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リアクション
第六章 願うは続く道への一歩
石専門店『ストッツ』、売り場。
グィネヴィアは無事、戻って来た。
「あ、お姉ちゃん!!」
ドアを開け、姿を現したグィネヴィアに駆け寄るキーア。
「キーア様、ホシカ様、本当に申し訳ありません。わたくしのせいで」
グィネヴィアはぺこりと二人に謝った。
「ううん、大丈夫だよ!」
キーアは気にしていないとにっこりと笑った。自分の事よりもグィネヴィアの無事の方がずっと嬉しいのだ。
「無事で良かった」
ホシカもほっと息を吐いていた。これでようやく騒ぎは終わると。
「皆様も本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
グィネヴィアはキーア捜索者達や石処理の者達に深々と頭を下げた。
「いや、怪我もしていないようで安心したよ」
「そうですわ」
涼介とミリィは怪我も無いグィネヴィアに安心した。
「買い物は何か食べてからだね♪」
ルカルカが言った。こちらに入って来た情報にはグィネヴィアの願い以外しか伝えられていなかったのだ。グィネヴィア自身が言うべき事だから。
「買い物はもう必要ありませんわ。わたくしの願い叶いましたから」
グィネヴィアはルカルカに笑顔で言った。
「叶ったってどんな願い?」
「……多くの地球人と出会い、親しくなる事でした」
グィネヴィアは皆の顔を見回してからルカルカの問いに答えた。
「その願いはもう叶っているねぇ」
「もう親しいよ。真菜華とグィネヴィアは同じ百合園の仲間なんだから」
北都と真菜華はグィネヴィアの願いに笑顔になった。
「はい。本当にありがとうございました」
グィネヴィアはこくりとうなずいた。
話は連れて来られた石の青年に移った。
「この人が犯人?」
マーガレットはじっと興味津々の様子で青年をじっと見ていた。
「甚五郎の言った通りですね」
ホリイは姿を変える石もあるという甚五郎の言葉を思い出し、興味津々な様子。
「……どんな願いもすぐに叶える石、ですか」
ブリジットは冷静に青年を観察していた。
「あなたがあの職人が作った最後の石なのね。本当にそっくり」
職人を知るホシカは、驚いたように青年を見た。聞いてはいたが、改めて目にするとやはり驚きが先に来る。
「……」
青年はこくりとうなずく。
「事情はみんなから聞いているけど」
事情は周知の事だが、自分が何をしてあげられるかが思いつかず、ホシカは戸惑っている。
「私はどうすればいい。願いを叶えるのを手伝う存在になればいいと聞いた。私は未完成ではないと」
ホシカの戸惑いなんぞお構いなしに青年は自分の抱える問題をつらつらと述べた。
「……それは私にも分からないし、私はあなたを作った職人とは正反対の考え方だよ。願いは叶えて貰うものじゃないというね。その話はもう聞いてると思うけど。ただ、私も君は未完成じゃないと思うよ。そうやって叶えようと一生懸命なところを見ると」
ホシカはさっぱりと自分が何も出来ないと話すも青年の様子から職人の仕事の石への執念を見ていた。
「……」
青年は思い詰めた表情で答えを見つけようともがいている。
「あまり深く考える必要は無いのじゃ。悶々と考えるよりもするべき事があろう。そなたには考えられる頭があるんじゃ。それを活用してはどうかえ?」
羽純が覚えの悪い生徒を前にした先生の様にため息をつきながら言った。
「どうすればいいのかと言われると叶える相手を知る事としか言えないよ」
「こうして人と関わる事ですわ」
さゆみとアデリーヌも加勢する。
「……そうです。人と関わっていけば、思いやりも分かりますわ。きっとわたくし達が話した事もいつか分かるはずです」
リーブラは柔和な笑みを浮かべながら言った。分かるのが今で無くても構わないのだ。人それぞれ分かるタイミングは違うのだから。
「せっかく、生まれたんだ。そんな難しい事考えるのはもったいねぇよ。もう少し楽しんだらどうだ? それも必要だとオレは思うけど」
白銀は重い事を繰り返す青年に呆れていた。
「それで君は何を思っているんだい? みんなの話を聞いて」
