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されど略奪者は罪を重ねる

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されど略奪者は罪を重ねる

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 第四章

 二階の廊下を進んだ先には多目的ホールがある。

「くっそ、あの野郎。こけにしやがってっ」

 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はそう吐き捨て、ホールの扉を勢いよくスライドさせた。
 窓の桟に上半身を預け煙草を吸っていたダオレンは、やって来た契約者に気づくとパチパチと乾いた拍手をした。

「おっ、優秀じゃん。こんなに早くあの機器を攻略するなんて」
「てめー……!」

 ベルクは唇をひくひくとさせ、魔法陣の展開を開始した。
 対して、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は誇らしげにワンワンと鳴く。

「当たり前です。
 あんなもの、この超優秀な次世代ハイテク忍犬でイヌノクラートの僕にかかれば造作もありません!」
「……おい、ワン公。あれは褒めてるんじゃねぇ。けなされてるんだよ」
「なんですとー!」

 ポチの助は逆上した様子で、ガルルゥ……と唸った。

「むきーっ、ふざけんじゃねぇです! 行くですよ、エロ吸血鬼!!」
「俺に命令してんじゃねぇよ、この毒舌ワン公!」

 ベルクは、くすくすと笑うダオレンに魔法を放った。
 彼の足元に闇よりも深い瘴気の渦が生まれ、引きずり込もうと引力が発生する。

「虚無への誘い、だったかな?
 また、アベクラスなスキルを持ってるんだねぇ」

 ダオレンは吸いかけの煙草を捨て、拳銃を抜きつつ瘴気の渦から飛び退いた。
 銃口をベルクに向け発砲。
 放たれた銃弾は肩口を跳ねるが、気にすることなく魔法を続けて発動した。

「うっせぇ。これでも喰らってろ、エセ東洋人」
「口が悪いね。エロ吸血鬼、くん?」
「ざけんな、てめー!」

 空中に無数の杭を具現化。回避中のダオレンに次々と飛翔させた。
 僅かな時間差を置いて放たれたその杭は、避けることも出来ず、打ち落としても串刺しにされる。
 完璧なタイミングのその魔法だが、しかし、突然身を割り込んできたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の一振りによって全てが一気に打ち落とされた。

「オリュンポスの騎士アルテミス」

 アルテミスは真っ直ぐな瞳でベルクを見据え、言い放つ。

「罪のないシエロさんを捕らえようとするのを黙って見過ごすわけにはいきません!」
「違ぇよ、俺たちはシエロを捕まえに来たんじゃねぇ!」
「問答無用!」

 早とちりしているアルテミスは、ベルクに向かってソニックブレードを乱発。
 ベルクは回避に専念するが、体のあちこちに傷が奔る。血の混じった唾を吐き、大声で言った。

「俺たちはシエロを捕まえに来たんじゃねぇっつってんだろうが!」
「嘘をつかないでください!」
「嘘じゃねぇよ!」
「誰だってそう言うんです!」

 耳を貸す気のないアルテミスに、ベルクは呆れてため息を吐いた。
 と、同時。彼の傷が魔法の光に覆われ、瞬く間に塞がれていく。

「もぅ、ベルクちゃんは相変わらず役立たずだよね」

 無邪気な笑みを浮かべ、悪態を吐くのはアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)だ。
 アリッサは歴戦の回復術の手を止めずに、ベルクを敵意の孕んだ目で見つめていた。

「なんでこんなのがおねーさまの傍に居るんだろ。アリッサちゃん全然理解できないよ〜」
「うるっせぇぞ、無機物クソガキ。てめーは黙って治療してろ」
「ぷ〜、怒っちゃったのー? ベルクちゃんったら器ちっちゃーい」
「……なんで俺は、仲間からも責められなくちゃいけねぇんだよ」

