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リアクション
第五章 願うは答えの在処
ドアが開いて舞花、弾、宵一が登場。
「あら、皆様、どうしてここに? もしかしてわたくしと同じようにこの方にお願いを叶えて貰うためにいらっしゃったんですか」
グィネヴィアは現れた自分の捜索者達を見て嬉しそうな顔になった。自分が捜索されているとは微塵も考えていない様子。
続いてシリウス達と日奈々、麗達が登場。
「……いや、そうじゃなくてな」
シリウスが苦笑気味に言った。捜索に来た者はみんなそんな気持ちである。
最後に加夜とローザマリアが現れた。
「……グィネヴィアちゃん、怪我はありませんか?」
加夜は念のため無事を確認する。
「怪我ですか、大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
グィネヴィアは最高の笑顔で答えた。
「……安心はしたけど」
ローザマリアも神妙な顔をしていた。グィネヴィアが無事だったのは嬉しいが、彼女の天然ぶりに拍子抜け。
「……携帯をかけたんだけどな」
シリウスは呆れたように言った。見れば無事なのは確か。気付いてくれればもっと早くに居場所が分かっていたはず。
「……あら、本当です。申し訳ありません」
グィネヴィアは自分のケータイを取り出し、着信を示して光っている事に今更に気付いていた。
「まぁ、無事ならいいんだ」
シリウスは苦笑いを浮かべながら言った。
「で、亡くなった職人と同じ姿をしている君の正体を教えて貰おうか」
宵一は、グィネヴィアの向かいに座る青年に目を向け、瞬時に真実の鏡を向けた。
武闘派の麗はグィネヴィアに危害が及ばないように立ちはだかり、臨戦態勢。横にはアグラヴェインもいる。
「グィネヴィアさま、大人しくして下さいませね」
「……あ、はい」
グィネヴィアは訳が分からぬままうなずいていた。
青年の真実が鏡に映し出された。
「……黒い石、もしかして願いを叶えるために作られた石でしょうか」
舞花が映された真実を見て今一番心当たりのある事を訊ねた。
「……」
青年は黙って答えない。
「あなたに何があったのですか?」
加夜が優しく訊ねるも青年は沈黙したまま。
「話してくれ。なぜ、グィネヴィアを連れ去ったのか。理由があるのなら悪いようにはしない。俺達は、君の力にもなりたいんだ」
宵一は『説得』と『心理学』を併せ、何とか理由を話すように促した。
「……動かなくなったんだ。私に願いを告げて。どんな願いもすぐに叶える石を作りたいと言って。私を作っている最中だった。その後、私はこの姿になった。どうすればいいか分からなくなった」
青年はぼそりと洩らした。その時の事はまだ覚えている。自分を作っている最中に職人は机に突っ伏し、うわ言のように洩らした言葉が遺言となり願い事となったのだ。
それを聞いた瞬間、自分は人の形となり、戸惑い街を彷徨い続けていた。
「……あなたは、最後の石なんですね。職人さんは願いだけを告げてどうするかを教えずに亡くなられたのですね。大変でしたね」
加夜は優しい目で青年を見た。表情を見れば大変だった事は分かる。
「……最期まで職人だったんだ」
ローザマリアは青年の職人としての誇りに言葉を洩らした。
「で、どうしてグィネヴィアを騙して連れ去るような真似をしたのか、そこんとこ教えてくれよ。どんなに身も蓋もない事でもいいから。ここにいる奴らはそれを聞くためにいるんだ」
正体が明白となったところでシリウスが優しさと厳しさのある口調で青年に言った。
「……主と同じように石を売っている店を見かけて助けてくれると思ったんだ。そしたら彼女が出て来て助けてくれるような気がしたんだ」
青年はぼそぼそと話した。
それからシリウスは青年からグィネヴィアの方に視線を向け、
「……それでグィネヴィアはどうしてついて行ったんだ? ここにいる奴だけじゃない店にいる奴もお前の事を心配してたぞ。キーアはお前を捜して店を出て被害を受けた」
シリウスは現実をグィネヴィアに突き付けた。
「……キーア様が、わたくしを捜して」
さすがのグィネヴィアも事の重大さを知った。自分に懐いてくれたキーアが自分のせいで酷い目に遭ったと。グィネヴィアは真っ青になり今にも泣きそうな顔をしていた。
「キーアさんは大丈夫だよ。店に戻ったから」
キーアの捜索にも参加していた弾が答えた。
「そうですか」
グィネヴィアは胸に手を当てほっと息を吐いた。
そこに
「……今度から気を付けないとだめですよ。今回は悪い人では無かったから良かったですけど。それとケータイが鳴ったら出ないといけませんよ」
加夜がグィネヴィアに優しく注意。シリウスがかけた時にケータイに出ていればもっと早く無事を知る事が出来たのだから。
「……そう、です。もし悪い人だったら、心配したり悲しむ人がたくさんいます。私も悲しくなります。せっかく、知り合いになれたのに」
日奈々はグィネヴィアが行方不明だと知らされた時の不安を思い出しながら言った。
「そうですわ」
麗も力強くうなずいた。
「……皆様、申し訳ありません」
グィネヴィアはソファーから立ち上がり、頭を下げて謝った。
「分かったんならもういい。頭を上げて座ってろ」
シリウスがため息をつきながら言った。いつまでも頭を下げさせたままにはしておけないので。グィネヴィアは大人しくソファーに座った。
この間に
「……グィネヴィア様は見つかりました……そうですか」
舞花がルカルカにグィネヴィアの発見と犯人についてや連れて帰るのにもう少し時間がかかる事を報告していた。ついでに最後の石についての完成度も聞いていた。
話はグィネヴィアから石の青年に戻っていた。
「……助けになると言っていましたが、どうすれば助けになるのでしょうか」
加夜が優しく訊ねた。
「……貴方達がどんな願いを持っているのか私はどうすればいいのか知りたい。そうすれば、どんな願いもすぐに叶える存在になれるかもしれないと……」
青年は切迫した様子で言った。自分自身の存在がかかっているので必死なのは仕方が無いのかもしれない。
「願いを叶える存在か。僕は、願いが叶う事自体が大切なんじゃなくて叶えようと生きる事が大切だと思うけど」
弾は自分なりの考えを話した。
「俺もそう思うな。願いとは誰かに夢を叶えて貰う甘えた考えだ。なりたいものや欲しいものがあれば自分で努力して得る。その方が得た時の感動は何倍も違う」
宵一も弾に続く。現在、一流のバウンティハンターを目指して頑張っている宵一としては、頑張っている過程を奪われる事はあまりにもつまらない事なのだろう。言葉からは強い意志を感じる。
「う〜ん、どうすればあなたの助けになるのか分かりませんわ。願いを叶えると言われてもお断りしますわ。すぐに叶ってしまったら願いなんて無価値になってしまいますもの。わたくしも皆様と同じように自分の力で叶えるのが好きですわ」
麗は少し首を傾げながらも自分の考えを口にした。
「私も誰かに叶えて貰わなければならないほどの切迫した願いというものはありません」
舞花は即答した。
「……願いが無い?」
願いを叶えるために作られた青年としては少し理解できない事ばかり。
「人というものはそういうものだよ。願いは叶えるものではなくて持つものだよ。持っていれば努力も出来るし苦しい事も乗り切る事が出来る。成功失敗もあるけど日々は豊かになるよ」
弾はゆっくりと優しく言った。
「……勇気、も出ます」
と日奈々。知り合いになったばかりのグィネヴィアを助けるために苦手な聞き込みだって頑張れたのだ。