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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

「――!? フリッカ、危ないッ!!」

 だがそんな時、イナンナの加護を受けていたフレデリカのパートナ、ルイーザ・レイシュタインが叫んだ。
 彼女はフレデリカに向かって突如として飛んできたリターニングダガーの姿に気づいたのだ。
 ルイーザはフレデリカの体を押しのけて身代わりとなると、自身の周りに剣の結界を発生させてリターニングダガーを弾き飛ばす。

「そこかッ!」

 素早く殺気を看破した紫月唯斗が叫んだ。
 そして神の如き速さで疾駆すると、左右の拳を壁に向かって叩き込む。
 すると壁だと思っていた場所から人が飛び退った。

「見事じゃ!」

 隠形の術で隠れていたその人物――白衣の男に雇われた裏家業者・辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、地面に着地すると唯斗の攻撃に賛辞を送る。
 だが他の契約者たちはそんな刹那を見て目を丸くしていた。
 なぜなら、その裏稼業者がまだ10才にもなっていない小さな女の子だったからだ。
 刹那はそんな契約者たちの様子に、ムッと眉をひそめる。

「お主たち、何を驚いておるのじゃ?」
「――お嬢ちゃん。ここは遊び場じゃないんだぜ」

 厳しい目つきで刹那を睨みつけながら、唯斗がそう言った。
 すると刹那は鼻で笑う。

「遊びで殺しが出来るものか」

 そう言った刹那の表情は只者ではなかった。
 唯斗はすぐに認識を改め、刹那を敵として扱うことを決めた。

 ……クスクス。

 刹那の登場に驚いている契約者たちの耳に笑い声が響く。
 と、ザカコの背後に黒い影。
 現れたのは光学迷彩を解いた斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)だった。
 彼女は手にしたダガータランチュラをザカコに向かって容赦なく振り下ろす。

「――くっ!?」

 不意をつかれたザカコは、やむなく白衣の男の上から飛び退いた。

「あら、残念なの――でもハツネ、逃がさないの」

 ハツネはそう言うと肩にかけていたスクイズマフラーをザカコに向かって投げつける。
 するとそのマフラーは意思があるかのようにザカコに絡みつき、その体を締め上げた。
「くぅっ!」

 ザカコの苦痛に歪む顔を見て、クスクスと笑うハツネ。
 彼女も鏖殺寺院たちとは別に白衣の男が雇った用心棒のひとりだった。
 ハツネは身動きの取れないザカコに近づいて、ダガータランチュラをその首筋に当てる。

「この人は人質なの。だからみんな動いちゃダメなの」

 ハツネのその言葉に皆は動きを止めた。

「まったく、いままで何をしていたんですか?」

 そんな状況を見ながら白衣の男は立ち上がり、服に着いた埃を払いながら言った。
 すると壁だと思っていた場所が扉のように開いて、そこから大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)、従者のヤンキー共が現れた。

「悪りぃな。ちょっと相手が多かったもんで、ここぞという場面まで様子を見させてもらったぜ。切り札ってのはそういうもんだろ? 違うかっ?」

 手にした大和守安定を肩にのせている鍬次郎は、口元をニヤリとさせながらそう言う。
「まあ、いいでしょう。鏖殺寺院とかいう奴らを信用せず、貴方たちを個人的に雇った私の判断は結果的に正解だったようですしね」

 白衣の男はそう言いながら、資料の詰め込まれた鞄を手にして鍬次郎たちがいる場所へと歩いていく。
 助手たちもそれぞれ鞄を手に、そんな白衣の男に続いた。
 彼らの向かっている先は外に出るための秘密の抜け穴だった。

「後は頼みましたよ」

 抜け穴の奥へと足早に進みながら、白衣の男は後ろも振り返らずに言う。

「ちょっと」

 と、今まで黙っていた葛葉が口を開いた。
 そしてゆっくり白衣の男の方へと顔を向けた。

「今回の報酬……貴方の研究のデータの一部を頂くという約束をお忘れなく」
「わかっていますよ」

 白衣の男の言葉を聞いて、葛葉はフフッと妖しい笑みを浮かべる。
 彼女は白衣の男に興味はなかった。ただ彼の持っている研究データには大いに興味がある。
 独自に魔科学の研究を行う葛葉は、人造魔獣作成の参考にする為に今回のデータを欲しているのだ。
 それゆえに彼女たちは白衣の男を護る。それが今、達成されようとしていた。
 だがしかし、白衣の男を捕まえようとしている契約者たちがそれを黙って見過ごすはずはなかった。
 葛葉たちが白衣の男たちと会話を交わしている間に、隠れ身でハツネに近づいていた佐野和輝は死角から攻撃を加える。
 ハツネはその攻撃を避けるたに飛び退った。
 その隙にアニス・パラスがザカコを救い出す。
 そして体に巻き付いたスクイズマフラーを取り除き、『ダンタリオンの書』がザカコにリカバリをかけて体力を回復させた。

「よし、今だ!」

 人質のいなくなった契約者たちは武器を次々と構える。

「おっと!」

 そんな契約者たちを見た鍬次郎は、懐から弾幕ファンデーションを取り出して地面に叩きつけた。
 すると辺りは煙に覆われ、視界が効かなくなる。

「ケッ、簡単におめぇらを行かせるわけねぇだろォッ!」

 煙の中から鍬次郎の声が響く。
 そしてあちこちから争う声が聞こえ始めた。
 そんな騒ぎを後目に、白衣の男は抜け穴の先へと姿を消した。