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第12章 たまには休息を…人と魔性が共存する次元の都

「近いからっていう問題じゃないよな…」
 “この間行った都って、ここから近いよね?”とアニスが言い出したため、魔性と人が共存する次元の都へやってきた。
 アニスには休息や観光になるが、和輝にとっては一瞬たりとも気が抜けない場所だ。
 そこで今、何が起こるというわけでもないが…。
 無警戒で魔性に近づくであろうアニスから目を離せない。
 どうしても行きたい!と言われてしまい、仕方なく行ってみることにしたのだった。
「こんにちはー!ここって住みやすいの?…そっかー、そうなんだね!」
「なんか普通に話してるな。俺とリオンから見えないが」
「んー。何、和輝?」
「もっと距離を保ったほうじゃいいんじゃないか?」
「むぅーっ、そんなことないよ!人も暮らしてるんだし、クオリアにも気軽に来てーって感じで言われたよ?」
「確かに違反者はいたがな、今はおらぬだろう。警戒すぎても仕方がない、和輝」
 都を襲った悪霊の魔性は追放されたはずだとリオンが言う。
「魔法学校の校長から、メールが届いてよね?ここに、遊びに行ってきてもいいって!アニス、ちゃーんと見たんだからね」
「あ…あぁ、そうだったか?」
 即消そうとしたがアニスに携帯を覗かれてしまっていたようだ。
「お前の負けだな、和輝」
「今更出ようなんて言ったら絶対…文句言われるよな」
 無邪気にはしゃぐアニスを捕まえて都から出たら、わーわー騒がれ何日も文句を言われ続けるに違いない。
「遊びに、来たんだ?」
「クオリア?」
「…ン」
「やっほー、久しぶりー♪ここって他の生き物はいないの?」
 都の中は視覚で確認出来るのは人のみだった。
 どこを見ても小さな虫1匹見当たらない。
「一応、ね」
「へぇー…。遊んでくるからまたねっ」
「店は見てみなくていいのか、アニス」
「見たい!れっつごー♪」
 石造りの店舗へぱたぱた駆ける。
「変わった感じはしないな」
 和輝は壁に触れ、自分たちが住む領域とどう違うのか、確かめてみる。
「クオリアの力で空間を歪めて不可視化してはいるが、全て魔法的な素材とは限らんだろう」
「なるほどな…」
 許可を出していない者が進入しないように、都全体を隠して入れないようになっている。
 あるはずの場所へ足を踏み入れても都には入れない。
 クオリアの力によって都にある魔法的な素材以外ごと、空間を歪めても影響はないのだ。
「店主はいないようだな」
「何言ってるの、和輝。ここにいるよ?」
 アニスにはアークソウルでしっかりと気配が分かる。
「魔道具を持たない人は、どうやって買い物をしているのやら…」
「お店なんだから、お店の人がいるに決まってるでしょ。見えなくたって問題ないんだよ!…美味しそうなグミもあるね、むむー…。これちょうだい!」
「(見えない相手から日常的に物を買うって…、どういうことだ)」
 一般的な常識が通じない、非現実的な目の出来事に和輝は頭を抱える。
「はむはむっ」
 姿を見せない店主の店で買ったお菓子を、アニスは何の抵抗もなく口に入れる。
「いろんな果物の味に変わっていって面白い!2人も食べてみてよ」
「―…アニスが食べろというのなら……。…まぁまぁだな」
「(俺も食べさせられるのか)」
 拒否したらすねてしまいそうだから、しぶしぶ口へ放り込んだ。
「あっちへ行ってみよう!」
 興味アリアリなものを発見したアニスが、勝手に走っていってしまう。
「1人で行くなって」
「ねぇねぇ。これって家?何かなぁ」
 窓はあるが入り口や換気口も見当たらない。
「だーれもいないよ。何も気配がないし」
「魔性に酸素は必要ないのか?」
「わかんなーい。部屋の中に大きな鏡があるくらいだね」
「留守かもしれない。あまり覗いていると怒られるぞ」
「むー…」
 部屋の主がどんな相手が、会話してみたかったが留守らしい。
 アニスは和輝に手を引かれて離れた。



