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リアクション
第四章
同時刻 土佐 前部整備デッキ
「敵は短期決戦型の高機動・重火力型、ならば長期戦に持ち込めば勝機は有る。万全の修理体制と補給体制で長期戦に臨むんだ」
土佐の前部整備デッキに受け入れたイーグリット・アサルトの数々を見ながら亮一は仲間たちに指示を飛ばす。
ツァンダ近郊までへの移動中に、テレメーア、ウィスタリア、アーカムと合流しアーカムを中央にした輪形陣を組んだ土佐。亮一はその内部にて、移動の片手間に艦のコンピューターを使い、地球とパラミタの技術両方を活かしたノウハウでイコン損傷度自己判断プログラムを制作し艦隊のネットワークへアップロードしていた。
プログラムは要塞から出撃する機体に出撃前にインストールする事で、データリンクで作戦中、修理・補給構わずに機体状況をネットワーク上ならどこでも確認出来るシステム念頭に制作されており、損傷状態のパラメータが「青:問題無し 緑:小破 黄:中破 赤:大破 黒:修理不能」の5段階で表示される機能を持つ。
艦隊の展開地点はツァンダ近郊、工場より適度に離れた位置であり、同地に展開した土佐は、前線からの偵察データの受信を開始し、補給作業の準備に掛かっていた。
前部イコンデッキは主に帰還したイコンへの補給・修理、後部デッキは医療班の大型飛空艇の受け入れ用にスペースを確保しておき、前線を突破してきた敵機に対しては、艦隊各艦の集中砲火で対応するなど、計画は万全だ。
更にはデータリンクで収集した各艦の帰還機の状況は土佐で整理、集計後にアーカムへ転送するという念の入れようだった。
指揮官として辣腕を振るう亮一の傍らで、アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)は着艦してきたイーグリット・アサルトの修理に勤しんでいた。
「さて、久々の大規模戦闘、整備の腕が試されますな」
銃型HCに亮一の制作した診断プログラムをダウンロードして、帰還した機体の整備作業を行っていたアルバートだが、決して彼は診断ツールに依存しているわけではない。診断ツールは素晴らしい物だが完全ではない――そう考えたアルバートはツールと平行して目視での確認も行っているのだ。
修理・補給の優先度は亮一の指定したトリアージ区分に従い、目印兼用の表示用マグネットタグを貼ってから中破以下の損害の機体を優先して作業していく。そのおかげか修理作業は予想以上に捗り、予定よりも短い時間で修理を完了した機体が次々とデッキから発艦していく。
「随分と大規模な戦闘になりそうね。損傷機の修理とか、酷い事になりそうだけど、それを何とかするのが私達の仕事なのよね」
アルバートと同じく土佐の乗組員にして亮一の仲間であるソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)もそう呟き、機体の修理に全力を注ぎ込んでいた。
やはりソフィアもアルバートと同じく亮一が制作した診断プログラムを銃型HCにダウンロードして整備作業を行っており、そしてこれもアルバートと同じく、診断ツールに頼り過ぎない作業スタイルを貫いている。
「診断ツールは便利だけど、最終的には目視確認しないと、見落としが発生する訳なんだし」
そう一人ごちたソフィアは亮一の指定したトリアージ区分に従い、目印兼用の表示用マグネットタグを貼って明示してから中破以下の機体を優先して修理と補給を行うと、付近で作業していた生駒に声をかける。
「大破あるいは廃棄扱いの機体を纏めておいてくれますか。長期戦に備えて、部品が足りなくなった場合の予備供給源として使用できるようにしておきたいんです」
ややあって返ってきたのは機外スピーカー越しの声だ。
『了解しましたー。すぐに運んでおきますねー』
ほどなくして地響きとともに一機のイコン――ジェファルコン特務仕様が歩み寄ってくる。パイロットである生駒はこの機体をあたかも自らの肉体のように扱い、細かい作業すら乗ったままこなしていた。事実、マニュピレーターの動きは精密の極致であり、もはや並みの人間が作業しているよりも器用に作業を進めていく。
