リアクション
「畜生、何で散歩してただけでこんなところに閉じ込められてるんだよ!!」 * 「……花火大会、ですか……」 民家の玄関で、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)はひそかに眉をひそめた。 「そう。……じゃ、これくらいでいいかな? 俺畑仕事に行くから。これ持って行っていいよ」 チラシを受け取り、ありがとうございますと礼を言い、彼は工場への道を急ぐ。 この辺りは、のどかな村と畑が広がっている。そんなのどかな場所で失踪者が続出しているとは考えにくいが……。 (種族が偏っているとなれば、なおさら不審だ。身代金が請求されていないと言う事は、労働力か何かで使われているのか) 彼は朝から聞き込みを行っていた。 まずは寝具店の周辺。そして、工場。この二つは正反対の性質を持っていた。 寝具店の店舗と倉庫の周辺では、住民から特に怪しい情報を聞くことはできなかった。 しかし、工場の方は──最も近い家まで一キロほどはある、そんな場所だというのに、だから、工場で何をやっているか、人目につく点で知っている人はいないというのに、農作業や馬車でそのあたりを通る時に見かけた人によれば、確かに怪しい感じはあるという。 まず、工場で働いている人間は住込みのせいか、人の出入りが余りない。たまに作業員の募集を行っているものの、寮生活が条件で、外出する休暇には許可が必要だという。 警備員がいつも厳重に周囲を見回りをしている。 材料は時によって違うが、荷車や馬車で運び込まれるのは一日に1〜2回だったのが、最近はその他小さい荷馬車が頻繁に入っていく。 良く見かけるのは中年の男と三十代の女。警備員は何時も違うが、彼らが側にいて御者をしている。 しかし以前はそれほど物々しくなかったらしい。ここ数か月、警備員の数が増えた──丁度荷馬車の出入りが多くなった頃だ。 「犯罪が行われている可能性は高いな」 彼は決意すると、自身に“禁猟区”をかけた。 どうやら正門で騒ぎが起こっているお蔭で、裏手の警備は薄くなっていた。誰にも見られず、脚に装着したアルティマレガースで鉄柵を飛び越えるのは容易だった。 ピッキングで裏口の扉の鍵を開けると、陰を渡りながら屈んで小走りに廊下をゆく。 「……あちらの方から音が……?」 時折で会う傭兵は機晶スタンガンで見張りを眠らせながら、二階に上がる。 『家庭科室』と書かれた扉を開くと、中には広いテーブルの上に並べられた、解体途中のぬいぐるみたちがいた。まだ手つかずのもの、綿が飛び出ているもの、チャックに何かのタグを付けられたもの、そして開いた胸元に、爆弾らしきものを埋め込まれたもの……。 「……数が多いですね」 おまけに一見してぬいぐるみかどうかも分からない。というか、解体していた方も分かってはいなかったのではなかろうか。 それに一人では全員を運べないだろう。 彼は一旦外に出ると、廊下の壁に「機晶爆弾」を仕掛け、爆破した。 もうもうと立ちこめる煙。小次郎は背後のドアを開けると、爆音に気付いたゆる族たちに叫んだ。 「さあ、ここから出てください!」 起きたゆる族たちは顔を見合わせると、側に転がっていた布を結びあわせて即席のロープにしてドアノブに結び、二階から地上へと滑り降りた。 彼らを最後まで見届けて、小次郎も地面に降りる。見事に開いた穴を見上げて呟いた。 「後は現地の警察にお任せしますか」 やがて突如として起きた爆発に、村人の自警団と駐在員が集まってきた。大事件になればヴォルロスから応援が来るだろう。 |
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