リアクション
コンテスト会場 シャンバラ宮殿前広場には、今回のコンテスト用の特設ステージが設営されていた。 広めのステージ奥には、カーテンに仕切られた登場ゲートがあり、各方向からスポットライトが目映く当たるようにデザインされている。正面には広い花道が客席を二分するようにのびており、そこを歩く出場者をあらゆる方向から見ることができるようになっていた。 「ふむ、美しさを競うコンテストか……。はたして、私に、美しいという感情が分かるのだろうか……」 会場に入ってきたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、軽く自問自答した。 「だが、人の輝きという物は感じるような気がする。これは、それを見て、自らの心を磨くための試練なのであろう」 うんうんと自己完結しながら、コア・ハーティオンが会場のど真ん中の席に腰をおろした。その鋼に被われたボディが、威風堂々と観客席のど真ん中にそびえ立つ。 「ううっ……。み、見えません……」 突然、コア・ハーティオンの巨体に視界をふさがれて、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が唸った。 「ここじゃダメだ、もっと前で美羽を応援しよう」 ここでコア・ハーティオンを移動させても、結局は誰かの邪魔になるだろうし、最悪最前列に移動されでもしたらまるで見えなくなってしまうと考えたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、ベアトリーチェ・アイブリンガーをうながしてもっと前の方へと移動した。 立ちあがったコハク・ソーロッドの西ロイヤルガードのコートの裾がふわりと広がる。白いシャツとネクタイ、金糸のラインが入ったグレイのスリムなジャケットにズボンという蒼空学園の新制服の上に羽織ったロングコートは、白地に緑のラインで縁取られた落ち着いた暖かいイメージの物だ。 コハク・ソーロッドについて移動していくベアトリーチェ・アイブリンガーも、同じように蒼空学園の新制服の上に、西ロイヤルガードのコートを羽織っている。ミニスカートに合わせた茶色のセーラーカラーのついた臙脂色のジャケットは、胸の部分が白くなっていて、ショートタイのゆれるベアトリーチェ・アイブリンガーのたっゆんを強調している。こちらのロイヤルガードのコートは、涼やかな青の縁取りがされていた。 「ここがいいだろう」 最前列近く、花道の真横の席にコハク・ソーロッドが座り、その横にベアトリーチェ・アイブリンガーが座る。 「ちょっと、花道に近すぎはしないですか?」 いいのだろうかと、ベアトリーチェ・アイブリンガーが、コハク・ソーロッドに聞いた。 「このくらいの方が、よく見えるだろう?」 ベアトリーチェ・アイブリンガーにとっても、その方がいいだろうとコハク・ソーロッドが言った。 ★ ★ ★ 「この辺にしましょうか」 手頃な場所を見つけると、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と共に席に座った。 御神楽陽太は仕事用のネクタイスーツ姿で、夫婦お揃いの出で立ちをしている。 「ノーンからは出場すると張り切っているメールをもらいましたが、エリシアはいったいどこに遊びに行ってしまったんだか」 パートナーたちのことを心配する御神楽陽太に、御神楽環菜も軽く首をすくめるしかなかった。 ★ ★ ★ 「さて、索敵ポイントとしては、ここが最適でありますか」 花道の終わり近くに座って、大洞剛太郎が言った。ブラックコートのポケットから、スナイパーライフルから外して持ってきたスコープを取り出す。これさえあれば、どんな美人が出てきたとしても、確実にスナイプすることができる。 「スコープをオペラグラス代わりか。変わった物を持ってくる者もいるものだ」 ちょっと微笑ましく思いながら、源 鉄心(みなもと・てっしん)が観客席によいしょっと腰をおろした。なにしろ、教導団のコートの下には龍鱗を着込んでいる。プレートアーマーなどよりは格段に動きやすいとはいえ、鎧であることには変わりはない。ところで、ベルトの所につけられているのはティコナちゃん人形のようだ。ちょっとそこだけ可愛い物空間になってしまっている。 ★ ★ ★ 「みなさん、このあたりの席でしたら、安全です。さあ、お座りください」 ぎっちりとウイングアーマーを着込んで完全武装したイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が、折りたたみ椅子の周囲に不審物がないかチェックしてから言った。 「少し大げさでございます」 コンテストだというので、観客としてもそれなりのおめかしをしてきたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が、またですかという顔で言った。チェリーブロッサムの品のいいワンピースドレスに身をつつんで、しずしずと進む。スカート部分は美しいカスケードになっており、長手袋と靴も同じ色で統一してあった。その上から、髪と同じ色の鮮やかなピンクの薄いシルクのマントを、左胸の所で二輪の薔薇のブローチで留めている。それがわずかな風にもふくらみ、まるでアルティア・シールアムが軽く宙に浮いているのではないかと錯覚させる。 