蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

祓魔師たちの休息1

リアクション公開中!

祓魔師たちの休息1

リアクション


第14章 たまには休息を…モーントハナト・タウンStory2

「早く来すぎてしまったかもしれませんね。環菜、寒くありませんか?」
「大丈夫よ、陽太」
「―…来たみたいです!」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はエリシアたちに大きく手を振った。
「どうも、こんばんは。私の使い魔、ビバーチェを紹介しますわ」
 エリシアはちょっと自慢げに、御神楽夫妻へ紹介する。
「こんばんは。とても賢い魔女さんを通して、あなた方のことは知っているわ」
「賢い…?ただのスパルタの間違いじゃ…、いえ…何でもない、…です」
 キッと睨むエリシアの視線に気づき、陽太は口ごもってしまう。
「わたしのお友達を紹介するね!」
「ルルディと申します……」
 ノーンに紹介されたルルディが会釈する。
「わたくしたち、中級の称号を得るまでに能力を身につけましたのよ」
「凄いですね!とても危険な依頼もあったんですよね」
「フフッ。えぇそれはもういろいろとですわ。今日はお休みをいただいているんですの」
「ずっと実戦続きだったからご褒美だって」
「お金は俺たちが払いますから、たくさん遊んでくださいね」
「ゴンドラ乗ろうよ!んっと、たぶんこっち」
 パンフレットの情報を頼りにノーンが案内する。
「ここだね」
「何か…違う気がしますが?」
 ジャングルのような入り口を目の前に、いやな予感が過ぎる。
「でもおにーちゃん、行ってみないと分からないよ」
「―……!!今、悲鳴が…」
「えー?もうかなり進んじゃったから、行かないと時間がもったいないよ」
「怪物って言葉が聞こえましたけど」
「だらしないですわね、陽太。イルミンスール側なのだから当たり前ですわ」
「(当たり前…?今…当たり前とか言いませんでしたかーっ)」
 エリシアの言葉にもはや絶望しか感じられなかった。
「それはそうと、度々イチャイチャメールをよくも送りつけてきましたわね。料理やデザート作りの上達を自慢したいんですの?まったくお熱いことで…」
「陽太…?」
「そんなつもりはっ!俺と環菜がちゃんと食事しているか、エリシアたちが心配するかなっと思ったんですよ」
「ほほうー…、風邪をひいた時のことも書いてありますわよ?これを読みあげて…」
「恥ずかしいからやめてください、エリシア!」
「お客さんの風邪がうつってしまって…。それで俺の環菜は食べやすい食事を作ってくれて凄く嬉しい…、と?ふむふむ、どうせならもっと風邪をひいていればいいも…、もっと環菜を独占していられる…ですって」
「俺が書いてない文章もありますよね、それ!ていうかそんなふうな書き方で送ったことありませんから!!」
 あることないこと言われ、エリシアの携帯を取り上げて止めさせようとするが…。
「ビバーチェ」
「魔女さんに乱暴するのは許さないわよ。大人しく聞いていればいいと思うわ」
「(しまった…同じような属性!!?)」
 エリシアの命令で接近を阻んでるビバーチェだったが、彼の様子を見ておもしろがっている。
 悪意のないただの戯れとして認識しているのだ。
「ええっと、環菜は俺の妻だから、甘えてもいいです…。ほうほう、2人でイチャつきたいからエリシアたちは、全然遠出してくれてかまわないです。…まぁ、言われなくってもそうしてますわ♪」
「俺のイメージがおかしくなるからやめてくださいって!か、環菜。あんなメール送ってませんからね!」
「どこまで本当なのかしら。気になるわね…」
「そこは気にしてはいけないところですって」
「妻として知っておく必要はあると思うわ」
「はわわわ……っ」
 “妻の権利”という魔法を行使されそうになり、どうしていいか分からなくなる。
「わたしたちの番だよ」
