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第5章 ナラカ、愛の劇場〜ポロリやら暴力やら感動やら〜

 阿部Pが別の場所から新しいリングを運んでくるというパフォーマンスが行われた後、撮影は再開された。
 新たなリングに先に立ったのは護衛者であるエル。先程はバールのような物を手に持っていたが、今度は堂々と銃器も持っていた。
 これに対し、挑戦を名乗り出たのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)であった。
「私から出るわ。相手も銃持ってるし、こっちも安心して使えるってものよ」
 そう言ってセレアナは銃器を構えるとリングに上がる。……リングで銃器ってどうよ?
「さて……始めるわよ!」
 叫ぶなり、セレアナは【光術】を放とうとする。相手の目を潰し、先手を取ろうという策であった。
 だがそれはエルも同じであった。セレアナが術を放つ前に、既にフラッシュグレネードを投げていたのだ。
 眩い光がリング上を包み――ほぼ同時に炸裂音が響く。
「ッ!?」
 咄嗟に身構えてしまうセレアナ。僅かに反応に遅れ、網膜が強烈な光で焼かれそうになる。
「―――――――」
 視力以上にダメージを負ったのは聴力であった。エルが何か言ったようであるが、その言葉もわからない。
 そんな中エルのバールのような物の一撃を避けられたのは、経験もあるだろうが運が良かったと言えよう。
(作戦が台無しね……次の手を考えないと……)
 バールのような物を避けつつ、セレアナは考えていた。本来であればエルの視力を奪った後【カモフラージュ】で姿を隠し、ちまちまとした攻撃で相手の冷静さを奪うつもりであったが逆に先手を取られてしまったのである。
 視力も聴力も徐々にだが回復しつつある。完全に回復するまでは避けに徹していた方が良い。そう考えていたのだが、
「「あ」」
バールのような物の先端が、セレアナが着ていたレオタードに掠った際引っかかったようである。ビリ、と布が裂ける音がし、素肌が露わになる。際どい所は隠れていた。
「……やってくれたわね」
「あ、はい……すいませんっと!?」
 流石に申し訳ないと思ったのか、エルが手を止めた瞬間、セレアナは持っていた銃で殴り掛かった。何やらスイッチが入ったようである。
 狂ったように銃で滅多打ちにしてくるセレアナに、エルは防御するだけで手一杯となる。
「許さない……絶対に許さないわよ!」
 銃床では効果が薄いと思ったか、セレアナは銃を捨てると今度は掴みかかる。
「まあまあ、少し落ち着きましょう」
が、エルはセレアナの鳩尾に拳を叩きこむ。思わず身を屈めるセレアナの首筋に手刀を叩きこむ。
「……絶対に、許さないわよ」
 そう言いながらも掴みかかろうとするセレアナであったが、当身が効いたのか身体から力が抜け倒れてしまう。冷静さを失ってしまったが故の結果であった。

 この結果に対し、視聴率はわずかに上昇していた。セレアナのブチキレモードの評判もあったのだが、事故的ポロリはやはり数字が取れるのかもしれない。
 その事もあり、セレアナは治療に運ばれたがポイントの減少は無かったという。

※現在視聴率85%

セレアナ・ミアキス 200Pで変わらず(死亡一回目)


