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リアクション
『りあじゅうはばくはつしました』
「もう、刀真ったら! 大きい胸と小さい胸どっちが好き? って質問に馬鹿正直に大きい方が好きとか答えるんだよ!
それも私の前で! 私が胸の事気にしているの知っているくせに!」
採ってきた葡萄をもぐもぐと頬張りながら、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がセイランへ樹月 刀真(きづき・とうま)の文句を口にする。
「月夜さんは、自分の胸が小さいと思っておいでなのですか?」
「そ、そんな事思ってるわけ無いじゃない! …………、ふっ、二人に比べたら小さいけど!
で、でも頑張って大きくする方法を探すから、セイランも一緒に頑張ろう!」
「わ、わたくしは気にしてなど――」
「私には分かるよセイラン、セイランだってサラとセリシアの存在がある、私とおんなじ!」
「え、えぇ、確かに仰る通りですが……」(カヤノさんは範疇にございませんのね)
手を取って迫ってくる月夜に笑みを貼り付けつつ、セイランは蚊帳の外に置かれたカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)の事を思う。確かにカヤノの胸は氷板の如しだが、「その気になれば胸だけ成長させることだって出来るわ! それをしないのはね、ぺたんこなのがあたいの魅力だからよっ!」とぺたんこの胸を張りながら言っていたのを思い出す。戦いの時の事を思えば実際に出来るかもしれないそれをしないのは、もしかしたら自分を気遣ってのことかしら、セイランはそんな事を思うのであった。
「……俺が『胸が大きい方が好き』と答えたのを月夜が聞いていて、それからというもの、すっかり月夜が拗ねちゃってさ。気分転換になればと思って来てみたけどあの調子で……どうしたらいいだろう」
樹に背を預ける格好で座り、収穫した葡萄を摘みながら樹月 刀真(きづき・とうま)が隣に同じく腰を下ろしたケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)に経緯を説明した上で、相談を持ちかける。その月夜はというと、少し離れた所でセイランを相手に、刀真の数倍の勢いで果物をついばみながら何かをまくし立てていた。おそらくは刀真への愚痴を吐露しているのだろう、ケイオースにはそのように想像出来た。
「人はしばしば、言葉の裏を読んでしまうものだ。胸が大きい方が好き、その裏は『胸が小さいのは嫌い』。
俺が想像するに、月夜はそれを刀真の言葉として受け取ってしまったのではないだろうか」
「そうか……だがそうだとすると、新たな疑問が生じる。どうして月夜は俺の言葉の裏を読んでしまったのか、ということだ」
「そこまでは、刀真以上の回答を俺が出せるとは思えないな。
さて……悪いが俺は席を外させてもらう。イナテミスで白花と約束してな、歌を披露することになった」
「ああ、相談に乗ってくれてありがとう。歌の方、期待している」
一瞬背後に視線を向け、一言告げてケイオースが立ち上がる。数歩歩いた所で反対側からやって来た玉藻 前(たまもの・まえ)とすれ違う。
「配慮してくれた、と言っておくべきかの?」
「パートナー間の関係に、外野は口を挟むべきではないと思うからな。極力、当人が考え答えを導き出す……あなたもそう思っているのだろう?」
ケイオースの問いに、前は『是』という名の沈黙で答え、一礼して立ち去る。
(月夜さん、なんだか荒れてますね……。せめてこの歌で、この演奏で、心を落ち着けてくれるといいのですけれど。
もちろん刀真さんも、そしてこの演奏を聞いてくださる方も、安らかな気持ちになっていただきたいです)
封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)がそんな思いを胸に、ケイオースと目配せをして構えたヴァイオリンを奏で始める。そこにケイオースの歌が乗り、白花の肩に乗る青い鳥のさえずりが重なる。
歌と演奏を心地よく聞いていたと見える刀真から力が抜けていくのを目の当たりにして、前は確かめたいことがあって刀真に歩み寄る。他の者であればどれほど気配を殺した所で目を覚ます刀真が、前が普通に隣に腰を下ろしても眠ったままだった。
(……、確かめるまでもなく、か。普段の顔つきは怖いのに、寝顔のなんと可愛いことよ)
心に呟き、前は腕を伸ばして刀真の頭を自分の膝へ誘う。髪を撫でる指から、頭を乗せた膝から伝わる温かさを暫くの間堪能していると、うぅん、と呻きが漏れ聞こえ、やがて刀真の瞳がうっすらと開かれる。
「おはよう。……どうした? 我の顔をそんなにじっと見て」
前が尋ねれば、刀真は半ば夢うつつといった表情のまま口を開く。
「柔らかい感触と良い匂いに、包み込まれるような気がして……。髪を撫でる手つきが優しくて、その心地良さに身を委ねたくなった……。
目を開けたら、微笑みを浮かべた玉藻が居た……あぁ、おはよう。そんな優しい顔あまり見た事が無いから……見とれていたんだ」
