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【新米少尉奮闘記】龍の影に潜む者

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【新米少尉奮闘記】龍の影に潜む者

リアクション

 ドラゴンの縄張り付近を飛んでいた部隊は、本隊より遙かに早く空賊たちの元にたどり着くことに成功した。
 なんとか、ドラゴンのねぐらからは離れた位置で足止めが出来そうである。
「こちらはシャンバラ教導団である!」
 とまれ、と相沢洋が投降を促すが、空賊達の船は止まる気配を見せない。
 風の音に阻まれて細かい会話は聞こえてこないが、小型の飛空艇に乗っている連中が何事かわめいているのは確認出来る。
 蛮族が好みそうな、これ見よがしにスタッズが打ち付けられている革のジャケットにモヒカン頭。まあ、十中八九蛮族だろう。
「投降しないのであれば、容赦はしない!」
 相沢の一声が、戦闘開始の合図になった。
「いくぜ、ばーちゃん」
 飄々と宣言すると、相沢洋孝は小型飛空艇・オイレの操縦桿をぐいと押し込んで機体を加速させようとする。
「ばーちゃん呼ばわりはやめなさいと言っているでしょう」
 が、直後に乃木坂 みと(のぎさか・みと)から鉄拳をお見舞いされ、一瞬発進が遅れた。
 その間に、洋を乗せたサンタのトナカイが、エリス・フレイムハートの鞭に従って滑るように動き出す。
「相手は空賊だが、教導団としては逮捕が第一目的。出力は落としてかかれ、みと」
「はい、洋様」
 そういうと、みとは広範囲に向けて氷術を放つ。拡散させているので威力は落ちているが、牽制としては充分だろう。
 その間に、佐野たちとルーシェリアのコンビが空賊達の間に踊り出て、一撃離脱のヒットアンドアウェイで攪乱する。
 彼らの後ろには、ワイバーン達を守るように崩城亜璃珠と佐野和輝、ティー・ティーらがそれぞれの相棒を駆って立ちふさがっている。
 ワイバーン達は、主の縄張りを守るために戦う決意のようだが、彼らも保護対象、むやみに戦いの最中に放り込む訳にはいかない。
 空賊達はとにかく数が多かった。大型飛空艇の存在が嫌が応にも目立つけれど、厄介なのはそれよりも周囲を固める小型飛空艇の群れだ。
 一人一人の力量はたいしたことはなさそうだが、数が多いというだけでそれは大きなアドバンテージだ。
「小暮少尉、こちら相沢――空賊と戦闘を開始した」

 戦闘開始の報告に、小暮機の乗務員の面々は一気に表情を厳しくする。
「よし――全速前進!」
「全速前進っ!」
「全機、全速前進!」
 小暮の指示を、通信係の二人が船内外へ伝える。
 機関室では、出力の上昇に備えてトマス・ファーニナル達四人が慌ただしく動き始める。
「総員、戦闘配備!」
 小暮の鋭い声が飛ぶ。艦を指揮するということにも、ずいぶん慣れてきたようだ。
 配備の号令に従い、火気管制を担当するエールヴァント・フォルケンとアルフ・シュライアの二人は戦闘システムを機動し、スタンバイ状態にする。
(ちなみにこの機体の管制システムは、不慣れな人間が乗ることも想定して、わかりやすい『初心者モード』が搭載されているという、親切設計だ)
「遊撃隊、先行して下さい!」
 戦闘の準備が整った事を確認し、小暮は小型飛空艇の部隊を先行させた。
 相手の多くは小型飛空艇であることを鑑み、小型飛空艇(あるいはそのほか、小型の乗り物)を主力とする作戦を採用した。
 小暮機の前方には、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達が乗るHMS・ウォースパイト、そして湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)らが乗る雪風が、縦列編隊を組んで護衛に付いている。旗艦の護衛は彼らに任せるつもりだ。
 号令を受けた三機の飛空艇、それからワイルドペガサス一匹の、計四体の遊撃隊が、一足先を飛んでいる黒乃のターミネーターを追うように加速する。

 朝野 未沙(あさの・みさ)は、ワイバーンヤクトを駆って、小暮の乗る飛空艇の後に付いた。
「うん、いい音出してるね!」
 朝野はこの飛空艇が発掘されたときから携わっている技術者だ。特にトラブルを抱えていたエンジン周りについては気に掛けている。
 しかし、この様子ならばひとまず問題はなさそうだ。先日の模擬戦の際も、トラブルに負けずよく動いていたし。
 そろそろ自分の手を離れるころなのかな、と朝野は少し寂しく思う。
 朝野自身、今日は小暮の飛空艇だけではなく、他のメンバーの飛空艇のメンテナンスもバックアップしている。
 今まではこのエンジンの調子を見るのにかかり切りだったことを考えると、自分自身にも変化は起こっているのだろう。
「さて、故障する子はいないかなっと」
 朝野はヤクトを操って、小暮の飛空艇からしばし離れる。どの機体がいつトラブルを起こしても良いように。

 ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)は――困っていた。
 イコン、ノルトは、ここにある。
 しかし――操舵手が、居ない。どこを探しても、居ない。
 本来であれば相沢洋らと船団を組んで作戦に参加するつもりだったのだが――イコンが動かなければ、どうしようもない。
「むむ……補給基地にでも、なるしか無いかな……」
 幸い弾薬などは積んである。足りなくなる艦があったら、譲ろうか。
 そんなことを考えてみるが、ひとまずは操舵手を務めるはずのパートナーを、を探しに行かなくては。
「全く、どこへ行ってしまったのかな……」
 ゴッドリープはちょっと肩を落としながら、周囲の捜索に出るのだった。

