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LOST-2


「おう、下は全部見てきたぜ」

 下の階から甲板へ向かう階段を伝って、夏侯 淵が上がってくる。
「悪い悪い、ありがとねー」
 ルカルカ・ルーは雑巾を片手にパートナーの隣へ歩いて行った。
「で、下はどうだった?」
「場所によってまちまちだな。
 大荒れの中を漂流した割にこれと言って酷い訳じゃないが、部分的に浸水してた所も……」
「何処ら辺?」
 そう言ってルカルカが淵の持っていた船内の案内タッチパネルを覗き込む。
「ここと、ここの部屋。
 一番最悪なのが、マニュアル操舵用の危機が浸水して――」
「うわぁ……」
「其処らヘンは雅羅に頑張って貰うとしてだ。
 一番ヤバイのはここだけど……ま、ここは今直ぐ必要な場所じゃないな」
「明日入る予定なのはこの制御用機晶石がある部屋と、待機する為のこっちかな。
 そこはどうだった?」
「あーぱっと見た感じ問題は無さそうだったけれどな。
 じゃあ取り敢えずもう一回装置とか細かくチェックしてくるわ」
「頼むね〜」
 ひらひら手を振ってもう一度下へ降りて行くパートナーを見送ると、ルカルカの後ろからもう一人のパートナーがやってきた。

 黒光りする鱗を全身に覆われ、巨大な羽根を背負った威圧感のある姿に、
 どこか優しげでフランクな感じすらする目を持ったドラゴニュート。
 カルキノス・シュトロエンデだ。
「そっちはどう?」
「ああ、始めは大工道具で手すりでもちゃちゃっと作っちまおうかと思ったんだがな」
「ごめんねカルキノス、これやっぱり借りものだからそこまでするとね」
 彼の背後からそう言って現れたのは雅羅だ。
 本来ならばカルキノスの言った通り、戦う時の事を考えて甲板に仕掛けを施した方が良いのだろうが、
船内の扉を使ってしまおうかという彼の豪快なやり方では借りものの船に傷を付けてしまう事になる。
「最新鋭の特殊帆船、なのよね」
「そうらしいわ。
 戦いや何かで壊れたら流石に怒られないだろうけれど、故意に何かやって――」
「あとでお金請求されたりしたら嫌だものね」
「そう言う事」
「じゃあ出来る範囲でどうにかするしかないかぁ」
 ルカルカは溜息をつきながら甲板やマストを仰ぎみて見た。
 巨大な船体は何処から見ても普通の帆船だが、確かに部分的に嵌めこまれた機晶石やコンピュータか何かが入っているのであろう装置を見ると、
これがどれだけの金をつぎ込まれて作られたかは、専門外の人間でも分かるようだ。
「応急処置にしかならないかもしれないけど、出来る限りロープでも張っておきますか」
「そうね、じゃあ私あっちで導線の相談してくる」
「お願いね。

 ……あ、雅羅、一つだけ」
「何?」
「船がこうなったの、ただの偶然だから。
 その辺は考えすぎたりしないように。以上!」
 おどけたように言うルカルカに、雅羅はすまなさそうに頷いて後ろを向いた。
 ルカルカはそう言って甲板の向う側に居る仲間の元へ掛けて行く雅羅を見送ると、雑巾をバケツに入れてそれを勢いよく持ち上げた。
「もういっちょ頑張りますか!」


 雅羅が向かった先では、美麗・ハーヴェルが雅羅の使う操舵輪をチェックしていた。
「美麗にそんな特技があったなんて、人って結構見かけによらないものね」
「あら雅羅様。
 これでも私機械には強いのですよ?
 と言っても整備専門ではございませんから、多少のお手伝いしかできませんけれど」
「それで十分よ」
 雅羅の言葉に微笑むと、美麗は再び作業に戻っている。
「チェルシー様、そちらの工具を取って下さいますか?」
 美麗に頼まれて、チェルシー・ニールはぬいぐるみを抱えて居ない方の手で見慣れない工具とにらめっこしている。
「そのブルーの柄が付いたものですわ」
「これですわね!」
 工具を手に嬉しそうにぱたぱたと美麗の元へ掛けて行くチェルシーを微笑ましく見ていると、雅羅の横には何時の間にか白波 理沙が立っていた。

「何かあった?」
「ん、さっきルカと話していたんだけど、船に安全の為のロープを張ろうって。
 でも甲板を動くのに邪魔になると困るし、導線の確認をしようと思って」
 雅羅に手渡された甲板の絵が適当に描かれた紙を見たまま、理沙は雅羅に言葉を投げた。
「――さっきのさ、らしくなかったわよ」
「……そうよね」
「さっきジゼルが意識が無かった時雅羅一緒だったじゃない。
 あの時何か――」
 理沙がこちらを見ながら話しだしたのを、雅羅は首を振って遮る。
「――あの娘ね、ジゼル。身体、余り良くないの。
 こういう事が繰り返されると負担が掛るから……
 本当は私なんかが一緒に居るのは、良くないんじゃないかって……思う時とかあって――」
「ね、雅羅。
 校長はその事知ってるのよね」
「うん」
「分かっていて、それでもジゼルを雅羅に託したのなら、あの娘には雅羅が必要だって事よ」
「……ありがと、理沙」
 曖昧な表情のままの親友に、理沙は小さく微笑みだけを返した。