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【新米少尉奮闘記】龍の影に潜む者

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【新米少尉奮闘記】龍の影に潜む者

リアクション

 時は少し遡る。
 ワイバーン達を戦闘の余波から守ろうとしていた源達の元に、小暮から通信が入った。
「ドラゴンを引っ張り出してくる事は出来ないだろうか」
「……なるほど、自分でケリを付けさせれば納得するだろうと?」
「あ、いや……それもあるが、陽動だ。派手に登場してもらって、奴らの目をドラゴンに向けたい」
「ティー、出来そうか?」
「やってみます。脅かして欲しい、とか、通じるかな」
 小暮の作戦に頷いたティーは、ワイバーン達を他の面々に託し、急ぎドラゴンの元へととって返した。
 そして、ティーは丸くなっているドラゴンにそっと声を掛けた。
 だがはじめ、ドラゴンは低く唸り、その場を動くことを拒否した。
「どうしたの? 動けないの?」
 心配するような声でティーが鳴くと、ドラゴンは静かに、丸まっていた体を解いた。
 その影には。
 ぴぃ、と細い声で鳴く、子ドラゴンの姿があった。
 まあ可愛い、と近くに居た董蓮華が思わず声を上げる。
「この子を、密猟から守っていたんですね」
 ティーの言葉に、ドラゴンは再びその場にうずくまる。
「あなたの力が必要なの。この子は、私の仲間が必ず守ります。お願い、少しで良いの」
 ティーはくじけずに、懇願するような声で繰り返し訴える。
 やがて、ドラゴンはのそり、と立ち上がった。
「この子は、俺たちに任せてくれ」
 そう言うのはグラキエス・エンドロアだ。董もすかさず子ドラゴンの元へ駆け寄る。
 ドラゴンはグラキエスと董の二人を、力強い瞳で交互に見据えてから、ばさり、と羽ばたいた。

 そして今、ティーの声に応えるように、レッサードラゴンは大きく吠えた。
「全機、攻撃中止、待避!」
 咆吼に重ねるように、小暮は待避の指示を出す。
 空を、ドラゴンブレスが踊る。
 空賊達は、パニックに陥った。

「よし……今だ!」

 小暮が合図を出す。
 と同時。空賊団の大型飛空艇から、スピーカーを介した声が聞こえてきた。

『こちらはシャンバラ教導団です。あなた達のリーダーは既に投降しました。おとなしく抵抗をやめ、直ちに飛空艇を地面に下ろしなさい。繰り返します――』

 空賊達は一瞬、何が起こったのか分からない、という表情で、互いに顔を見合わせた。
 しかし、ハッタリだ、とか、情報攪乱だ、とかいう声が其処此所から上がり、空賊達は勢いを盛り返す。そこへ――

