校長室
取り憑かれしモノを救え―調査の章―
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●真実の一片・翠 「ええ、ありがとうございます」 「力になれなくてすまないねぇ……」 人当たりのよさそうな笑みを浮かべて、清泉北都(いずみ・ほくと)は老人の下から離れる。 得られる情報は芳しくない。顔に浮かぶ疲労の色も濃かった。 お年寄りなら何か知っているかと思っていたのだが、中々に口が堅い。 もしかしたら、本当に知らないのかもしれないが。 「どうしようかなぁ……。リオンはどうしたらいいと思う?」 傍らで一緒に聞き込みをしているはずの、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)に声を掛けた。 しかし、いない。 「あれ……?」 辺りをキョロキョロと見回すが、男にしては印象的な黒髪が見当たらない。 「迷子になっちゃったかなぁ……」 ため息を一つ吐いた。 そんな北都に声を掛ける人物がいた。 「おい、お前!」 やんちゃざかりの男の子だろうか、高圧的な口調で北都を呼ぶ。 「な、何かな?」 「今回の事件のこと調べてるんだろ? 俺様が教えてやってもいいぜ!」 どんと胸を叩く少年に北都の笑みも引きつる。 でも、一応話を聞く価値はあるのかもしれないと思った。 もしかしたら村内では共有できている情報だが、よそ者には喋らないとか、そんなことがありえるのかもしれない。 「あんた、さっきから翠玉石って宝石のこと調べてるんだよな。だったら、俺様の話聞いても損はないぜ!」 「じゃあ、教えてもらっても?」 「いいぜー!」 そうして、少年は嬉々として話し出す。 大きな声で話す少年を止めるものが誰もいないのは少し引っかかるところだが、つまるところ子供の話すたわごとを信じるか信じないかは自分次第、そういうことだろうと、北都は考えた。 少年が言うには、 森で友人たちと遊んでいたら、知らないところに出た。 いままで何度も遊びまわっていたのに、初めて出てしまったらしい。 目の前に広がる沼というよりも澄んだ湖には、一つの宝石が落ちていた。 一度手を入れて取ろうとしたが、水深が深く手は届かなかった。 誰かに教えようと帰ろうとしたときに、湖から不定形の生物が現れたという。 「まあ、あんときは怖かった! 必死で逃げたよ! そしたらいつの間にか村まで戻ってきてて」 少年の言葉に耳を傾けながら、北都は考えをめぐらせる。 不定形の生物はスライムの類だろうか。 もしかしたら、沼の湖に沈んでいる宝石は結界の要の一つかもしれない。 その前に、この少年の情報が大法螺の可能性も否定できない。 でも、と北都は結論をだす。情報の一つとして持っていこうと。 「色々教えてくれてありがとう」 にこりと少年に笑いかけて北都はいつの間にか行方知れずになっているリオンを探しに行こうとする。 その背中に、 「村のために一生懸命になってくれてありがとな!」 そんな声がかかる。それだけで、少年の話が本物であろうと思えて仕方がなかった。