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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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「もう少し冷静に行った方がいい。冷静さを欠いたら墜とされる」
 ツァンダの街を守るため、ゼアシュラーゲンに搭乗し迎撃に出た瀬乃 和深(せの・かずみ)はパートナーのルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる)を窘めた。
 出撃の際にルーシッドが冷静さをなくしているように見えたためだ。
「ボクは落ち着いているよっ!」
 案の定、ルーシッドは語気を荒げながら返事をするため、しかたがないと、説得は諦めて、和深はルーシッドのフォローを勤めることにする。
「ツァンダの街には、血のつながった大切な家族がいるんだ! 絶対に街を破壊なんてさせない!」
 落ち着いている――と言い張るルーシッドだが、その実、激昂している他にない様子だ。
 そんなルーシッドはもはや咆哮に近い叫び声を上げながらペダルを蹴り抜かんばかりに踏み込み、叩き折らんばかりに操縦桿を倒してゼアシュラーゲンを急上昇させ、やや遠方に控えるフリューゲル部隊へと強襲を敢行する。
『危険です! 突出し過ぎです! ツァンダには自宅があるのは俺も同じです……けど、今は冷静になってください!』
『そうだよ! 撃墜されちゃったら大変だよ!』
 明らかに単騎で突出し過ぎているゼアシュラーゲンを心配してか、一緒に戦っているシュヴェルツェ シュヴェルトから鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)から通信が入る。
『そうじゃこのうつけが! 焦ってこんな雑兵相手に討ち死にしても仕方あるまい!』
『信長も落ち着けって。でも、確かに突出し過ぎだぞ』
 同じくルーシッドを心配した織田 信長(おだ・のぶなが)桜葉 忍(さくらば・しのぶ)第六天魔王から通信を入れてくる。
『皆の言う通りだ! ルーシッドたちにもしもの事があれば多くの人が悲しむ! ここは私たちと足並みを揃えるんだ!』
『シャアアアアアアッ!!』
 既にグレート・ドラゴハーティオンで戦っているコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)からも通信が入る。
 心配した三機は通信を入れてきただけに留まらず、突出気味なゼアシュラーゲンと並ぶように各々急加速して距離を詰めてきてくれている。
 当のゼアシュラーゲンはというと、コクピットで激昂したルーシッドの荒々しい操縦桿捌きにより、ハードポイントに懸架されているバスターライフルを抜き放っていた。
 ゼアシュラーゲンが銃器を抜き放つ動作はパイロットであるルーシッドの心を操縦桿を通して写し取ったかのように荒々しい。
「もうこれ以上、このツァンダで好きにはさせない! 絶対に撃ち落とすよっ!」
 ハードポイントから抜き放ったバスターライフルの安全装置を外し、銃口をフリューゲルへと向けるゼアシュラーゲン。コクピットで激昂が最高潮に達したルーシッドを窘めるべく、再び和深は彼女に声をかけた。
「街中で射撃系の武器は危ないだろう。特に今装備してるバスターライフルじゃいくらなんでも強力過ぎる。ここはステルスモードに切り替えて、奇襲による格闘戦での戦いをしかけよう」
 諭すようにゆっくりと言ったおかげでルーシッドは僅かに落ち着きを取り戻したようで、今まさに引き絞ろうとしていた操縦桿のトリガーにかけた指の力を抜いた。
「……ッ! 確かに、ボクたちがツァンダの街を壊しちゃ元も子もない――なら、接近戦で倒すまでだよっ!」
 市街地付近で強力な射撃武器を使う危険性を理解したルーシッドは、ゼアシュラーゲンをステルスモードに切り替えると、再び機体を加速させる。
 加速の勢いたるや、つい先程突出した時よりも更に激しい。
 全速力で推進機構からエネルギーを噴射したゼアシュラーゲンはウィンドシールドを構えて敵にプラズマライフルを撃たれても多少の被害も気にせず正面から突撃して敵を押さえ込もうとする。
 だが、どうしても直線的な動きになり、敵に翻弄されるゼアシュラーゲン。
 圧倒的な機動性を誇るフリューゲル部隊はゼアシュラーゲンの正面突撃をあえて紙一重で回避し、挑発するようにプラズマライフルを最小出力で放ってウインドシールドの表面に光の粒を弾けさせる。その戦い方はもはやゼアシュラーゲンをからかって遊んでいるようだ。
「ふざけないでっ!」
 頭に血が上ったルーシッドは踏み抜かんばかりの勢いでペダルを踏み込みゼアシュラーゲンを直線軌道で再び加速させ、凄まじい速度を叩き出すが、それでもフリューゲル部隊は易々とそれを避ける。