 セレアナが病院に連れて行かれた後、リングに上がったのは昌毅とマイアであった。「2人一緒でも構わない」というエルの了承が得られたためである。
「よし、行くぞマイア!」
「はい!」
 マイアが対物ライフルを構え、引き金を引く。それを避けようとエルが横に動くが、
「ぬ?」
弾丸が動いた後を追って来た。それをバールのような物でエルは防ぐ。
「よくわかりませんが……避けるのは難しいみたいですね」
 エルがマイアに目を向ける。マイアはこの時、【遠隔のフラワシ】を使い弾丸を曲げていたのだ。
「はい、逃げる事は出来ません」
 マイアはそう言って再度ライフルを構える。が、
「ならば逃げません」
エルはそう言うとバールのような物をマイアに向かって投げつける。バールのような物はライフルに当たり、マイアは衝撃で落としてしまう。
「さて……ぬ……?」
 新たにバールを取り出した直後、エルの脳裏に言葉で言い表せぬような冒涜的なイメージが映る。
「貰ったぁッ!」
 昌毅が仕掛けた【グリムイメージ】で一瞬動きを止めたエルの首を、昌毅が腕を回し絞め上げる。辛うじて極まりきっていないが、昌毅は絞める力を込め離さない。
「ちっ!」
 ギリギリと絞めあげる力を込めるが、昌毅は手を緩めるとエルの背中を蹴って距離を取り、銃を向ける。
「甘い!」
 しかしエルは振り向きざまに昌毅に向かってバールのような物を叩きつけようとする。
「あぶねぇ!?」
 だが昌毅はそのまま引き金を絞る。弾丸はバールのような物に当たり、エルの打撃を弾いた。
「昌毅、飛んでください!」
 声に昌毅が視線を向ける。その先には黒い炎を周囲に漂わせたマイアがいた。
 昌毅が後方に跳ぶと、マイアの周囲の炎が消失。直後、小規模な爆発の様な物が起きた。【エンヴィファイア】である。
「マイア、大丈夫か!?」
 発動した後、膝を着いたマイアに昌毅が駆け寄る。【グリムイメージ】で負の感情を高めた所による【エンヴィファイア】、威力は上がるが術者であるマイアの肉体的、精神的負担も大きい。
「ぼ、僕は大丈夫です……」
 顔を青くしながらマイアは何とか笑みを見せようとする。
「あんまり無理するな……ちっ、まだ終わってねぇ」
 昌毅が小さく舌打ちする。そこには所々傷がある物の、しっかりと立ち上がっているエルが居た。
「ふむ、あまり油断も出来ませんね」
 埃を払いながらエルが小さく呟く。
「来るぞ!」
「はい!」
 マイアは立ち上がり、【パイロキネシス】を放とうとする。
「させませんよ」
 が、一瞬で距離を詰めたエルがマイアの腕を掴み動きを止める。
「相手はそっちじゃねぇぞ!」
 エルに向かい、昌毅が【滅技・龍気砲】を放った。チャージする時間があまり無かった為か、ダメージは少ないが弾みでエルはマイアを手放す。
「ちっ……ぬぅっ!?」
 直後、エルは見えない力に両足をすくわれ、背中から床に叩きつけられる。思わずマイアに目を向けるが、何やら混乱しているように落ち着きなくふらふらしている。
 逃れた直後、マイアは【レックレスエイジ】で強化し、【サイコキネシス】を使いエルの足をすくったのであった。本来は投げるのが目的であったようだが、混乱していた為少し効果が違って出た様だ。
「食らえぇッ!」
 倒れたエルに、昌毅が【しびれ粉】を撒こうとする。
「こいつも使ってやりませんとね」
 だが、エルも即座に銃を取り出すと、昌毅に向かって引き金を絞る。咄嗟に腕で庇い、急所を免れたが銃撃に昌毅が膝を着く。
「さて、まずは貴方からでしょうか」
 エルは膝を着いた昌毅に向かってRPGを取り出す。ダメージが深く、動けない昌毅は小さく溜息を吐く。
 放たれるRPG。諦めたように昌毅はその弾頭を見ていた。

――昌毅の前を、マイアが遮る。
 弾頭はマイアに当たり、炸裂。衝撃でマイアの身体が昌毅に当たり、二人そろって吹き飛ばされた。

「おい……何してんだよ!?」
「ま、昌毅……無事で、良かった……」
 ボロボロになりながらも笑みを浮かべるマイア。
「なんでだよ! 何でこんなことを!」
「ボクは、昌毅の為なら……死ねますから……」
 それだけ言うと、マイアは笑みを浮かべたまま目を閉じる。全身から力が無くなり、昌毅は漸く状況を理解する。
 理解できた後、湧き上がる感情は怒り。
「ゆるさねぇ……てめぇはぜってぇえええええええええ!?」
 立ち上がった直後、RPGで昌毅は吹っ飛ばされた。
「……いいものを見させてもらいました。これはその礼ですよ」
 エルが僅かに笑みを浮かべる。その視線の先には、折り重なった昌毅とマイアの亡骸があった。

「……よし、今がチャンスなの」
 折り重なった2人の死体を見て、キスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)が動いた。
 まずエグゼは【ホワイトアウト】をかける。雪を積もらせ、視覚的な感動を狙った、のだが、
「……失敗したの」
ゆるくかけるつもりが、普通に吹雪となってしまった。だがそんなことは重要じゃない、と【悲しみの歌】を歌う。
 そこには、2人の死を雪が包み込むような絵が出来上がっていた。

 エグゼの演出の効果もあり、この2人に対し全ナラカが涙したと言っても過言ではない事になった。視聴率は何と100%まで到達した。
 功労者であるこの2人は銭に汚い事で有名である番組の名医が『コイツラから銭はとれねぇ』と治療費を拒否したという。
 しかしこの結果に最も喜んでいるのは、
「うっひょおおおおおおお! 100%じゃああああ! 100%じゃあああああ!」
阿部Pである事は誰の目から見ても明らかだった。

※現在視聴率100%

斎賀 昌毅 250P→400P(死亡一回目)
マイア・コロチナ 250P→400P(死亡一回目)