「あら?もう少し遊んでおきたかったのだけど、閉じておきますわ」
 エリシアは携帯を閉じ、ゴンドラに乗り込む。
 船頭は陽気な人で、このアトラクションについて説明している。
「熱帯のジャングルみたいね、陽太」
「えぇ…不思議ですね」
「可愛い鳥がこっちに来るわ」
 鳥はさえずりながらゴンドラに近づいてくる。
「ほんとですね、可愛い…くないですよ!?」
 小さな小鳥だったと思われるものが突然巨大化し、怪物へと変貌した。
「捕まったら、…食われるぜ!おらぁっ、おっこちねぇように捕まってなっ!!」
 陽気な船頭のほうは態度が180度変わり、ワイルドな兄貴風になる。
「こ、これゴンドラですか!?凄く速いんですけどっ」
「何に見えるんだ?つーかアイツに食われたらもげるぜ」
「ひぃいい、なななな何がですかぁああっ。うわあぁあ、なんか飛んできますしっ」
 頭上を通過していく鋭利そうなモノが飛び交う。
 ソリットビジョンなのだが、このことを夫妻だけ知らない。
 エリシアがわざと教えておらず、ゴンドラに乗っている途中で気づいたノーンには、こっそり話して口止めしている。
「何なのこれはっ」
「アトラクションですから…大丈夫な…はずですっ」
 猛スピードで進むゴンドラの遠近感がさらに恐怖をあおる。
「と、鳥が来ました!!」
「さぁて、別れ道にきちまったようだ。左右どちらか選んでくれ!」
「えぇっと…」
「落下するほうでお願いしますわ」
 陽太に選択させずエリシアが言う。
「た、滝ーーーっ」
「やぁああ、陽太!!」
「お…俺は、生まれ変わっても環菜を愛しますーーっ!ぁあああああーーーぁぁぁあああぁあ!!!」
 愛する妻の身体をしっかり抱きしめて陽太が叫ぶ。
 ドドンォオオンッ。
 轟音と共に水しぶきが上がる。
「到着しましたよ、お忘れ物がないように」
 ワイルドな口調だった船頭の口調が元に戻る。
「ゴンドラ・謎のアドベンチャーでしたわね」
「え…、橋の下を通るゴンドラは…?」
「さぁー?パンフレットにあったような、なかったような…」
「それ、見せてください」
「俺は生まれ変わっても…ですのね。フッ、覚えておきますわ」
「あ、ぁあそれは…」
「次はどこへ行くの?…夕飯は取らなくても平気?」
「食事でもしましょう、ビバーチェ」
 パンフレットを覗き込むビバーチェに、エリシアが爽やかな笑顔を向けた。
 夕飯という単語で何やら思いつたようだ。
「モード…っと、メニューはアオスシュテルベンにしますわ!」
「楽しそうね、魔女さん」
「えぇ、とっても♪」
「エリシア、レストランなの?」
「そうですわよ。時間までたっぷり、味わうといいですわ」
「時間のコースかしら」
「似たようなものですわね」
 開かれた扉の向こうへ進み、エリシアたちは椅子に座った。
「落ち着いた雰囲気ね。たまには外食もいいものだわ。ね、陽太」
「どちらかというと手料理のほうがいいですけどね」
「(あらあら、フフフ…これから起こることも知らずに…)」
 のん気にイチャイチャする2人にエリシアは必死に笑いを堪える。
「アナウンスですか…?何でしょうか…」
「え…恐怖?ここ、何か変よ」
「蓋が勝手に皿から退く仕掛けみたいですね。な、何ですか、鳥のステーキが襲ってきましたよ!」
「食ってやる、オマエを食ってやる」
「ステーキに食されてしまうんですか!?」
「助けて、陽太ーっ」
 大口を開ける丸パンに狙われた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は部屋の中を逃げ回る。
「環菜!!このパン…俺の妻から離れてください!」
 愛しの妻の前に立った夫は…。
「へ、ぁああ…っ、はぶっ!!?」
 あっけなくパンに食べられてしまった。
「言うことは立派なのに、行動結果があれでは…」
 エリシアたちは料理に掴みかかって、しっかりと食事をしている。
「パフェも美味しいね、エリシアおねーちゃん」
「たくさん食べましょう、ノーン」
