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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

 同時刻 ドール・ユリュリュズ 船内

(すべての人は、未来への愛。希望。こんな状況は我慢ができない。俺の生き方そのものが愛になりますように)
 現在、中継地点である土佐に停泊中のドール・ユリュリュズの船内で紅月は胸中に決意を呟いた。
 レオンに指揮権を委譲した紅月は、結和とともに飛空艇ドール・ユリュリュズに乗船し、戦場の中心から司令部へと負傷者を移送する途中、中継地点として立ち寄った土佐で、司令部に運ぶ負傷者への応急承知を行っていた。
 ドール・ユリュリュズでの救助活動の際は船の外に歌を流し、その歌の力によって怪我人や避難民を誘導、更には歌の効果で気力を回復して、船まで歩いてこれる人を増やす作戦は功を奏し、その結果としてより短時間でより多くの負傷者を収容することができた。
 そして今、紅月たちは収容した負傷者に応急処置を施しながら、本格的な救護設備の整った司令部へと向かっている。
「戦場内のため、流れ弾などを考慮してパワードスーツ隊で出動したが……まぁ、イコンの流れ弾には気休め程度だけど、瓦礫撤去の必要性も出てくる可能性もあるしな。とはいえ、実際はまさかこれほど役に立つとは思わなかった」
 そう呟くのは結和の船であるドール・ユリュリュズに負傷者を運び込んできたレスキュー要因の一人――猿渡 剛利(さわたり・たけとし)だ。彼はパワードスーツを装備して戦場に出て、自力で動けない負傷者を回収して医療担当者のもとに運んできたのだ。
「わしらの物々しい装備が戦ではなく怪我人を担ぎ込むのに役立つというのも不思議なことよのう。我等のパワードスーツは戦の為の道具として拵えられたものであろうに」
 剛利の呟きを聞き、佐倉 薫(さくら・かおる)もしみじみと呟く。
「負傷者の搬出を完了しました。戦場を横切る形で飛ぶのには緊張しましたが、ともあれ自分たちの任務は一つ達成されたようです」
 二人に続き、ひとまず安堵の息を吐きながら言うのは騎士心公 エリゴール(きししんこう・えりごーる)。彼は輸送車の運転手であり、輸送車に取り付けた仏斗羽素を吹かし、負傷者の負担にならないように留意しつつドール・ユリュリュズに負傷者を運び込むという高難度の行為をやってのけたのだ。
 三人の仲間たちが何はともあれ無事に負傷者をドール・ユリュリュズに負傷者を運び込み終えた事への安堵の息を吐く中、三船 甲斐(みふね・かい)は何か含みがあるように一人ごちた。
「フリューゲルねぇ、なーんか気になるなぁ……まさか、な。まぁ、今は負傷者のことに専念しようかね」
 剛利たち四人で結成されるパワードスーツ隊――クラッシャーズが救出してきた負傷者への応急処置を行っているのが結和だ。彼女はより素早い救命措置を施そうと尽力していた。より高度な治療は司令部であるArcemに設置された医療本陣に運び込まなければならない。その為にも、ここで素早い救命措置をしておくことが不可欠だった。
「今回はスムーズに負傷者の元へとたどり着けて良かった。これも飛都のおかげだね。でも、一体どうやって?」
 紅月は一緒に負傷者救助を手伝っている玖純 飛都(くすみ・ひさと)に問いかけた。紅月の言うように、今回の戦いにおいて救護班がスムーズに負傷者を救助できたのは飛都の助力によるところがある。だがその一方で、紅月をはじめとする救護班の面々は負傷者救助に集中していた為か、飛都が一体どんな手を使ったのかをまだよく知らなかったのだ。
「この場所に負傷者が取り残されているのはわかっていた。状況からして急いで治療しなければまずいだろうと言うことも」
 紅月から問いかけられ、飛都は感情のあまりない声で淡々と答え始めた。
「高機動ならさっさと移動しろと毒づいても始まらないし、敵の進撃を許すわけにはいかないのもまた事実だ。効率を考えるならここは諦め、他に移動すべきなのだろう、が。自分はまだやれることをすべてやってはいない――そう考えた」
 飛都の言葉が気になったのか、そこで紅月は再び彼に問いかけた。
「たとえばどんな?」
「『情報攪乱』行動だ。勿論、敵の情報系統も不明である現在、それで無力化や混乱が生じることはあり得ない」
 そこで飛都は思わせぶりに一度説明を止めてから、あえて間を置いた後に再び喋り出す。
「しかし、高性能の機体はそれ故にある種の「繊細さ」を持つ。人の精神の動きを模した処理機構とそれを安定させるシステムの組み合わせという基本構造は性能の高低とは関わりなく存在する。高性能の機体ほど防衛のために鋭敏な人間の「想像力」に近いものを発生させ、先んじた行動を可能にするのだ」
 説明をしながら飛都は紅月がついてきているのを確かめつつ、更に続きを説明する。
「要は何らかの干渉を受けたと判断させれば良い。その干渉を分析し、リスク及び対処を判断するまで、おそらく僅かな間でも他の行動に揺らぎに似た行動が発生する。確証は無いが、どのみち諦めるか試みるかの二択だ。だったら試みるだけ――そして、試みた結果、負傷者救助を行うのに最低限必要なだけの隙は作ることができた、というわけだ」