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第3章 自宅なら助かったのに……

「さて、お次は根暗モーフさんとのバトルですねー。戦う方は出て来て下さい」
 阿部Pに言われ、出てきたのはすこしおどおどした様子の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)
「……あの、さっきからピアノ弾いてるのはいいんですが、貴方は何かしないんですか?」
 阿部Pが後ろの方で何処からか持ち込んできたピアノを弾いているフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)に話しかける。彼は導入からずっとピアノを演奏しているのであった。
「ん? 僕はゲイジュツカだからね。肉体労働は泰輔にお任せして、僕は番組のテーマ曲を演奏するよ」
「いやあの、さっき打ち合わせって来ましたけど、私『スタッフは居るからそんなことするくらいならテコ入れするか殺し合うかしてください』って言いましたよね?」
 阿部Pはそう言うが、フランツは全く聞いちゃいないようだった。演奏に夢中である。
「……ああなると聞かないんや」
 阿部Pの肩を叩き、呆れた様に泰輔が言う。
「みたいですねぇ……まぁ気を取り直していきましょう」
 そう言った直後であった。
「そぉい!」
 根暗モーフが、包丁を構えて突進してきたのである。
「うぉあっと!? な、何するんや!?」
「ちぃ……外したか」
 根暗モーフが舌打ちする。
「君殺る気満々やな……」
 泰輔が身を震わせる。パンイチで紙袋を被り、包丁で襲ってくるとか恐ろしいにも程がある。
「あんたに恨みは無い……恨みはないが……年末年始と色々あって資金が必要なんだよ! というわけで死んでもらう!」
「色々ってなんやねん」
 色々は色々や。
「その辺りは詳しくは話せないんだよ! というわけで死んでもらう!」
 根暗モーフは包丁を逆手に持ち、泰輔に振り下ろそうとする。
「っとぉ!」
 だがそのタイミングを狙っていた泰輔は、根暗モーフの背後に回り込みクラッチ。
「君危ないやろそんなことしたら!」
 そしてそのまま後方に反り返り、スープレックスを決める。いや列車内でスープレックスとかお前も危ない。
「ぐおぉぉぉぉ! 痛ったぁー! 頭割れんばかりに痛ったぁー!」
 後頭部を抑えつつゴロゴロと悶える根暗モーフ。
「全く……こっちもやる気にならないといかんな」
 そう言って泰輔は身構えると、「ふんっ!」と力を込める。すると筋肉が収縮し膨張。
 どこぞの世紀末覇者ばりに膨張したわけではないが、着ていた服はレーヨン繊維の戦闘服。耐えられなくなり、所々裂け始める。が、
「隙ありぃッ!」
「あぶなッ!?」
根暗モーフが包丁を突きだしてきた為、慌てて泰輔が避ける。
「ちょ、ここは脱ぎ捨てるまで待つ所やろ!? 見ろやこの中途半端に破けた感じ!」
「知らんがな! 隙あったから狙ったまでよ!」
「全くお約束ってのを知らんのかい!」
 泰輔は踏み込んで顔面を狙い右ストレートを放つ。大ぶりな一撃を、根暗モーフは身を屈めて避ける。
「かかった!」
 だがこの一撃は囮。狙いは避けた所を狙った左の顔面キックであった。
「その顔面凹ましたるぅおっとぉ!?」
 しかし、それは根暗モーフも読んでいたようである。避けつつ、泰輔に向かって包丁を投げつけていたのである。
 泰輔は強引に体勢を崩し避けようとするが、避けきれず刃が頬を掠める。
「君ホンマ危ないわ……」
 頬に走る鋭い痛みに顔を顰めつつ泰輔が呟く。
 既に根暗モーフは新たな包丁を手にしており、再度投げようと振りかぶる。が、
「うぉっ!?」
足元をふらつかせ、バランスを崩してしまう。流石に固い列車の床にスープレックスで後頭部を強打されるとなると、ダメージは大きい。
「よっしゃチャンス!」
 泰輔は両足を抱えて折り畳み、クローバーリーフの形で絞め上げる。
「あーホンマは綺麗なねーちゃんの足のがいいんやけどなー!」
 そう言いつつ足と腰を絞り上げる。悲鳴も上げられないのか、根暗モーフがバンバンと地面を叩く。
「そんな腰辛いなら今度は駱駝……お?」
 泰輔が技を解き、新たに別の技に移行しようとしたが、根暗モーフはぐったりと動かなくなっていた。

