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第15章 たまには休息を…エリドゥStory3

「(今の俺には視覚的な癒しも必要だ…。俺を癒せるのは、冬だろうとも真夏気候のここしかない!)」
 好き放題やらかした戦友、自分に対して殺気だらけのポチ。
 このペアだけでもベルクをかなり疲労させる。
 彼を癒せるのは水着姿のフレンディスしかいない。
 エリドゥに到着するとさっそく水着売り場へ直行する。
「(服みたいな水着もあるんだな…。ワンピースタイプやパレオの変わりに穿くポットパンツもあるのか。だがっ、これじゃ俺は癒されない。やっぱりここは…っ)」
 夢のエリアへ勢いよく振り返りったベルクは…。
「(超ビキニだろ!!)」
 橙色の小花柄をあしらった山吹色ベースのビキニに決めた。
 店の外ではフレンディスたちが待っていた。
「お帰りなさい、マスター」
 フレンディスは向日葵の髪飾りにちょっと手をやり、戻ってきたベルクに顔を向ける。
「買ったぞ、フレイ。…着るんだ!」
「―…誰がです?」
 大胆な水着がポチの視界に飛び込む。
 “このエロ吸血鬼!”と言いたげにベルクを睨んだ。
「お前には言ってねぇよ、グラキエスと遊んでろ。フレイ、これを着て俺と海で遊ぼうぜ」
「ぇ、…えっ。そのような…胸元が見え過ぎるものは……。し、下はこれですか!?」
 ベルクに買ってもらって嬉しいのだが、ビキニを直視したフレンディスは顔を真っ赤にする。
「こ…このっ、エロ吸血鬼め。……僕のキックが!?」
 簡単に避けられてしまったポチが驚く。
「残念だったな、ポチ。俺は宝石の力で、そんなもんあたらねぇんだよ」
 エターナルソウルで加速し、軽々と避けたのだった。
「(あのエロ吸血鬼をここまでパワーアップさせるとは…。恐るべし、魔道具っ!)」
 勝ち誇った態度のベルクを見上げてギリギリ歯軋りする。
「ついでに言っとくけどな。隠れようがどうしようが、アークソウルで全部分かるんだぜ」
 わざとらしくポチの傍で小声で言う。
「くっ、この、このっ!」
「おっとあたらねぇな。はっはっは!」
「マ、マスター?本当に…これを私に?」
「下に穿くスカートもあったから買ってみたんだが」
「―…フリル……可愛いですね。ありがとうございます、マスター!」
 ビキニと同じ柄のミニスカートももらう。
「これも似合うと思ってな」
 パレオとパーカーも渡し、いつか生足を拝む日を夢見る。
「ベルク。海へ行く前に土産を見たいんだが…いいか?」
「ああ、いいぜ」
「どの店がよいだろう…」
「グラキエス様、私がご案内いたしましょう」
 自習が終わってグラキエスが眠っている間、エルデネストはエリザベートからの情報を元に調べておいた。
「―…こちらの雑貨屋などいかがでしょうか?」
「ここならいろいろありそうだ」
 自分のものというよりも、フレンディスに何か買ったほうがよいかと思い、どれにしようか考える。
「(フレンディスにピアスは危ない気がする…カフスにしておこう。尻尾には大きいリボンがいいか)」
 ルビーがついたシルバーのカフスと、灰色と黒のストライプのリボンをカゴに入れる。
「ポチにはストラップを…。2人にはオルゴールがよいかもな」
 ふかふかの肉球を模したものがついているストラップと、ベルクとエルデネストにはオルゴールを買うことに決めた。
 オルゴールの蓋には砂漠の妖精が舞う絵が描かれている。
 グラキエスは購入したものを、いつもお世話になっている者たちへプレゼントする。
「ありがとうざいます!」
「もらってもよいのですか?」
「いつもいろいろ作ってくれるからな」
「大切に使いますね、グラキエス」
「ベルクとエルデネストにも…」
「キレイなオルゴールだな」
「頂戴いたします、グラキエス様。なるほど…ゆったりと癒される曲調ですね」
