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最後の願い エピローグ

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最後の願い エピローグ

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 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、フルーツジュースとヴァイシャリーのハーブティーをこのパーティに差し入れして、打ち上げの宴会に参加していた。
 あちこちのテーブルに、そのジュースが置かれ、見ると、ハルカの手にも桃のジュースがある。
「ご馳走が並んでおるのう」
 パートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは)は目を輝かせている。
 全種類食べるのは無理でも、デザート系は制覇したい。
 ヨシュアやブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)ルカルカらが用意したスイーツの数々を、ミアはあちこちのテーブルを抜かり無く見ながら、レキに確保の手伝いをさせつつ、次々スイーツを食べて行った。
「働かされた分は食わねばな! うむ。このプリンは絶品じゃ!」
「それはシブーストと言う」
 満足気に言ったミアに、偶然後ろを通りかかっていたブルーズが、ぼそりと突っ込んだりする。
 しかし自分の作ったものを褒められて、悪い気はしない。

「博士はお茶?
 ボクの持って来たハーブティーも、美味しいから飲んでね」
 ミアのスイーツ確保の手伝いも一段落ついて、レキがオリヴィエに声を掛けた。
「皆にいっぱい説教された?」
「まあ、それなりに」
 オリヴィエは肩を竦める。
「次からは、行動を起こす前に、言葉で……対話で解決する方法を考えないと駄目なんだよ」
「肝に銘じるよ」
「もう、そうやって安請け合いするから信用されないんだよ」
 博士はひねくれてるから、他人に相談とか、しないような気がするなあ、とレキは溜め息を吐いたが、それでも、今回の事件では、彼も色々思うところがあったはずだ。

「ところで、ハルカちゃんはどうなるの?」
 レキはオリヴィエに、心配していたことを訊ねた。
 ハルカも彼等と行動を共にし、計画に加担した責任が、少なからずあるはずだ。
「人質扱いにして貰ったよ」
 あっさり答えるオリヴィエに、レキは呆れる。
「それって、いいのかなあ」
「彼女には秘密ね」
 秘密を簡単に口にするのもどうかとレキは更に呆れつつ。
「ハルカちゃんを、博士の監視役に任せるっていうのはどうかなと思ったんだけど」
「それは駄目」
 オリヴィエは笑って、しかし即答した。
「どうして?」
「あの子の未来を、そんな事で潰すわけにはいかないよ」
「もー」
 だったら尚更、やり方を考えなきゃ駄目でしょ、とレキは思ったが、過ぎたことを言っても仕方がないか、と苦笑する。
「まあ、とりあえず、楽しくやろうか」
 説教はほどほどに。
 今は楽しく、食べて飲んで騒いで。


「アルゴース!」
 叫び声に、視線を向けると、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が甲板の縁で、びしっ、と巨人に人差し指を向けていた。
「何だ」
「勝負だ!」
「?」
「この前の戦闘だとちくちくやってただけですげぇ悔しかったから、平和的に勝負だコラァ!」
「……そんな、喧嘩腰にならなくても……」
 側に立つ九十九 昴(つくも・すばる)が苦笑する。
 うるせー、と、唯斗は心の中で返事した。
 そもそも、昴が、巨人と飲み交わして来る、と言い出したから、唯斗も慌ててついて来たのだ。
 別に嫉妬などではない。嫉妬などでは!
「アルゴスさん……宜しければ、一緒に……飲み交わしませんか? お酒、大丈夫ですか?」
「飲み比べだぜ!」
 唯斗の言葉に、巨人は呆れた顔をする。
「飲めるが……本気か?」
「何が」
「お前の一杯分は、俺の一滴分にもならないぞ」
「馬鹿野郎、比率ってものを考えろ! そのままの量で勝負するわけねえだろうがっ!」

 ゴーレム倉庫を漁って、巨人の酒杯に使えそうなものを引っ張り出して来たものの、それは巨人の手には、おちょこよりも小さなサイズだった。
 それでも、昴達が持参した日本酒を、一升瓶を一本全部注いでも満たせない。
 昴は、数本まとめて注いだ。
「……樽で……用意すれば、よかったかも……しれませんね……」
 くいっ、と巨人はそれを飲んでみる。
「奇妙な味だな」
「お口に……合いませんか……?」
「いや、これはこれで美味い」
 そうして、唯斗と巨人の勝負が始まった。
 唯斗はザルだったが、巨人も顔色を変えずにぐいぐいと飲んだ。
 巨人に酌をする昴自身は、緑茶を飲んでいる。
 が、手酌の唯斗は、巨人が杯を重ねる毎に、つまり昴に酌をされる度に、めらめらと闘志を燃やした。
「負けねえ……!」
 もはや先の戦いの雪辱なのか、別の理由なのか、自分でも解らなくなっている。
 どっちにしろ意地だ。

「やってるねえ」
 と、オリヴィエが様子を見に来た。
「博士も、どうぞ。日本酒はお好きでございますか?」
 昴のパートナー、九十九 天地(つくも・あまつち)が、オリヴィエに杯を差し出す。
「どうかな」
 言いながら、杯を受け取る。
 天地の酌で飲んでみて、ふうん、と呟いた。
「これが、君達の国の酒か」
「どうです?」
「うん、いけるね」
 でも、ワインの方が好きかな、と、言いつつ、オリヴィエは天地の酌を受ける。

「……今夜は、月が綺麗でございますなあ」
 夜になっている。天地は空を見上げた。もうすぐ、満月だ。
「星も無数によく見える」
 ふ、と微笑んで、天地はオリヴィエを見つめた。
「人の意思は、星々のように無数に存在するもの。
 今回のお二人の意思も、その末端のひとつにすぎません」
 オリヴィエは、黙って天地の言葉を聞いている。
「これからも、星々がぶつかりあうことは、きっと幾度となくあるのでしょう。
 お二人とも、その時が来たら、今度は協力して頂けませぬか?」
 これが、手前がお二人に科す、刑です。
 そう言うと、オリヴィエは肩を竦めた。
「私で、役に立つようなことがあればいいけどね」

 空京の酒屋に電話をし、トラックで山積みの、樽の日本酒が運ばれる。
 空京中の日本酒が集められているのではと思うほど、何台ものトラックが、次々と樽を運び込み、唯斗と巨人の勝負は続いた。
 やおら、オリヴィエが巨人に声をかける。
「アルゴス、倒れる時は向こう側で」
「解った」
 と、頷いて、突然巨人の体が傾いた。
 ズシン、と倒れて、そのまま寝息を立て、昴はポカンとする。
「勝ったぜ!」
 唯斗がぐっ、と拳を握った。
「……驚き、ました……」
 昴は呆然とする。酔っているようには見えなかったのだが。
「負けた方が酒代だ!」
 唯斗は嬉々としてそう言うと、はいっと請求書をオリヴィエの手に乗せた。
 ぽかんとその請求書を見たオリヴィエは苦笑する。
「勝ってから言うあたりが、周到だね」

 後に巨人は、「ビールなら負けなかった」と言ったとか。