 そして、フリューゲル部隊は一糸乱れぬ動きでプラズマライフルを構えると、たった今目の前を通り過ぎて行ったゼアシュラーゲンの背中へと一斉に銃口を向ける。
「……っ!」
 ルーシッドも事態に気付くが時既に遅い。
 機体の推進機構すべてを直線加速につぎ込んだせいで、今のゼアシュラーゲンに即時方向転換するだけの力は残っていない。慌ててルーシッドは推進機構が放出する推進力のベクトルを変えようと操縦桿を倒すがそれでも間に合わず、ガラ空きになったゼアシュラーゲンの背中に向けたプラズマライフルの銃口をフリューゲル部隊が一斉に引く方が僅かに早い。
『私の大切な仲間を……やらせるものか!』
 複数の銃口から一斉に放たれたビーム光がゼアシュラーゲンを撃ち抜くまさにその瞬間、グレート・ドラゴハーティオンがゼアシュラーゲンへと渾身の力で体当たりし、十数メートル先まで吹っ飛ばす。
「ハーティオン……!?」
 驚いたルーシッドが咄嗟に声を上げるのと同時、フリューゲル部隊によるプラズマライフルの一斉射がハーティオンへと襲いかかる。
 強力な機動兵器であるグレート・ドラゴハーティオンとはいえ、プラズマライフルの圧倒的な破壊力を受けてはひとたまりもない。
 機体中のあちこちから煙と火花を吹き出しながら、飛行状態にあったグレート・ドラゴハーティオンは地上に向けて落下していく。
『ハーティオン! どうしたの! 返事をして! ハーティオン! お願い! 返事をして!』
 蒼空学園本校にて後方支援にあたっている高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)の声が通信帯域を震わせる。いつも冷静な鈿女も、この時ばかりはハーティオンのピンチに取り乱さずにはいられないようだ。
「ハーティオン!」
 ルーシッドが悲痛な叫び声を上げる中、緊急上昇してきたアストレア、ワールド・ファイン・ライン、そしてクェイルが間一髪でグレート・ドラゴハーティオンをキャッチし、三機がかりで受け止める。
「ハーティオン……ごめん……ボクの……せいで……」
 ゼアシュラーゲンのコクピットで自責の念とともに呟かれたルーシッドの声がマイクを通して蒼空学園の通信帯域へと響いていく。
 新式のプラズマライフルによって撃ち抜かれたハーティオンのダメージが甚大なのは明らかであり、ルーシッドが自責の念にかられるのも無理からぬことだ。だがそれでも、ハーティオンは気丈な声でルーシッドに告げた。
『大丈夫だ。それよりもルーシッドたちが無事で良かった』
 ハーティオンのおかげで助かったことに加え、ルーシッドの頭に上っていた血もすっかり下がったようだ。我に返ったことで自責の念に苛まれるルーシッドにハーティオンは再び言葉をかける。
『私の事なら気にするな。ルーシッドの思いは間違ってなどいない。蒼空学園に身を置くものであれば、ツァンダの街が危機に晒されて冷静でなどいられるものか』
 そしてハーティオンはルーシッドを更に励ますように力強く言った。
『それよりも今は謎の敵を撃退することのほうが優先だ。他校の仲間たちが援軍に来てくれるまで、何としても我々でここを守り抜くぞ!』
 ハーティオンの力強い声にルーシッドはもとより、他の仲間たちも勇気を与えられていく。しかし、もはや戦力差は圧倒的なまでに開き過ぎていた。
 既に蒼空学園側で残っているのは彼等七機のみ、一方、敵側は濃緑色のフリューゲル五機と漆黒のフリューゲル一機すべてが健在である。
 フリューゲル一機に対して現用機、それも高性能な第二世代カスタム機でさえも数機がかりでやっと勝率が五分五分という事実を鑑みれば、この戦力差がいかに大きなものであるかは自然と伺い知れるだろう。
 それでも彼等――蒼空学園の生徒たちは諦めることなく、敢然と敵へと立ち向かっていく。
『ふむ、どうやら油断のならぬ敵のようじゃな! 相手に取って不足なし! 討ち取ってくれるわ!』
 最初に動いたのは信長の第六天魔王だ。濃緑色の一機を標的と定めるや否や第六天魔王は背面の両翼を最大パワーで起動し、凄まじい速度で飛行して敵機へと追い付くと、一気に攻撃態勢へと入る。
 これより信長が行おうとしているのはとある儀式だ。
 ――嵐の儀式。儀式を行って、恐ろしい嵐を引き起こす大技である。
 嵐の儀式を施設の近くや味方の近くで使うと味方や施設にまで被害が出て危険なので、注意して味方に通信を入れて後退して防御の体勢でいるように言わんとする忍の声が通信帯域に響き渡る。
『できるだけ遠くに離れるんだ!信長が嵐を起こすぞ!』
 忍が警告を発した直後、第六天魔王を中心として局所的な激しい嵐が巻き起こる。第六天魔王の至近距離にいた濃緑の一機は当然ながらその嵐の直撃を受け、巻き込まれる羽目になった。
 激しい暴風のうねりに濃緑の機体が呑み込まれていく――。