「そろそろ海に…」
 エルデネストが情報を纏めている途中に起きてしまい、ほとんど眠っていない。
 照りつける太陽の日差しも加わって、立っていられなくなったグラキエスはパートナーの腕の中に倒れてしまった。
「―…おやおや。ベンチで休むとしましょう」
「大丈夫ですか、主!」
 また睡眠不足で倒れてしまわないように、アウレウスはグラキエスを抱きかかえてベンチに座る。
「グラキエス様、これをお飲みください。少しはよくなると思いますから」
「ありがとう…」
 悪魔の妙薬を飲ませてもらうと、ちょっとだけ楽になった。
「中東料理があるカフェいかかでしょうか?軽食が多めですからグラキエス様でも食べやすいかと思います」
「海は……」
「いけません。この暑さではまた倒れてしまいます」
「すまないな…ベルク」
「何かあってからじゃあれだからな。また今度の機会にすればいい」
 しかし心中では、フレンディスの水着姿が拝めず残念な気持ちでいっぱいだった。
 カフェまでエルデネストに運んでもらう。
「私が注文してさしあげますね。…店員さん、注文よいでしょうか」
 エルデネストは店員を呼んで軽食を注文する。
 しばらくするとウェイトレスが料理を運んできた。
「グラキエス様。これはアイランと言いまして、飲むヨーグルトのようなものですが。そのままでは酸味が強いため、ハチミツやドライフルーツを混ぜて食べるほうがよいです」
 サービス品を手早く加え、グラスを彼のほうへ寄せてスプーンを渡す。
「美味しい…。こういうのもいいな」
「皆さんもこちらをどうぞ」
 皿の上にポツンとのっかっている壺をトンカチで割り、中のケバフを小皿に分ける。
「壺焼ケバフは食べる直前に割るものなのです」
「ポチ、これなら食べられると思う。店は持ち込み出来ないから…、何も食べないと見ているだけになってしまう」
 トルコ風ピザをグラキエスがポチに勧める。
「いただきます。はぐっ」
「私が頼んでポチが食べられるものにしていただきました」
「ポチも店に入れてよかった」
「獣人ですから問題ないようです」
「マスター、どれも美味しいですね。はむっ」
 食の細いグラキエスと対照的にフレンディスは次々と咀嚼する。
「ぁ…ああそうだな。(皿のタワーが出来そうだな)」
「そんなに食べられるとは、…凄いなフレンディス」
「この料理はさっぱりしていて食べやすいな」
「ホンモスですか?いろいろ種類はありますが、消化がよく朝食によいものですね」
 今は夕方近くなのだが今のグラキエスには丁度よいものだった。
「そこの者。この写真の料理のレシピを教えてもらえないか?」
「大変申し訳ありませんが…、当店での作り方を全てお教えすることは出来ません。このような料理は豆とゴマをペーストにし、他に一手間加えるものなのです」
「ふむ…、感謝する。(食べて学ぶ必要がありそうだな。ややっ、この酸味はレモン?ふむふむ…オリーブオイルも少々入っているようだ)」
 アウレウスは食べた味でどんな材料を使っているのか探る。
 カフェを出る頃にはフレンディスの間食した量が、天井を突き抜けそうな皿タワーが出来ていそうだった。
 大量に食べる彼女のおかげで店員は皿を片付けるのに大忙しだった。



「団長、お待ちしておりました!」
 金 鋭峰(じん・るいふぉん)が到着する前に、ルカルカたちはエリドゥの入り口で待機していた。
「海の家がありますので、そちらでお食事しましょう」
 ルカルカは鋭峰のために考えたプランを実行しようとダリルに視線を向ける。
「どうぞこちらへ」
 そこまでの道を覚えているダリルが案内する。
「混んでいますね…」
「この町には詳しいのか?」
「はい!以前とある依頼が魔法学校にありまして、そのために来たことがあります。その依頼を遂行するために、エリーたちに様々なことを教えてもらっています」
