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されど略奪者は罪を重ねる

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されど略奪者は罪を重ねる

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 第一章

 機晶都市ヒラニプラの雑居ビルの一室。

「……ふぅ、どうにか上手く事を運べたか」

 マルクスは安堵の息を吐いて携帯をポケットに入れた。
 と、タイミングを見計らったように、彼の携帯の横に微かに湯気を立てる珈琲が置かれた。

「なかなか乗せるのがお上手なようで」

 そう声をかけたのは天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)
 彼の手にも同じ珈琲が握られているところを見ると、マルクスに気を使って淹れてくれたようだ。

「口説くのも仕事だったのでな」
「なるほど、道理で」

 マルクスは一言お礼を言って珈琲を口に運ぶ。
 十六凪は向かい合うように椅子に腰掛け、彼と同じように珈琲を啜った。

「それで……ダオレンについて、なにか分かったのか?」

 十六凪はゆっくりと首を左右に振った。

「情報は皆無です。味方として彼に近づけば、なにか掴めるかもしれないと思ったのですが」
「俺も天樹が席を外している間、空京のスパコンを利用したんだがな。進展は無かった」
「空京のスパコンでも無理となるとお手上げかもしれませんね……」

 二人は今回の情報収集している途中で偶然出会い、目的が合致したため共に行動していた。
 目的とは今回の事件に対しての情報収集。
 ウィルコやシエロについての情報は十分に調べ上げれたが、一向にダオレンの素性は出てこなかった。

「記憶を奪う能力があるはずのウィルコ君が目撃者を放っておくわけがありません。
 おそらく、誰かがウィルコ君を陥れようとしているのでしょう。
 そうなると、今この時点で、彼を陥れることができる立場にいるのはダオレンだけです」
「天樹の言うとおりだな。ダオレンとやらはクロだと判断してもいいだろう。
 ……だが、情報が不足している現段階では派手な動きは起こせん」

 二人が同時に短い息を吐くと、機を見計らったようにフロアの扉が開いた。
 突然の来訪者は接客に来る店員を手で制し、真っ直ぐに二人が囲むテーブルへと近づいた。

「お呼ばれにあずかったのじゃが、わらわになにか用かのう?」

 二人は顔を上げて声の主を見た。
 扇を口元に当てて、優雅な立ち振る舞いをしているのは玉藻 御前(たまも・ごぜん)だ。

「ようこそいらっしゃいました、御前さん。
 僕はオリュンポスの参謀、天樹十六凪です。以後、お見知りおきを」
「おぬしのことぐらいすでに知っておるわ。
 して、わらわをこんな場所に呼び出して一体なに用じゃ?」

 御前は席を引き、二人と同じようにテーブルを囲む。
 十六凪は居住まいを正し、御前と向かい合うようにしてから切り出した。

「今回の依頼者、事件に多くの契約者を参加させた君とお話が出来ればと思いまして」
「たしかに、わらわは小暮とは別に契約者を集めたが……なぜそれを知っておる? 依頼は匿名で出した筈じゃが」
「それは秘密です」

 にっこりと微笑む十六凪を見て、御前は「喰えん奴じゃのぅ……」と呟く。
 彼女のいぶかしむ視線を受け流し、十六凪は淡々とした声で語りかける。

「僕達はダオレン側の人間です。そして、君は対立する勢力に深く関わっています」
「そうじゃな。今回に限り、わらわたちは相容れることのない存在同士じゃ」
「そうでもありませんよ」

 一瞬の間を置いて、十六凪は信じられないような声を弾き出した。
 その声には緊張感の欠片のなく、まるで御前を夕食にでも誘うように。

「どうです、取り引きをしませんか。
 互いの内通者が協力すれば、それぞれの目的を果たしやすいでしょう?」

 ――――――――――

 シャンバラ教導団、資料室。
 大きな机に膨大な資料を置き、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は書類と睨めっこをしていた。

「甚五郎、何か分かりましたか?」

 甚五郎は書類から目を離し、声をかけてきた阿部 勇(あべ・いさむ)に視線を移す。

「ウィルコが愉快犯でないことは分かったがな。それ以外はさっぱりだ」
「そうですか、一筋縄には行きませんね」

 勇は机の上に置かれた資料の一つを手に取った。
 そこにはウィルコの経歴が詳しく書かれており、特殊部隊を辞めた理由も載っていた。

「人を殺すのが嫌になった……ですか。
 たしかに、こんな理由で部隊を辞めた人が愉快犯とは考え難い」

 素早く目を通し、資料をペラペラとめくっていく。
 勇はものの数分でその資料を読みきり、感想を一言。

「それにしても、このウィルコって方は素晴らしい戦歴をお持ちですね」
「ああ、わしも驚いたよ。
 しかも、兵士時代の最後の仕事が鏖殺寺院の支部を一人で鎮圧させたと聞いている」
「一人で、ですか……!?」

 勇が驚愕で目を丸くした。

「……戦場を離れて久しいとはいえ、彼を捕まえるなんて出来るんですかね?」
「しなければ困るさ。また人が死んでしまうんでな」

 甚五郎は「しかし……」と呟いて、一枚の文書を手に取る。
 そこにはウィルコに殺害された六人の被害者の名前が記されており、殺害方法などが書かれていた。

「被害者の身辺を洗い直してみたが、不思議なことに共通項はなにもなかった」
「……それは不可解ですね」
「ああ、その通り。これでは愉快犯の犯行と同じだ」
「しかし、ウィルコは愉快犯とは到底思えません。なら――」
「誰かが裏でウィルコを操っている、という可能性が高い」

 甚五郎は長い息を吐き、言葉を続けた。

「そいつが特定できれば、状況が進展するかもしれん」

 勇も同じように息を吐くが、それとほぼ同時に草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)からテレパシーが送られてきた。
 彼女は資料室に居る二人とは違い、スワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)と共に外回りをして情報を集めていた。

(「少しよいか?」)
(「ええ、分かりました。お待ちください」)

 勇は一旦テレパシーを切ると、甚五郎に声をかけた。

「羽純から連絡がありました。少し席を外しますね」
「ああ、分かった」

 甚五郎は資料室から出て行く勇の後ろ姿を見送ってから、もう一度被害者の名前が乗った文書に目をやった。
 と、今まで気がつかなかったが、一つの法則性があることに気がつく。
 それは年齢も性別も職種もバラバラのくせに、一件目、二件目……と続くに連れて、被害者がだんだんと戦闘能力が強くなっている、ということだった。

「どういうことだ、これは……?」

 甚五郎はこの法則性の意図が分からず、首をかしげた。