「お疲れ様でしたー、良かったですよー」
 阿部Pが嬉しそうに手を叩きながら現れる。
「えーと今回テコ入れは失敗でしたが、中々の戦いぶりで視聴率も5%上がってますよ。泰輔さんには150Pが追加されます」
「アイツが途中で邪魔していなければ……」と敗れた服を見て泰輔が呟いた。

※視聴率70%

大久保 泰輔 200P→350P


「くっ……自宅であれば……」
 腰を押さえながら、根暗モーフが立ち上がる。自宅ならば最強のはずなのだが、ここは外なので思ったような力が出ないようである。
「あ、次俺やっていいですか?」
 車窓から外を眺めつつナラカPC(ノート式)を弄っていた貴仁。何やら検索していたようであるが、根暗モーフが立ち上がった事に気付くとPCを畳み剣を構えた。
「俺は……俺は負けねぇ! 俺には【ウス異本】を奪い合う戦いが待っているんだ! こんな所で負けるわけにはいかねぇんだよぉッ!」
 根暗モーフが包丁を構えるなり斬り付けてくる。
「おっと」
 振り下ろされる刃を、貴仁は剣で受け流す。
 何度も何度も根暗モーフは斬り付けるが、単純な斬撃は全て防がれてしまう。隙を見て貴仁も斬撃を返すが、根暗モーフも刃でガードする。
「うーん、簡単にはいきませんか」
「そう簡単に殺られてたまるかってんだよ! 俺の、俺の【ウス異本】の為に死んでくれ!」
 根暗モーフが叫び、包丁を逆手に構え飛び掛かる。
「んじゃこれならどうですかね」
 貴仁がいつの間にか【氷術】で作り出していた氷の塊を投げつける。
「んごっ!?」
 塊は根暗モーフの顔面にヒット。そのままのけ反って地面に落下する。
「か、顔は止めろと言ってるのに……」
 んなこと言ってない。
「野郎ぶっ殺したら……あれ?」
 鼻血が出たのか、血に染まる紙袋を抑えつつ根暗モーフが立ち上がるが、視界に貴仁の姿は無い。
「まさか、背後!?」
「その通り」
 貴仁は既に、根暗モーフの背後に【ゴッドスピード】を使い回り込んでいた。
「えいっ」
 背後から、根暗モーフの膝裏を軽く押す様にして膝カックン。「あふん」と変な声が根暗モーフの口から漏れる。
「さて、そろそろトドメさしますか」
 そう言うと貴仁が【氷術】を唱える。
「……あれ?」
が、何か作ろうとしているようなのだがうまくいかず、暫く色々と試してみたが「これでいいか」と持っていた剣を根暗モーフに投げつけた。
「そうやられてばかりいると思うなよ!」
 試行錯誤している内に体勢を立て直した根暗モーフは、剣に包丁を投げつける。空中で包丁にぶつかり、軌道が変わり根暗モーフの横を剣が通る。
「今度こそ野郎ぶっ殺しどぅぶッ!?」
 新たに包丁を構えなおした根暗モーフを待っていたのは、頭に襲い掛かる鈍い衝撃。
 そのまま地面にうずくまってしまう。

――剣を投げた時点で、貴仁は既に根暗モーフに向かって走り出していた。その手にナラカPC(ノート式)を持って。

「いや、ちょ……んごッ!? それアカンて……アカンてぇぶッ!」
 何か言おうとする根暗モーフにお構いなしにナラカPC(ノート式)を叩きつける貴仁。徐々に紙袋の頭の部分も血に染まりだし、やがて振り下ろす度に鈍い音からぐちゃりという潰れる音がするようになり、漸く貴仁はその手を止めた。
「……君の敗因はただ一つ。俺がナラカPC(ノート式)を持っていたからだよ」
 そう言って貴仁は真っ赤に染まる血の滴るナラカPC(ノート式)を見せつける様に持った。

「うおおおおお! 上がってるぅー! ぐいぐい視聴率上がってるよぉー! こんな数字久々やでぇー!」
 もう阿部Pは完全に歓喜に乱舞していた。それは視聴者も同じようであった。
 反撃をさせない一方的な展開、一方的な暴力に視聴者も歓喜し、テレビにくぎ付けになっているようであった。
 視聴率は更に10%上昇。更に貴仁が扱ったナラカPC(ノート式)の企業もこの結果に満足しているようである。
「貴仁さんにはCMのポイントも含めて250P! さぁ皆さんどんどん殺っちゃって数字上げちゃってぇー!」
 阿部Pは完全に浮かれた状態であった。

※視聴率80%

鬼龍貴仁 250P→500P