戦闘用として十分に第一線で戦える性能どころか、現用機の中では最強クラスのスペックを持つジェファルコン特務仕様だが、優秀な整備士である生駒にかかればこの機体も整備用の機体として、十二分にその力を発揮する。今や、生駒というパイロットを得たこの機体は最初から工業用として設計された機械すら凌駕しかねないほどの工業性を発揮していた。
それだけでも十分に驚嘆に値する事実だが、更に驚嘆すべきことに、生駒の相棒であるジョージはその恵まれた巨体とそれに伴う怪力を活かし、本来ならば機械が必要なほどの力仕事も生身で平然と成し遂げている。
二人の連携によって整備の効率は上昇し、進捗状況も加速度的に動いている。今や二人はこの整備デッキにおいてなくてはならない存在となっていた。
特務仕様のジェファルコンで大破した機体を運び終えた生駒は何かに気づいたのか、機体をしゃがませてハッチを開く。慣れた様子で軽々とコクピットから飛び降りると生駒は出撃前の機体が控える格納庫に向けて歩いて行った。
「鉄心さんー」
生駒はジェファルコンのコクピットから見かけた相手――源 鉄心(みなもと・てっしん)に声をかける。振り返る鉄心は既にパイロットスーツ姿であり、その隣には同じくパイロットスーツ姿のティー・ティー(てぃー・てぃー)がいることからも、出撃直前であることが窺える。やはり今回も彼等の判断により、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は自宅待機だ。
鉄心とティーの二人は一機のイコンを見上げている。二人が見上げるのは今までにはなかった機体であり、サルーキの後を継ぐ鉄心とティーの新たな愛機――マルコキアスである。
「ああ、生駒さん。お疲れ様です」
見上げていたマルコキアスから生駒に目を移すと鉄心は敬礼し、再びマルコキアスに目を戻す。
「合流してからずっと、生駒さんがこの機体を調整してくれたと聞きました。移動中の短時間で実戦に耐えうるほど動かせるようにしてくれるとは流石ですね。感謝します」
すると生駒は事もなげに答えながら、整備用ツナギのポケットに手を突っ込む。その手の動きは何かを探しているようだ。
「いえいえー。それが仕事ですし、鉄心さんとは前回の事件で一緒に戦った中ですからー。何はともあれ調整が間に合ってよかったですよー。それと、調整が早く済んだのはワタシのおかげじゃないんですよー」
そう告げ、生駒もマルコキアスの機体を見上げる。
「前回の戦いで大破したサルーキの残骸が奇跡的に原型を留めてたのはご存じだと思いますけど、実はコクピットブロックのコンピュータも原型を留めてて、しかも内部のデータは救い出せたんですよー」
生駒の口からその事実を聞かされ、鉄心は雷に打たれたかのように驚きをあらわにする。
「では、まさか――」
何かを察した様子の鉄心に生駒も微笑んで頷く。
「はいー。このマルコキアスにはサルーキの搭乗データをコンバートしてありますー。だから、違う機体ですけど、サルーキの操作性で操縦できますよー。もちろん、鉄心さんとティーさんとの相性は最高ですー。あ、そういえばこれ――」
そこまで語り終えると同時に、生駒はポケットの中を探っていた手を止める。どうやらようやく探し物が見つかったらしい。ややあって生駒が差し出したのはまさに今、整備用の目印として使われているマグネットタグとよく似た物だった。材質は薄い金属のようであり、マグネット加工されているおかげでステッカーのように貼ることができるようになっている。そして、その金属製のステッカーを見た途端、鉄心は再び驚愕に打ち震えた。
「サルーキの……パーソナル……マーク!」
再び微笑んで頷く生駒。彼女が差し出したステッカーのデザインは、鉄心のかつての愛機であるサルーキの装甲に描かれていたパーソナルマークだったのだ。
「奇跡的に原型を留めてた残骸の中で特に損傷軽微な部位があったんですけど、ちょうどその部分がこのパーソナルマークの部位だったんですよー。それで、ちょうど整備用のマグネットタグを作る用ができたんで、これも一緒に作っておきましたー」
