪く、なかなかつながらない。
 まだ妖精の危機を知らないエル・ウィンド(える・うぃんど)は・・・。
「今日は密猟者たちは来てないけど、油断は出来ないね・・・。ん・・・陣さんからの発信?もしもーし、どうしたんだい?」
「おっ、やっとつながった!」
「何度もかけてくれてたのかな。今、アウラネルクさんの代わりに森を守ってるから、場所的にかかりづらいからね」
「エルさん・・・またアウラさんが、十天君の標的にされてしまったんや!今すぐ封神台へ来てくれっ」
「アウラネルクさんが身体や記憶を再生しているところだよね?」
「そうや!あいつら、オレたちに仕返しするために、わざと狙ったんや。マジ最低なやつらやなっ!!あれから1年と数ヶ月やぞ!?なのに・・・今度は一生逢えなくなるなんて、ざけんなっつーの!!」
「怒りたいのもわかるけど、まずは落ち着いてよ陣さん。怒りに任せてばかりじゃ、十天君の思う壺だよ?そんなんじゃ、護りたい人も守れなくなってしまうからね」
 彼とは対照的に落ち着いた様子でエルは言葉を続ける。
「僕も今すぐ封神台へ行くよ。傷つけられたり、死なせたくはないからね」
 プツッと通話モードを切ったエルはエターナルコメットに乗る。
「ふぅ・・・今度は魔力だけじゃなく命まで奪おうとしているのか・・・。ん?大丈夫だよ。アウラネルクさんは僕たちが連れて帰ってくるから。イイ子で待ってるんだよ」
 心配そうに見上げるマンドラゴラの頭を撫でてやる。
「もし危ない人が来ても、食べちゃいけないからね。軽くお仕置きして、追っ払う程度にしてよ」
 お留守番を頼むと彼は封神台へと急ぐ。
 小尾田 真奈(おびた・まな)の方も陣から連絡をもらい、彼に超特急で頼むと言われ、封神台の近くまできている。
「ご主人様、もうそろそろつきそうです。すでに中にいらっしゃいますか?」
「たぶん、もうすぐやね」
「あっ陣さん!左じゃなくってこっちですよ地図を見ても、細かく表示されるわけじゃないですから。はぐれないように気をつけてくださいね」
「ありがとう歌菜ちゃん。つーかこの森、どんだけ広いんやっ!?」
「徒歩でもかなりかかっちゃうところですからね、仕方ないですよ。向こうは徒歩だと思うんで、同じくらいにたどりつくか先につくかもしれませんよ?」
「そうやね、1分1秒でも先についてやる!」
 妖精と逢えなくなってから、何十年も待ち続けてようやく逢えるような感覚だ。
 レヴィアに自分たちの言葉を伝えて欲しいと言い、生きているうちに逢えないかも・・・。
 そう思っていたのにやっと再会出来る時がきた。
 その妖精を傷つける者は・・・。
 誰が相手でも怒りと憎しみの焔で焼き尽くしてやる。
 “原型を無くすほどその身を消し炭にするぞ。
 逝ねや・・・っ”