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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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『芳醇な果実は、うら若き乙女の足ほどきを受けて滾りを迸らせる』
 ※『葡萄踏み』のことです


「これだけ採れれば十分、かしらね。……ふふふ、この黒光りした玉は、どれほどの汁を吐き出すのかしら……?」
「ええ、こうして見ただけでもとても芳醇で、素晴らしい出来だと分かりますわ。セイラン様もそうは思われませんか?」
「わたくしも同じ思いですわ。この葡萄を使ったワインの仕上がりが今から楽しみですわね。
 ……あら? 祥子さん、どうなされました?」
「……な、なんでもないわ、大丈夫。ちょっと、二人の眩しさに目眩がしただけだから……
 自分とイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)の間に光と影の境界線のようなものを感じて視線を外した宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、気を取り直して二人に向き直り、告げる。
「さあ、収穫した葡萄を持って、行きましょう。樽は用意してもらったわ。服も用意してあるから着替えて頂戴」
「素敵な衣装でしたわ。地球でワイン祭を行う際に纏う、民族衣装だと祥子さんから聞きました」
「あら、それは楽しみですわね。『葡萄踏み』は知識では知っていましたけれど、実際にするのは初めてですから」
 籠を抱えて、三人の乙女がにこやかに微笑みながら歩を進める。
 向かう先で彼女たちは、ワイン造りの過程の一つ、葡萄を足で踏んで果汁を得る作業を行おうとしていた。

「……あら? 私達の他にも葡萄踏みをする人がいるみたいね」
 場所に着いた所で、一行は樽の中で足踏みをしているやはり三人の乙女の姿を認める。用意してきたらしい民族衣装(スカートがかなり短い、セクシーさを強調している)に身を包んでいる所まで同じだった。
「よっ、ととと……案外、難しいわねこれ――うわぁ!」
 おっかなびっくりといった様子で葡萄を踏んでいた茅野 菫(ちの・すみれ)が、バランスを崩してあわや転倒という所で、ヴィオラに支えられる形で事なきを得る。
「菫、大丈夫?」
「ふー……危なかった。ありがと、ヴィオラ。ヴィオラも初めてなのに、なんか慣れてるって感じじゃない?」
「そう、なのか? 私の足が菫より大きいから、その違いではないだろうか」
 ヴィオラが菫と足を並べる、確かにヴィオラの足が一回り大きい。小さい足で踏むよりは大きい足で踏んだ方が、安定性はいいだろう。
「そうかもね……ってヴィオラ、それってあたしがチビって言ってるようなものじゃないの」
「そ、そんなつもりで言ったわけではない。……怒らせたか?」
 プイ、とそっぽを向く菫にヴィオラがしゅん、となる。ヴィオラの方が頭一つ分も高いが、雰囲気ではすっかり菫の方が上に見えた。
「あははっ。冗談よ、ヴィオラ! ごめんね、ちょっとからかってみたくなっちゃった」
「そ、そうか。よかった……」
 パッ、と笑顔を向ける菫にヴィオラがホッ、と息を吐くのを、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が温かな笑みで見守る。と、近付いてくる人影に気付いて振り返り、収穫したと思しき葡萄の入った籠を抱えるセイランと契約者二名の姿を確認する。
「その様子だと、あんた達もブドウ踏みに来たの?」
「ええ、そうよ。まさか民族衣装を着る所まで一致するとは思わなかったけど。……流石にその短さのスカートを履くのは、厳しいわね」
 挨拶をした祥子が、菫たちの履くスカートがやけに短いことに触れる。ちなみに祥子が用意したものは、膝くらいまであった。
「だって、あんまり長かったら、汚れちゃうじゃない」
「ですが菫、私が見たものでは、長めのスカートを履いた女性がスカートの裾を摘んでブドウ踏みをしていましたが……」
「それは……その……そんな事したら転んじゃう、って思ったから……
 パビェーダに指摘された菫の声が、尻すぼみに小さくなっていく。葡萄踏みに不慣れな者がふわっとしたスカートでいたら、確かに転びやすそうである。
「私はこの服、気に入っているぞ。菫が選んでくれたものだからな」
「ええ、皆さんにとても良く似合っていると思いますわ」
「そ、そう? ……それならよかった。ごめんねヴィオラ、あたしのワガママに付き合わせちゃって」
「気にしないでくれ。私はとても楽しい、こうして菫と一緒に何かを出来ることが。
 さあ、続けよう」
「うん!」
 ヴィオラに誘われる形で、菫が葡萄踏みを再開する。
「それじゃ、私達も準備しましょうか」
「ええ」
「はい」
 祥子の言葉にイオテス、セイランが頷き、小屋へと入っていく――。