「エリーとは…?」
「―…はっ、エリザベートのことです、団長。私たちはエクソシストの授業に参加していまして、今までの手段では対処不可能な相手と戦う術を学んでいるのです!」
「ほう…それはこの私が相手だったとしてもということだな。それはどのような者だ?」
「魔道具というものを使わないと見えない者が大半なのですが、それはモノに憑依して悪事を行い、人々を苦しめたりしているのです。バニッシュなどでは憑依されたモノを破壊、または道連れにされるため…必ず魔道具で対処を行わないとならないのです。多くの悲しむ者がいないように…、また大切な人を守る力でもありますね」
「不殺というわけだな…」
 エクソシストの行動は今までの自分の感覚とはかなり違うものだと感じる。
「えぇ、基本的にはそうなのですけど、更生不可能と思われる者は残念ですが滅しなければなりません。状況にもよりますがモノ憑依している状態ではなく、大抵は器から祓った後になるかと思います」
「なるほど…、その判断が難そうだ」
「私たちは修練を積むことで、それを習得していきます。この魔道具は、危害をくわえる行為や快楽目的の殺害などを行おうとすれば、効力が発動されません。その他、無用ないたずらなどの行為は威力を下げてしまうことになります。さらに、焦り・怒り・憎しみなどという感情も魔道具の行使する際、効果に影響を及ぼします」
「まったくの善の者でないと無理だということか?」
 仏のような心がないと使えないのかと聞く。
「いえ!なんと言いますか…、相手を傷つけて対象を守っても、それは善でも悪でもないと思います。困っている人や苦しんでいる人がいれば、そこで助けてあげたいということだけなんです。エクソシストというものは、そういう存在かと思います…」
「正義でもなく悪でもないのだな」
「傷つけて守ることは正義はありません。もしそうなら、それは自分が思うだけがそう思っているだけかと…。ああっ、すみません。団長のお考えを否定しているわけではありませんから!」
「ルカルカたちは随分と難しいことを学んでいるようだな。今の志を忘れないようにな」
 曇りのない眼差しの本校の者たちにエールを送る。
「はいっ、団長!」
 背筋を伸ばしルカルカはビシッと敬礼する。
「席空いたみたいだぜ」
「団長、お席へどうぞ!」
 ソファー側の椅子に座わってもらおうと勧める。
「私たちはこちらの椅子に…」
 あまりふかふかでない丸椅子に座る。
「どの料理がよいですか?」
「ファラフェルサンドというものが気になるのだが」
「了解いたしました。あとは取り分けられるものにしましょうか…。…あ、店員さーん、注文させて!」
 ルカルカは片手を大きくふって店員を呼ぶ。
 注文を済ませた数分後…。
 料理が盛られた皿がテーブルに並んだ。
「このように食べればいいのか?」
 平べったいパンに盛られた具に、パンの端っこを持って挟む。
「豪快な食べっぷりだな。俺も…あぐっ」
 パンからフレンチフライポテトがはみでまくったファラフェルサンドをカルキノスが食べる。
「炊き込みご飯のご飯に、何かのスープが染み込んでるわ」
「チキンスープだな、ルカ」
「言われてみればそんな味かも。それにしても、混ざっている野菜と鳥の量が凄いわね」
「大勢で食べるものにはいいかもな。これなら俺がいつでも作れると思うぞ。ナスやトマトなどをかなり切らないといけないが」
「んー、美味しいっ。パーティーとかにお願いするかも♪ルカでも頑張れば作れたりしちゃうかな?」
「家庭料理を作れる者なら、誰でも出来そうだが…。ルカの場合は味付けなどに気をつければだな」
「うぐっ、それを言わないで……」
 調味料を入れすぎたり、水の量を間違えたりすると予想されてしまう。
「ルカは先に学ぶことがあるだろ」
「エクソシストも頑張るけど、料理も頑張りたいの!ルカだって女の子だもの♪美味しいの作れるようになりたい」