 傷の治療が終わると、ベルクはお礼代わりに拳骨を頭にお見舞いした。
 ゴツンと鈍い音が鳴り、アリッサは両手で頭頂部を抱えて、涙目でうずくまる。

「うわっ、虐待だ。最悪だよ。おねーさまに言いつけてやるぅぅ!」

 ベルクは当然のように無視し、アルテミスに向き直る。
 彼女の周りにはオリュンポスのメンバーが集まり、その戦闘員たちにハデスが号令をかけた。

「フハハハ! ウィルコを我らオリュンポスに迎え入れるために、ここで貴様らにはやられてもらうぞ!」

 一斉に動き出す戦闘員に、ベルクの顔が思わず引きつった。

「ああ、もう面倒くせぇ!」

 やけくその声がホールに響き渡った。

 ――――――――――

「くくく、こりゃすごい仲間をウィルコは引き込んだもんだ」

 ダオレンは窓側の壁に背を預け、契約者たちとオリュンポスの戦いを眺めていた。
 多目的ホールには人が入り混じり、大規模な戦闘へと発展している。
 ダオレンはそれを優雅に眺めようと煙草を取り出し、火をつけようとした。が、すくい上げるような斬撃により、煙草は二つに断ち切られた。

「惜しいですね。顔を、狙わせていただいたんですが」
「おお、危ない。咄嗟に頭を引かなきゃ致命傷だったよ」

 ダオレンが視線を落とす。
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が忍刀を振り上げ、彼の懐へ潜り込んでいた。

「派手な戦闘を仲間にさせておいて、目を引かれているうちに頭を潰すってわけか。まるで暗殺者の手口だね」
「忍ですので」

 短く答えると、反対の手の鉤爪を奔らせる。
 ダオレンが、それを受け流したかと思うと胸に衝撃。胸にめり込んだ掌打にフレンディスは後ずさった。

「舐められてるなぁ、僕。これでも戦闘はいける口なんだけど」

 ダオレンは拳銃に手を伸ばし、素早く抜き打ち。
 フレンディスは忍ならではの反応でそれを避け、間合いを詰めて、床を踏みしめた。

「お返しです……っ」

 放った回し蹴りは、ブロックした腕ごとダオレンを弾き飛ばす。
 そして回転の勢いを殺さずに、ワイヤーを射出し鉤爪を鎖鎌のように振り回した。

「力尽くで大人しくして頂きますよ」
「……色々仕込んでいるねぇ」

 ダオレンは迫り来る爪に向けて、焦ることなく冷静に対応。
 銃口をあわせてゼロ距離で連射。勢いを殺し、大きく飛び退く。

「逃がしません」

 冷たい声で言い放ち、フレンディスは追撃。

(面倒くさいなぁ。こんなにも相手がやる人の集まりだとは予想外だ)

 ダオレンは銃口をフレンディスに向けつつ、一瞬だけ横目で室内を見渡した。
 帽子を深く被る丸眼鏡の少年。
 たしか彼がリーダーらしき人だったな、とダオレンは思い、フレンディスに視線を戻した。

(リーダーだと言うのなら、彼を殺せば士気は下がりそうだ)

 そう判断し、ポーチの中に入った強化スチール製の円筒缶のピンを歯で抜いて投擲。
 フレンディスが委細構わず切り払おうとして、ダオレンが口元を吊り上げた。

「かかったね」

 きっかり二秒後。フレンディスの目の前でスチール缶が爆光をまき散らした。
 R&Dで用意した特殊音響閃光弾(フラッシュバン)。
 百七十デシベル、二百万カンデラの爆音爆光。爆裂時の圧縮衝撃波は狭い室内であれば聴覚障害を起こすほど振動を発生させ、太陽光を凌ぐフラッシュをまき散らす。

「……っ、ああぁ!」

 フレンディスは耳を押さえ、苦悶の声を上げた。周りにも十分すぎるスタン効果。
 ダオレンはその隙に床を強く蹴り、移動を開始。
 目指すは、リーダーと思しき小暮のもと。殺害して、敵の士気を一気に下げる。

「それじゃあサイツェン」

 聞こえていないだろうフレンディスにそう囁き、ダオレンはその場を後にした。