 4人は食事を楽しんでいたが、パートナーの妻は大泣きしてしまっていた。
 アトラクションの食事タイムが終了し、彼を食べたパンや残りの料理も消えてしまった。
「陽太…怪我はない?」
「なんともないですね…。よかったです、環菜が無事で…っ」
「当たり前ですわ、これはアトラクションなのですわよ。それなのに、2人して映画みたいなこと見せつけて…」
「おあつい、とはこのようなこでしたか…」
 ノーンの情報でルルディも知っていたが、実際に見てなるほどと学ぶ。
「エリシア…。頼みますから、大人しいところをお願いしますよ」
「気が向いたらそうしますわ」
 そろそろゆっくり楽しめるところへ連れて行ってやってもよいか、とお菓子作りの館へ案内する。
「ここは…一番最初に来ようと思っていたところでしたね」
「あら?そうでしたの」
 いつの間にやら2人の手からマップを奪っていたエリシアは黒い笑みを浮かべる。
「小人や動物の人形が作っているんですね…」
「甘い香りがするわ」
「お菓子つまめるみたい、はむっ」
「ただのソリットビジョンですから、いくら食べても問題ありませんわよ」
「エリシア、祓魔師の授業ってどんなことを行っているんですか?」
 簡単なメールのやりとりしかせず、授業については分からない。
 2人がどんなことをしているのが気になって聞く。
「目に見えない霊や魔性を祓うのだけど、祓うことは滅することではないんですの。祓魔を行うためにはハイリヒ・バイベルという魔道具に、ある章を記した状態で使う人がありますわ。仲間と協力して発動させるアイデア術というものを使うと、わたくしたちの使い魔が祓魔の力を持つ花嵐を使えたりしますのよ」
「どの魔道具も清らかな精神力じゃないと、威力に影響したりするんだよ。怒ったり誰かを苦しめるようなことには使えないね」
「ビバーチェとルルディは、呪いにかかりにくくする能力もありますの。そのような相手とも対峙することがあるため、とても重要な能力ですわ」
「の…呪い!?」
「お行儀よく教科書を開いて学ぶような、ぬるい授業とは違いますわ。それぞれが、覚悟を持って学んでいるんですの。時には被害者たちの生命の救助にも関わることですのよ」
「な、なんか凄く大変なことなんですね」
「苦労なくして能力は手に入りませんのよ。…はむ」
 エリシアは話しながらチョコにハチミツをつけて食べる。
「出口に出ちゃったね。写真、撮ろうよ」
「記念にいいですわね」
「はーい、にこーっ」
 ノーンはセルフタイマーをセットし、アトラクションをバックに撮る。
「エリシア、ノーン。これからも祓魔師の授業を頑張ってください」
「また、しばらくのお別れですわね」
「はーい!次はどんな授業か、わくわくするねっ」
「2人のことをよろしくお願いします」
 ビバーチェとルルディに、パートナーたちを守ってほしいと頼む。
「魔女さんが望むままにやるだけよ」
「その通りです…。ノーンの頼みなら…」
「いったん、家に戻らないの?洋服とか…」
「いえ。洗濯はホテルで出来るから大丈夫ですわ」
「頑張ってね。必要な費用は送るから、足りなったら私の夫にメールしてちょうだい」
「分かりましたわ」
 “私の夫”という言葉に、まぁお熱い…と思いつつ口に出さなかった。



「レヴィアさん、アウラさん。お久しぶりッス!」
「いつぶりだろうか…」
「あー、ちょっとわかんないッスね」
 最後にいつ会ったのか陣も覚えていない。
「ジュディじゃ。我は初見じゃな、よろしくなのじゃ」
「ぁあ、よろしく。陣のパートナーか?」
「そうじゃな♪」
「わらわはアウラネルクじゃ、ジュディ」
「むっ?1人おらぬ気がするのぅ」
「磁楠は家で覚え直すからって、先に帰ってるな。そっちにもメールがいってると思うんやけど」
 簡単に“良い休息を”と携帯に送られきていた。
「ふむ…」
「アウラさん、広場の露天に行こう」
 リーズがアウラネルクの手を引っ張る。
「何か食べたいものがあればおごるのじゃ。ただし、陣が…じゃな♪」