「でも、そこがイグナらしいですよ。おかげで、僕たちはいつも安全です」 特注品のイルミンスール制服の上に白衣を羽織った非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が、問題ないとアルティア・シールアムに言った。 「早く座りましょう。席がなくなってしまいますわよ」 白のふんわりドレスを着ておめかししたユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が皆を急かした。ほのかなピンク味を帯びたドレスは、袖がいったんフリルつきのベルトで絞られた後で大きく広がってフレアーとなったベルスリーブで、美しい刺繍とレースに飾られていた。フラウスで飾られたロングスカートはややふくらんだ意匠となっており、サイドとバックを被うオーバースカートにもフリル飾りが美しくつけられている。波打つ豊かな金髪を飾るのは薔薇リボンレースカチューシャで、ドレスに隠れて見えないが、白のシルク手袋や小さなリボンシューズなど、小物にも結構凝っていて、実に可愛い感じに纏まっていた。 しかし、このままではちょっと座りにくいので、イグナ・スプリントに椅子を動かしてもらい、スカートの下に椅子を一個入れてやっと座ることができた。 ★ ★ ★ 「今のうちに、どの辺を見て登場すればいいのか、当たりをつけておかないと……」 すでに股旅衣装に着替えているアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、ステージ袖から客席に視線を走らせた。花道は結構広いので、真ん中を通るか端っこを通るかで結構悩む。 「おい、こっちじゃ。ここからステージ中央へのばしたラインが、ベストの花道移動ラインじゃ」 観客席から手を振りながら、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)がアキラ・セイルーンにアイコンタクトを送った。 「よし、そこだな」 アキラ・セイルーンもアイコンタクトを返す。 「あのー、出場者の方はあ、そろそろ裏で待機していてくださあい。もうじき始まりますからあ」 こんな所でうろちょろされては困ると、大谷文美が、アキラ・セイルーンを楽屋の方へと連れていった。 「おやおや。仕方ないのう」 ちょっと気の早いカボチャお化け飾りをつけた帽子を被り直すと、濃い紫のマントを翻してルシェイメア・フローズンは大人しく客席に座った。 「コンテストかあ。シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)さんが言い出しっぺなら、参加すればいいのにい。出場していたら、あなたに一票な煙ですー」 審査員席にむかいながら、スタイリッシュなアスリート養成スーツに身をつつんだ不動 煙(ふどう・けむい)がシャレード・ムーンに言った。それにしても、この衣装は露出が高い。腹部や肩がむきだしのホルターネックのレオタードウエアに、独立した袖とトップブーツという構成になっている。なまじ、見た目が女性の不動煙が着ているので勘違いする者が続出しそうだ。 「私は、ただの雇われ司会者よ。それに、私が出て優勝しちゃったらまずいじゃないの」 冗談とも本気ともつかない顔で、シャレード・ムーンが答えた。 そのまま、ステージ脇に備えられた司会席と審査員席に座る。 審査員席の一つには不動煙が座ったが、もう一つはまだ空席のままであった。 「遅刻かしら、しょうがないわねえ……」 もう時間がないので、シャレード・ムーンはコンテストを始めることにした。 『みなさん、お待たせいたしました。これより、第2回ビューティーコンテストを開催いたします』 シャレード・ムーンのアナウンスが会場に響いた。 『まずは審査員の御紹介からです。不動煙さんです』 『にゃっはぁ〜♪』 席から立ちあがった不動煙が、両腕を高く挙げて何やら気勢をあげる。 『ええっと……、もうひとかたは、残念なが……』 シャレードムーンが、空っぽの審査員席をさして言いかけたときだった。 『さあ、ガンガンと審査いたしますわ!』 ボンと炎の聖霊がフラッシュ代わりの炎を立ちあげた隙に、舞台袖からたたたたっとエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が走り出てきた。かろうじて、炎と共に現れたように見える。 「エリシアったら、姿が見えないと思ったら、あんな所に……」 何をやっているんだと、御神楽陽太がちょっと絶句する。 『し、審査員の、エリシア・ボックさんです』 ちょっと引きつりながら、シャレード・ムーンがエリシア・ボックを紹介した。 『どーも、どーも、ですわー』 明るい焦げ茶の魔法使いのローブを着たエリシア・ボックが、観客にむかって投げキッスをする。普通のローブのようだが、袖口にレース模様をあしらったり、胸元に装飾的なリボンタイをつけたりし、帽子にもレースのリボンをあしらって結構お洒落に決めている。手にはルーンの刻まれた手袋を填め、足許は可愛い飾りのついたブーツという出で立ちだ。 |
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