「きゃっ……あっ、ご、ごめんなさい祥子さんっ」
 よろけたセイランが、祥子に肩を支えられてなんとか踏みとどまる。
「ううん、大丈夫。……今のセイラン、可愛かったわよ」
「さ、祥子さんっ! からかわないでくださいっ」
「ふふふ、照れていらっしゃるセイラン様もお美しい――きゃっ!」
 祥子に「可愛い」と言われて頬を染めるセイラン、そのセイランに目を向けていたイオテスが足を滑らせてバランスを崩しかけ、やはり祥子に抱きとめられる。
「よそ見は危ないわよ、イオテス。……そんな所も可愛いのだけれど」
「ええ、本当に」
「っ――――!」
 祥子の言葉に、ちょっぴり仕返しの意味を込めてセイランが同意すると、イオテスの頬がより赤く染まる。
「……なんかこう、絵になるわーって感じよね。悔しいけど認めざるを得ないわ」
 そんな三人の乙女の優雅な戯れの様子を、横で見ていた菫がはぁ、とため息をつきつつ呟く。
「菫ももう何年かすれば自然と、あのようになるんじゃない?」
「うーん、ヴィオラはまだしも、あたしは想像つかないなー」
「菫、私だって彼女らのような立ち振る舞いが出来るとは思えないのだが……」
 ヴィオラの言葉を受け流し、菫は秋の澄んだ空を見上げる。パラミタに来て何年になるんだっけとか、これからどうなるのかなとか、考えてしまうのはこの空のせいだろうか。
「……そんなこと考えても仕方ないわね。さ、もう少しだし、ブドウ踏み終わらせちゃいましょ。その後は搾りたてのブドウジュースで乾杯よ」
 パビェーダとヴィオラに言って、菫が足元の葡萄を踏む。
 樽の中で、熟した葡萄が弾けた。


『仲良く肩車』

「ニズちゃんはっけーん。一緒に果物狩り、付いていっていいかな?」
「おぅ、オリガか。『煉獄の牢』でも一緒っちゃ一緒だったが、こうやって面と向かってってのは久し振りだな。
 いいぜ、オレはリンゴでも採ってこようかって思ってたとこだ」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)に呼び止められたニーズヘッグが快く承諾し、先にある林檎の木々を示す。
「林檎! いいねー秋って感じだねー。どんな種類のがあるのかな?」
 草原の精 パラサ・パック(そうげんのせい・ぱらさぱっく)も一緒に、三人で林檎の収穫エリアへ到着すれば、そこには赤みの強いもの、赤と緑のグラデーションがかっているもの、完全に緑のもの、など様々な種類の林檎が実っていた。
「となりの、となりの。パラサ・パックを肩車するぎゃー」
「肩車? うーん、してもいいけど体力使いそうだし……空飛ぶ箒に乗ってみたらどう?」
 箒を勧めてくる終夏へ、パラサ・パックが首を横に振って答える。
「道具に頼るんじゃなくて、誰かと協力した方が達成感的に楽しいじゃない?」
「うーん、一理あるような……? ……あっ、だったらとなりのが私を――」
「逆はオイラが潰れるからお断りぎゃー」
 思い付きを光の速さで却下され、終夏は「残念」と口にしつつ、パラサ・パックを肩に背負う。
「場所を移動する時は降りてねー」
「分かってるぎゃー」
 パラサ・パックの手で、林檎が次々と収穫されていく。その横で同じく収穫を手伝っていたニーズヘッグが、採った林檎にかぶりついて咀嚼する。
「あぁ、うめぇな。そういやあ『宿り樹に果実』の食材はここから出てるんだってな」
「そうだね。料理の美味しい理由の一つを知った気分だね。
 見てるだけで美味しそうな果物、漂う良い香り、そして想像する、これらを使った料理……あぁダメダメ、ニズちゃんじゃないけどお腹空いてきちゃう」
「おいおい、オレを何だと思ってんだぁ? ま、否定しねぇけどよ。
 ミリアの作る料理はこれまたうめぇからな。リンゴなら何つったっけ……アップルパイ、か? ありゃあうまかったな」
「いいよねアップルパイ。ジャムにするのもいいと思うし、搾りたてのジュースも捨てがたい。
 あれだね、ここで採った果物が『宿り樹に果実』の料理になって、それを美味しく味わった時の楽しさに繋がってるって考えたら、なんだかやる気が出てくるね」
 そんな会話を二人が楽しんでいると、終夏の肩の上のパラサ・パックが要求を飛ばしてくる。
「となりの、もっと高く持ち上げて欲しいぎゃー」
「えー? これ以上は無理、無理だってば」
 いくらパラサ・パックが人より軽くても、肩に背負ったまま跳ねる真似は終夏には厳しい。
「んじゃ、こういうのはどうだ?」
「え、ニズちゃん何を――わー!」
 フッ、とニーズヘッグが視界から消えたかと思うと、次の瞬間には自分の目線が人一人分、高くなっていた。
「オレだったら二人を肩車するくらい、余裕だしな。道具にも頼ってねぇ、問題ねぇだろ?」
「問題ないぎゃー」
「わ、私は問題あるけどなっ。ビックリしたし、その……恥ずかしいし」
「オリガはフレースヴェルグ乗ったことあんだし、このくらいの高さ屁でもねぇだろ」
「それとこれとは違うよっ」

 賑やかで、そして楽しげな果物狩りの光景――。