 大型飛空艇・雪風のブリッジでもまた、戦闘の準備が進められていた。
「さて、今回はあっちのエンジンの面倒は見れないけど……まあ、大丈夫だろ」
 艦長である湊川は、周辺モニターに映る小暮機を感慨深そうに見詰めて呟く。これまでずっと機関部の調整に携わってきたのだ、初の実戦となれば、感慨も深い。
 今は教導団から天御柱学院に留学して居る身、直接手を掛けてやることはできないが、せめて無事航行を終えられるよう見守りたい。
「レーダーに敵影関知! まもなく、戦闘空域に入ります!」
 船橋左側に座る高嶋 梓(たかしま・あずさ)が、レーダーの反応に気づいて声を上げる。
「いつでも準備オーケーよ。亮一、合図はよろしくね」
 前方の砲手席に座っているのはソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)だ。
 火気管制スイッチを手元に置き、臨戦態勢を取っている。
 すでに光学カメラによる映像でも、既に始まっている戦闘の様子を捉えられる距離まで来ていた。
「機関室に異常なし、全力で応戦できます」
 念のため機関室に様子を見に行っていた、機工士のアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)も戻ってきて機関士席に着く。
「よし、本艦の任務はあくまでも専守防衛だが、気を抜くな。行くぞ!」
 亮一は、パートナー達を鼓舞するように声を上げる。

「戦闘空域に入りますぜ、陛下、御嬢!」
 ウォースパイトスを操るのは、ローザマリアのパートナー、フランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)だ。
 その合図で、ウォースパイトスに格納されていた三機の小型飛空艇・ヴォルケーノが飛び出して行く。
「小暮機を中心に、円形に展開!」
 飛び出しざま、ローザマリアは協力関係にある湊川の雪風と通信を繋ぎ、縦一列だった編隊を展開させる。
「陛下、御嬢、船のことは任せてくだせぇ!」
「ああ、任せたぞ、ドレーク」
 通信回線越しのフランシスの言葉に、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が凛とした声で答える。
 ローザマリアとグロリアーナ、それからエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)の三人は、小型飛空艇を駆って雪風とウォースパイトスの前に踊り出た。そして、先を行く遊撃隊とは少し距離を置いたまま、戦闘空域へと突入していく。

 
 ワイルドペガサスに乗った騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、ベルフラマントを活用して姿を眩ましつつ、空賊達の乗る小型飛空艇の間を飛び回っていた。
 操舵手の僅かな指先の動き、視線の方向などから的確に行動を予測し、あちらからの攻撃を回避しては、隙を突いては攻撃を加える。その立ち回りは見事と言うほか無い。
「無駄な抵抗は、やめてくださいっ!」
 悪人といえど、あくまでも傷つけないのが騎沙良のポリシーであり、プライドだ。
 空賊ひとりひとりと騎沙良との力の差は歴然なので、決して苦戦するようなことは無いはずだ。が、飛空艇に乗っている相手を、傷つけずに無力化するというのは、言葉で言う以上に難しいことだ。
 高度がある状態で飛空艇を墜落させてしまえば命の保証はないし、上手いこと飛空艇だけを無力化したところで、走って逃げられては元も子もない。
 騎沙良は握りしめたルーンの槍で、飛空艇の翼部分を狙って攻撃を繰り出す。熟練の腕前を持つ騎沙良の手に掛かれば、フラップだけを的確に変形させることなど造作も無い。
 ほんの僅かな翼の形の変化、しかしそれは確実に飛空艇のバランスを崩す。そして、コントロールを失った飛空艇は着陸を余儀なくされる。
 そして、確実に着陸した所にとどめの一撃、中空から急降下し、槍を叩き込む――もちろんわざと外すが、その衝撃は、非契約者の蛮族を伸すには十分だ。
「よしっ……次!」
 一機落とすのに時間は掛かってしまうが、仕方が無い。騎沙良は再び、空へと舞い上がっていく。

「無茶しない怪我しない、任務は結果もだけど経過も大事、はい復唱!」
「……分かって居る」
 小型飛空艇・ヘリファルテに乗り込んだハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)は、前を行くレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)に向かって声を張り上げた。
「復唱!」
「無茶しない怪我しない任務は結果もだけど経過も大事……これでいいですか」
「次、他人もだけど自分も大事、周りをもっと頼る! はい!」
「他人もだけど自分も大事、周りをもっと頼る……おっと」
 心配性のパートナーの言葉に生返事を返しながら、レリウスは突っ込んできた空賊の飛空艇をひょいと避ける。
「うおおっ!」
 その所為でその空賊とハイラルが衝突しそうになり、ハイラルもまた慌てて舵を取る。
「ハイラルこそ、俺の事ばかりじゃ無く自分の事をもっと大事にしなさい」
 少し呆れたような口調で言いながら、レリウスは手にした光条兵器で相手の飛空艇を牽制する。
 お前にだけは言われたくない、と呟きながらもその間に体勢を立て直したハイラルは、パワードレーザーで弾幕を張り、距離を取る。
 空賊たちの攻撃手段は主にドッグファイトだ。中には銃器を搭載した飛空艇もあるが、ほとんどが「飛空艇に乗ったまま直接斬りかかってくる」か「体当たり」かだ。
 つまり、物理的に視覚を封じれば、充分に攪乱の効果があるということだ。
 レーザーは人を傷つけないレベルまで出力を下げている。が、一時的に目を灼くには充分だ。(よい子はくれぐれも真似しないこと)
 空賊がぎゃん、と悲鳴を上げている間に、レリウスが近づいて、腕輪型の光条兵器からエネルギー光を射出する。
 騎沙良と同じように、極力相手を傷つけないよう、飛空艇の主翼を狙い、無力化を図る。
「よし、次です」
「待てって! そんなどんどん前出るなーっ!」