刀真の言葉に、前は胸のど真ん中にボールを投げ込まれたような衝撃を覚え、途端に顔が熱くなる。きっと変な顔をしているであろう自分を見られたくなくて、ぷい、と顔を逸らして告げる。
「へ、変なことを口にするでない、照れる……」
「? 俺、何か変なこと言ったか――」
途端、ざく、という音が聞こえ、どこからか飛んできた毬栗が刀真の頭に突き刺さる。痛みに刀真が飛び起き辺りを見回すと、犯人と思しき人物(ピッチャーがボールを投げ終えたような格好をしていた)、月夜がきつい視線を向けていた。
「月夜、どうしてこんな真似を?」
「知らないよ! 全部刀真が悪い!」
完全にご立腹といった様子の月夜と必死に弁明する刀真を横目に、前がふふ、と微笑を浮かべる。
「……はい、治療、終わりましたよ」
毬栗が刺さった箇所へ治癒を施した白花が、素っ気なく背を向ける。
(月夜だけじゃなく白花まで、怒ってるな……どうしてこうなった)
ため息を吐いた刀真が何か言葉をかけようとして、振り返った白花の伸ばされた指に頬をつねられる。
「二人でご飯を一緒に作ってくれるなら、許します♪」
「……、それでいいと白花が言うなら、そうしよう。ここで収穫した果物を分けてもらって、足りない分はイナテミスで買い足して……」
計画を練る刀真の横から、前が口を挟む。
「刀真、我は酒の肴になるものを所望するぞ」
「分かったよ、じゃあ酒も買っていくか。月夜は何を食べたい?」
「……そ、そんなので誤魔化されないんだから! ふんっ!」
一瞬顔を綻ばせかけるも、腕を組んで頬をふくらませてそっぽを向く月夜。
『女心と秋の空』とは言うが、これはなかなか手強そうであった。
『これは課金アイテムではありません』
「……はぁ、きっとこの林檎もあの運営なら、10+2個1000Gくらいで売りに出して、『5分間獲得ポイント2倍!』なんて言い出すわよね……。
なんであの手のイベントは、実際に走ってもいないのに妙に疲れるのかしら……」
「ま、魔穂香! 現実とゲームがゴッチャになってるよ!
今日は老夫婦に喜んでもらうために、いっぱい果実を収穫しに来たんだよ! イベントのことはとりあえず忘れて!」
林檎を手にして何やら呟いている馬口 魔穂香を、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が揺すって現実に引き戻す。
「……、そうね、そうだったわ。ありがとう美羽、危うく闇に飲まれる所だったわ。
一応、これも魔法少女の仕事になるのよね。六兵衛もなんか張り切ってたし、私も果物は好きな方だから……やりましょうか、美羽」
「そうそう、その調子! それじゃ変身、いっくよー!」
美羽と魔穂香が並び、魔法少女への『変身』を果たす。
魔法少女マジカル美羽!
魔法少女リリカル魔穂香!
魔法少女な名乗りと同時にポーズを決めた二人、今日のために美羽が用意してきた魔法少女コスチューム(色違いのお揃い、超ミニスカ仕様)を互いに見やって、まず先に美羽が声をあげる。
「うわ……似合うとは思ってたけど、予想以上。
どーして!? あんなにネトゲ廃人なのにこのプロポーション! 妬けちゃうな!」
「い、一日一時間くらいは外出て豊美ちゃんと走ってるし……。
美羽だって、綺麗な脚してるわ。羨ましい」
魔穂香も応じて、二人視線を交錯させて、そしてどちらからともなく、あはは、と笑い出す。
「この話は、おあいこ、ってことで!」
「ええ、そうしましょう」
二人笑顔で頷いて、地面を蹴った足が離れ、身体が秋の空へ向かって飛び出していく。
「はぁ、魔穂香さんも変わったッスね。あんな格好するなんて考えられなかったッス」
空を舞い、高い所に実っている果実を美羽と収穫していく魔穂香を見上げていた馬口 六兵衛の視界が、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に遮られる。
「こら、六兵衛。あんまり下から見ちゃダメだよ」
「コハクさん、何も見えないッス! 別にやましい気持ちなんて持たないッスから、解放してほしいッス!」
その言葉にコハクが六兵衛を解放し、解放された六兵衛がふぅ、と一息つく。
「んじゃ、僕らは栗の収穫ッスね」
「そうだね。僕が栗の毬を剥いて籠に入れるから、六兵衛は栗を地面に落としてくれるかな」
「了解ッス」
コハクの言葉に六兵衛が頷いて、宙に浮かんだ六兵衛が(どういう理屈で浮いてるか謎だが、彼は自力で飛べる)棒のようなもので栗を叩いて落とす。地上では厚い手袋を嵌めたコハクが毬栗から栗を取り出して籠に入れていく。
「老夫婦から少し分けてもらって、ベアトリーチェにマロンパイを作ってもらうね。
前にここに来た時もみんなで食べたんだけど、きっとその時よりも美味しくなってるはずだよ」
「それは楽しみッス!」
『ご褒美』があると分かった途端、六兵衛が元気よく栗を叩き落としていく。その様子をコハクが笑みを浮かべて見守りながら、栗の毬を剥いていく。
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