生駒の手に乗ったパーソナルマークに目を落とすと、鉄心はゆっくりとそれを受け取る。
「鉄心さんの手で付けてあげてくださいー。この機体――マルコキアスはサルーキの魂を受け継ぐ機体ですからー」
その一言に感極まったように鉄心はパーソナルマークを握りしめると、大事そうにパイロットスーツのポケットにしまい込むと、ティーとともにリフトに乗り込む。マルコキアスの胸の高さにあるコクピット前までリフトで上昇した鉄心はやはり大事そうに取り出したパーソナルマークをコクピットハッチに張り付ける。
「よろしくな。マルコキアス――」
新たな愛機にそう告げると、鉄心はティーとともにコクピットへと乗り込む。ハッチが閉まるまでの僅かな間、鉄心はハッチの合間から見える生駒に再び敬礼し、生駒も背筋を正してそれに答礼するのだった。
カタパルトから飛び去っていくマルコキアスを生駒たちとともに見送りながら、高崎 朋美(たかさき・ともみ)は自分についてきてくれた二人の仲間――高崎 トメ(たかさき・とめ)とウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)に語りかける。
「ボク達は修理・補給の担当をする。だって、イコン整備のできる人間は限られてるからね。ボクは天御柱学院生だから、イコンしか能がない……。だからこそ、皆さんのイコンをきちんと修理・整備しようと思う」
そう告げる朋美に対して、ウルスラーディは声を上げる。
「ちょっと待て……! 今は一機でも多くの友軍機が必要だろうが。ただでさえ、相手は現行機が束になってやっと勝てるレベルなんだぞ」
戦いにはやるウルスラーディ。朋美はそんな彼を宥めるように語りかけていく。
「ボク達が何をやりたいか、も大切だけど、ボク達にしかできない事、も大切だから」
そう告げると、朋美は諭すように言い聞かせた。
「イコンに乗って戦いたい、って気持ちもあるけれど、壊れて帰還してきた機体の修理のできる人間は限られてる。ボクは、数少ないそういう技術の持ち主だから、今は後方支援を担当するよ」
イコン専門の天御柱学院の学生として、味方勢力全体を見渡したときにできる限り最大の貢献をしたい――それが朋美の心境だった。
「ある意味仕方ないよ、シマック。車を運転できる人が、必ずしも整備や修理……それどころか、雪の日にきちんとチェーン巻けるとは限らない、ってのと同じような現状。イコンで戦うだけなら、他校生でもできる。でも、修理に整備といった技術面では、ボク達以上に適任な人材はないんだから!」
その思いが伝わったのか、ウルスラーディは一度頷くと、朋美に告げる。
「わかったよ。ならここは、おまえの言う通り――俺達にできる俺達の戦いをするとするか」
その言葉とともにウルスラーディは朋美とともに整備へと取りかかる。
二人とは別に、トメは戦闘から戻ってきた人達や、イコンの修理・整備で忙殺されている人達に、時間を区切っては、あえて『休み時間』を取るように、お茶くみ、おにぎりと沢庵の差し入れ等、給仕としての仕事に従事していた。
「忙しいのはわかってますけどなぁ、あんまりカンカンになってやってたら、心に余裕がのぉなって、勝てるかもしれへん勝負でも負けてまいますでぇ? まぁま一服、お茶でも飲んで、ちょっと落ち着いて。お腹空いたんも直しや。その後でまた、あんたはんらの仕事場に戻りはったらよろしわ」
トメからもらったおにぎりを食べながら、ウルスラーディはふと考えながら一人ごちた。
「俺達が出撃していたら――いや、やはりこれでは、単機ではどうしようも太刀うちのできない相手、か。なら、どうやって戦法を考える? 勝つ為の、少なくとも負けない為の戦い方は――俺なら、どう組み立てる?」
そう呟いた後、おにぎりを食べ終えたウルスラーディは立ちあがると、作業へと戻っていく。機工士の腕を活かし、敵との戦いに傷つき帰還してくる味方イコンの修理・整備をする彼は友軍の大きな力となっていた。
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