『お前ら――投降するんだ……』

 おそらくはお頭のものなのだろう、情けない男の声が空に響き渡った。
 そして。
 空賊達は、渋々その場に飛空艇を下ろすのだった。

□■□

 もう一度。
 時は、だいぶ遡る。

 戦闘開始とほぼ同時、フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)戸次 道雪(べつき・どうせつ)の二人、それから葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の合わせて三人は、戦闘空域の極力外れを、そろそろと敵大型飛空艇めがけて進んでいた。
 最後の最後の一番良いところを持って行こう、という魂胆のフィーアと戸次、内部工作を行おうとして居る葛城、と目的は少々違ったが、目指すところは一緒である。
 フィーアは、足に装着した飛行ユニットで移動している。戸次の方は移動手段が無いので、フィーアに抱きかかえられている状態だ。なので、飛行ユニットが本来の性能を発揮できず、移動速度はかなり遅い。
 葛城の方は小型飛空艇・オイレがあるので、通常の速度での移動が可能だった。しかし、不用意に近づけば見つかってしまう。
 結局岩場の影に隠れていたところで、フィーア達と合流した。
「なんとか潜り込めれば良いんだけど」
「潜り込みたいの? 外から攻撃するんじゃ無くてかい?」
「だって、こちらは生身よ。中から攻撃した方が効率的だわ」
「なるほど、道理じゃのう」
 戸次がふむふむと頷いている横で、フィーアはそうかな? と懐疑的。
「例えば、親玉をさっさと捕まえちゃう、とかも不可能じゃないわ。……潜り込めれば、だけど」
「それいいね!」
 しかし、葛城の次の言葉に、途端に目を輝かせた。親玉やっつける、これ以上の美味しい役回りがあるだろうか。
 フィーアはもぐもぐしていた口の中のものをごくりと飲み込み、すっくと立ち上がる。
「僕、良い物持ってるんだよね」
 そう言ってフィーアが取り出したのはベルフラマント。姿を隠すことが出来るマントだ。
「これで近づけば、見つからないよ」
「それは素敵だわ。でも、そのサイズじゃ飛空艇は隠せないわね」
「一緒に飛べば良いだろう? ちょっとはみ出るかもしれないけど、なぁにドンパチの最中だ、気づかれないよ」
「待て、わしはどうなる」
 さあ行こう、と葛城に抱きつこうという勢いのフィーアに、戸次が不満の声を上げた。
 先ほどまでの移動で、フィーアの飛行ユニットでは二人での移動が精一杯だという事はよく分かって居る。フィーアと葛城が行ってしまったら、自分はどうなる。
「えーっと……ピストン輸送、かな……」
 忘れてたごめんごめん、とばかりにフィーアは後ろ頭を掻く。
「先に私が行って、突入口を作るわ。破壊工作は得意だから」
「よし、じゃあその作戦で行こう!」
 三人の作戦がまとまった、その時。
 葛城の乗ってきた飛空艇が、通信の着信を告げた。小暮からだ。
「葛城殿、もしや、敵大型飛空艇の足下に居るか?」
「はい少尉、現在地に間違いありません」
「もしや、潜入を企んでいるとか」
「はい、そのつもりですが、問題有るでしょうか」
 まずかっただろうか、と葛城の顔が曇るが、しかし返ってきたのは意外な答え。
「いや、逆だ。むしろ、潜入を頼むつもりで連絡をした」
「はっ」
「このままでは埒があかない。幸い葛城殿の存在に、相手は気づいて居ないようだ。そのまま気づかれずに潜入できるか?」
「はい、なんとか行けると思います」
「可及的速やかに内部の状況を伝えてくれ。可能そうであれば、制圧を」
「了解!」
 冷静に考えればとんでもない任務だ。が、もとよりそのつもりで居た葛城にしてみれば、作戦隊長のお墨付きが貰えただけだ。
 行きましょう、とフィーアに伝えて――

 潜入してみたら、朝霧垂がそこに居た。
「おー、やっときたやっと来た、お疲れー」
 はっはっは、と笑っている朝霧から事情を聞けば、密猟の確証を得るために潜入したは良いが、独断で敵艦を制圧してはまずかろうと、とりあえず証拠になりそうな物をあつめていたところだ、とのこと。
「この艦、あんまり人乗ってねーみたいなんだよな。多分、団員は全員外だな」
 あっさり制圧出来るとは思うけど、という朝霧の言葉に、さらに奥へと侵入してみたところ――

 二人しか乗っていなかった。
 空賊団のお頭と、飛空艇の操縦士だ。
 操縦士は突然現れた軍人にすっかり腰を抜かしてしまい、相手にするまでも無い。
 お頭の方はなんだぁてめぇらと啖呵を切ってきたが、フィーアが一歩進み出て、手にした超硬度銘菓・金剛鎧割を突きつけ……
「あ、さっき食べちゃったんだっけ」
ようとして、手元に武器が無いことに気がついた。
 なお、超硬度銘菓・金剛鎧割とは、鎧をも砕く奇跡の超硬度を誇る、芋ケンピである。
「ってことは……素手での戦闘を強いられているんだ! 状態だねげふっ」
「この馬鹿もん! ふざけておる場合かッ!」
 台詞の途中で戸次に思い切り突っ込みを入れられて、その場にうずくまる。
「巫山戯んなはこっちの台詞だァ!」
 こけにしやがって、とすっかり逆上した空賊の親玉に、やれやれと戸次が向かい合う。そして、すらりと腰の名刀千鳥を抜くと、目にもとまらぬ早さで親玉の背中に回り込んだ。
「全く、口ほどにも無い」
 こつんと峰打ちを一撃、それで終わりだった。
「あ……そうだ、少尉に報告……」
 そこまでしてから、ハッと思い出したように葛城が小暮に連絡を入れた。
 すると、合図と共に空賊団へ投降を促すように、との指示。
 どういう意味だろう、と思って窓の外に目をやると。

 レッサードラゴンが大暴れして居た、というわけだ。