「女の子…か」
「あっ!その辺の女の子よりも自分のほうが凄いとか思ったでしょっ」
「そんなつもりはないが…。そうだな…、へたな痛々しい料理を作る女はどうかと思うことがあるな」
 近頃の女は出来そうで出来ないやつも多く、さらに間違ったモノを自信満々に作るものだから痛々しく感じるのだ。
「そのうち、ダリルよりもおいしーーの作ってみせるんだからね」
「何百年後になるやらだな」
「くぅう〜っ、悔しい〜〜!!」
「だったらベアトリーチェたちにでも料理を教わったらどうだ?」
「な、何で他の人の名前が出てくるのよ」
「1つ言っておく、ルカ。おそらく今の女のメンバーで、ルカが下から2番目だ」
 ダリルの言葉にルカルカは心に痛恨の一撃を受ける。
 ちなみに一番下はカティヤだった。
「陣でもいいかもな」
「ど…どうしてよ、女の子じゃないじゃないの」
「知っている。だが残念だが、ルカより遥かに上だ。陣なら丁寧に教えてくれるんじゃないか?まずはやつよりも美味いものを作ってみせることだ。数十年後くらいなら上達しているはずだ」
「それじゃ長過ぎるわ。ん〜っ、やっぱり打倒ダリルよ!」
 高らかに宣言してみるがダリルにスルーされてしまった。
「私が試食してやってもいい」
「―……団長自らですか!?」
「不満か?」
「い、いえっ。お口汚しになってしまうかと…」
「ダリルよりも上達したいのではなかったか」
「そ、それは…はいっ」
「ルカルカ、今から私の弁当係に任命する。ただし、作れる時でいい」
「はい、喜んで!」
「うぇっ、ありえねぇ…。もっと他にいるって。団長様、腹壊すぜ……イテッ」
 カルキノスは足をルカルカにぎゅむっと踏まれる。



「淵、そろそろオメガさんが来てると思うわよ」
「―…うむ」
 ルカルカに促されて席を立った淵は、浜辺で待っているオメガのところへ向かう。
「(オメガ殿…!なぜあのような格好で…)」
 彼女はエースが作ってくれた衣装のまま訪れていた。
「こんばんは、淵さん」
「ひと泳ぎといこうか、オメガ殿」
「着替えて参りますわ」
「(どのような姿でくるのだろうか…)」
 様々な事情で水着姿を見れなかったのだが、今度こそ拝めそうだ。
「お待たせしました」
「(か…可愛い)」
 水着姿になったオメガを直視した淵は顔を真っ赤に染めた。
「それはオメガ殿が買ったものか?」
「いいえ。皆さんに助けていただいた後…、エースさんに買っていただきましたの」
「(またしてもやつの名前がっ)」
 淵は心の中で悔しげに叫んだ。
 その頃、ルカルカたちは2人が見える場所で、買い物していた。
「レターオープナーはどうでしょうか、団長。…では」
 あまり表情を変えない彼の様子に、これじゃないものがよいだろうかと、他のものを探す。
「筆置きもありますよ?」
「ほう…珊瑚の筆置きか」
「私も欲しいので買いますね」
 ルカルカは露天の店主に代金を払う。
「団長、受け取ってください!」
「ありがとう、ルカルカ」
「―…あの、団長。エクソシストの授業で身につけた術をご覧ください!」
 ハイリヒ・バイベルを開いたルカルカは、哀切の章のページへ捲る。
 魔道具はルカルカの精神と詠唱ワードに反応し、光の波が岩場を飲み込んだ。
「それが今学んでいる能力なのだな?」
「はいっ!」
「ふむ、術を受けたものに傷一つなさそうだ」
 本当に傷などないか岩場をチェックする。
「なるほど…よい力を身につけたな」
「以前、ここで魔性と対峙したのですけど。ちゃんと愛を持ち接し時に、共生もする魔性もいるんです」
「分かり合う気持ちが大事ということか」
「えぇ…。大人しくさせなければいけないこともありますが、これは…無闇に傷つける術ではありません」
 やたらと命を消してはならない。
 鋭峰にはそう告げているように聞こえた。