「あったかい飲み物がほしいよね。陣くーん、ホットドリンク買って!」
「どれや」
「ホットのリンゴジュースにシナモンが入ったやつね。はちみつは自分で加えるみたい」
「これでいいんか?」
「ありがとう!あったかーい。これはアウラさんの分ね」
「このような飲み方もあるのじゃな」
「飲み物といえば…、お祭りで陣くんが変な色になったことあったよね」
 思い出したリーズが、いぢりスイッチを入れる。
「なんだっけ、妖怪のお祭りだったかな」
「我はルカルカに誘われて行ったことがあるな」
「へー、そうだったんだ!」
「人の娘も、あのように変わるものなのだろうか…」
「え?どういうこと、それ」
 “も”という点が気になったリーズが聞く。
「アウラネルクはああ見えるが…、関わり方に要注意しなければならない」
「え、…え?」
「―…ならば、陣を的にするがよい」
 共にいぢり合えば仲良くなれるし、レヴィアがアウラネルクの態度を気にする心配もなくなる。
「陣は生意気にも、我らのハイリヒ・バイベルに記された、酸の雨を降らせる章の力を利用しているのじゃ。湿気たマッチのくせに、生意気じゃろう?」
「孤島の施設でアウラさんが、水しぶきガード的なこと教えてくれなきゃ。ホーント、無能だったよ」
「それ、いま言う必要あるか?」
「うん。仲良くいぢるためにだよ」
「ほう……、陣は湿気たマッチとな?」
「いや、今は違うんや……。いい加減なこと言うなやジュディ、リーズ!」
「…おぬし、面白いのぅ」
 アウラネルクの表情が獲物を見えつけたように変わる。
「貴女出逢った当初思いっきしクールビューティ系だったじゃないですかー!やだー!」
「陣、アウラネルクは元々こういう性格だ。頑張って諦めてくれないか」
「ちょ、レヴィアさん!頑張るポイントが分からないし、諦めるとかどいうことッスか!?」
「アウラネルクは今、的をほしがっているからだ」
「はっはははー。ちょーーっと何言っているか、分からないッスね」
「なぁに、心配するな陣よ。かえって免疫がつくのじゃ、フフフ」
「ヴァイシャリー駅のステージでソロ芸人活動すれば、もっと輝けるよ陣くん」
 大きなステージをそのままにしておくのはもったいない。
 素晴らしい芸人になれば、いついぢられても問題ないはずと考える。
「わらわも輝いている陣を見たいのじゃ」
「あー…。リーズが使っている魔道具を、オレも使えば白く輝けるんッスけどね。だがしかしっ、それは芸人用と違うッスよ!」
「しまったーっ。そういう使い方もあったんだね、陣くん」
「ないから、ホントないからな。魔道具はそんなことに使うもん違うやろ!」
「ホワイト陣…ホワイティー・ジーン?」
「アウラさん、変な呼び方するのやめて!定着しそうで怖いからっ」
「ほわわしてると、改名させるように呼ぶわよ♪」
 屋台のお菓子を食べながらカティヤが背後から顔を覗かせる。
「ウフフ、着替えさせてその気にさせてみようかしら」
「ちょっそれ、なんかすごーく怪しい気が…」
「歌菜、こっちこっちー」
「あー…。何、めちゃくちゃ悪寒がするんやけど」
「羽純ももちろんきてるわよ。陣たちを見つける前に、あの2人を見つけたの」
「だ…誰のことや」
「ジュエリン!この陣を着せ替えさせてもいいわよ」
 カティヤは酔っ払っているのかいつもより上機嫌だ。
「路上で着せ替えとか、マジきゃーーイヤーレベルなんやけどっ」
 着せ替えられる時に、容赦なくパンツ一枚…パン一にされる。
「はっ!?リーズ、ジュディ!離せ…っ。アウラさんまでっ!?そこーっ、オレ見捨てる気満々なんか!!」
 羽純とロリオは的にされないように、背を向けてわざと空気になっている。
「何か聞こえますが、なんでしょうね」
「空耳だ、放っておけ」
「あう、あぁあっ」
 レヴィアに助けを求めようとするが、歌菜と話していてこちらも見ないフリな態度だ。
「アウラとレヴィアは、陣には何が似合うと思う?私はね〜エレベーターガールとか素敵と思うわ♪」
「わらわはエレベーターガールというのもを見たことがない。是非、拝見してみたいのぅ」