「人ばかりでそれらしいのがいねぇな」
 魔性と話をしてみようと思ったラルクは、話せそうな相手がいないか探す。
「あら、ボウヤもこの都の人かしら」
「違うが…。ボウヤ…?ひょっとして、人じゃねぇのか?」
 自分よりも若そうな女に声をかけられ、年下扱いされたことにもしや…と思い言う。
「えぇ。人と話すために可視化しているのよ。おかげさまでだいぶ会話に慣れて、あなたちが話す言葉を扱えるようになったわ」
「不可視のやつもいるってことか」
「まぁそうね。お店だとあなたたちからは見えない者もいるわ。でも、店主はちゃんとそこにいるから問題ないのよ」
「すまねぇ、少しだが魔性について話を聞いてもいいか?」
「私が答えられることならどうぞ」
「人を不幸にする魔性のことをどう思っているんだ?」
「やだわ、野蛮で好きじゃないわ。ここにいる者は皆、静かに…平穏に暮らしたいの」
 女の魔性は無闇に人を傷つける相手は好まないと答える。
「逆に、私たちを嫌う人もここにはいないわ。そんなの、すぐケンカになってしまうもの」
「あとは…そうだな…。魔性と相対する時、どういう説得の方法がいいんだ?」
「それが正解…というものはないからあまり言えないけど。そうね、強く言い過ぎるのも優し過ぎるのもよくないわ。頭から言われればイヤでしょ?」
「あぁ、確かにな」
「これは……最も気をつけなきゃいけないことで、優し過ぎるてしまうと…。相手につけこまれる隙を与えてしまうわ。相手によっては言葉だけで、簡単に悪さをやめたりしないと思うの。外では戦争やらなんやら起こっているようだから…。それだけで通じれば、酷い争いごとなんてないはずよ。相手の性格をよく考えてからのほうがよいわ」
「戦争は今もなくならねぇからな。今もどこかで起きてるんだろうし…。相手の性格か…これも十分気をつけておく必要があるか」
 この者の口ぶりからすると、どうやら性格がねじれまくった魔性もいるらしい。
「そういう相手はね、人よりも厄介かもしれないわ。あなたたちでいう感情の一部がなかったりするみたいなの。私…哀の感情というものが、よく分からないのよね。分からないというより、元々ないから理解しようがない…という方もいるわね……」
 大切な感情が欠落している者もいるだろうと教える。
「他にどういった魔性がいるんだ?」
「―…あまり、他の者のことをお話することは出来ないの。でも、近いうちに、少しだけ分かる時がくるかもしれないわ。ただし、か弱い者では相手にするは困難かも。覚悟もない力のない者が首を無用に突っ込めば、すぐ病院送りかしらね。あなたは…もっと強くなれば無事かもしれないわね?」
「それは…どういう意味だ?」
「言葉通りよ。こんなの、当たり前のことよ?特に、あなたがこれから相手にする者は…、……口にするものイヤだわ。夕食の支度をしたいから失礼するわね」
 女は不可視化していしまい去った。
 言葉から想定すると今までの者よりも、とても恐ろしい相手だということだけは確かだ。



「静香さん、お待たせ」
 次元の都があるはずの場所で困っている静香に、クリスティーが声をかける。
「ごめん、この地をうまく文章で表現できなくて、じかに見てもらったほうが良いと思ってね」
 てっきり森の入り口にいると思ったが、現地の前へ来ていた。
「あの地図で分かった?」
「うん…。でも、本当にあるの?」
「ええっと、許可された者しか入れないんだよね。…クオリアさん、入り口を開けてください!」
 クリスティーが大きな声で言うと、目の前の空間がぐにゃりと歪み、都が現れた。
「今日はボクのペンフレンドもいるのだけど。一時的に許可してもらえるかな?」
「入って…いいの?」
「たぶん大丈夫だと思うよ」
 静香の手を引いて都の中へと案内する。
「さっきまで何もなかったのに、こんなに人がいるなんて!」
「ここにいる魔性は、人に対して悪意がないんだ」
「人じゃないって、どうやって分かるの?」
「ううん…ボクたちはそういう力を使ってないから、分からないけど。このクローリスさんは、花の魔性なんだよ」
「他の種族とも違う感じがしたから…、気になっていたよ」
 パートナー契約している相手でもなさそうな少女が、クリスティーにずっとくっついている。
「この人が、クリスティーくんの…ペンフレンド?」
「始めまして、静香だよ。お名前は?」
「クローリスなのらぁ」
「そっちの女の人もそうなの?」
 クリストファーが使役している少女の魔性へ目を向ける。
「ポレヴィークだよ。強い解毒薬を作る力を持っているんだ」
「あまりよくわからないけど…凄いね!」
「眠いから帰ってよいかしら」
 小さく欠伸をしてだるそうに言う。
「そう言わずにもう少しだけ付き合ってくれないか」
「ええー…めんどうだわ。貴方がそこまでいうならいいけど…」
「ふふっ、ありがとう」
「ヴァイシャリーとかと違うね?建物の素材は僕たちが住んでいる物と、あまり変わらない感じがするのに。こっちは行けないみたい」
 店の入り口らしき部分に、光の幕がかかっている。
 強く押してみたりしたが開かない。
「そこはお休みのだね。そこなら入れると思う」
「え、誰もいないよ?」
 雑貨屋の中を覗くと客らしき人の姿あるが、店主の姿がどこにもない。
「魔性からは見えているかもしれないけど。人が魔性の姿を見るためには、ある道具が必要だよ」
「見えなくても買い物は出来るから心配ない。ここにいる人たちにとって、それが普通なんだ」
 可視化している者もいるだろうが、ここの店主は不可視の者のようだ。
 そこにいるのだけど見えない、目に見えるものが全ての存在ではない…。
 静香の目には摩訶不思議な光景に映った。