|
|
リアクション
【少しずつ、一歩ずつ。共に−−】 〜 伊礼 悠&ディートハルト・ゾルガー 〜
「すみません、ディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)さん。ディートさんにばかり、荷物持ってもらっちゃって……」
「気にするな。元々、そのために来たのだから」
「で、でも、ホントは他の皆さんにも持ってもらうハズだったのに……」
「他の連中は、急用で来れなくなったのだ。仕方あるまい。それより、買い物を急ごう。まだまだ、買う物があるのだろう?」
「あ!ちょ、ちょっと待って下さいディートさん!」
『もう、この話は終わり』、とばかりにスタスタと歩いて行ってしまうディート。
伊礼 悠(いらい・ゆう)は、慌ててその後を追った。
久し振りのオフのこの日、悠とディートは、食料や日用品の買い出しに、街へと来ていた。
このところ、忙しくて買い物する暇もなったため、色々と足りないモノが出てしまったのである。
元々来る予定だった他のパートナーたちが来ていないのは、さり気なく2人に気を使ったからなのだが、2人共その事にはまるで気づいていなかった。
「ふぅ……。これで、全部買えたかな?」
「買い忘れは無いか、悠?」
「え……と。ハイ、大丈夫です。ディートさんのお陰で、スゴく早く終わりました♪」
メモと袋の中身を見比べていた悠が、顔を上げてニッコリと微笑む。
「よし、それじゃこの後どうする?まっすぐ帰るには、少々惜しい天気だが」
今日は『爽やかな秋晴れ』という言葉がピッタリの天気である。
「あ、それなら、少し服を見て行ってもいいですか?ちょっと秋物が心許なくて……」
「わかった」
2人は、ブティックが並ぶショッピングモールの一角へと足を運んだ。
「へ〜。今年は、こういうのが流行りなんですね〜」
店内に並ぶ服を、興味深げに見つめる悠。
「あ、アレカワイイ!」
「どれだ?」
「あれです、あのチェックのやつ」
「あぁ、アレか」
「でも、私にはちょっと可愛過ぎるかな……」
「そんなコトはないだろう。試着してみたらどうだ?」
「い、いいですよ、そんな!どうせ似合いませんし……」
「売り物なのだ、遠慮することはない」
店員を見つけると、ディートは近寄って声をかけた。
「済まない、あの服を試着したいのだが」
「あちらですね。かしこまりました。少々お待ち下さい」
「え!ディ、ディートさん!?」
突然の展開に悠がワタワタしている内に、服を手に取った店員が悠を試着室へと招く。
店員を目の前にして断ることも出来ず、悠は試着室へと姿を消した。
そして数分後−−。
「あ、あの……。どうですか、ディートさん……」
自信なさ気に、おずおずと試着室から現れる悠。
気恥ずかしいのか、顔を赤くしてモジモジしている。
ディートは黙ったまま、試着室から現れた悠を、じっと見つめている。
何も言わないディートに、悠の緊張は高まる一方だ。
「あ、あの……に、似合わないですよね、やっぱり……」
俯いて両手をギュッと握ったまま、ようやくそれだけ言う悠。
(やっぱり、着なければ良かった……!)
悠が、そう思ったその時−−。
「いや。よく似合っている。いつもとだいぶカンジが違うので、一瞬見違えたが……。うん、よく似合っているぞ」
「えぇ!そ、そんな、変に気を使わなくても−−」
「気など使っていない。思った通りに言ったまでだ」
「で、でも、私には少し可愛過ぎじゃないですか?」
「そんなコトはない。常々、悠は少し地味過ぎると思っていたぐらいだ。それくらいでちょうどいい」
「そ、そうですか……?」
「あぁ。お前は自分の容姿を過小評価し過ぎる。もっと、自分の容姿に自信を持った方がいい」
「は、ハイ。あ、ありがとうございます……」
力強いディートの言葉に、すっかり顔を赤くして頷く悠。
「よし。それなら『善は急げ』だ。……済まない、キミ。これを着て帰りたいのだが」
少し離れた場所で様子を伺っていた店員に、ディートが言う。
「かしこまりました。有難うございます」
「え?えぇ!ディ、ディートさんちょっと!私、そんなにお金持ってない−−」
「いつも、悠には世話になっているからな。コレは、私からの礼だ」
「そ、そんな訳には行きませんよ!こんな高いモノ−−」
「悠。人の好意は素直に受けるものだ。それとも、私からのプレゼントでは受け取れないか?」
「い、いえ、そんなコト−−」
「なら、決まりだな」
それだけ言うと、ディートはスタスタとレジの方へと歩き去ってしまう。
「お客様。タグを外しますので、どうぞこちらへ」
結局悠は、それ以上一言も言えないまま、服を着て帰る事になった。
「わぁ……。もう、秋なんですね……」
気の早いクヌギの葉が舞う並木道を、ディートと並んで歩く悠。
ディートからプレゼントされたばかりのスカートの裾が、歩みに合わせてユラユラと揺れる。
「あ、ドングリ!ホラ、ディートさん、まん丸のドングリですよ♪」
手のひらに載せたドングリを、嬉しそうにディートに見せる悠。
「あ、こっちも!」
たちまち、ドングリ拾いに夢中になる悠。
ディートはそんな悠に、温かい視線を注いでいる。
集めたドングリを通りすがりの女の子にあげると、悠は、ディートと並んでベンチに腰掛けた。
「こういうのも、何だかいいですね」
「ん?」
「いえ。いつもとおんなじお買い物なのに、今日はなんだか楽しいなって。あ!おんなじってコトないですよね。お洋服までプレゼントしてもらったのに。現金なのかな、ワタシ」
茶目っ気たっぷりに、「コツン」と頭を叩く悠。
今の悠は、いつもからは考えられないほど、饒舌だ。
「今日は、有難うございました。……ディートさん。私、男の人からプレゼントなんてもらったことなかったから、スゴく嬉しかったです。それに……」
「それに?」
「『自信を持て』って、言ってくれたコトも。私、もう少し、自信を持つことにします。……って言っても、ディートさんの前だけですけど」
「私の前だけ?」
「まだ、他の人の前では、ちょっと……」
「そうか。無理することはない。出来ることからやっていけば、それでいい」
ディートは、満足気に笑うと、立ち上がった。
「もう、日が傾いてきた。そろそろ、帰るとするか」
「……ハイ」
夕日に染まる並木道を、2人は並んで、家路に着いた。