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ピラー(後)

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【十二 次なる戦いへ】

 ピラーが去った直後。
 辛うじて原型を留めたカルヴィン城は、流石に幾重もの歴史を誇る堅牢な大邸宅というだけあって、ピラーの直撃を受けても尚、建築物としての構造はしっかり残されていた。
 荒れ放題の廃墟と化した城内を、円、オリヴィア、ミネルバ、そして輪廻の四人が、瓦礫を押し退けながら、慌てて歩を進めている。
 地下に居る仲間達から、ヴィーゴが逃走したという連絡を受けたのだ。ここでヴィーゴを取り逃がしてしまっては、ジュデットへの傷害罪という法的な裁きを受けさせることが出来ない。
 何としてでも身柄を拘束しようと、必死に城内の悪路を駆け抜けていた四人だが、居館の中庭を越え、正面玄関に至ったところで、思わず足を止めた。
「うっ、こ、これは……」
 オリヴィアが、思わず小さく呻いた。崩れ落ちた玄関ロビーが、血の海で真っ赤に染まっていたのである。そしてその中心には、両目を見開き、恐怖の色を浮かべたまま絶命しているヴィーゴの姿があった。
 だが、四人の意識はヴィーゴの遺体から、すぐに離れた。
 血の海を挟んで反対側、丁度、かつて大玄関があった辺りの空間に、異様な姿の影が複数、そこに傲然と佇んでいたのである。
 中でも特に目を引くのは、4メートル近い巨躯を誇る、人型の甲殻生物であった。
 灰色を基調とするいびつな外甲殻が全身を覆い、鎧兜のような形状の頭部の額からは、刀剣を思わせる僅かに反り返った角が伸びていた。
 そしてその両肩からは、十数本の細い角が伸びており、これら両肩の角には、人間を含む数種類の動物の頭蓋骨が串刺しになっている。
 円は思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 話には聞いていたが、目撃したのはこれが初めてだった。
「スカル……バンカー……」
 マーダーブレインと双璧を為す、オブジェクティブ達の首領格。
 それが、学習型強襲ウィルスマネージャースカルバンカーである。
 一説に寄ればマーダーブレインを遥かに凌駕する能力を誇り、また派生したウィルスの数も半端ではなく、その勢力はとどまるところを知らないとすらいわれる化け物であった。
「えー……まだそんな、敵が居たのー? 全然聞いてないよー」
 ミネルバが自信無さげな声で、小さくぼやいた。
 目の前に立ちはだかる影は、恐らくいずれもオブジェクティブなのであろう。それらが一斉に襲い掛かってくれば、この場に居る四人などひとたまりも無い。
 だが、スカルバンカー率いるオブジェクティブの一団は、四人のコントラクターには全く興味を示さず、そのままくるりと踵を返したかと思うと、宙空に溶け込むようにして姿を消した。
 スカルバンカーの両肩からは十数本の細い角が伸びており、これら両肩の角には、人間を含む数種類の動物の頭蓋骨が串刺しになっているのだが、その中にヴィーゴの生首があったのを、輪廻は見逃さなかった。
「用済みになった駒を始末しに来た……そういうことか?」
 いずれにせよ、ヴィーゴは絶命した。
 最早、法的な裁きを受けさせることは不可能である。

     * * *

 撤収を始めたクロカス災害救助隊のスタッフテントの中で、ネオと再び面会していた美奈子、コルネリア、アイリーンの三人は、渋い表情を浮かべて互いの顔を見合わせている。
 たった今、ネオからとんでもない話を聞かされたばかりだった。
 曰く、マーダーブレインよりも更に恐ろしいのは、寧ろスカルバンカーの方だ、というのである。
「とにかく派生ウィルスの数が全然違いますからねぇ。わしが把握してるだけでも、オブジェクティブ化してるのはスナイプフィンガー、マーシィリップス、パイルファング、スカイブラッド、レックスフット、スキンリパー、ヴォーパルクロー、マッスルブレイズ、ゴーストウィンガー、ストームテイル、フェイスプランダー……まだ他にもおったような気がしますけど、少なくともこいつらは確実に、実体として存在してますしねぇ」
 いいながら、からからと笑うネオ。
 対して美奈子達は笑うどころか、更に顔を青ざめさせるばかりである。
 勿論、これらのオブジェクティブがすぐに行動を起こすかというと、それはネオにも分からない。オブジェクティブは電子データの集合体であり、生物ではない。つまり、寿命が無いのだ。
 次に動き出すのが明日なのか、それとも数百年後なのか――こればっかりは、オブジェクティブ自身でなければ分からない、とネオはいう。
 美奈子は思わず、天を仰ぐ仕草を見せた。
 折角ピラーが収束し、マーダーブレインを撃退してXルートへの侵入を阻止したというのに、脅威は減るどころか、逆に増えているような気がしてならなかったのである。
「こうなったらもう、何もかも忘れて……レティーシア様をひたすら撮影するしか……」
 思わずそうひとりごちて、現実逃避したくなったのも、無理からぬところであった。

     * * *

 尚、領主ヴィーゴ・バスケスを失ったバスケス家は、生き永らえたジュデットの証言もあって、そのまま御家取り潰しという運びとなった。
 残されたバスケス領は今後クロカス家直営領地として経営されることになるのだという。


『ピラー(後)』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。
 このたびは、たくさんの素敵なアクションをお送り頂きまして、まことにありがとうございました。

 リアクションの展開上、新たに称号が幾つか付与されておりますので、該当される方は間違い無いか、ご確認をお願いします。
 尚、今後このシリーズが話を続けていくとすれば、トラン○フォーマーとかX○ンみたいな展開になっていくのではないかと、ひとりで勝手に邪推しております。
 いやまぁ、ネーミングとか姿かたちとか、もう影響受けまくっているのが、自分でもよく分かっているのですが。

 それでは皆様、ごきげんよう。