「我はそいうものはよくわからぬ…。アウラの好きにさせればよい」
「決まりね。ジュエリン、お願いね♪」
「はぁ〜い、カティヤさん。陣さんにホームセンターでミシンさんを助けてくれたお礼をしますわ」
「いらない…いらないからっ!ぁぁ…路上はやめて、やーーーーっ!!!」
 3人に捕まえられて身動きが出来ず、後ろにはカティヤ、ジュエリンの後ろには歌菜がいる。
 他の人は遊んでいるのかと思って気づいてくれない。
 陣は容赦なく服を剥ぎ取られ、パン一にさせられてしまった。
「酷いっ、あんまりや…、鬼だらけやっ。…スンッ」
 一般客がいる中で着せ替えさせられた陣は、鼻水をずびずびすする。
「バストにふくらみが欲しいわね。そう思わない?」
「カティヤさん、これを使ってください」
「丸いパンが2つ?ちょ、それどこにっ。ひぃいっ」
「はいはい、まだ動かないの」
「お化粧もしておくとよいかもですわ。はい、とても似合ってますわ♪」
 ジュエリンは満足そうに微笑んだ。
「どうやら生贄がいるようですね」
「犠牲は1人に限るな」
 背を向けている2人が、小さな声音で会話する。
「ねぇねぇ陣くん。男の人が陣くんガン見してたよ♪」
「何それ、超キモッなんやけど」
「アウラさん、ボクらはあっちの屋台に行ってみよう。歌菜ちゃんも!」
「ふむ…、陣は放置していくのじゃな」
「食べ歩きって楽しいよね、リーズちゃん」
 陣だけ放置してデザートの食べ歩きを始める。
「めっちゃ恥ずかしいんですけどこれっ。おーい、皆ー…戻ってきてくれー。オレの服、返せーーっ」
 リーズたちは陣を残して、そっと様子を見る。
「男の人に声かけられてるね。…あ、陣くんの声で女の子じゃないって分かったっぽい。なんか言い合ってる…」
「見知らぬ者が去っていくのぅ」
「陣くん…泣いちゃった」
 傷つくことでも言われたのか、陣が膝を抱えて泣いている。
「のの字を地面に書いているようじゃが」
「こっち見た!うわ、来るよっ。凄い怒ってる!…ああーっ」
 アウラネルクの手を引っ張り、空を飛んで逃げようとするリーズだったが、陣の服が手から滑り落ちてしまった。
 それはいたずらな風に道路へ飛ばされ、水飲み場の水溜りへ落ちた。
「わらわが服を返しにいくかのぅ」
 びしょ濡れの服をアウラネルクが回収する。
「―……陣、服が水浴びをしたいと言って、飛んでいってしまった気がするのじゃ」
「へ、へぇー…。そうッスか。おまっ、んなこと言ったんか?…うんっ☆…ってんなことあるわけないッスよ!」
「それはいたずらな魔性の仕業に違いないのじゃ」
 ジュディがキュピン☆と目を光らせる。
「ありえん。いたらオレが気づくしっ」
「お弁当食べよう。リーズちゃんには特盛サイズだよ☆」
「いっただきまーす!はぐはぐはぐ…っ」
「そこも罪深いんやぞ!」
「陣さん、お着替えしましょう」
「は…!?」
 ジュエリンとカティヤに捕まり、今度はうさみみミニスカナースの格好をさせられる。
「くそぅ…」
「そろそろ森に戻らねばな」
「あ、待ってアウラさん。レヴィアさんに託してくれた珊瑚のブレスレットのお返しなんやけど…」
「し、仕返しじゃと!?陣、怖っ」
「お返しや、ジュディッ。っと…これを受け取ってほしいんや」
 モーントハナト・タウンでもらったもののお返しをしようと、陣はアウラネルクへのプレゼントを徹夜で完成させた。
「わらわにかのぅ?…ありがとう、陣」
 アウラネルクは陣から珊瑚のサークレットを受け取った。
「大切に使わせてもらうのじゃ」
「(うわー、変な絵図らだね)」
 感動の場面のはずが陣のコスプレのせいで、感動できないリーズだった。
「アウラさん、これはボクからね♪マンドラゴラにあげて」
 心を込めていっぱいにした輸血パックを渡す。
「あの者たちもきっと喜ぶであろうのぅ。ありがとう、リーズ」
「それから陣も…本当に……くっ」
 笑いを堪えきれず、アウラネルクには別れの挨拶にふきだしてしまった。