北都は改めて聞いた。青年のこれからを考えるためには知る必要がある。話を聞く前と後では変わっているはずだから。
「……どんな願いもすぐに叶える存在になるのが私がするべき事。でも貴方達の話は少しは分かる」
青年は率直に今の気持ちを言葉にした。職人の願いは叶えるべきだとそれが自分の使命であると思っているしみんなの話も分かる。分かるからこそ道に迷っているのだ。
深刻な顔をして考え込む青年に
「そう言えば、石の兄ちゃん、名前はあるのか?」
ふとシリウスは何気なしに聞いた。よく考えれば、ここまで一度も彼の名前を聞いていない事に誰もが気付いた。
「……名前?」
青年は、考えてもみなかった事に戸惑い、聞き返した。
「石の兄ちゃんじゃ、あんまりだと思ってな」
シリウスが笑いながら理由を話した。
「無い」
即答。よく考えればあるはずは無い。彼を作った職人もこの世にはいないし彼自身も気にしなかったから。
「……そりゃ、そうだろうな」
シリウスは笑いながら言った。当然だと分かっていても聞くべきだと思ったのだ。こうして考え思い悩める存在だから名前があってもいいんじゃないかと。
「……」
青年は沈黙し、何事かを考えている。
熟考の末、青年は口を開き、
「……フォルトーナ、でいい」
と名乗った。
「フォルトーナってあの職人の店の名前じゃない」
最初に驚いたのはホシカだった。まさか、店の名前を口にするとは思わなかったから。
「……それでいい。それしか思いつかない」
青年はそう言った。名前として思いつくのは店名ぐらしかなかった。もしかしたら生まれた場所で特別だからというのもあるのかもしれない。
「まぁ、いいけど」
ホシカは変名させる理由もないのであっさりだった。
ホシカだけではなく、誰も名前について何も言わなかった。
「……」
石の青年ことフォルトーナはゆっくりと背を向け、ドアの方へ歩き出した。
「どこに行くんですか?」
心配したミリィが行き先を聞くが、何も答えない。
そんなフォルトーナの静かな背中にホシカは、
「……何かあったらこの店に来たらいい。あの職人の石の事は頼まれているから」
大声で言った。フォルトーナの生まれた店はいずれ別の人に渡るか壊されるかして彼の居場所は無くなってしまうので一休みとなる居場所があった方がいいだろうと言うホシカの思いやりだ。
「……」
フォルトーナは背中を向けたまま一度ホシカの言葉に立ち止まってから店を出た。
「……どこに行くんでしょうか」
ホリイがぽつりと言葉を洩らした。
「あの後ろ姿は旅じゃないかなぁ」
旅を知る木枯にはとても見覚えのある背中だった。
「……そうですね。きっとどうしたらいいのか探すためですね」
稲穂はうなずき、少しだけ嬉しかった。フォルトーナはみんなの言った事を分かろうとしていたから。
「……ホシカさん、大丈夫か?」
陽一は、フォルトーナの居場所を作ったホシカの心の内を知りたくて聞いた。
「大丈夫。頼まれた仕事は最後までしないとね。あの職人とは親しい仲じゃなかったけど、みんなの話を聞く限り優しい部分があったみたいだし。もしかしたら良い友人になってたんじゃないかって。本当は、生きている内に知る事だって出来たのに」
ホシカは陽一に胸の内を話した。職人が生きている間に毛嫌いせずにもう少し穏やかに話せば親しくなっていたかもと思えてならない。亡くなってから気付くのでは意味は無い。
そのせいか同じ姿をしたフォルトーナには何とか力になってあげたいと思えてならない。
「……難しいね。でも、ホシカのその気持ち相手は嬉しく思ってるよ」
ルカルカは落ち込むホシカを励ました。
「……ありがとう」
ホシカはルカルカに礼を言った。
そして、
「おばちゃん、アタシ、お腹空いた」
キーアは悲しげな声で空腹を訴えた。静かに話が終わるまでじっと我慢していたのだ。
「あぁ、そうね。ごめんね、キーアちゃん」
ホシカはようやく空腹の姪の事を思い出した。フォルトーナの話ですっかり忘れていたのだ。
「うん。ほら、行こう! お腹空いたでしょ」
「……あ、はい」
キーアはグィネヴィアの手を引っ張ってホシカについて行った。
ホシカは二人に食事の用意をしてから戻って来た。